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研修医向け

MSのMRI -病変分布・形状・造影病変-

病変分布・形状

MSで認められる病変部位
  1. 脳室周囲

    特に病初期、側脳室に垂直に皮質へ長軸を向けた楕円形の病変(ovoid lesion)が認められる。これは静脈周囲の炎症性病変によるもので、Dawson's fingerとも呼ばれる。CSFとの鑑別が容易なFLAIR画像でsagittalでみたとき、側脳室から上方へ 向けて、炎が燃え上がるような画像が認められる。

  2. 脳梁
  3. 皮質下
  4. 脳幹
  5. U-fiber
  6. 視神経
  7. 視覚路
脳血管障害との鑑別に便利な病変部位
  1. 脳梁
  2. U-fiber
  3. 視神経

    (Am J Neuroradiol 2006;27:1165-76)
    白質に病変の主座があるが、FLAIR画像では灰白質の病変が見いだされる場合もある。(Radiol Med (Torino) 1997;93:686-91)が、一般的に見いだされる現象ではない。

造影病変

Gd-DTPAは分子量が550 daltons(AJR 1984;142:619-24)で、intact BBBを超えることはできない(AJR 1984;142:619-24; Radiology 1986;160:757-61)。 病理学的にMSを調べると、BBBは急性期の病変で傷害されているが、非活動性の病変部位やnormal appearing white matterでも傷害されている。Gdは感度の低いBBB傷害を検出できる方法と考えるべき(Neurology Clin N Am 2008;18:563-76)。

急性期の炎症性病変は造影病変としてMRIでは認められ、これは血液脳関門の破綻を意味している。

RRMSで疾患活動性を検出する方法として、T2強調画像単独より毎月造影する方が2倍感度が高い(Brain 1993;116:1077-94)。

数多くのclinical trialでMRI activityを減少させることを指標としており、造影病変数が再発率と相関する数多くの報告があり、meta-analysisでも証明されているが(Lancet 1999;353:964-9)、現在あるいは将来のdisabilityとは必ずしも相関しないため、phase IIIではより臨床的有用性、特に再発抑制やdisabilityの進行抑制が求められてきている(Miller DH. Neuroimaging in multiple sclerosis, in Multiple Sclerosis A Comprehensive Text, ed by Raine CS, McFarland HF, Hohlfeld R, Saunders, Edinburgh, 2008, pp.69-87)。

造影病変は数日から数週間持続する(Am J Neuroradiol 1995;16:1481-91; Am J Neuroradiol 2001;22664-9)。 通常は当初はhomogenousに造影され、大きな病変はその後にリング状に造影されるようになることもある。
Lucchinettiらの病変分類(Ann Neurol 2000;47:707-17)によると、リング状に造影されるのはtype Iとtype IIで、type IIIでは認められない(Ann Neurol 2004;56:308)。 造影病変は臨床的に再発として求められるエピソードの5-10倍の頻度で認められる。つまり、造影病変のほとんどはclinically silentである(Am J Roentgenol 1992;159:1041-7)。

Superparamagnetic ultrasmall particles of iron oxide (USPIO)は貪食細胞に取り込まれるので、USPIOで造影すると中枢神経ではマクロファージや活性化したミクログリアを同定できる。10例の患者でGd-DTPAと比較したところ、55のGd-DTPA造影病変のうち31がUSPIOで造影され、USPIOでのみ2つの造影病変が見いだされた。このことはGd-DTPAで造影されるすべての造影病変でマクロファージが活性化されているわけではないことを示唆している(Am J Neuroradiol 2006;27:1000-5)。

MRI造影病変の運命

平成5年度免疫性神経疾患の班会議で宇多野病院から報告が出ています。これは原著としては記載されてはいませんから、きわめて貴重な資料です。
1.5Tで5 mm厚, no gapで撮影。10例のMS患者(NMOが入っているかどうかは不明ですが、入っていたとしてもわずかでしょう)をmonthlyに撮影し、見つかった252個の造影病変を経時的に観察。
その結果

  1. 新たに出現した252個の造影病変は、4週目に29%、8週目に15%、12週目に7%、16週目に4%、24週目に3%が残存。
  2. %を対数変換して求めた回帰直線から得られた造影病変のT1/2は24日。
  3. 造影病変の拡大や融合は認められなかった。
  4. 長径10 cm以上の高濃度の新造影病変の多くは、4週でring型病変へ変化し、8週後には壁の一部を残して縮小し、12週後には造影病変として消えるが、中央部にT1強調像で低信号病変となる。T1強調像で旧い低信号病変に造影病変が再出現する場合は一般に周辺部にのみ認められる。

新しい造影病変が未治療ではどのくらいの期間造影されているかというのは一定した見解がなく、教科書的には数週間と言われてきました。その理由はmonthlyにMRIを撮影していたためのようで、Harvardのグループは6週間の間、weeklyに撮影して新たに見いだされた造影病変をさらにweeklyに撮影して変化を追ったという論文がありました(Neurology 2003;60:640-6)。その結果、新病変の造影期間は平均で3.07週、中間値で2週という結果でした。腫瘍性の大きな病変をのぞくと、平均で2.96週(medianで2週)。この論文は一般にはあまり知られてはいないようです。再発後、3週間以内であれば、1回のMRIで55.43%の患者で造影病変が見いだされる可能性があるそうです。つまり、未治療であっても、再発して2週間以上経過してからMRIを調べても半数の患者ではすでに造影病変は消失しているということになります。この論文の冒頭に、monthlyでは1回のMRIで検出できる造影病変は60-86%という多数の報告が引用されていました。

リング状の造影病変は古い病変が再活性化されていることを意味する。5%の患者が3ヶ月以上同じ病変が造影されることがある(Brain 1993;116:1077-94)。

ステロイドは造影病変を急速に消失させるため、ルーチンに脳MRIを撮影する場合はパルス後1ヶ月以上経過してから造影病変の有無を検索するべき(Neurology 1991;41:1219-22)。

造影病変が長く続くことは、疾患活動性の持続の危険を示唆(Ann Neurol 1998;43:332-9)。

造影病変容積は造影病変数に新たな情報を追加することは少ない(Semin Neurol 2008;28:453-66)。

造影病変は発症から時間が経過した患者では頻度が低くなる(Mult Scler 2000;6:320-6)。

MSでは造影していない単純T1で、高信号を呈することがある。その原因は、free radicals, lipid-containing macrophages, iron deposition, proteinaceous accumulationによる(Neurology 2002;58(Suppl 3):A208-9)。
3ヶ月以上造影されることは稀なので、脳腫瘍との鑑別の要点となる。