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MSについて -病理・病態・症状-

病理・病態

MSは自己免疫疾患と考えられている。その根拠は
  1. 病変部位に活性化されたCD4やCD8陽性細胞、マクロファージの浸潤や抗体の沈着が認められ、末梢血や脊髄液リンパ球にさまざまな異常が認められる。
  2. GlucocorticoidやCyclophosphamide、Mitoxantrone、Riximabが有効で、Interferon-gで増悪する。
  3. MBPやPLPを抗原として免疫することで、マウスやラットに動物モデルを作製できる。以前、SCID マウスに患者リンパ球を移入することで脱髄病変を形成できると報告されたこともあるが、その後、この結果は確認されていない。
さらに、MSはCD4陽性T細胞のサブセットである、Th1による自己免疫疾患と考えられている。その根拠は
  1. IFN-g投与で増悪する
  2. 末梢血や脊髄液でIFN-gやTNF産生が亢進する
  3. 進行性MSでIL-12の産生が亢進する
  4. 病変部位でIL-12 (Th1を誘導)やB7.1が証明される
  5. Th1によるEAEとの類似性がある

MSはheterogenousな疾患である。欧米では、後述するOSMSとほぼ同一の疾患と考えられるNMO (Neuromyelitis optica)を別にしても、MSは単一な疾患ではないと考えられてきた。

障害部位から、本邦では視神経と脊髄を主に傷害する視神経脊髄型MS(OSMS)と大脳、小脳を中心に中枢神経全般を広汎に傷害する通常型(conventional MS:CMS)とに分けられる。従来、我が国では、OSMSをその名の通りMSと考えており、OMSとOSMSを両極とする単一疾患のスペクトラムを形成すると考えられてきた。欧米では、NMOはMSとは考えられてはいないので、日本でのデータを欧米と比較する際に混乱が生じる。

OSMS/NMOは有色人種に多いといわれ、アジア人の他、アフリカ系アメリカ人、カナダの原住民、オーストラリアのアポリジニーに多く認められる。一方、CMSはもともとVikingの病気と考えられているように、白人での有病率が高い。しかし、Vikingの侵攻を受けていないSardinia島のようにむしろ周囲より有病率が高い地域もあって、前述したように、外因の影響も大きい。

NMOが次第に概念が広くなっているように、CMSとOSMSとの言葉の定義も混乱しており、OSMS患者が大脳や小脳症状を呈するとCMSと分類されているが、両者の病理像が全く異なり、その病態が全く異なるはずであることを考えると、奇妙である。

OSMSもNMOも元来はsymptom complexであって、症状で定義されているに過ぎなかったが、最近、Mayo Clinicから報告されたNMO IgGはこの考え方に修正を求めることとなっている。OSMSの重症型と考えられ、通常のCMSでは出現しないとされる、3椎体以上の長さを有する脊髄病変を呈する病型(当院では、これをLong spinal cord lesionを有するMSとして、LCL-MSと呼んでいる)の6割でNMO IgGが陽性であることが判明した。当院との共同研究により、新潟大学脳研究所神経内科の田中恵子助教授は、世界で二番目にNMO IgGの対応抗原であるaquaporin-4の遺伝子を組み込んだトランスフェクタントを標的とした抗体測定系を確立し、LCL-MSの疾患マーカーであることを報告した。さらに、LCL-MSの多くで脳症状を呈することが判明し、symptom complexとは言えないようになってきた。

LCL-MSの特徴としては、各種自己抗体が認められることが多く、シェーグレン症候群の合併が多い。5年以上、pure OSMSに留まる患者もわずかながら存在し、特定の臨床的特徴を有するが、一方で、OSMSの軽症型が近年増加しているといわれていて、この一群がむしろCMSに患者背景が近いという報告もあって、OSMSという歴史的な名称が今後どうなるか、予断を許さない。

経過によってもheterogenousな病型が認められる。典型例は再発緩解型(relapsing-remitting MS: RRMS)で80-90%をしめ、一部は二次性進行型(SPMS)へ移行する。SPMSで再発を伴うこともある(SPMS with repalses)。国内ではごく少ないが、最初から変性疾患のように慢性進行する経過をたどる一次進行型(PPMS)もある。    

本邦でのopticospinal MS(OSMS)の特徴は(九大でのOSMSの特徴をまとめた報告)
  1. 国内分布は高緯度地域ほどMSの頻度は高いが、OSMSはむしろ南ほど頻度が高い。
  2. 高齢発症が多い
  3. 女性優位
  4. conventional MSより再発頻度が高い
  5. EDSS scoreが高い
  6. 進行が早い
  7. CSFの細胞数が多い
  8. CSF oligoclonal IgG band出現率が低い
  9. 画像では数椎体にわたる長い病変が多い。壊死病変が特徴的で脱髄だけでなく軸索傷害が強く、cavityを形成することも。脊髄萎縮をきたすこともある。
  10. 血管壁の肥厚や血管増生、血管周囲リンパ球浸潤も。
  11. HLA-DPB1*0501が90%以上で。このalleleはアジア人に多く、白人に稀で、OSMSの頻度と合致。これに対して、conventional
    MSはHLA-DRB1*1501。
  12. double-stranded DNA antibodies, cardiolipin antibodies, thyroid antibodies,
    neutrophil cytoplasmic antibodiesなどの自己抗体陽性頻度が高い。
  13. 九州地区では1960年代以降に生まれた患者群では、conventional MS/OSMS比が増加する。OSMS患者数は変化がなく、比が変化している。MS患者数が増加していて、増加分がconventional
    MSに相当。

予後からは、良性と悪性という特殊型が存在する。良性のMSは、発症後数週間で死亡する悪性の多発性硬化症(Marburg's variant)とは対照的に、発症後10年経過した時点で、全く障害がないか、EDSS scoreが3以下のものをいう。ただ、発症した当初から予後が解るわけでは必ずしもなく、多発性硬化症の中で一つのサブグループを形成しているわけではない。

Mayo ClinicのDr. Rodirguezらは、WienのProf. Lassmanと共同研究で、MS発症早期の脳生検で4つの病理に分類でき、一人の患者で認められる病理像は一つであると報告した。146例の内訳は

Patern I T cell-mediated(macrophageassociateddemyelination)19%
PaternU antibody-mediated demyelination 53%
ex).NMO, MOG induced EAE, characteristic of acute Marburg cases
Patern V distal oligodendropathy 26%
ex). Balo, Theiler's virus induced EAE
Patern W oligodendrocyte degeneration in the periplaque white matter 2%
ex). PPMS, Cuprizone induced demyelination

この分類には、同一患者でも複数のパターンを示すことがあると、批判もある。MS再発の機序は、個々の例では明らかではないことが多いが、可能性としては、

  1. ウイルス感染

    感染病原体に反応して、autoreactive T cellsが活性化される。この機序としては、molecular mimicryによる病原体のpeptide、メチル化されたDNA (CpG)、スーパー抗原。

  2. 食物や花粉のような外来性抗原がtriggerになることもあるかもしれないとして、食物の例としては、牛乳に含まれるMOGと構造が類似した蛋白、Butyrophilinが挙げられる。
  3. 精神的ストレス
  4. 性周期
  5. NK細胞のようなimmunomodulationに関与する細胞がへばって、再発する可能性もあるかもしれない。

症 状

多くの場合、前駆症状はないが、時に発熱、頭痛が認められることがある。急性に発症し、症状は1週間以内に完成する。急性型をMarburg型とも言う。

経過中に出現する神経症状としては、中枢神経病変に基づく症候であればなんでも出現しうるが、特に多いのは
  1. 痙性麻痺(対麻痺が最も多い)、深部腱反射亢進、Babinski徴候陽性         

    脳血管障害での片麻痺とは異なり、本症で一側上下肢の筋力低下が出現しても、顔面神経も傷害されることは稀で、片麻痺と言っても脳症状ではなく、その責任病変は頚髄である。

  2. 感覚障害   

    (一定の脊髄のレベル以下の全感覚障害やしびれ感が多い)

  3. 視力低下         

    眼底は視神経乳頭が蒼白になったり(視神経萎縮)、軽度の場合は乳頭の耳側が蒼白となる(temporal pallor)。

  4. 神経因性膀胱
  5. 小脳性失調、眼振、構音障害
  6. 眼筋麻痺

    核間性眼筋麻痺、特に両側性の場合は、本症によることが多い。MLF症候群とも言う。
    内側縦束(MLF)の障害で、対側への側方注視に際して、患側眼の内転障害と外転眼の眼振を生じる。
    輻輳は正常である。

          
  7. 有痛性強直性痙攣       

    四肢の一定部位に疼痛と痙攣が相次いで出現し、それが一定方向へ放散する発作である。
    急激に発症し、持続は1分以内、体動や体位変換、深呼吸、皮膚触覚刺激(trigger zoneを有することが多い)などによって容易に誘発される。
    特殊な異常感覚が先行することが多い。
    ある一定部位に始まって、一定方向に向かって急速に拡大する。
    テタニー様の強直痙攣で、激痛または異常感覚を伴う。
    意識障害はなく、発作中の脳波は正常である。
    軸索のイオン透過性を低下させることによると言われる。
    Carbamazepineが有効。

  8. Lhermitte徴候       

    「レールミッテ」ではなくて、「レルミット」が正しい。
    仰臥位で頸部を他動的に前屈させた際に、電撃痛が項部から脊柱に沿って上から下へ走り、下肢末梢に達したり上肢へも放散する。
    疼痛は直ちに出現し、動かすたびに反復する。
    項部強直を伴わない。
    頸部前屈時に頸部後索が伸展圧迫され、脱髄部にインパルスの異常伝播が起こり、疼痛が放散する。
    後索を傷害する疾患で同じ放電様の痛みを引き起こす(後索痛)。
    病変が主に髄鞘を侵し、軸索がほとんど無傷で残存していることがこの疼痛と関係していると言われている。
    MSに特異的ではなく、頸部損傷、頸椎症、脊髄腫瘍、亜急性連合性脊髄変性症、クモ膜炎、放射線脊髄症などでも出現する。
    この徴候は有名であるが、患者に苦痛を与える検査なので、あまり行うべきではない。

  9. 疲労感

    様々な原因で疲労感を訴える。
    両側前頭葉病変との関連も示唆されている。
    前触れもなく、突然、疲労感が出現する特徴がある。
    加温や運動により症状が一過性に増悪する場合がある(Uhthoff現象)。
    ブロックが増悪するだけで、病変が増悪することはなく、時間が経過すれば元に戻る。

視神経炎、核間性眼筋麻痺、”useless hand”、Lhermitte徴候、亜急性感覚障害、特に若年男性の急性排尿障害、不完全横断性脊髄炎、若年者の三叉神経痛を含む発作性症状、温度や運動により誘発される症状、分娩後の発症。こういった症状は本症を疑わせる。一方、早期から痴呆を呈したり、失語、意識障害、痙攣、ブドウ膜炎、錐体外路症状、線維束性攣縮といった症状は、MSでは稀である。しかし、稀には失語、意識障害、痙攣、錐体外路症状が出現しうる。発症から時間が経過すると、脳萎縮の進行に伴い、知能が低下することもあるし、パーキンソン症状をはじめ、すべての不随意運動が出現しうる。これは、cortical demyelinationやそれによる周囲の神経細胞への影響、軸索障害による神経細胞自身へのダメージにより、単純な白質病変だけではないことを物語る。

MSの発作性症状としては
  1. painful tonic seizure
  2. paroxysmal dysarthria and ataxia
  3. sensory seizure
  4. paroxysmal pain
  5. paroxysmal itching

大体は、脱髄斑における刺激の発生と、神経線維から神経線維への興奮のlateral spreadにより発現するとされている。持続は1分以内で、脳波異常を伴わない。

発作性に掻痒が出現するのはMSだけとも言われているが、MSの発作性掻痒症の特徴は
  1. 発作は突然に生じる。
  2. 発作は日に数回から数十回繰り返される。
  3. 1回の発作の持続時間は数秒から数十分。
  4. 発現部位は異常感覚や感覚過敏帯の最上方に分布する傾向があり、分節性の分布をとる。左右対称性がほとんど。
  5. 接触によって誘発されることがあり、入浴・運動により増悪することがある。
  6. 副腎皮質ホルモン剤、時にTegretolが有効。
  7. Lhermitte徴候、painful tonic seizureを合併する頻度が高い。
  8. 症状増悪期に出現することが多い。
  9. MRIでは症状発現部位に一致する脊髄高位に病変が認められる。責任病巣は脊髄背側部か?症状の左右差は病変の左右差を示唆。

Tumefactive demyelinationという病態が知られている。脳腫瘍や脳膿瘍と誤診されるような腫瘍性病変が白質に認められる疾患がある。

鑑別を要する疾患としては
  1. multiple sclerosis
  2. ADEM
  3. abscess
  4. lymphoma
  5. tuberculosis
  6. cysticerosis
  7. astrocytoma