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患者さま向け

IFNβ治療のQ&A

  1. 注射した後の発熱への対処法は?

    発熱するのは注射後4〜5時間後が多いので、鎮痛解熱剤は注射1〜2時間後に服用すると良いでしょう。内服薬は飲んですぐには効きません。効くまでに1時間近くかかることを知っておくと良いでしょう。
    発熱してから服用していたのでは、つらいと思います。そのうち、発熱しなくなることが多いので、頃合いをみて、解熱剤の服用を中止して様子を見ると良いでしょう。内服しなくとも発熱しなくなれば、もう鎮痛解熱剤は不要になります。一般的には、いつまでも続ける必要はありません。

  2. 注射するのは一日のうち、いつが良いですか?

    注射後、どうしてもだるくなりますし、治療開始数ヶ月後は発熱することが多いので、昼間にこのような症状が出現しますと、一日の活動が制限されてしまいます。できるだけこのようなことを避けるために、夕食後から就寝前に注射すると良いでしょう。

  3. 旅行などの予定とぶつかった場合、どうすれば良いですか?

    せっかく楽しい旅行がだるくなってしまってはもったいないですね。隔日に注射するベタフェロンの場合、一日ずらせて中2日で注射することで避けられるなら可能です。旅行が終わったら、その日から隔日投与を始めて下さい。
    週に1回注射するアボネックスの場合、1〜2日早まっても遅らせても構いません。多少のスケジュールのずれに神経をとがらせる必要はありません。

  4. どのくらいの量から始めればいいですか?

    ベタフェロンの場合、1/4量から始め、次いで1/2量に増量した後に、全量投与して下さい。それぞれは様子を見ながら、2〜4回ずつ注射してみて下さい。
    アボネックスの場合、1/2から始めてもいきなり全量から始めても大きな問題はないことが多いのですが、1〜2回は1/2量で始めても良いでしょう。

  5. へその上下の腹部中心部に注射しても良いですか?(ベタフェロンの場合のみ)

    へその周辺は血管が多いとされています。へそのごく周囲(臍の周囲3〜5センチ)は避けましょう。へその上下の中央の腹部への皮下注射はさしつかえありませんが、後述するように、ベルトや下着などで圧迫される高さは避けましょう。

  6. 薬液が冷たいまま注射しても良いですか?

    注射部位の発赤や硬結などの皮膚反応や疼痛を防ぐために、室温程度に戻してから注射すると良いでしょう。この際、バイアルを火や熱いお湯で温めないで下さい。急ぐ場合は手で包み込むようにして、人肌で温度を上げましょう。

  7. 身体がだるいなどの理由で薬液量を減らしても良いですか?

    一時的に1/2や1/4に減量することはやむを得ないでしょうが、体がだるい状態が継続するようなら、注射の副作用ではなく別の理由かもしれませんので、検査をしてもらいましょう。また、減量しても良いかどうかは、あらかじめ主治医とよく相談し、減量した場合は次回の受診日に報告し、主治医がきちんと把握できるようにしましょう。

  8. 注射した直後に入浴しても良いですか?

    注射した直後から数時間以内に入浴することの危険性は、体に針を刺したわけですから、その皮膚は小さなけがをしたのと同じです。湯船につかったり、石けんで洗ったりすることで、感染を起こす危険性があり得ます。
    また、強くこすって洗いますと、「注射部位を強く揉まない」ようにという注意事項にも反することとなります。また、注射した数時間以内は発熱する可能性がありますので、この発熱と入浴による体温上昇とで体によけいな負担をかけてしまう可能性があります。
    ウートフ現象(体温上昇によりMS病変部位での神経伝達が悪くなって、症状が悪化する現象。病気自体が悪くなるわけではありませんし、再発ではありません。 )のある方は、特に注意が必要でしょう。
    注射をする前に入浴することをお奨めします。入浴後、ほてった体が元に戻ってから、注射をしましょう。注射をしたら、後は何もしなくても良いような、後は寝るだけというような環境を整えましょう。

  9. 小児に注射する場合、どうしたら良いですか?

    欧米では10歳以下に投与したという少数例の報告があり、少量から漸増し、成人と同量を投与しています。ただ、日本人でも同じように行っても良いかどうかは不明です。詳しくは専門医にご相談下さい。

  10. 感染症のリスクはありますか?(ベタフェロンの場合のみ)

    ベタフェロンには安定剤としてヒトのアルブミンが少量入っています。そのため、この薬剤は血液製剤に準ずる扱いで(正確には特定生物由来製剤といいます)、治療開始前に主治医から説明を受けているはずです。
    現行の薬事法では「患者またはその家族への適切な説明」を義務づけておりますが、同意書の作成までは求められてはいません。 2008年現在、発売されて20年近くが経過していますが、肝炎などの問題は起きてはいません。
    しかし、加熱処理耐性の未知のウイルスが今後発見される可能性は全くないとは断定はできません。感染症のリスクは限りなくゼロに近いけれども、理論的にはゼロではありません。

  11. 治療中に妊娠したことが判った場合、どうしたら良いですか?

    妊娠したことが判明した場合は、直ちに注射の継続を中止し、主治医に相談しましょう。胎児への影響は大きくはないと考えられますが、安全性が確立されているわけではありません。

  12. 出産後に授乳したいのですが、かまいませんか?

    安全性は確認されてはいませんので、治療中は授乳は避けた方が無難でしょう。

  13. 注射部位が発赤した場合、ステロイド軟膏を塗ってもかまいませんか?(ベタフェロンの場合のみ)

    構いません。ステロイドは炎症を抑えますので効果を期待できます。併用することで、ベタフェロンの効果が落ちてしまうという証拠はありません。皮膚反応が強い場合、壊死を起こすことがあります。きわめて難治性なので、主治医とよく相談しましょう。
    外科的処置が必要となることが少なくありませんが、それでも容易には治癒しません。皮膚反応が強い場合、ベタフェロンの継続は困難になることもあります。

  14. ベルトや下着のゴムに当たる腹部に注射しても良いですか?(ベタフェロンの場合のみ)

    注射部位を圧迫することで、発赤などの皮膚症状が出やすいとされていますから、避けた方が賢明です。

  15. 針を刺しても皮膚を突き通せなかった時に抜いた注射は捨てた方が良いですか?

    体に一度刺した針を抜いた場合、その針はもはや清潔ではないと考えて下さい。しかし、注射液自体は不潔ではないので、針を替えて、刺して下さい。針は常に数本、余分に持っていると良いでしょう。
    薬液を針先まで出して空気を出しても良いのですが、針先の空気の程度の量は体の中にたとえ入っても心配はありません。むしろ、針先に薬液が付着して、これが原因となって皮膚症状の原因となる可能性もありますので空気抜きはしない方がよいでしょう。

  16. 筋肉注射をした際、ナースは注射器の内筒(プランジャーと言います)を引いて、静脈血が逆流(逆血)しないかどうか見ていますが、患者さんやご家族の方が注射する場合も同じようにするのでしょうか?(アボネックスのみ)

    必要ありません。プロは常識として行っていますが、逆血しないかどうか確認する際に、慣れないと注射器本体が抜けてしまう可能性があり、注射針が汚れてしまう危険性があります。また、誤って血管の中にアボネックスが入っても危険性がないことは確認されています。
    海外での注射方法の解説でも、逆血を確認することは指示されていませんし、国内でも安全性のためにむしろ逆血の確認をしないことになっています。

  17. ベタフェロンを注射した後、良くもんだ方が良いですか?(ベタフェロンの場合のみ)

    皮下注射という治療法は、本来、糖尿病の治療で使用するインスリンのように、ゆっくりと作用させたいときに用いる投与法なので、原則はもみません。
    ただ、ベタフェロンはインスリンとは薬剤の代謝が異なりますので、じわっと作用させなければいけない薬物ではないことと、皮膚反応を抑えたいので、狭い部位に高濃度の薬液が留まることも避けた方が良いので、多少はもんだ方が良いと考えられています。しかし、激しくもんでしまいますと、注射した部位から薬液が逆流してしまって、皮膚に付着して皮膚反応を起こしてしまう可能性もありますので注意が必要です。

  18. 針を抜いた後で液体が漏れて出てきた場合、どうしたらいいですか?予防する方法はありますか?(ベタフェロンの場合のみ)

    漏れた注射液は皮膚には刺激性なので、皮膚に炎症を起こして、発赤などの不快な皮膚症状を呈する可能性があります。漏れて出てきたら、消毒に使用したアルコール綿の角でそっとしみ込ませるように吸い取って下さい。ティッシュでゾウキンがけをするように拭きますと、周辺の皮膚に塗り込む結果になりかねません。

    漏れを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか?
    ○一つは注射する深さが浅い可能性があります。深く刺しましょう。
    ○もう一つの方法は、注射液を入れた後、すぐに抜かないで、2〜3秒そのままにして、針先の周辺組織に注射液がしみ込む時間を作りましょう。

  19. ベタフェロンの注射の際、針をどのくらいの角度で刺せばいいですか?(ベタフェロンの場合のみ)

    皮膚に対してほとんど垂直に近く、筆で字を書くように立てて(皮膚をつまんで根本に刺す、通常の皮下注射とは異なります)、付属の針は短いので根本まで刺して下さい。

  20. アボネックスの注射の場合は、針をどのくらいの角度で刺せばよいのでしょうか?(アボネックスのみ)

    筋肉注射の場合は皮膚に直角(90度)に刺して下さい。深さはそれぞれの皮下脂肪の厚さや使用する針の長さにもよりますので、主治医から具体的に指導を受けて下さい。

  21. 家族におしりに注射してもらう場合、どこに注射すればいいですか?(アボネックスのみ)

    避けた方が無難です。昔、筋肉注射といえばお尻に注射するのが当然でした。感覚が鈍いので、痛くないことが最も大きな理由と思われます。今日、医療機関でも一般的には推奨されない理由は、注射部位を定義することが難しいこと、外来であれ、病棟であれ、患者さんにお尻を出して、ということは特に若い女性の場合、抵抗感もあるからだと思われます。 図を示さずに注射部位を説明することがどのくらい難しいか、以下に試みてみましょう。

    一般の方の場合、お尻の一番盛り上がった部位に注射したくなるでしょうが、ここは下肢に分布する神経の大きな束(座骨神経)が走っているので、この神経を傷つけては大変です。そこで、4分3分法という方法がナースの世界では知られています。

    前上腸骨棘(骨盤のてっぺんの前の骨の出っ張りです)を上端、臀部の盛り上がりの一番下を下端とした左右どちらかの臀部を「田」の字に4分割し、そのうちの上外側の四角形の中に、「田」の字の中央の交点から上外側へ斜め45度の線を引き、その外側1/3を底辺とし、「田」の字の上外側の隅を上端とした円弧(半円にはなりません)の内部が注射部位になります。判ります?判らないですよね?ここは止めた方が無難です。

  22. 風邪などで発熱したときはどうすればいいですか?

    IFNβの作用は充分には判っているわけではありません。風邪や膀胱炎などの感染症自体に直ちに悪影響があるかどうかは良く判ってはいないようです。しかし、発熱してだるくなっているのに、さらに注射をすることで体に負担をかけない方が良いでしょう。
    それと、注射をすることで白血球数が下がる傾向にあり、ヒトによっては3000近くにまで減少することがあります。IFNβ治療自体で感染症にかかりやすくなると言うことはありませんが、高熱を出すほどの感染症がある場合、白血球数を減らすことで体の抵抗力を下げてしまう可能性はあり得ます。37.5℃以上の発熱がある場合は、注射を控えた方がよいでしょう。

  23. アルコール綿で消毒した後、乾燥させないといけないのはなぜですか?

    アルコールは乾燥する際に、消毒効果が発揮できるからです。乾燥してから、注射をしましょう。乾燥する際に手であおいだり、扇風機やクーラー、あるいは自然の風を当ててはいけません。ゴミが付いてしまいますから、室内で自然に乾燥させて下さい。時間はそれほどかかりませんから

  24. 他の薬剤と併用する場合、危険な組み合わせはありますか?

    肝炎の治療でIFNα製剤と小紫胡湯という漢方薬を併用したときに、間質性肺炎のリスクが増すと言われており、IFNβでも併用が禁止されています。その他には、2008年3月現在、国内で市販されている薬剤のうち、IFNβと同時に使用することが危険な薬剤はありません。

    現在、米国で市販が再開されている、ナタリツマブは併用することで致死的な進行性多巣性白質脳症(PML)を稀ですが発症する危険があるため、併用が禁止されています。

  25. インターフェロン治療を行ってはいけないのはどのような場合ですか?

    全身性エリテマトーデス(SLE)で病気が本当に悪くなるかどうか、充分なデータがあるとは言えませんが、従来のSLEの研究からIFNβが病気を悪くする可能性を示唆する複数のデータがありますので、SLEを合併している患者さんには投与は禁忌と考えられています。

    シェーグレン症候群など他の自己免疫疾患でのリスクは良く判ってはいませんが、充分な注意が必要でしょう。 脊髄中央部に連続する3椎体以上の長い病変があったり、末梢血中で抗アクアポリン4抗体が見出されることを特徴とし、視神経と脊髄が主に傷害されますが、半数以上で脳病変による症状を呈する、視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica: NMO)という病型があります(詳しくは、宇多野病院の多発性硬化症センターの他の記事をご参照下さい)。

    失明したり、歩行不能になったりすることもあって、欧米の白人に多い古典型多発性硬化症(classic multiple sclerosis: CMS)に比べて、女性に圧倒的に多く、再発頻度が高く、脊髄液の細胞数が多い、などという特徴があります。欧米ではNMOはCMSとは異なる疾患と考える研究者が多いのですが、科学的な議論は別にして、伝統的に国内ではNMOも多発性硬化症として扱われており、特定疾患でもMSの1病型として理解されています。

    最近、NMOあるいは抗アクアポリン4抗体陽性者ではIFNβが再発を誘発するのではないか、と言われています。これらはいずれも症例報告レベルで少数の患者さんを対象とした研究であり、頻度がどうなのかを科学的に証明してはおりません。宇多野病院では過去の多数例での経験を元に検討を行い、NMOでもそのうちの抗アクアポリン4抗体陽性者でも、IFNβ治療は再発を誘発しないし、EDSS (MSでの障害度分類)を悪化させないことを科学的に証明しています。

    NMO患者さんでは発症1.5年以内に85%もの患者さんが脊髄中央部に連続する3椎体以上の長い病変を呈することが判っており、発病初期にIFNβ治療を行いますと、この病変の出現にたまたま遭遇する可能性があり得ます。IFNβ自体はNMOに良くも悪くも作用しないと、現在は考えております。ですから、痛い思いや面倒な注射スケジュールの管理までする必然性はないと考えています。NMO患者さんの5%程度と思われますが、明らかにIFNβ治療が効いているとしか考えられない患者さんがいらっしゃることも事実で、NMO患者さんで、すでにIFNβ治療が行われていて、再発が少なくコントロールされているなら、中止する必要はありません。誤解により、患者さんに不利益が生じないことを願っています。

  26. ベタフェロンとアボネックスをどう使い分けたらよいのですか?

    商品としての違いについてはネット上でも情報が多いですし、あらかじめ主治医の先生から説明があると思います。どういう時に、どちらを使用したらよいのか、自分はどっちが向くのか、疑問に思われる方が少なくありません。
    実は、両者の効果の違いを比較した研究論文もありますが、副作用の頻度や途中で中止する率なども考慮すると、実は比較は容易ではないという意見は外国でも出ています。公式に両者の使い分けの条件を表明している科学団体は国内外ともありません。主治医の医師とご相談下さい。