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患者さま向け

視神経脊髄炎とは?

もともとは短時間のうちに両側視神経と脊髄の両方に病変が出現する特殊な疾患(欧米ではデビック病と呼んでいました)と欧米では考えられてきたのですが、特徴が判ってきて、以前より多くの患者さんがいらっしゃることが判るようになりました。欧米では多発性硬化症(Multiple sclerosisという英語の病名の頭文字でMSと呼ぶことが多いです)とは別の疾患と考える研究者が圧倒的に多いのが現状です。視神経脊髄炎(英語ではNeuromyelitis opticaと言いますので、MSと同じようにNMOと短縮して呼びます)  

視神経と脊髄はMSでもよく症状が出現する部位でもあり、この両者による症状が出現したからといって、NMOとは限りませんし、MS以外でも視神経と脊髄に病変が出現する疾患がありますから診断が大切です。  

NMOの特徴は次の2点です。

1)抗アクアポリン4抗体が血中に存在していること。
この抗体の測定は簡単ではないため、広く病院や検査業者で取り扱ってはいません。以下の3ヶ所の神経内科で外部からの測定依頼に応えています。
東北大学(藤原一男教授)、
金沢医科大学(田中恵子教授)、
九州大学(吉良潤一教授)

2). 脊髄MRIで3椎体以上に連続する、脊髄中央部の病変が存在していること。
これは多くの疾患で見出されます(このホームページの「専門医向け」欄の「多発性硬化症の病因・診断・治療に関する考察」にリストが載っています)。ですから、他の疾患ではないことを検査する必要があります。  

事実上、この二つのうちの一方が見出されればNMOと診断可能です。抗アクアポリン4抗体は発病当初は陰性で、あとから陽性となることもありますので、再検査も場合によっては必要です。1回検査したからといって、それで充分とは言えません。また、視神経と脊髄の両方の症状がそろわなくても、稀には視神経や脊髄以外の症状で発症しても、抗アクアポリン4抗体が陽性になることがあります。  

MSではヨーロッパや北米では緯度が高くなるほど、患者さんが多いという疫学的な特徴があります。国内の調査でも同様に結果が出ています。きちんとした疫学研究結果はありませんが、NMOでは緯度の違いだけではなく、地域差や民族による有病率(人口10万人当たりの患者数)の違いはないと考えられています。

多発性硬化症とは違うの?

欧米で「視神経脊髄炎」という概念がほぼ確立したのは、2006年の米国メイヨー・クリニックの医師による報告で、それまではよく判ってはいなかったのです。国内でこの疾患は、視神経脊髄型多発性硬化症に含まれます(全てではありません。つまり、同じ病気ではありません)。  

厚生労働省が指定する「特定疾患」は多発性硬化症という名称になっていますが、「行政用語」とお考え下さい。欧米では多発性硬化症と視神経脊髄炎とは別の疾患として取り扱われることが多いのですが、通常、国内では多発性硬化症の中に視神経脊髄炎を含んで議論されることが多かったのです。ややこしいですね。  

ですから、視神経脊髄炎と診断されたからといって、特定疾患から除外されることはありませんし、視神経脊髄炎の特徴を記載する項目が特定疾患の書類には設定されていますのでご安心下さい。  

MSに比して、無治療では一般に重篤になることがあり、失明や歩行不能になることもあり得ますから、早期診断・早期治療が必要です。

多発性硬化症と区別する理由はなんですか?

再発予防の治療法が一部で異なるからです。
最も大きな違いは、MSではインターフェロンβを使いますが、NMOでは原則的に使いません。NMO患者さんに投与したらどうなるでしょうか?以前、新聞でNMO患者にインタフェロンβを投与すると、再発を誘発すると話題になりましたが、この報道の元になったデータには科学的根拠がありません。以前、NMOという疾患概念が確立する前、インターフェロンβを広く使用していました。私たちは、後日、これらの患者さんをMSとNMOに分けてインターフェロンβの影響を検討しましたが、NMO患者さんでもインターフェロンβで特に再発を誘導する、という現象は認められませんでした。統計学的に検討した、世界で唯一のデータです。

NMO患者さんでは再発頻度が高いことと、脊髄に3椎体以上の長い病変を発症後2年以内に半数以上の患者さんで発症しますので、偶然、重篤な再発がインターフェロンβ治療開始直後に出現してもおかしくないわけです。しかし、発熱やだるさを起こしうる、インターフェロンβをNMO患者さんに投与する理由はありません。NMOであることが判っている患者さんに新たに投与する理由はありません。ただ、NMO、あるいはNMOが強く疑われる患者さんで、あきらかに再発していない場合は例外的に継続する場合もあります。  

国内では未発売ですが、フィンゴリモドやナタリズマブはNMOには投与しません。国内で発売はしていますが、保適適応外のミトキサントロンやリツキシマブはMSにもNMOにも効果があります。今後、NMOを対象とした薬剤の開発も進むと思われます。

治療は?

治療は再発したときと再発予防とに分かれます。他に、しびれや疼痛、排尿障害や有痛性硬直性痙攣などに対する対症療法を行います。  

再発した場合、可及的速やかに(24時間あるいは48時間、神経症状が持続しないと再発とは呼ばないという基準がありますが、これはあくまでも疫学研究の基準で、後で治療後の期間も含めて振り返って判断することでありますし、救急医療の対象疾患です)ステロイドパルス療法を行います。通常はメチルプレドニゾロン1000mgを3-5日間点滴します。必要に応じて、繰り返します。これはMSの再発時と治療法は同じです。改善が不充分の場合は血漿浄化療法(プラスマフェレーシス)を行います。これには3種類ありますが、単純血漿交換(アルブミン液と交換する方法で、週2回)とトリプトファンカラムを用いた二重膜濾過法(週3回まで可能)をお奨めしています。MSより効果を期待できます。施行する場合は再発してから3-4週間以内に行うべきとされていますので、時間の余裕は余りありません。再発の症状が発症してから時間が経ってしまいますと、症状が固定化する可能性があります。時間が経過しても症状は改善する可能性はありますので、悲観する必要はありません。でも、早く治療するほうが良いので、新しい症状が出現したり、今までの症状でも範囲が拡大したり、強くなった場合は医師にご相談下さい。  

再発予防がとても重要です。  
NMOだからといって、必ずしも重篤になるとは限りませんし、きちんと治療をすれば再発を充分に予防できます。治療を継続していれば、たとえ再発しても軽くて済むことが少なくありません。ただ、再発が充分に抑えられない場合は、別の治療法を行うこともあります。  

通常、診断がついたら副腎皮質ホルモン剤(プレドニゾロンやプレドニンというお薬です。一般にステロイドと呼ぶ場合、ほとんどこれを意味します)を始めます。きわめてゆっくりと減量します。年単位で継続して服用する必要があります。免疫抑制剤(イムランやプログラフといった薬剤です)を併用することもあります。