田中正美: 多発性硬化症の疫学-古典的常識の修正と最近の話題-。神経内科,2005;62(1):90-9. Kurtzke JF. Epidemiology
and etiology of multiple sclerosis. Phys Med Rehabil
Clin N Am. 2005;16(2):327-49.
T.多発性硬化症のMcDonald診断基準(Ann.Neurol.,50:121-7,2001)
- 憎悪あるいは再発(attack)の定義
- 神経症状を呈するエピソードのことを指し、この診断基準に際しては、患者の訴えでも他覚的観察であっても良い。
- 症状は少なくとも24時間以上持続すること。
- attackとは別に、病変によるobjective clinical findings(病変を証明する客観的な証拠-神経学的所見に基づいて推定される責任病巣、あるいはMRIまたはVEPに基づく証拠ー訳者注という概念を設定した。
- tonic spasmのような発作性症状の場合、単一の場合は再発とは考えないが、多発性に出現した場合、24時間以内しか持続しなくとも再発に含める。
- 独立した再発と考える条件として、発作の間隔が30日以上離れている必要がある。
- MRI-脱髄病変の空間的・時間的多発性を証明できる 唯一の検査手段として、従来より診断基準での重みが増している。
【空間的多発性】以下の4項目のうち、3項目を満たす必要がある。
- 一つのGd造影病変あるいは造影病変がない場合はT2強調画像で9つ以上の病変
- 少なくとも一つのテント下病変
- 少なくとも一つのjuxtracortical病変
- 少なくとも3つの脳室周囲病変
cross sectionにて病変は少なくとも3mm以上の長さが必要。
一つの脊髄病変*は一つの脳病変として数える。
* T2強調画像で少なくとも3mmの長さが必要だが、2椎体以下の長さ。病変はcross sectionでは脊髄の一部であって、全体であってはいけない。脳病変がなくて、二つ以上の脊髄病変だけでMSの画像上の時間的空間的多巣性が証明される場合もあり得るが、この件については今後とも検討が必要と考える。MSの脊髄病変の画像については、感受性や特異性の検討が今後必要。
【時間的多発性】
- 最初のMRIが発病3ヶ月以上経過した後の場合。
最初の症状とは関連のない部位にGd造影病変があった場合は、以前の病変ではなくて新たに形成された病変として考える。
仮にこの時に造影病変がなかった場合には、 3ヶ月後に取り直すべきである。この時、新たなT2高信号病変あるいは造影病変が認められた場合に、時間的多発性が証明される。
- 最初のMRIが発病の3ヶ月以内だった場合。
発病の3ヶ月以上経過後に撮影された、2回目のMRIで新しい Gd造影病変があった場合に、時間的多発性が証明されたと考える。
仮に2回目の時点で造影病変がなかった場合は、最初の撮影から3ヶ月以後に撮影されたMRIで新しいT2病変があるか造影病変があれば、時間的多発性が認められた、と考える。
- 脊髄液検査
脊髄液検査は脱髄病変の免疫反応や炎症反応を反映するので、これらを支持する所見となりうるが、病変やエピソードの時間的空間的多発性を反映しない。脊髄液所見としては、
- 血清とは異なる脊髄液特異的なオリゴクローナルIgGバンドの存在
- IgG indexの上昇
1. and /or 2.ただし、細胞数は50/mm3以下であるべきである。
- VEP
神経生理検査としてはVEPのみ取り上げられた。
U.実際の臨床経過別の診断基準
この基準を満足しない場合は、possible MSとする
- 2 回以上の発作があって、2ヶ所以上の病変を証明する客観的な証拠のある場合VEP
時間的空間的多発性を示す病変の証拠があって、2回以上の発作があれば、検査データは不要である。しかし、この場合、 MRIあるいは脊髄液所見あるいはVEPで異常所見を示すことが期待され、仮にこれらの検査が正常であった場合は、診断にはきわめて慎重であるべきである。
- 2回以上の発作があって、病変を証明する客観的な証拠が1ヶ所しかない場合
- MRIで証明された、空間的に異なる2番目の病変の存在が必要となる。
- MRIで証明された、MSに合致した、少なくとも2つ以上の脳病変あるいは一つの脳病変と一つの脊髄病変の存在があって、さらに脊髄液所見が陽性である必要がある。
診断には、 1.あるいは2.の条件が必要。あるいは、MRI画像がない場合、
- 異なる部位による再発が出現するまで診断を保留する。
- 1回の発作と2ヶ所以上の病変を証明する客観的な証拠のある場合
- MRIで証明される時間的多発性が必要**
- MRI画像が得られない場合、時間的多発性を証明する2番目の発作が必要
診断には、1.あるいは2.の条件が必要。
- 1回の発作と病変を証明する客観的な証拠が1ヶ所しかない場合 (clinically isolated syndrome*)
時間的・空間的多発性の証明が必要である。
- 空間的多発性の証明
a). MRIによる証明**
b). MSと思われる2ヶ所以上のMRI病変と脊髄液所見
a)かb)の一方が必要。
- 時間的多発性の証明
a). MRIによる証明**
b). 次の再発をまつ
診断には1.と2.の両者が必要である。
- 潜行的に発症し、慢性進行性に経過する場合 (Primary progressive MS)
- 脊髄液所見
- 空間的多発性の証明-MRIやVEPにより証明する
a). MRIで9ヶ所以上のT2病変の存在
b). 2ヶ所以上の脊髄病変
c). 4-8ヶ所の脳病変と1ヶ所の脊髄病変
d). VEPの異常と4-8ヶ所の脳病変
e). VEPの異常と4ヶ所以下の脳病変と1ヶ所の脊髄病変
a)-e) のいずれかを満足する必要がある。
- 時間的多発性の証明
a). MRIによる証明**
b). 1年以上進行する経過
a)あるいはb)のいずれかを満足する必要がある。
診断には1)2)3)とも満たす必要がある。
V.除外診断の必要性
MSを強く示唆する臨床所見や検査所見がある場合であっても、MS以外では説明できないことが重要である。
* clinically isolated syndrome (最初のエピソードからなる症候群 ): 一側視神経傷害あるいは脳幹あるいは脊髄傷害からなる症候群で、多発性硬化症の早期の臨床的なエピソード
(Neurology, 53:1184, 1999)
** MRIによる時間的・空間的証明の条件は前記による。(2003.11 田中正美訳)
文 献
- Compston, A.Coles, A.: Multiple sclerosis. Lancet, 2002;359:1221-1231.
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- Compston A, Coles A: Multiple sclerosis. Lancet 2002;359:1221-1231
- 田中正美、出塚次郎、谷 卓、田中恵子 多発性硬化症の新しいMcDonald診断基準の曖昧さ。神経内科, 2004; 60(1):113-115.
T.疲労
MSの疲労に関するReview
MS患者の65-97%が疲労を感じている、という報告があり、15-40%が主徴と感じています。1/3の患者さんが presenting symptomとして訴えるほど欧米ではcommon。この症状を評価するスケールとしてはいろいろあって、
Fatigue severity Scale (FSS)が一般的ですが、他にThe Modified Fatigue Impact Scale,
the Fatigue Descriptive Scale, the Fatigue Impact Scale, the MS-Specific
Fatigue Scale, Visual Analog Scale for Fatigueがあります。また、原疾患に基づく primary
fatigueと治療の副作用などによるsecondary fatigueの 2種類が存在していますが、しばしばこの両者の鑑別は困難、とか。
この疲労感は疾患自体と関連していると考えられていますが、神経症状の重症度は関連がなく、うつとの関連が指摘されています。うつも疲労も MSの病変によるものというわけです。これらはいずれも独立して患者さんのQOLを阻害することになります。
FDG-PETでは脳全体で9%糖代謝が低下している、という報告があり、特に、 superior mesial frontal cortexやsuperior
dorsolateral frontal cortex, mesial occipital cortex, lateral occipital
cortex, deep inferior parietal white matter, ponsでの低下が際立っている、と言います。また、bilateral
prefrontal cortexと基底核の糖代謝が低下している、という報告も。 3つのグループから、疲労と脳の萎縮あるいはT1や T2強調画像で見出される所見との関連はないことが示されています。
増悪因子としては、治療、感染症、甲状腺機能異常、 Mood disorder、hot/humid weather、夜間頻尿や痙性、うつによる睡眠障害。
FDAが推奨する治療はありません。amantadineが知られていますが、証拠はありません。また、これも evidenceはありませんが、pemolineも使用されています。
narcolepsyに投与されるmodafinilは最近、 MSの疲労に投与が検討されています。本剤は、覚醒の調整に関連している脳の部位に作用し、histaminergic
pathwaysを活性化することにより、前頭葉の皮質を活性化する、と考えられています。 (Multiple Sclerosis, 9:219-227,
2003)
Fatigueの原因
T.Physiological factors |
Direct effects of illness |
Comorbid medical conditions |
Exacerbating factors |
Cancer
HIV/AIDS
MS
Chronic obstructive Pulmonary Disease (COPD)
Congenital heart failure
Treatment effects
Medication side effects
Chemotherapy
Radiotherapy
Surgery |
Anemia
Infection
Pulmonary disorders
Thyroid dysfunction
Manunutrition |
Chronic pain
Sleep disturbances
Deconditioning |
U.Psychological factors
Coping with chronic illness
Anxiety
Depression
MSのfatigueの鑑別診断にも重要。
(Wagner, L.I., et al.: Fatigue, in Palliative Care in Neurology, ed. by
Voltz, R., et al, Oxford Univ. Press, New York, 2004,pp221-7.)
多発性硬化症の Fatigue疲労感は安静時にさえ出現し、安静時には出現しない易疲労性と一緒に出現することもあって、区別は困難。 1/3の患者で出現するそうですが、いつの時期でも出現しうるし、初発症状のことも。原因としては、末梢由来と中枢由来と言われているそうで、前者の例として、
MRSで見てみると、運動後の筋内のphosphocreatine resynthesisが低下していることが証明されている、と。錐体路病変とは関連がなく、
PETでは前頭葉や基底核の傷害が示唆。TNF-aや IL-1との関連が示唆されており、サイトカインとの関連では、IFN-b投与初期に fatigueが認められることがすでに知られています。治療としてまず大切なことは、患者本人に対して、病気による精神的反応ではなく、病気が原因による神経組織障害によるものであることを説明し、家族にも本当の症状であることを説明する。安静よりは、むしろ適度な運動がよい、と。薬剤としては、amantadineが第1選択剤。ナルコレプシーに投与するpemolineが第2選択。抗鬱剤や3,4-amminopyridineも良いそうです。
(J.Neurol., 248:174-179, 2001)
MSのfatigueにModafinil(J. Neurol., 249:983-987, 2002) fatigueはMSのcommon symptom(75-90%)。また、脳萎縮や白質病変との関連はありません。機序としては、
1. Grey matter関連では
1). Neuronal injury
2). Iron deposition
3). Demyelination
4). Inflammation
2. Dysfunction of sodium channels in the CNS & PNS
Modafinilはcentral a-adrenergic agonistで、 wake-promoting agentとしてnarcolepsyに使用されています。しかし、
nighttime sleepへは影響せず。adrenerigic, GABA, serotonin receptorsには結合しません。hypocretin-receptor
2非依存性に extracellular dopamineを増加させるそうです。
50例のMSを対象に、placebo-controlled study。41例でfatigueや sleepinessを改善。200mg/dayで効果が認めれています。
MSの疲労と関連したMRI所見を検討した研究が報告されています (Neurology, 53:1151-3,1999)。通常の撮影方法では、関連した所見はなし。
Pilot studyでMSの疲労は脳幹と関連しているという報告があったが否定され、 PET studyでは広範囲に代謝の低下、特に前頭葉と基底核の低下との関連が指摘されています。この
PET所見からこの著者らは、cortical-subcortical circuitsを破壊する白質病変によるのではないかと類推しています。疲労を呈する機序として、スクリーニングの
MRIでは検出できない機序として、この著者は次のような可能性を指摘しています。
1. diffuse subarachnoid inflammation
2. reticular formation dysfunction
3. altered brain connectivity
4. microscopic disease
U.疼痛
多発性硬化症での疼痛の原因 |
Acute |
Subacute |
Chronic |
Trigeminal neuralgia
Lhermitte's sign
Tic-like extremity pain
Dysesthetic pain
Painful tonic seizures |
Ocular pain
BLADDER SPASM
Ulnar and peroneal palsies
Vertebral compression fractures
Sacral decubitus |
Dysesthetic extremity pain
Back pain
Painful leg spasms
Visceral pain |
(Neurol. Clin., 19:801-827, 2001)
MSで出現しうるPain syndrome |
Acute |
症 候 |
治 療 |
Paroxysmal pain |
Anticonvulsants |
Trigeminal neuralgia |
Antispasmodics |
Lhermitte's phenomenon |
Surgical procedures |
Dystonis spasms |
|
Chronic |
Low back pain |
Anticonvulsants |
Dysthetic extremity pain |
NSAIDS |
Spasms, cramps |
Opiopd narcotics |
Complex regional pain syndrome |
Nerve blocks
Tricyclic
antidepressants |
(Neurology, 63(Supple 5): S12-18, 2004)
MSの慢性疼痛
68/99MS患者(clinically or lab def by Poser)に疼痛あり。
17例 |
neurogenic pain |
71%はdysaesthetic pain (burning legs or foot)、
29%はparaesthetic pain (sensation ofpins & needles often associated
with numbness) |
56例 |
non-neurogenic pain |
73%は少なくとも1つの骨格関連の疼痛で、31例は大関節痛、22例は背部痛、3例は下肢筋痛
その他:14例が頭痛、5例は内臓痛、3例はpainful leg spasms |
7例 |
両者 |
|
疼痛の重症度とADL, EDSS, 年齢、罹病期間、病型と関連はないが、特に女性では疼痛の重症度は不安や鬱と関連あり。
治療: 抗炎症剤 69.2% ・鎮痛剤 42.3%・筋弛緩剤 19.2% ・抗痙攣剤 15.4% ・麻薬 11.5% ・その他 19.2% (鍼、マッサージ、physiotherapy
or chiropractic medicine)
(Mult. Slcer., 11:322-7, 2005)
V.不眠
MSでの不眠の原因
Painful muscle spasms
Periodic limb movement
Restlesslegs syndrome
Nocturia
Medications
Psychiatric illness
(Semin. Neurol., 25:64-8, 2005)
W.不随意運動
多発性硬化症では意外に多くの不随意運動が報告されています(Tranchant, C., Bhatia, K.P. Marsden, C.D.:
Movement disorders in multiple sclerosis. Movement Disorders, 10:418-423,
1995)。
14例の自験例と文献例をもとに検討し、paroxysmal dystonia, ballism/chorea, palatal myoclonusは脱髄病変で生じ得るけれども、parkinsonism,
dystonia, myoclonus は偶然の合併だろう、と。
パーキンソニスムを呈したMS
MSでは神経細胞傷害による症状が出現することは一般には稀ですから、痙攣、痴呆、不随意運動は稀です。しかし、痴呆はともかく、他の症状は白質病変の影響を受けて神経症状が部分的に傷害されれば出現する可能性があります。ほとんど全ての不随意運動が
MSでは出現し得ますし、パーキンソニスムさえ、症例報告があります (Movement Disorders, 18:108-110, 2003)。
X.痙攣
教科書的には多発性硬化症の可能性を支持しない症状としては、次のようなものがあります。
- 早期に痴呆を呈する
- 失語
- 意識障害
- けいれん
- ぶどう膜炎
- 錐体外路症状
- 線維束攣縮
しかし、痙攣発作を伴う患者さんがいらっしゃいます。錐体外路症状にしても、ほとんど全ての不随意運動が報告されています。ま、稀ではありますが・・。
アイスランドからの報告では、多発性硬化症は一般住民に比べますと、 3倍痙攣発作を起こす危険性が高いそうです(Epilepsia, 40:745-747,1999)。
T.MS治療のターゲット
- T細胞がペプチドを認識するimmunological synapse
- CNSへのリンパ球流入過程
- adhesion
- transmigration
- reactivation
- その他 (不特定あるいは多段階)
- embryonic stem cell transfer
- plasma exchange
- Immunoglobulins
(Multiple Sclerosis, 10:S81-9, 2004)
U.MSのADL障害に炎症よりも軸索傷害が重要、という根拠と重要性
- Gd造影病変はT1低吸収病変より EDSSとの相関が乏しい。
- 頚髄での慢性脱髄病変では、50-80%の軸索が消失している。
- 軸索の急性傷害徴候や消失は、慢性MS患者の病変進展の初期に起こる。
- 軸索消失は、病悩期間や年齢、筋力低下や臨床病型との関連はない。
- 軸索消失は、normal-appearing white matterでも認められる。
(Multiple Sclerosis, 10:S81-9, 2004)
豪華なreviewが出ています。Prof. Steinman, L., Dr. Martin, R., Prof. Oksenberg, J.R.
などの共著。題名も凄いです。 (Steinman L, Martin R, Bernard C, Conlon P, Oksenberg JR.:
Multiple sclerosis: deeper understanding of its pathogenesis reveals new
targets for therapy. Annu Rev Neurosci., 25:491-505, 2002.)
MS発症機序にIL-6やosteopontinといった、新しい要素が脱髄病変の gene microarrayで見出されています。リンパ球が
BBBを超える際に関与する接着分子への抗体を投与することで、リンパ球をCNSへは入らせないようにする治療が試みられていて、抗 VLA-4抗体投与がPhase
II studyでは再発の頻度を抑制でき、現在は Phase V段階。
脱髄を引き起こす分子としては、 Free radical nitric oxide (NO)はミクログリアによるオリゴデンドログリア傷害に関与。また、
T細胞はlymphotoxinやTNF-aを産生し、マクロファージやミクログリア、アストログリアに影響して、 NOやosteopontinを産生。
Altered peptide ligands治療に関して、この総説の著者に含まれる二つのグループからの治験が紹介されています。二つのグループとも共著者なので、バトルはしてはいません。結果の違いについて、簡単に紹介しています。この方面の治療法は今後どうなりますか?
日本では使用できませんが、 CopaxoneはTh2ヘスフトさせる薬剤で、初期 MSの再発頻度を低下させ、MRIでは白質の炎症反応を抑制できると言われています。ただ、患者さんの
10%に、アレルギー反応が起きます。
MS病変部位のlarge-scale analysis of transcriptsでは、osteopontinだけでなく、B-crystallin、prostaglandin
D synthetase、Prostatic binding protein、ribosomal protein L17も病変形成に関与。
osteopontinの脱髄病変形成での役割を調べるために、ノックアウトマウスを作製。すると、OPNが存在しないと、軽症化することが判りました。これらのマウスでは炎症性サイトカインである、IFN-γやIL-12産生が低下し、IL-10産生が亢進していることが判りました。Glial
cellsによるOPN産生は、Th1細胞を引きつけ、BBBを超えやすくさせていると思われます。また、神経細胞もOPNを産生。CD44はOPNのligandですが、抗CD44抗体はEAEを予防でき、EAEやMSでのOPNのProinflammatory
effectはCD44を介していると考えられます。
以前、TNF-aがオリゴに細胞傷害作用があると、Raineのラボから報告がありましたが、その後confirmされていません。むしろ、TNF-αはTh1、Th2反応の両者とも抑制し、抗TNF-a抗体はT細胞の増殖やサイトカイン産生を増強させる作用が報告されています。RAでは可溶化したTNF受容体-免疫グロブリンFcを治療として投与していますが、米国FDAではMSが増悪する可能性があるので、MS+RAの患者で投与することに注意を喚起しています。
EAEやMSのオリゴや神経細胞ではAMPA受容体が発現しています。いずれの病態でも、炎症期にリンパ球やミクログリアやマクロファージはglutamateを過剰に放出させますので、AMPA受容体を活性化させている可能性が高いと考えられます。そこで、antagonistsでこの受容体をブロックすることで、EAEの予防や治療が可能だと言われています。これも新しい考え方。結局、MSも変性も血管障害も神経細胞やオリゴを守ることに関しては、とりあえず同じような治療戦略が成立しそうです。
上記以外の治療法としては、statins、antihistamines、DNA encoding myelin antigens along
with DNA encoding IL-4。
V.plasmapheresis
MSの血漿交換の効果は脳病理に依存する、という当然といえば当然ですが、きれいな報告がMayo Clinicらの共同研究で明らかになりました(Lancet,
366:579-82, 2005)。
欧米のMS患者では急性増悪した劇症型の45%はステロイドに反応せず、血漿交換で改善する、と言われています(数字が大きいですが、fulminant
attacksが母集団)(Weinshenker, B., “Multiple Sclerosis: tissue destruction and
repair, 2001:267-74”)。
脳生検を行い、2週間で隔日に7回血漿交換を施行した19例を解析。すると、効果と脳病理とは驚くほど対応していて、抗体と補体が沈着する、Pattern
IIの10例はすべて改善が認められ、他のPattern IやIIIの患者、それぞれ3、6例はすべて効果なし。この効果はall or noneで、平均3日で改善が認められています。
ここでは対象から除外されていますが、NMO=OSMSも当然、血漿交換は効果が期待できます(Neurology, 58:143-6, 2002)。
W.IVIgの機序
- interaction of the IgG Fc fragment with Fc receptors on leucocytes and
endothelial cells
- interaction of infused IgG with complement proteins
- monocyte and lymphocyte modulation of synthesis and release of cytokines
and cytokine antagonists
- modulation of cell proliferation and reparation;
- neutralisation of circulating autoantibodies
- selection of immune repertoires
- interaction with other cell-surface molecules on T and B lymphocytes.
(BioDrugs. 2002;16(1):47-55.)
X.IVIgによるリンパ球接着への影響
IVIgのautoimmunityへの効果はさまざまですが、新しい効果がMOG35-55免疫C57BL/6J EAE miceで、rhodamineでラベルしたリンパ球の脳血管への接着の様子をintavital
microscopy (Axioskop, Don Mills, Ontario, Canada)を用いることで証明(Brain, 127:2649-56,
2004)。
IVIg処理(0.4g/kg ip, once daily)したマウスでは、リンパ球のpost-capillaryvenulesへのrollingとadhesionが減少し、CNSへの流入が抑制されることが示されました。この機序は、a4-integrin-dependentな接着への抑制効果によるもの。MS患者のリンパ球でも、IVIgするとヒト内皮細胞へのrecruitmentが低下することが判りました。
リンパ球の組織浸潤は、すべての臓器でMolecular levelで同一ではないと言われ、肺や肝ではselectinsやintegrinsの役割は脳と違って小さい、と言われています。
同じ脳でも、strokeとMSとでは脳内への細胞浸潤の機序は異なるとされ、前者では血小板やa2-integrin-dependent adhesionが関与しているそうな。この研究グループは、EAEだけでなく、Cerebral
ischemia-reperfusion model (Ishikawa, Stroke, 34:1777-82, 2003)でも検討し、これではIVIgで血小板と白血球の凝集が形成され、IVIgはpro-adhesive
stateのタイプによってはstrokeのように効果があるとは限らないことが示されました。
Y.MSへのanti-IL-2R(Daclizumab)治療
phase II studyがすでに報告されていますが(PNAS, 101:8705-8, 2004)、19例のMS患者に投与されて良好な結果が報告されています(Ann.
Neurol., 56:864-7, 2004)。腎移植(N. Engl. J. Med., 338:161-5, 1998)やぶどう膜炎に対しても試みられています(PNAS,
96:7462-6, 1999)。
Z.抗体によるMSの治療
CD4陽性ヘルパー細胞は、MSではTh1として脱髄病変に直接関与する以外にもCD8陽性CTLの分化にも関与するので、抗CD4抗体によりCD4陽性細胞を減少させることで広範囲に免疫反応を抑える試みもなされたことがあります。IL-2受容体のalpha鎖(CD25)に対するヒト化モノクローナル抗体(Daclizumab)でT細胞の反応を抑える治療により、他の治療では反応しなかった19例の患者のうち、10例で改善し、9例で症状が安定した、という報告があります(Rose
JW, Watt HE, White AT, Carlson NG. Treatment of multiple sclerosis with
an anti-interleukin-2 receptor monoclonal antibody. Ann Neurol. 2004 Dec;56(6):864-7.)
。
また、B細胞を除去するために抗CD20抗体(Rituximab)を投与することで8例中6例で再発しなくなり、7例で改善が認められ、平均のEDSS
scoreは7.5から5.5へ改善しました(Cree BA, Lamb S, Morgan K, Chen A, Waubant E, Genain
C. An open label study of the effects of rituximab in neuromyelitis optica.
Neurology. 2005 Apr 12;64(7):1270-2.)。
Tリンパ球が血管内皮細胞に結合して通過して中枢神経に侵入する際に、さまざまな接着分子が関与しますが、そのひとつ、VLA-4に対する抗体(natalizumab)も治療効果を上げています。この抗体はTリンパ球の血管内皮細胞への接着を抑制し(Tanaka
M, Sato A, Makino M, Tabira T. Binding of an SJL T cell clone specific
for myelin basic protein to SJL brain microvessel endothelial cells is
inhibited by anti-VLA-4 or its ligand, anti-vascular cell adhesion molecule
1 antibody. J Neuroimmunol. 1993 Jul;46(1-2):253-7.)、T細胞の中枢神経への流入を抑制します。この抗体で造影病変が減少したり、再発する患者が減ることが認められました。中枢神経への流入を減少できることが期待されて、急性期への投与も行われましたが、より軽症化するとか、より早く改善する、といった明確な効果は認められませんでした。一方で、中止することで再発が増加するようでもあり、この点が憂慮されました。(Rice
GP, Hartung HP, Calabresi PA. Anti-alpha4 integrin therapy for multiple
sclerosis: mechanisms and rationale.Neurology. 2005 Apr 26;64(8):1336-42.
)
不幸なことに、最近、多発性硬化症だけでなく、Natalizumabを投与された患者さんにPMLの発症が報告されています。一時、患者さんへの投与が中止されていましたが、今秋から再開されるようです。
T細胞やB細胞表面に存在しているCD52を標的とした治療も行われていて、"5-day pulse of the humanised
anti-CD52 monoclonal antibody, alemtuzumab (Campath-1H)"という治療が27例のMSに対して行われ、末梢血の95%のリンパ球を減少させています。MSの活動性は抑えましたが、1/3の患者さんで自己免疫性のthyperthyroidismが出現。リンパ球そのものに対する治療を行った時に、思いがけない病態が出現してくる、という例が以前にも認められています。(Lancet,
354:1691-5, 1999. )
[.MSへのstatin療法
statinの免疫調節作用としては、
- LFA-1の発現を抑制し、BBBをT細胞が超えることを抑制。
- MMP9の産生を抑制。
上記の2つの分子(LFA-1とMMP9)はT細胞がBBBを超える際に重要
- in vitroでT細胞の増殖を抑制。
- autoaggressive T cellsのTh1からTh2へshift。
しかし、逆にproinflammatory effectsがsimvastatinで報告されていて、IFNgやIL-12がdose-dependentに増加!
simvastatin 80mg経口投与を再発寛解型の30例のMSに投与し、Gd造影病変の数が44%までに、容積が41%まで減少、と有効性が報告されています。EDSSには変化なし。
\.世界のMS治験の現状
Recombinant MBP-PLP |
Phase I |
Soluble class II-MBP peptide |
Phase I/II |
Altered MBP peptide |
Phase II |
oral bovine MBP |
Phase III (failed) |
anti-TCR monoclonal antibody |
Phase I |
Copolymer 1 |
Phase IV |
TCR peptide |
Phase I (on hold) |
Caspase 1 (ICE) inhibitors |
Preclinical |
anti-IL-12 |
Phase II |
MMP/TNF inhibitor |
Phase I |
TGF-b2 |
Phase I/II (failed) |
STNFR |
Phase II(failed) |
PDE IV inhibitor |
Phase II |
IFN1a (Avonex) |
Phase IV |
IFN1b (Betaseron) |
Phase IV |
CAMPATH-IH (anti-CD52) |
Phase II |
Cladribrine |
Phase II |
Methotrexate |
Phase II |
AZP |
Phase II |
Cycloplus |
Phase II |
IVIg |
Phase II |
Glucocorticoids |
Phase IV |
Mitoxantrone |
Phase IV |
CTLA-4-Ig |
Phase I |
anti-CD40L |
Phase I (on hold) |
anti-VLA4 mAb |
Phase III |
anti-a4b1 mAb |
Phase III |
CCR1/CXCR3 |
Preclinical |
CCR1 |
Phase II |
FTY 720 |
Phase II |
(Adorini L, 5th ESNI Course, Venice, 2004)
].視神経脊髄炎(NMO)へのリツキシマブ治療の危険性
最先端の分子標的治療の一環として理解すると、大変。
B細胞表面のCD20に対するモノクローナル抗体で、MSやNMOで投与されたが以下の理由で少なくともMSでは使用されなくなった。キメラ抗体のため抗体の結合部位である超可変部がマウス由来蛋白で全体の30%を占めるため、アナフィラキシーショックを起こしうるし、異種蛋白なので中和抗体が出現しやすく、反復投与すると抗体が結合できなくなって薬効が消失する。ナタリツマブ登場前はPMLの原因薬剤として飛び抜けて多かった。MSではマウス由来蛋白が5-10%のヒト化モノクローナル抗体であるオクレリズマブの治験結果が2015年に発表される予定である。誤解されやすいがCD20は形質細胞には発現していないので抗体産生能には直接影響はしない。主にヘルパーT細胞に対するB細胞の抗原提示機能抑制を介した機序と考えられる。NMOでは血液脳関門を開けて抗体や補体を中枢神経へ送り込むヘルパーT細胞機能を抑制する可能性はあり、治療薬として外国の古いガイドラインには記載はあるが、ステロイド内服剤の代わりに用いるには効果発現に時間がかかる上に薬効は弱く、時代遅れである。