2015年3月号 NO.2

  1. Barcelona Univでのisolated optic neuritisでの抗体検索
  2. 水洗トイレの進化形
  3. NEDAのClinical practiceへの応用
  4. 赤道上に宇宙エレベーターを設置すると宇宙船を飛ばせる!?
  5. マツコとタモリの会話
  6. VZV脳幹脳炎後に抗NMDAR抗体が誘発されて脳症が起こりうるか?
  7. seronegative NMOの21%で抗MOG抗体陽性
  8. 「上手な夫の殺し方」
  9. 抗MOG抗体はNMOのバイオマーカー?
  10. 現代の日本庭園デザイナーは禅宗の住職
  11. CopaxonでもPML?
  1. Barcelona Univでのisolated optic neuritisでの抗体検索  
    Dalmauらが報告しています。対象は、2005年11月初めから2014年5月末までのバルセロナ大学の患者のうち、脱髄病変によると思われた、一側あるいは両側性、再発性患者で、視神経以外の中枢神経に異常なく、脳MRIでも正常かMS/NMOの診断基準を満足しない非特異的な所見のみしかなく、少なくとも12ヶ月以上観察できた患者を対象としました(Martinez-Hernamdez E, et al. JAMA Neurol, in press)。51例を対象。年齢は中間値で28歳(5-65歳)、71%が女性。これらの患者の血清中の抗MOG、AQP4、Glycine receptor α1 subunit抗体をCBA法で測定。抗体が陽性だったのは23例(45%)で、抗MOG抗体が陽性だったのは10例、抗AQP4は6例、抗GlyRは7例(うち3例は抗MOG抗体陽性、1例は抗AQP4抗体陽性)。  
    抗体陽性患者のうち、臨床像との比較で特徴的なのは、長期間免疫抑制療法を必要としたのは、抗AQP4抗体陽性患者は100%、抗MOG抗体陽性患者では2/10例で、一般的には抗MOG抗体陽性ONは予後良好ですが、一部では難治性であることが判明。抗AQP4抗体陽性患者はONのみでも、免疫抑制治療が必要なことが判ります。このシリーズでは、idiopathic monophasic isolated ONやidiopathic recurrent isolated ONでは抗AQP4抗体は陰性。
    48例のNMOでは、抗AQP4抗体は37例(77%)、抗MOG抗体は4例(8%)で陽性であり、注目するべきは(東北大はdouble positiveは存在しないと言っています-Neurology 2014;83:475-6。金沢医大は存在を主張しています-Neurology 2014;83:475-ELISAによる抗MOG抗体測定は無意味ですが) 2例(4%)では抗AQP4、抗MOG抗体の両者が陽性。最近、スペインのDalmauらもdouble positiveを報告しています。5例(10%)はseronegative。
    64例のMS患者では5例(8%)で抗GlyR抗体が見出されていますが、この抗体の意義は今後の課題。
  2. 水洗トイレの進化形 
    TOTOってすごい!ちなみに、米国のロックグループが来日した際に、トイレでこのロゴを見て、これは有名な言葉に違いない、と自分たちのグループ名をTOTOに変えたことがあります。現在は世界的なグループ。  
    さて、お尻を洗う水は線状ではなくて小さな水玉の連続で、しかも大小2種から構成されています。どうして、欧米ではこのタイプが普及しないのでしょう?ビデはありますが・・・  妻は夫が立って排尿をすることで、トイレの周辺を汚染することに腹を立てる、ということは日本では多いようで、最近では座って排尿する若者が増えているそうです。TOTOは考えました。飛び散らなきゃいい!便座の蓋を開けますと、泡が出てきます。尿をソフトに受け止め、はねないんだそうな。
  3. NEDAのClinical practiceへの応用 
    NEDA (no evident disease activity) が治験の評価として注目されています。治験だけでなく、実地診療でどのように応用してゆくのかが今後の課題でしょう (Neurology Today 2014;14(21))。  
    Prof Glovannoni G (Dept Neurology, Queen Mary Univ of London) は、我々はthe activity of the diseaseの全てを知ってはいないと言い、実地診療で各々の患者で行っている治療効果について判定する場合、単一のT2病変の出現だけで充分な効果が得られていないとは判断しないが、実地診療でNEDAの評価基準は、2個以上のT2病変の出現あるいは1個以上の造影病変が見出されたら、治療方針を変更する、と。  
    また、Dr. Naismith RはMRIでの脳萎縮もNEDAの評価項目に入れるべきだと主張していますが、外来で日常的に利用できるような汎用アプリが存在していないことが最も大きな問題、と。  
    Prof Kappos L (chair of Neurology, Univ Hosp in Basel, Switzerland) はFingolimodのPhase 3 studyで後方視的に脳萎縮をNEDAに加えて評価。健康人での年間脳萎縮は-0.3%ですが、NEDA失格の基準を-0.4%に設定。脳萎縮を加えないで2年間のFTYのplaceboに対するNEDAの評価をしますと、31 vs 10%ですが、脳萎縮を加えると、20 vs 5%と差が大きくなる、と。
  4. 赤道上に宇宙エレベーターを設置すると宇宙船を飛ばせる!? 
    2016年度中に宇宙エレベーター計画に重要な実験が宇宙ステーションで始まるんだそうです。ケーブルを宇宙に伸ばして、その影響を見ることが目的。宇宙エレベーターというのは地表から10万キロ伸びるケーブルを設置して(地表近くは風の影響もありますが)、その先に結んだ宇宙船を切り離すと、地球の自転でハンマー投げの要領で宇宙船を飛ばせる、というもので、日本の企業が取り組んでいます(NHK E テレ「サイエンスゼロ」2015/1/10より)。でも、自転速度はそれほど速いわけではないので、走っているバスから物を落としたときのように、目標に向かって切り離すタイミングがとても難しいような気がします。斜め後方に向かうでしょうから。
  5. マツコとタモリの会話 
    スタジオに設置された飲み屋のカウンターの中には宮沢りえさんがいて、カウンターのお客側には他に2人いるのですが、ほとんどマツコ・デラックスとタモリの対談。この二人、やっぱり面白い。都内の地名から、どんどん由緒ある、歴史的な名称がなくなっていくことに激怒していました。特に、港区がひどい、とマツコさん。 渋谷の再開発で駅周辺が大変なことになってる。完成すると駅前のビルも変わるから、分かんなくなるかも(マツコ) 東横の壁が少し曲がってるのは、渋谷川に沿って建てたから(タモリ) 今、地下を流れてる渋谷川(とっくに地表からは姿を消してます)の流れを変える、大変な工事を地下でしてんのよ(マツコ) 都市の入り口は海からなんだよ。空港だと思っているヒトがいる。違う。空港は裏口(タモリ) 晴海に国立競技場を作ってたら、シドニーのオペラハウスみたいになったのに!(マツコ) (フジテレビ「ヨルタモリ」2015/1/18放映より)
  6. VZV脳幹脳炎後に抗NMDAR抗体が誘発されて脳症が起こりうるか? 
    ドイツから挑戦的な症例報告が発表されました(Neurology 2014;83:2309-11)。76歳女性が声帯麻痺や外眼筋麻痺、半側感覚低下などを呈し、CSFではpleocytosisや蛋白増加、OCB陽性、PCRでVZV virus genome検出され、VZV脳幹脳炎と診断されてhalf dose steroid pulseやacyclovirなどが投与されました。最初のCSFでも抗NMDAR抗体がEuroimmun kitで測定されていて、CSF/serum titerが1以下だったためにCNS内での抗体産生はないと判断され、抗NMDAR抗体の関与は否定されました。ところが、数日後に、幻視や高次機能障害が出現。脳炎発症時に既に抗NMDAR抗体は血中で16000倍、CSFでは16倍認められていましたが、脳症発症時ではspinal tapしていないようで、CNS内で抗体産生がこの時点で認められるようになったかどうかは不明です。血清の抗体価が高すぎることが気になります。この経過で脳炎がきっかけで抗NMDAR抗体が産生されるようになったと言えるでしょうか?大変疑問です。  
    従来、HSV脳炎の再発例の中にはウイルスの再活性化以外に、CNSに対するリンパ球の反応が起きてADEMのtriggerになった、という病態の可能性が指摘されてきましたが、本例では経過が異なっていて、脳炎から脳症への経過はほぼ連続しています。基本的に、一連の病態と考えるべきではないでしょうか?血中の抗NMDAR抗体価が高すぎることからも、通常の抗NMDAR抗体関連脳炎ではなく、全体像はVZV脳炎なのではないのか、と筆者は考えます。
  7. seronegative NMOの21%で抗MOG抗体陽性 
    CBA assayによる抗MOG抗体が16/76例で見出されたことが、日本とブラジル人患者の調査から報告されました(Neurology 2014;82:474-81)。抗MOG抗体陽性患者の特徴は、女性優位ではなく、下部胸髄から円錐までの病変の存在、運動や視覚機能の回復が抗AQP4抗体陽性患者より良好。Oxfordからの9例の抗MOG抗体陽性患者の特徴も同様で、女性に多いというNMO一般の特徴はなく、再発後の回復は良好(JAMA Neurol 2014;71:276-83)。
  8. 「上手な夫の殺し方」(松井ひろみ 圭文社) 
    2005年にこんな本が出ています。13人の妻たちの華麗な夫殺しを描いているようです。ネットで調べていましたら、殺したい夫がいたら、毒きのこが一番、という書き込みを発見。毒の強さのランキングまでありました。カエンダケはまず助からないそうですし、ドクツルタケはほぼ死に、フクロツルダケ、ニセクロハツなどは多分死ぬそうです。気持ち悪くなるかも程度まで7段階。夫だけではありませんが、ちょっと怖いです。当院では1998年に「アジ化ナトリウム混入事件」がありましたしねえ・・・
  9. 抗MOG抗体はNMOのバイオマーカー? 
    奇妙な議論が進められています。オリゴやミエリンに発現しているMOGに対する抗体(つまりはmyelinopathyやoligodendrocytopathyの原因)がastrocytopathyを主体とするseronegative NMOの原因に?MSとNMOを区別する理由がなくなります。治療法は違いますけどね。病態の異なる疾患を病変分布の同一性で一括りにする非科学性を批判しました (MS Frontier, in press)。つまり、「多発筋炎と封入体筋炎を区別しないようなものである。」
    視神経と脊髄とに炎症性病変が好発しうる疾患(optic-spinal autoimmune disorder)としては、以下のような分類になると思われる。
    1. Myelinopathy/ologodendrocytopathy
    1). 多発性硬化症
    2). 抗MOG抗体症候群 (視神経炎、脊髄炎、ADEM, 小児MS、Devic病など、発現する病型が多彩なので、抗リン脂質抗体と同様に扱っておくべきと考える)
    2. Astrocytopathy
    3). 視神経脊髄炎 (抗AQP4抗体陽性、陰性であっても否定できない)
  10. 現代の日本庭園デザイナーは禅宗の住職 
    横浜市の建功寺住職の枡野俊明さんは国際的な庭園デザイナーで、世界各地で75以上を手がけているそうです。自然の移り変わりの中に自分自身を見出すんだそうな。自然に手を加えることにより、自然を生かす、地ごころを出すんだそうな。仏教で言う、共生(ともいき)の心。土建屋さん関係の方が庭園デザイナーの中心なのかと思いましたが、禅宗はさすが、デス。「山水に得失なし。得失は人の心にあり」(夢窓国師)なんです、と。(NHK Eテレ 「こころの時代」 2015年1月10日より) なんとなくでしか理解できず、情けないことですが、わからへん。
  11. CopaxonでもPML? 
    詳細は不明ですが、Glatiramer acetateでもIFNβ1a (Rebif) 併用中の46歳女性がGA治療開始3年後に新規の症状を呈し、JCウイルス感染症と診断され、そのときの脳MRIで複数の新規病変が認められたそうです。PMLという名称はまだ出ていないようです(後で、やっぱ、MSの再発やってん,なんていう訂正が入りうるのでしょうか?)。なにぶん、まだ自発報告なので詳細は不明です(MRI情報は担当ナースからだそうですし・・・)。PMLだとしますと、MS治療薬としては、Natalizumab (もはや500例), Rituximab (MSは治験だけなので少数例の投与例しかありませんが、MS以外で40例以上), Fingolimod (1例), フマル酸 (MSでは1例のみですが、乾癬では数例)に次ぐ薬剤になってしまいます。米国でRebifを併用していたBG-12治療患者さんもPMLという記載はありませんが、再発ではなくてJCV感染症という診断が付いた、脳MRIで多発性病変が形成された神経症状増悪の自発報告が出ています。もう、なんでも出てくるんかなあ・・・