2015年2月号 NO.4

  1. 2014 AANから
  2. “SHRラット”の息子さんから伺ったカスピ海ヨーグルト
  3. 2014 ECTRIMS/ACTRIMS合同会議から
  4. 2015年箱根駅伝
  5. Acute flaccid myelitis in US children
  1. 2014 AANから  
    以前、ご紹介(Clin Exp Neuroimmunol 2014;5:391-9)していない領域から・・・  
    フマル酸のPhase 2bであるplacebo対照のDEFINE studyで、DMF 240 mg2回投与(BID 769例)と3回投与(TID 823例)で白血球数とリンパ球数は、平均でそれぞれ11%と30%だけ減少。1回でもCommon Terminology Criteriaでgrade 3 (500-200/mm3)あるいはgrade 4 (200/mm3以下)に該当した患者は、3% (BID)、1%(TID)でした。これらの患者さんでの現象は48週までに認められ、その後安定(P3-179)。この報告は以下の報告とは別物 (Longbrake & Cross Mult Scler, in press)。
    Fingolimodの効果はBody mass index (BMI)に依存しない、という報告が出ています(P7.223)。446例を対象とした前方視的研究。BMIとリンパ球数、CD4陽性細胞数、naïveおよびeffector memory T cells数とBMIは相関しないという結果。Fingolimodは吸収後にリン酸化されてactive formになりますから、当然、体の大きさにはある程度依存するとは思いますが、でも、なぜBMI? BMIって肥満のscoreじゃないですか?Mitoxantroneなど抗癌剤の投与では、通常、体表面積ですね。BMIって、なんとなくワイドショー的で非科学的な印象がありますね。
    PML riskなどのためにnatalizumabを中止した患者80例についてfingolimodへのswitch例35例の効果を検討(P7.206)。これらの患者では少なくとも3ヶ月間のwashout期間を設置。FTY投与した11/34 (31.4%)、monthly steroid pulseやIFNβ、Copaxonなど他の治療でも18/44 (40.9%)で再発が認められています。再発例の体重などは不明ですが、当たり前とも言えます。きめ細かい治療が必要で、全員に同一の治療は危険だと思います (この根拠については、近日中に報告します)。  
    FingolimodなどのDMTのadherenceについて、米国患者3750例 (FTY 889例、any IFN 1341例、GA 1233例、NTZ 287例) を対象に検討した結果では、中断率はFTYが最も低く、他はほとんど同じで、中止リスクは1.5から2倍と高い(HR 1.53から2.01で全ての治療に対して、p < 0.001)ことが判明しました。  
    小児MS患者さんへのIFNβ1aを対照薬とするfingolimodの二重盲験試験が計画されています(P2.238)。FTYは胸腺からのreleaseへの影響も想定されていて、小児への投与は慎重に考えられてきました。対象は10-18歳以下で、190例を対象とした24ヶ月間の試験 (PARADIGMS study)。体重40 kg以上では成人と同じ0.5 mgを投与し、40 kgおよびそれ以下では0.25 mg/dayを投与する計画。  
    Fingolimodでの新たな有害事象の報告がありました。39歳(P3.118)と47歳(P2.224)女性。それぞれ治療開始5ヶ月、4週後にrecurrent thunderclap headacheが出現。血管撮影で診断。FTYの脳血管への作用(S1P3)によりvasoconstrictionを起こしたため。vasospasmに対してnimodipineが2例目では投与され、その後tapering offされています。薬剤再開は無理ですね。  
    Fingolimod投与患者でのhemophagocytic lymphohistiocytosis syndromeによる39歳男性の死亡例がポルトガルから報告されました(P2.206)。国内例と世界で2例存在していることになります。治療開始16ヶ月後、夜間発汗過多で病院を受診し、2日後には発熱と黄疸を呈し、肝腫大と下肢のerythematous skin lesionsが認められています。EBV既感染パターンで、血清フェリチンは14.364 ng/mLと高値、中性脂肪は693、β-microglobulinは10.336 μg/L。骨髄穿刺では未熟細胞が25%を占め、CD4/8比は逆転し、NK細胞増多。HLHは骨と肝生検でextensive phagocytosis of hematopoietic cellsが認められ診断されています。EBVのreplicationが血液と肝でPCRで認められました。  
    Fingolimod治療後は生ワクチンが禁忌なので、FTY投与少なくとも1ヶ月前にVZVワクチン接種を抗体陰性例では投与しますが、有効率は70% (P7.217)。  
    B細胞を標的としたanti-CD20治療としてataciceptの治験をMSで行ったら、かえって再発が増加したという報告(Lancet Neurol 2014;13:353-63)があり、B細胞の中に免疫制御作用を持った細胞 (Breg) の存在がヒトでも示唆されました。MOG35-55をC57B6Lに免疫した作製するEAEモデルでanti-CD20によりCNS内でのTreg 細胞自身が減少し、結果としてmicrogliaが活性化されEAEが増悪した、という報告が出ています(P1.163)。
  2. “SHRラット”の息子さんから伺ったカスピ海ヨーグルト 
    意外に、世の中狭いものデス。30-40代の子持ちの人妻集団から呼ばれて、忘年会へ行って参りました。同席していたのは歯科医師の方で、週1回、歯科外来をお願いしている京大の先生ですが、人事異動もあっていらしていました。  
    名刺をいただいて、ん?あのヤモリラットの先生とご関係の方ですか?とお聞きしましたら、なんと、息子さんでした。現在は市立長浜病院口腔外科へ出張中。家森先生(父)が樹立されたラットは、公式にはSpontaneous hypertensive rat (SHR)と呼ばれ、strokeモデルとして有名ですが、免疫異常もあることから免疫学の領域でも昔から有名。以前から京大で継代されています。武田薬品も昔から関与しています。家森先生(父)は島根医大の教授の後、現在は80歳近いですが、武庫川女子大に勤務されていらっしゃるそうです。  
    会話のほとんどはカスピ海ヨーグルトに関して。家森先生は寿命の長い地域を国際的に調査する過程でカスピ海周辺を発見し、ヨーグルト摂取が重要と考えられたため、タネを持ち帰ったのですね。「カスピ海ヨーグルト」として市販されている商品の中には1種類しか菌が入っていないため、自宅で継代はできません。継代するには2種類の菌が必要で、誰かから分けてもらうしかないのですが、国内の一般家庭で維持されているカスピ海ヨーグルト菌は家森先生が持ち帰った菌の子孫なんだそうな。「うちのかみさん」も維持していますが、培養と同じく意外に世話が面倒で、1週間も外国出張などで不在する場合は、筆者は3種類の濃度で継代したりしていました。希釈の際に、薄くなったり、濃くなったりで菌の繁殖力が低下して、国内のあちこちで消失してしまっている可能性があります。それども、現在まで絶滅していないことは大変なこと。
  3. 2014 ECTRIMS/ACTRIMS合同会議から   
    IFNβやCopaxon治療でも疾患活動性をコントロール不充分なbreakthrough disease患者792例のMS患者に対して、natalizumab (407例)あるいはfingolimod (171例)へescalation therapyを行った患者のそれぞれの治療効果を検討した結果、non-matchedではありますが、平均12ヶ月観察して、それぞれ年間再発率は1.5から0.2と1.3から0.4へ軽減 (P288)。  
    米国MS患者9546例での内服剤である、fingolimod (1390例)とフマル酸 (BG-12)(8156例)との治療継続率について、処方箋の記録を後方視的に調べる方法で比較したところ、治療中断率はそれぞれ23.3%と36.6%でフマル酸の方で中断率が高いことが判明 (HR 1.58, 95%CI 1.41-1.77, p < 0.0001)。また、中断までの時間もFTYの方が長いことが解りました (p < 0.0001)(P289)。解析対象数に拘ったためか、処方箋の解析なので中断理由は不明ですが、flushingや下痢・嘔吐といった消化器症状なんでしょうか?  
    Natalizumabから他剤へswitchする際のwashout期間について、NTZ中断66例について検討(P859)。6例は妊娠のため、60例はPML riskの為に中断。58例は3ヶ月間のwashoutをおき、50例はfingolimodへ6例はIFNβへ、2例はcyclophosphamideへswitch。2例は無治療のママ。NTZ中止4-6ヶ月後までに、再発あるいは脳MRIで病変が新たに見いだされた患者は、IFNβ群とcyclophosphamide群では100%に認められ、fingolimod群では44% (22/50例)で認められました。この結果から、3ヶ月間のwashoutは危険なので、できるだけ避けるべきであると結論付けられました。妊娠希望例は3例が軽度の再発をきたしたのみで、妊娠による疾患活動性への抑制効果が疾患活動性の高い患者でも改めて証明されました。  
    Fingolimodが発売されて2014年2月末までに91500例以上(少なくとも135800 patient-years: PY)に投与されました。2013年に0.5 mg内服患者でVZV virus感染症による死亡例が認められています。播種性herpes zoster (HZ)はなく、VZV感染症は7.2/1000 PY。Complicated HZは0.3/1000 PYと推定されました(P862)。
    Fingolimod治療により末梢血中CD39+Treg (J Immunol 2009;183:7602-10)の割合が増加することが示され、FTYの新しい作用機序の可能性が示唆されました(P962)。
  4. 2015年箱根駅伝 
    関東学連主催なので関東地方の大学しか参加できない地方の陸上競技大会ですが(New Engl J Medなんか、たかがマサセーセッツ州の「田舎」の医学会の発行やんか、みたいな?)、日本テレビが生中継していることや記録ホルダーの高校生がこの大会の常連校に全国から集まるようになって、人気も次第に全国化しつつあるようです。それゆえ、少子化の時代、大学の生き残り対策の上からも、大学は栄養士付きの寮を完備したり、監督をサポートするコーチ陣も契約したり、トラックを作ったりして力を入れています。また、将来の男子マラソンを担う逸材の宝庫としても知られるようになってきたため、日本陸連も熱い視線を注いでいることでしょう。  
    さて、今年の順位は、①青学大、②駒大、③東洋大、④明大、⑤早大、⑥東海大、⑦城西大、⑧中央学院大、⑨山梨学院大、⑩大東文化大、などでした(10位までが来年の出場権-シード権-を獲得したチームで残りの10チームは来年、予選会から勝ち上がらねばなりません)。往路、復路とも総合優勝した青山学院大は10時間49分27秒という驚異的な記録で、2位に10分以上の差をつけ、初めて50分の壁を破りました。青学大は「ワクワク大作戦」と呼んだ原監督の言葉通りに、選手たちは走ることが楽しくて仕方なかったと走った後でも言い、区間賞を獲得する姿には悲壮感はなく、革命的。原監督は2014年夏から体幹トレーニングなど新しい技術を積極的に取り入れています。1000本ノックなどの「根性」増強しか練習メニューにはない、古めかしい非科学的な野球監督との違いが明白です。プロに入ってから肩を壊して野球人生の後半を失ってしまう選手が後を絶ちませんが、それでも、プロ野球選手を育てることが我々の仕事ではない、大リーグのような投球数制限や投球日数の間隔の管理などはもってのほかだと公言してはばからない、大学野球監督さえまだいます(アホか!確かに、アマチュア野球はプロの予備校じゃないけれど、あんたのために選手たちの人生を犠牲にして良いはずはない!)。  
    今井正人(順天堂大)、柏原竜二(東洋大)に次ぐ新しい「山の神」、神野大地(青学大)も登場し、往路最後の箱根を登る5区が全体の勝利に影響する、という最近の箱根駅伝の構造を改めて明らかにする結果となりました。自身も箱根を走った、酒井政人さんの「箱根駅伝 襷をつなぐドラマ」で5区の比重が重すぎるので、4区と調整して距離を短くするべき、と提案しています。  
    エースがかろうじて在学中の大学はなんとしてでも今回にかけています。能力のある高校生の集め方だけでなく、無名の選手でも大学で育てる体制の有無など、大学によって差があるため、今回シード権を獲得した10位までの大学はそれぞれに訳があり、当分、これらの大学の時代が続くようです。逆に言えば、たまたま勝てるような時代ではない、という当然の結果でもあるようです。ケニアからの留学生抜きで勝てた山梨学院関係者は大喜びでしょう。それだけ、日本人学生が留学生に引っ張られてレベルアップしたということでしょう。酒井さんは日本大学までもが留学生を、しかも助っ人扱いで入学させたことに納得されてはいないようです。いくら宣伝のためとはいえ、大学の名前からも純国産で頑張るべきでしょうねえ。
  5. Acute flaccid myelitis in US children
    カリフォルニアやコロラド州で数十例が報告されています(Neurology Today 2014;14 (21))。2012年6月以降見出されたカリフォルニアでの35例は2014年AANで報告され、”acute flaccid paralysis with anterior myelitis”としてMMWR (Oct 10, 2014)でも掲載されましたが、その後、必ずしもanteriorとは限らないとして、単に” acute flaccid paralysis”と修正されました。今夏、米国で全国的に流行した呼吸器疾患を呈した、enterovirus 68との関連も示唆されていますが、話題になっている、polio-like myelitis患者でenterovirus 68との関連の証拠はありません。   
    CDCは10月15日までに全米16週で37例の存在を確認し(カリフォルニア州のかなりの患者は除外されているのでしょうか?)、CDCは2014年9月26日に4項目の定義を発表しました。感覚障害は通常なし。
    1). 21歳以上ではない
    2). focal limb weakness (1上肢の筋力低下など) で急性に発症。
    3). 脊髄病変の主体は灰白質に限局
    4). 2014年8月1日以降に発症  
    関連論文として、Pediatr Neurol 1995;13:263-5; Roum Arch Microbiol Immunol 2009;68:20-6; Arch Pathol Lab Med 2011;135:793-6; JAMA Neurol 2014;71:624-9; MMWR 2014;63:903-6.