2015年2月号 NO.2

  1. SGLT2阻害薬はダイエット治療になり得る?
  2. Famous words of 2014 Nobel Lecture by Malala Satyarthi
  3. マララのノーベル賞受賞講演の結びの言葉
  4. NTZ治療からFTYへswitch後に再発や脳MRIで病変が出現 (“rebound”)
  5. 22例のイタリア人で抗JCV抗体陽性のためにNTZからFTYへswitchした結果
  6. NTZからFTYへswitchするまでのwash out期間の提案
  7. NatalizumabからFingolimodへswitchする際の再発のリスク
  8. 変死体検査の実態
  9. BENEFIT studyの治験開始11年後
  10. Mitoxantroneの立ち位置
  11. 紀伊國屋書店HPの本棚から
  12. トリインフルエンザ
  1. SGLT2阻害薬はダイエット治療になり得る? 
    新しい糖尿病薬で、尿に糖を排出する薬剤で、肥満を伴う患者の体重をコントロールすることを目的に開発されました。血糖はそれほど下げないそうなので、やせ薬として利用できる可能性があります!メーカーさんの説明会で質問しましたら、困っていましたが・・・
  2. Famous words of 2014 Nobel Lecture by Malala Satyarthi
    “Why is it that countries which we call strong" are so powerful in creating wars but are so weak in bringing peace?
    Why is it that giving guns is so easy but giving books is so hard?
    Why is it, why is it that making tanks is so easy, but building schools is so hard?” (http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/peace/laureates/2014/yousafzai-lecture_en.html)
  3. マララのノーベル賞受賞講演の結びの言葉 は、”Let this be the last time that”で始まる一連の言葉が続きます。
    空っぽの教室、失われた子ども時代、生かされなかった可能性、これらを私たちで終わりにしましょう
    少年や少女が子ども時代を工場で過ごすのは、終わりにしましょう
    少女が児童婚を強いられるのは終わりにしましょう
    純真な子どもが戦争で命を落とすのは終わりにしましょう
    子どもが学校に行けない状況は終わりにしましょう
    終わりにすることを始めましょう。私たちで終わりにしましょう
  4. NTZ治療からFTYへswitch後に再発や脳MRIで病変が出現 (“rebound”) 
    多くの報告があります(Neurology 2008;70:1150-1; Arch Neurol 2011;68:186-91; Neurology 2012;78:928-30; Neurology 2012;79:2004-5; Neurology 2012;79:2000-3)。しかし、これは、NTZからFTY開始するまでに3-6ヶ月のwash out期間を設けることと(Ann Neurol 2006;59:743-7)、体重によってはwash out期間中に血中濃度が低下することとも関連しているでしょうし、FTY治療開始2ヶ月後の定常状態に達する頃にCNS炎症病変が抑制される(N Engl J Med 2006;355:1124-40; Clin Pharmacokinet 2012;51:15-28)ことと関連していると思われます。対象患者によっては、脳MRIでreboundが認められない(Neurology 2009;72:396-401; Neurology 2011;76:1858-65)ことも当然あり得ることになりますね。
  5. 22例のイタリア人で抗JCV抗体陽性のためにNTZからFTYへswitchした結果 が報告されています(Mult Scler 2012;18:1640-3)。27%でmildとはいえ再発が認められ、50%で再発あるいは脳MRI activityが認められています。
  6. NTZからFTYへswitchするまでのwash out期間の提案
    3-6ヶ月 (Front Neurol 2013;4:10; Expert Rev Neurother 2011;11:165-83)
    最低3ヶ月 (イタリア)
    8週間 (オーストラリア)
    2ヶ月以内 (Mult Scler 2013;19:1248; Neurology 2014;82:1204-11)
  7. NatalizumabからFingolimodへswitchする際の再発のリスク  
    FTYから治療を開始した97例、IFNβ/GAからFTYへswitchした350例、NTZからFTYへswitchした89例について検討した国際共同研究で(Neurology 2014;82:1204-11)、オーストラリア、スペイン、カナダ、イタリア、カナダ、米国など10ヶ国。EDSSはNTZからのグループが最もscoreが高く、FTY開始前のARRは未治療群、IFNβ/GA群、NTZ群の順。その結果、
    1). 著者らの結論としては、他の群に比してNTZからの移行群でもARRは概ね抑制されていて、必ずしも増悪していない、というものですが、図を見ますと、FTY治療前は高かった2群では治療前より再発していないのに、NTZからの移行群では他の2群の患者さんたちよりやや再発が目立つのは(それでもARRは0.1ですけどね)、NTZ治療するくらいですから、もともと活動性が高いためかもしれません。
    2). FTY治療開始後に最初に再発するまでの期間は、FTY開始までの6ヶ月間の再発数と関連(HR 1.50 per relapse, 95%CI 1.19-2.13, p = 0.002)。
    3). FTY治療後の再発リスクを抑えるにはNTZからFTYへswitchする際のwash out期間は最大2ヶ月以内にするべき。2-4ヶ月の gapでのHRは2.12 (95%CI: 1.04-4.32, p = 0.040)できたらgapを入れない方が良い、と考えているようです。UCSFのDr Creeもそうですね。  
    Dr Cree並のがたいの良い患者さんですと、8週間でも再発すると思いますが、再発した患者さんたちの特徴の解析の報告は、まだないようです。
  8. 変死体検査の実態 
    警察庁は2013年度の都道府県別変死体薬毒物検査実施率を公表しました。全国平均は37.5%で、東京都は8290/20480体(40.5%)で、概ねこのレベル。専門家の有無などの条件も関わるとはいえ、5.5から97.8%と開きがあることは、治安上問題でしょう。毎日新聞(2015/1/7)が伝えた、上位と下位のベスト5は・・・
     都道府県  1年間の実施検体数/対象検体数  実施率
     鳥取   836/855  97.8%
     静岡 4051/4186   4051/4186  
     山口 93.3   2040/2187  
     徳島 941/1011 93.1  徳島 941/1011 93.1  
     山梨 1171/1265 92.6  山梨 1171/1265 92.6  
     福井 129/994 13.0%  福井 129/994 13.0%  
     大阪 1228/12769 9.6  大阪 1228/12769 9.6  
     香川 131/1470 8.9  香川 131/1470 8.9  
     高知 881/1317 6.7  高知 881/1317 6.7  
     神奈川 692/12632 5.5  神奈川 692/12632 5.5  
    調べたら毒殺事件に遺族が関与していた、という事例が結構あるんだそうで、殺人事件が放置されている現実があるようなのです。国勢調査での人口は大阪と神奈川とでほぼ同じなので、対象検体数がほぼ同じなのは当然かもしれませんが、大阪での実施率がより低いことに注目が集まることは仕方ない?(大阪ですから!)東京都の7割の人口の神奈川県の検体数は人口に見合っていますが、どうしてこんなに実施率が低いのでしょう?日本の中心に近いのに!
  9. BENEFIT studyの治験開始11年後 
    CISを対象にIFNβ1bのearlyとdelayed治療の長期経過後を比較した報告が2014年のANAに出されています(Ann Neurol 2014;76 S18;S111-2)。278例の解析(early 167例、delayed 111例)では、CDMSへconvertしたのはearlyで65.2%、delayedで75.0%でした。意外に差が少ないことに驚きました。CISの治験ではCIS発症時にさまざまな脳MRI所見を呈していて、そもそもMSへconvertするriskの高い患者さんが選択されていましたが、2年程度治療が遅れても(治験期間中に既にCDMSへdelayed群ではある程度移行しているでしょうから)極端な差はないのかな、という感じがします。それと、IFNβ1b治療では11年も経過すると最初から投与されていた群でも、2/3はMSを発症していることは残念な気がします。
  10. Mitoxantroneの立ち位置 
    組織の中で自分の立ち位置は相対的に判るものですが、この薬剤ではどうでしょうか?MSでもNMOでも、数多くの治療法が開発されつつあります。ただ、大変残念なことに、NMO患者さんにMSでの再発予防薬(特に、FingolimodやNatalizumab)を投与すると再発を誘発するような現象が認められます。NMOの可能性が少しでも高い場合、あるいは否定できない場合はNMOの治療から始めるべきだ、というProf. Wingerchukの意見(Clin Exp Neuroimmunol 2014;5:391-9)に賛成です。ほぼ同じ時期に同じ結論に達したことは心強いです。  
    MITXは欧州でMSに対して使用されてきました。著者らはNMO日本人患者さんに投与しました(臨床神経, 47:401-406, 2007; 神経内科, 67:309-310, 2007; BRAIN and NERVE: 神経研究の進歩2009;61(5):575-80.; 臨床神経 2011;51:703-5)。合計で35例ほどに導入したと思います。以上から言えることは、MSでもNMOでも治療に利用できる、ということです。鑑別が困難な場合には便利ではあります。ただ、骨髄抑制が強いので(特にパルスを頻回に行って骨髄に負担をかけてきた患者さんでは要注意)、用量をtaperingする必要がありますし、心不全のリスクを避けるために、総投与量の管理が必要です。筆者は合計で70 mg/cm2を目途にしていました。白血病に対する薬剤ですが、有害事象として急性白血病が出現します。MITX自体ではなくて、骨髄抑制による白血球数減少に対して反復投与するG-CSF投与がリスクではないか、という意見もあります。筆者はできるだけG-CSFを使わないようにしてきました。つまり、危険なほどに骨髄を痛めないように、という意味。ただ、初回投与だけは反応が判りません。抑制の程度も回復の速度も。その上、MITXの治療効果の切れはそれほどでもありません。効果が出るまでに時間がかかります。
  11. 紀伊國屋書店HPの本棚から  
    「京都と医療と人権と」という本棚を「公開」していますが・・・ 「富山ふしぎ探訪」 「富山湾で獲れるホタルイカは全部メス」(絶滅しないのでしょうか?)「越中に幕府が置かれたことがある」(いつの時代?室町幕府?) 「2代目のゴジラ造形者は彫刻の町・井波の出身」など、80もの富山ネタ満載だそうです。
    「オペラ座のお仕事」 東京の新国立劇場の合唱団は、設立17年という浅い歴史しかないにも関わらず、世界的な集団に成長。それを育てた指揮者によるオペラ公演の裏話。評者はオームで有名になった、ジャーナリストの江川紹子さん。
    「ミセス」の時代 1961年に創刊された婦人誌の今井編集長の人生と重ねながら、知的な雑誌を育てた背景を描いているそうですが、戦争から平和への時代の変化から遠ざかり、この雑誌の消長は「戦後レジームからの脱却」をも象徴しているのかもしれません。
    「子供に貧困を押しつける国・日本」 子供の貧困率が今や過去最悪の16.3%、325万人が貧困にさらされているそうで、18歳未満の6人に1人が平均的所得の半分を下回る世帯で暮らしているそうです。道の駅の駐車場に車を駐め、コンビニで廃棄される弁当を拾って食べるという、車上生活を親とともに強いられ、学校に行けない子供たちがTVでも紹介されています。行政も学校も介入のきっかけをつかめないでいます。 さらに、「貧困=お金がない」という連想が貧困の理解の妨げにもなっているそうな。経済的困窮が児童虐待などを生んでいるとも指摘しているそうであります。
  12. トリインフルエンザ 
    京都産業大学・大槻公一客員教授がテレビで説明していました。トリとヒトとでは、インフルエンザの受容体が異なるので、通常は感染はしないのですが、トリインフルエンザウイルスが突然変異をしたり、ブタの体内でトリとヒトのウイルスが合体して、ヒトへの感染性を獲得することがあることは周知の通り。
    1). 生卵へはウイルスは移行しないので安全。
    2). むしろ、生の鶏肉は危険なので、生肉を食べることはないでしょうが、調理人が危険。
    3). トリインフルエンザの流行時期は12月から黄金週間のころまで。結構長いですね。
    4). イヌ、ネコはトリインフルエンザウイルスに感染し易いので、イヌの散歩の際にはトリの糞には近づかせないことが大切だし、ネコをこの時期に外へ出さないようにするべきだそうでありますよ。(TBS系列「朝ちゃん」2014年12月17日放映より)