2015年2月号 NO.1

  1. MRI造影剤によるNSF
  2. NSF risk factors 3
  3. MRI造影剤は歯状核に蓄積する!
  4. 今年はドローン(Drone)元年
  5. Natalizumab血中濃度に関する基礎的データ
  6. Natalizumab Extended Dosing Study: Retrospective Multicenter Analysis
  7. ロシア政治のトップは交互に禿げ
  8. MS治験の新しい指標、NEDA
  9. 「格差と民主主義」
  10. 「ピケティ『21世紀の資本』の読み方入門」
  11. 外国人医療労働者問題・・・?
  1. MRI造影剤によるNSF 
    従来、重度の腎機能低下患者ではMRI造影剤による腎性全身性線維症(nephrogenic systemic fibrosis: NSF)という有害事象が出現することが知られていました。NSFは国内で20例ほどが報告されているようですが、軽症例は見逃されている可能性があります。一方で、造影剤の使用頻度の高いMS患者さんに対して、欧米のように造影病変の検出率を上げる目的で3A注射するというようなことは国内では行われていないことも、国内の神経内科領域では注目されてこなかった理由かもしれません。NSFは四肢や体幹に左右対称性に出現する皮膚の腫脹や硬化、疼痛などで発症し、進行すると四肢関節の拘縮を呈すると言われています。繊維化は皮下組織や横紋筋だけでなく、横隔膜や胸膜、心膜、心筋にも出現して死亡する危険性もあります。治療法はありません。造影剤の種類によりリスクが異なるとされ、Ominiscanで最も報告が多く、腎機能障害あるいは透析患者でのNSF発症率は5%以下とされています。次いで、Magnevistの報告が多く、ProHanceやMagnescopeによる報告はほとんどないそうな。欧州のEMAは2010年7月1日に勧告を発表しています。造影剤のリスクを3群に分け、
    High risk      Ominiscan, Magnevist, OptiMARK
    Medium risk    Vasovist, Primovist, MutiHance
    Low risk      Dotarem, ProHance, Gadovist  
    造影剤は4種類に分類されています。
       Macrocyclic Open-Chain (Linear) 
     Ionic  Dotarem  Magnevist, MutiHance
    Primovist, Vasovist
     Non-ionic  ProHance, Gadovist  Ominiscan, OptiMARK
    (J Mag Res Imag 2009;30:1249-58)  
    キレートが直線構造の造影剤は、環状構造の造影剤に比べて、安定度が明らかに低い特徴が指摘されています。(対馬義人, 2010年第40回日本腎臓学会西部学術大会ランチョンセミナーレポートより)
  2. NSF risk factors はほぼ確立していて、
    1). 腎機能障害の存在 透析患者、特に腹膜透析 CKD4-5 (eGFR < 30) 急性腎不全
    2). ガドリニウム造影剤の大量投与あるいは累積投与量過多
    3). 高Ca血症
    4). 高リン(リン酸)血症
    5). エリスロポエチンの投与
    6). 活動性炎症性疾患、外科手術などの組織傷害、動静脈血栓症などの存在
    7). 臓器移植待機患者
    8). 腎臓の生合成機能(biosynthetic renal function)の障害
  3. MRI造影剤は歯状核に蓄積する! 
    一方、NSF以外に、最近、腎機能障害がなくても歯状核に造影剤が残存する、という衝撃的な報告が帝京大学放射線科から発表されました (Radiology 2014;270:834-41)。歯状核と橋の比は、造影剤の投与回数と相関しています (95%CI 0.009-0.011, p < 0.001)。従来から、造影剤を反復して使用する機会の多い、多発性硬化症患者では単純脳MRIのT1強調画像で歯状核が高信号を呈することが知られていました(Radiology 2009;251:503-10)。イタリアから報告されたこの論文では、23/119 (19.3%) で歯状核が高信号になっていることが示されました。無症状なので、ほとんど注目されては来ませんでしたが、小脳からの出力経路の主要な経路にGdが蓄積してゆくことでも何の障害も予想されないと断言することはできません。骨での蓄積についても造影剤によって異なることが神戸大学から報告されています (S343, 第73回日本医学放射線学会総会2014年4月10-13日)。骨腫瘍患者に造影剤を投与して手術で摘出した骨に含まれるガドリニウムを測定しますと、625.2 ± 374.5 ng Gd/g for Gd-DTPA-BMA (Ominiscan) group vs 86.81 ± 7.8 ng Gd/g for Gd-DOTA (Dotarem) group. 長期的に骨に沈着したGdは何をすることになるのか・・・不安です。2015年1月から筆者はMRIの造影剤を、国際的には”DotaremⓇ”という商品名で知られているMagnescopeⓇ (マクロ環構造、イオン性化合物) に変更しました。
  4. 今年はドローン(Drone)元年 とも言えるほどの状況なんだそうですね。無人飛行型ロボットは地上数十センチの高さを滑るように飛びながら空撮可能なので、ドキュメンタリーなどで様々な映像を提供しています。米国ではアマゾンが自宅へ直接荷物を宅配するサービスを検討していますが、法的整備が遅れています。国内でも既に数千機が使用されているそうな (ITmedia 2014/12/26)。カメラ付きRCラジコン クアッドコプターは8000円でアマゾンでも入手できます。危険性に気づいた日本政府は、規制のため航空法の改正を急いでいます。一方、英国ではすでに民間の業務用に利用され始めています。ところが、2014年5月に民間旅客機の80フィート以内を意図的に飛行するクアッドコプターがパイロットにより目撃され、ロンドン・サウスエンド空港へ着陸しつつあった旅客機の右翼に高度450mの上空で衝突しそうになったことが英国民間航空局配下の異常接近調査委員会が発表しました(WIRED 2014/10/27)。パリの新聞社が襲撃され、12人が射殺されるという事件が2015年早々に起きましたが、すでに軍事利用もされているドローンがテロに利用される危険性も出てきました。速度が全く違うので旅客機の特にエンジンに意図的に衝突させることは難しいでしょうが、いくらでもテロの方法はあるでしょう。
  5. Natalizumab血中濃度に関する基礎的データ
    1). α4β1 integrin受容体飽和度が70%以上を示すのは、血中濃度が3μg/mL (Mult Scler 2004;10:511-20)
    2). NTZ 300 mg投与4週後、飽和度は75%以下に低下することはない (CNS Drug Reviews 2007;79-95)
    3). 血中濃度が1-2μg/mL以下では受容体は飽和しなくなる (Mult Scler 2004;10:511-20)
    4). NTZ 300 mg投与6-8週後、飽和度は70%以下に低下し (JAMA Neurol 2014:E1-8)
    5)、8-10週後には40%以下に低下する (Mult Scler 2004;10:511-20; Expert Rev Neurotherapeutics 2004;4:571-80)
    6). 日本での治験Phase 2で、実薬6ヶ月投与中止2ヶ月後、3 or 6 mg/kg投与で飽和度は35-80%
    7). 同じようにNTZ 300 mg投与しても、飽和度はBMIや体重で異なる (Foley at AAN 2013, 2014)  
    投与間隔を空ける、Extended Natalizumab Dosing Study (Extend Registry)が始まっています(P218 2014 ECTRIMS)。
  6. Natalizumab Extended Dosing Study: Retrospective Multicenter Analysis が米国から報告されています(P287 2014 ECTRIMS)。通常の28 ± 2日毎の投与674例と32-61日間隔で投与した684例を比較。期間が判りにくいのですが、投与回数がそれぞれ平均で24回と40回。
       Standard dose  Extended dosing
     ARR  0.14  0.12
     NEDA  62%  62%
    全く差はありませんでした。ほんまかいな?
    NEDA: no evidence of disease activity = no relapses, no brain MRI activity, no progressive disability
  7. ロシア政治のトップは交互に禿げ 
    プーチン/メドベージェフ/プーチン/エリツィン/ゴルバチョフ・・・なんと、1825年頃から交互に禿げ頭の政治家が権力を握っているんだそうな。他の国、特にJFK以降、テレビ映りを気にして、髪がふさふさの政治家が多いそうでありますよ。行き過ぎなのは中国で、「みんな、ふさふさ、黒々しかいないでしょ?」(福本容子)「そうですねえ・・・遠目にはまるでレゴブロックのような」(壇密)「国の文化っていうか、あるんでしょうねえ、中国人の指導者は真っ黒で、髪はふさふさで、ポマードでビラーっとしてなきゃいけない、という・・・」(私が思っているわけではありません-為念-久米宏さんの発言です)
    (BS日テレ「久米書店 ヨクわかる!話題の1冊」2015年1月4日放映より)
  8. MS治験の新しい指標、NEDA 
    ”no evident disease activity” (NEDA)のことで、”no relapses, no progression of disability which lasts more than three months, no gadolinium-enhanced (Gd+) lesions, and no new or enlarged T2 lesions on MRI”(Neurology Today 2014;14(21):26-30; http://www.mstrust.org.uk/news/ article.jsp?id=5893)を意味し、従来の”disease activity free status” (DAFS) (JAMA Neurol 2014;71:269-70)に進行しない割合が追加されました。DAFSの場合、脳MRIでの評価が中心になって、必ずしも臨床的な評価と一致しなかったり、観察頻度により評価が影響を受ける可能性がありますし、長期的障害度の進行を評価できません(JAMA Neurol 2014;71:269-70)。NEDAの採用は炎症性病変の発現予防だけでなく、neurodegenerationの進行予防を重視した治療開発へ向けた動きでもあります。ACTRIMS/ECTRIMS合同会議では、BG-12 (フマル酸)(FC3.5)やFingolimod (P112)、Natalizumab (P287) の治療評価で利用されました。  
    HarvardのProf Weinerらは219例について、治療の如何を問わずにNEDAの7年間の経過との関連について解析(P763)。1年目にNEDAに該当する患者は46.5%いて、2年目も27.0%いますが、7年目には7.9%に激減し、長期間、NEDAを維持することの困難さを示しましたが、最初の2年間のNEDAは長期予後の予告因子になり得ること、NEDAを失っても必ずしも予後不良を示唆しないことを示しました。
  9. 「格差と民主主義」 
    ロバート・ライシュ教授(カリフォルニア大バークレー校)の新作。米国内では急速に富裕層への富の集中が起きていて、中間層が没落し、国内購買力が低下しています。富裕層は政治献金を通じて、自分たちにより富が集中するような制度改革を実行しています。累進課税の撤廃や、政治献金上限引き上げ、企業への補助金増額と貧困層へのセイフティネットへの補助金減額、道路や公園、図書館といった公共財への州や連邦政府からの支出削減、教員数削減とか、日本でも同じような政策が進められていますが、これらの分析とこれらを支持する人々の考え方、これからの対策が提案されています。フランスの経済学者、ピケッティが書いた、話題の「21世紀の資本」と似た内容のようです。  
    米国の大手製薬会社は特許権の期間を延長させ、価格を急速につり上げています。米国では欧州や日本とは異なり、薬価をメーカーが自由に決められるため、売れる商品は価格が急速に上がってゆきます。TTP交渉の前から日本政府は薬価を上げることを約束していますから、医療費が増加することが予想され、ますます患者の自己負担の割合が上昇してゆく危険性があります。同時に、医療保険の参入も出てくるでしょう。また、医薬品は連邦法の適応を受けるため、カナダから安い医薬品を購入すると違反になるんだそうな。この本では、日本の「天下り」が紹介されていて、米国も同じだ、と。括弧に入っていたので、原文でも脚注付きで「天下り」と紹介されているのかもしれませんが、こういう言葉が英語化されるのは嬉しくありませんね。  
    共和党のある議員が奇妙な発言をしたそうで、「最低賃金制度を廃止できれば、どのような賃金水準でも働き口を提供できるようになり、失業者を完全になくすことができるようになる。」彼女にとっての理想的な労働環境は、奴隷制度のようであります。確かに、完全雇用できるようになるかもしれません。究極的非正規社員。
    ライシュ教授もピケッティ教授と同様に、累進課税を富裕層に求めていますが(後者は国外に逃げるので、国際的規模で行うべき、と主張していますが)、ブッシュ政権の減税策では最高税率が35%にまで低下。アイゼンハワー政権時代は91%でしたが、誰もかれを共産主義者と批判はしなかったそうであります。  
    最後に翻訳者が日本のデータを紹介しています。2010年まで国民所得に占める日本の所得上位1%までに富が集中する割合は米国とは異なり、10%前後で推移していますが(つまり、国民所得の1割は日本でも1%の人間が保有)、上位10%になるとバブル崩壊後に米国と同じように急増していて、今や国民所得の4割が10%の日本人に富が集中しています。米国では45%を超えています。
  10. 「ピケティ『21世紀の資本』の読み方入門」 
    朝日新聞経済部記者だった、和光大学教授による解説書。  
    所得税は税の基本だと思っていましたが、意外なことにナポレオンとの戦費調達のために一時的な制度のつもりで英国で導入されたのが初めてなんだそうですね。  
    一律に商品の売買にかかってくる消費税は公平だなどと嘘を平気で言っている人たちがいますが、年収が1億の家庭と300万円の家庭とで収入に占める消費税の負担割合を考えれば容易に想像できます。富裕層は高額な商品を購入するから、消費税を余計に支払うのだ、などとアホなことを主張する人もいますが、貧しい家庭では収入のほぼ全てを支出に回しますが、富裕層では収入の多くは金融商品に化します。消費税の負担は気にはなりません。むしろ累進課税の方が気になるでしょう。せっかく一生懸命に働いて得た収入なのに、なんで余計に税金を支払わなあかんねんと、ざこば師匠はおっしゃいます。では、誰が学校や道路を作るんでしょう?  
    多くの先進国では最低賃金は全国一律ですが、日本では都道府県別なので、地域によって違います。これは、最低賃金法に事業の支払い能力規定が盛り込まれている世界でも珍しい制度のため。確かに、一理ある考え方ではあるのですが、賃金の安い地方から大都市へ若者が移動するのは当然で、さらに地方は貧困化します。これで地方再生?  
    「労働者派遣法改正」は別名「生涯派遣法」とも言われ、非正規から抜け出せず、一生安い賃金で働かせられる制度で、産業医研修でも19世紀に逆戻りと紹介されています。「限定正社員」や「新しい労働時間制度」(ホワイトカラー・エグゼプションあるいは残業代ゼロ制度)という、とにかく人件費を抑える様々な制度が日本を覆い尽くそうとしています。20-30代へのしわ寄せがきつく、子どもを作れる環境にはありませんし、国内消費が上昇するわけがありません。さらに工場での生産は今後、下方修正されることになるでしょう。企業は設備投資へは回さずに過去最高の280兆円もの内部留保が増えるだけで(上位10社のうち、自動車が3社、金融が2社)、景気が良くなるわけがありません。金利を下げ、国からの支出を増やすことで一時的に株は上がっても(恩恵を受けたのは国民のせいぜい10%程度)、制度変換しない限り、もはや目先の利益を追うばかりの新自由主義経済に未来はないように思えます。
  11. 外国人医療労働者問題・・・? 
    筆者が学生の頃から、アジアからの看護労働力移入(あるいは「研修」名目)は話題になっていました。駐日スイス大使と元駐スイス日本大使との対談を発見しました。スイスの人口は804万人ですが、外国人がそもそも23%います。私の属していた大学の元神経内科教授秘書の一人は、ブラジル系スイス人と結婚してスイスで生活しています。スイス大使は「安い労働力を求めて、たとえ数万人といえども、低スキルの移民を入れるべきではない。」と述べ(トルコ人を大量に働かせているドイツやイスラム教徒たちを大勢入国させた英国を連想しました)、「スイスでは医療分野で働く人の50%が非スイス人」だそうな。医療分野での国籍比率は不明ですが、スイスでの国籍別居住外国人の割合は、イタリア人(16%)、ドイツ人(15%)、なぜかポルトガル人(13%)、アジア・オセアニア圏(6%)、フランス人(5%)など。國松元大使は「日本国内に居住している外国人は206万人で、全人口の1.6%にすぎません。」と述べていらっしゃいますが、すでに3世や4世までいる在日韓国・朝鮮人はすでに第1位ではなく、公式人数だけで中国人がトップです。しかも、増加した分の多くが第1世代。ニュアンスの差はありますが、いずれも外交問題を抱えている国ですから、スイスとは異なり、相当特殊な社会背景を持っています。その上、介護や看護での働き手の中心は、フィリピンやインドネシア。「Wedge」誌(2014年12月号)の対談の編集目的は「国を富ませる方法」がテーマなのですが、スイスと比較?