2014年12月号 NO.4

  1. ミエリン蛋白由来ペプチド貼付剤によるMS再発予防
  2. Secondary hemophagocytic lymphohistuicytosis by IFNβ1a
  3. 母親が噛んで食物を与えるとMSリスク低下か
  4. Asymptomatic cord lesionはどの位の頻度か?
  5. 関西のギャル300人に聞いた好きなおっさん芸能人
  6. 関西のギャルによるおっさんのココが嫌い
  7. MSは進行期になると経過は一緒
  8. 中国との付き合い方 59. Ebola出血熱の感染ルート
  9. Clin Exp Neuroimmunolの最新刊に3編掲載
  10. 音楽教科書から消えてゆく
  11. 「愛と暴力の戦後とその後」
  1. ミエリン蛋白由来ペプチド貼付剤によるMS再発予防 
    ポーランドに帰国したDr Selmajが面白い治療を考案しています。2014年のECTRIMS/ACTRIMSでのシンポでも講演されていました。内容は既報(JAMA Neurol 2013;70:1105-9)と同一。すでに、ミエリンペプチドを皮膚に塗ることで発症を抑制できることがEAEで報告されています(Immunity 2003;19:317-28; J Autoimmun 2007;28:208-15)。彼らはMS患者にミエリンペプチドを塗った貼付剤によりトレランスが誘導できることを報告しています(Ann Neurol 2010;68:593-601)。ペプチドは皮膚から吸収されて、皮膚のLangerhans細胞を活性化させ、所属リンパ節でgranular樹状細胞を誘導します。末梢血ではIL-10産生性のtype 1 Tregを誘導して自己抗原に対する反応を抑制するそうな。  
    今回は30例の18-55歳のRRMS患者をplacebo群10例、ペプチド1 mg群16例、安全性確認のための10 mg群4例を対象に、1年間のdouble-blind placebo-controlled cohort studyを行いました。ペプチドはPBSに溶解してパッチとして貼付します。内容はMBP85-99、PLP139-151、MOG35-55とEAEでの主要encephalitogenic peptide。10 mg群でも重篤な有害事象はありませんでしたが、効果は1 mg群と差異はなかったそうです。パッチは右上腕に貼り、最初の4週間は週1回貼付、残りの11ヶ月間は月に1回貼付しました。  
    その結果、12ヶ月間で1 scan当たり一人の患者での造影病変数はplacebo群に比して66.5%減少しました(0.0085 vs 0.0255, p = 0.02)。また、T2病変容積の変化やT1病変容積は、それぞれplaceboに比して有意に減少(+1925.7 vs -845.4 mm3, p = 0.01; -14.1% vs +61.2%, p = 0.01)を示しました。年間再発率(ARR)も減少(1.4 vs 0.43, p = 0.007)。脳MRIでの造影病変数減少は治療開始3ヶ月後に認められたそうで、他のDMTと同一。意外に効果発現が早いですネ。
  2. Secondary hemophagocytic lymphohistuicytosis by IFNβ1a という報告が出ています(Rheumatismo 2013;65:253-5.)。57歳MS女性例です。イタリアから。患者数が少ないので何とも言えませんが、Fingolimodはヘルペス系ウイルス(日本例はEBV、ポルトガル例はHSV2らしい)活性化と関連?していて、IFNβ1aはdrug-induced?。論文を検索する際には、”hemophagocytic syndrome”や”macrophage activation syndrome”でも探しましょう。薬剤との関連では、adalimumab (J Clin Gastroenterol 2011;45-210-4)、tocilizumab (Mod Rheumatol 2011;21:92-6)、etanercept (J Rheumatol 2003;30:401-3)が引用されています。
  3. 母親が噛んで食物を与えるとMSリスク低下か という少し刺激的な見出しで、第19回日本神経感染症学会学術集会(金沢医大微生物学・大原教授会長、2014年9月、金沢市)でのシンポジウムで私が講演した内容がMedical Tribune (2014年10月16日号)で紹介されました。見出しの意味はMS発症にEBV感染症が関与しており、特に思春期に伝染性単核症を発症すると、その後のMS発症リスクが格段に高くなる、という報告などがあり、EBVとの関連は確立しています。乳児期での感染では無症状なので、本人にとっても良いわけです。虫歯菌がうつるといって、最近の若い母親たちは市販の離乳食を使いますが、虫歯予防なら米国のように幼稚園時代にフッ素を塗れば良いのです。その上、子供時代はしっかり日焼けすることが大切。そうすれば、MS患者は減るでしょう。ところが、実際は幼稚園児までがプールに入る時はラシュガード(まるで大正時代の水着)を身につけ、露出した皮膚には男の子にさえ、母親たちは日焼け止めクリームを塗ったくっています。2014年5月に発表された増田レポートによれば、2040年には人口1万人を切る自治体が523にのぼり、若い女性が激減して多くの自治体が消滅すると言われていますので、実際のMS患者数が将来、どこまで増えるのかは不明ですが、もうしばらくは増加し続けるのでしょう。
  4. Asymptomatic cord lesionはどの位の頻度か? 
    これが話題になったとき、私も含めて(決して若者とは言えませんが)、神経内科教授のほか、40代を中心としたMS専門家達10数名のだれも答えられませんでした。齊田先生が「欧米の古い論文で、50%に認められる、という報告があります!」と発言されました。筆者は以前、脳だけでなく、脊髄も造影MRIを定期的に撮影していたことがありますが、脳MRIでもRRMS患者さんで無症候性の造影病変を検出することは活動性の高い患者さんでも稀でしたが(Eur Neurol 2011; 65:119-122)、脊髄では当然のことながらもっと稀で、1回しか見たことがありません。しかもどちらかというと、高位頸髄と延髄の境界付近という部位。脊髄に病変ができたら、症状を出しやすいでしょう。
  5. 関西のギャル300人に聞いた好きなおっさん芸能人
    好きな割合
    第1位 明石家さんま(59) 87%
    第2位 所ジョージ(59) 83
    第3位 関根 勤(61) 82
    第4位 香川照之(48) 80
    第5位 間 寛平(65) 79
    第6位 哀川 翔(53) 78
    第7位 竹中直人(58) 75
    第8位 志村けん(64) 71
    第9位 舘ひろし(64) 70
    第10位 山本浩之(52) 69 この方は関西以外でご存じの方は少ないでしょうが、ニュースの最中にカツラがとれてハゲをカミングアウトせざるを得なくなった、有名な民放アナ。コスプレでギャルの部屋をチェックするというお馬鹿番組から夕方のニュースキャスターまでカバーできる希有なヒト。
    ほかに、具志堅用高(59) 63%、大平サブロー(58) 55%、桂ざこば(67) 48%、山路 徹(53) 19%。  
    この番組の性格から、対象はおそらくはノリの良い、少し天然の女子高生から23-24歳辺りと思われます。下もネ。
  6. 関西のギャルによるおっさんのココが嫌い
    第1位 マナーが悪い  お前らに言われとうない!と言いたいところですが・・・2013年度に全国で760件の駅員への暴力行為があり、うち178件(23%)が60代以上。年齢別トップ。約6割が酔っ払いで、場所は改札付近が最多。  また、2003年からの11年間で60代以上によるストーカー被害が473から1919件へ激増。85歳の80歳へのストーカー行為による家宅侵入で逮捕される事件も発生。
    第2位 加齢臭がきつい(ヒトによっては、ポマードの臭いと混ざって、筆者でもきつい)
    第3位 若い子にデレデレしすぎ(前項目でも記載したように、推定される対象者から、若い女性への嫉妬ではないと思われることに、逆に要注意! 当事者からの発言か?)
    第4位 咳払い、くしゃみが多い(咳払いは嚥下障害も関与?)
    第5位 親父ギャグが笑えない
    第6位 自慢話が多い(これは気をつけましょう!)
    第7位 顔が脂ぎっている 第8位 おしぼりで額や脇を拭く(腋窩まで拭くヒトは少ないだろうけど) (「たかじん胸いっぱい」関西テレビ 2014年9月27日放映より。たかじんは亡くなりましたが、番組は八木早希アナ-元はTBS系のMBS出身ですが、このフジ系列にもNHKにも出ているフリーアナ。安定感もありますし、良いです。整形外科医夫人。見合いだそうですが、気に入らん-や遙 洋子さん-東大の上野千鶴子研究室修士課程卒、ハイヒールリンゴさんなどが支えていて、元気)
  7. MSは進行期になると経過は一緒 という論文(Brain 2010;133:1900-13)が既に本誌でもご紹介したように、話題になっています。早期治療の大切さを力説する目的の講演で利用している医師もいるようです。EDSS 3.0までは経過は様々だけれど、3.0を超えるとその後は同じになるので、3.0に達するまでの経過を緩やかにするために、早期からDMTを始めましょう、と。ただし、これには2つのトリックがあります。 1). この臨床経過図はEDSS 6.0に達した718例のMS患者を対象に、retrospectiveに経過を分析した結果。つまり、発症から25年経過したSPMS患者の経過。日本人RRMS患者さんを対象とし、PDDS(Pharma Medicine 2013;31:121-8)を利用したアンケート調査では、5-10%の患者さんがSPMSに進展するに過ぎないようで、欧米のRRMS患者の1/2とはずいぶん異なります。逆に言うと、EDSS 3.0に達するまではSPMSへ移行しない?ほんまか? 2). DMTによる介入により、再発が抑制されればEDSSの進行も結果として抑制される可能性が高く、3.0に達するまでの時間を延長できる可能性はありますが、証拠はありません。
  8. 中国との付き合い方  
    地理的に互いに変えようがないので、付き合い方をお互いに考えるゆくしかないけれども、一方的に譲歩する必要もありません。少なくとも相手をよく知る必要はあるのでしょう、お互いに。米国は経済を発展させる過程で、自然と民主化されてゆく(「建設的関与戦略」)ことを期待しているようですが、日本のようにはいかないし、日本だって少なくとも、欧州風民主主義からは遠いでしょう。小川和久、西 恭之「中国の戦争力 台頭する新たな海洋覇権の実態」(中央公論新社)などを参考に・・・
    1). 中国憲法では中国共産党のみが合法的なので、他の政党の存在は認められませんから、そもそも民主主義なんて無理でしょう。一応、6つだか8つの「政党」が存在していることにはなっていますが、全て「共産党の指導の下に」活動が認められています。可能性があるとしたら、歴史的にも「事件」を起こしてきた(映画「北京の55日」とか)、法輪功などの宗教組織による政治活動に期待?
    2). 人民解放軍は国の軍隊ではなく、あくまでも共産党の軍隊。あたかも自衛隊が自民党の民兵みたいな立場。国軍ではないのに、人件費を含む軍事費と税金との関係はどう整理されているのでしょうか?不思議です。
    3). 共産党の立党基盤は反日武装闘争なので、あくまでも反日が基盤。ゆえに、ここから政治的立場が離れることはあり得ない。
    4). ナショナリズムを利用して多民族を治安管理するしか国内を統治できない不安定さから脱却することが困難。
    5). ただ、様々なチャンネルで日本に伝えられるメッセージを、敏感にとらえる感覚受容器が永田町や霞ヶ関だけでなく、メディアにも乏しい現実はちょっと危険。
    6). 「イギリス人は歩きながら考える」ことが本当かどうかは知りませんが、少なくとも「日本人は走った後でも考えない」。総括とか反省とかしない国民性なので(必ずしも否定的側面だけではありませんけどネ)、ドイツとは違って、未だに周辺国から昔の嫌みを言われ続ける弱みを残念ながら持っています。一時のような「左翼バネ」はなくなりました。憲法9条を守ろう(国民の過半数は支持していますけどね)という政治家たちのきちんと議論もできない姿に絶望している国民が少なくないことを理解できない政治家たちが多すぎます(国民の方がよほど、理想と現実のギャップをきちんと理解しているように思われます)。しかし、一方で、東シナ海で海上保安庁が巻き込まれる間違いがあったときの日本に隠されたナショナリズムの炎に点火する危険性がありえます。人民解放軍が、無茶なことをしても間違った反応はしないだろうと、「自衛隊に期待しすぎる」ことがないように期待したいですが・・・APECで日中首脳会談実現のために、日中の外務担当者が文言を詰めて合意文書を作成しました。どうとでも解釈できる表現ですが、尖閣諸島などにトラブルがあることが明記されたことにより、国境問題が存在することが外交文書で公式に認定されたかのような表現になっているため、さらにこじれる可能性があります。どうしてこんな解決法になったのか・・・
  9. Ebola出血熱の感染ルート 
    一般的には感染している血液などの体液あるいは組織への接触と言われ(Lancet 1995;346:1669-71)、メディアでも呼吸器感染はないとされています。HIVのように唾液は大丈夫か?含まれるウイルス量が圧倒的に低いでしょうが、フレンチキスやくしゃみで飛び散った唾液でも本当に大丈夫か、ちょっと心配かもしれません。動物では呼吸器感染しうるようですが、ヒトでは適当な受容体がないために感染に抵抗性なんだそうですね(“resistant to the airborne/aerosol transmission of Ebola”と言っているだけですけどネ)。潜伏期が最大21日間もあることが不安ですが、この期間では感染性はないとされています。ただ、米国でも問題になりましたが、38℃出ていなければ本当に大丈夫なのか?微熱の段階で発症しているのではないか、など先進国での観察が蓄積されるようになると、このウイルス感染症の臨床経過がより明らかになっていると思われます。発症患者の封じ込めにも一部で失敗はしていますが、教訓にはなるでしょう。
  10. Clin Exp Neuroimmunolの最新刊に3編掲載 させていただきました。  
    Mechanism of action of interferon-β in relapsing-remitting multiple sclerosis: Effects on Th17 and Th9 cells (CENI 2014;5:283-5). これはTh9にも言及した九大からの原著論文へのコメントですが、従来の文献ではTh17に関してはEAE中心の議論でしたので、MSでの関与の可能性についての考察をまとめました。抗原特異的なTh17の関与はあるだろうけれど、その場合も含めてTh17の多くは付和雷同的なお祭り男たちではないか、という気がしています。ただ、PolmanやSteinmanらのNat Medに出た衝撃的な論文に書かれた内容は、一部のMS患者さんでは当てはまる可能性があるように思えます。つまり、MSだけれど、IFNβが効かない、ステロイドが効く病態(もしかして、Th17が関与?)・・・これに関して、”idiopathic, recurrent steroid-responsive CNS inflammatory disorders”として提唱しました(CENI 2014;5:284の3つ目の段落の最後に記載)。  
    Dose reduction therapy of fingolimod for Japanese patients with multiple sclerosis: 24-months experience (CENI 2014;5:383-4).Fingolimod減量療法の第2弾。originalはMult Scler 2013;19:1244-5。誤解が多いようなので追加データも含めて掲載させていただきました。要点は、
    1). 半減期が長いので、定常状態に達するまでに4-6週間かかりますが、中止した場合はそこまでかからずに血中濃度が低下します(代謝されながら蓄積する場合と一方的に消失する場合とで期間が異なることは当然)。このデータは公表されています。再開する場合には致死的な不整脈のリスクが初回投与と同様に生じます。筆者は、血中濃度を激しく上下させないために、中止や再開を行わずに穏やかに血中濃度とリンパ球数を変化させるために、リンパ球数が200以下になる場合の減量療法を提案しました。メーカーの方の中には誤解されていらっしゃる方もおられますが(そのために、たなかは隔日投与法を提唱しているのだと宣伝されると困ります)、隔日投与を提唱したわけではありません(ステロイドとはちゃうねん!)。今回の論文に計算上の血中濃度をグラフで記載しましたが、隔日投与をしたら血中濃度が半減してしまいます。これでは再発の危険が生じます。提唱した投与法を細かく、この論文ではうざいほどに紹介しました。まず、週1回抜きましょう。それでもだめなら月木など、非服用日の期間を開けて抜いてみましょう、と。
    2). この投与法の法的背景に関しては、2013年の神経治療学会での教育講演の際の原稿でも指摘しました(神経治療 2014;31:127-9)。時間の余裕のある講演では、スライドで詳しく説明していますが、最近、地方の(京都も地方だけど)研究会に呼ばれることが少なくなったため、直に現場の医師たちとコンタクトできる機会が少なくなりました。添付文書にはリンパ球数が200以下になった場合、再検で確認後に中止するように求めています。同じ様なことは少なくともイタリアでもあるようですが・・・この背景は膠原病での感染症予防のための免疫抑制剤投与条件の国内での研究の歴史が色濃く繁栄しているように思われます。もちろん、膠原病とMSは病態がずいぶん異なりますが。添付文書に記載していることなんか無視しても構わない、と主張されている神経内科医が複数いらっしゃいます。ご自分で実行される分には構わないとはいいませんが、責任はおとりになるのでしょうから何も言えません。しかし、他の医師に薦めることはいかがなものか、と思います。そこまで主張されるなら、後にも残るように、医療裁判でも被告を弁護するために引用できるように、総説に記載するべきでしょう。医事法制の基本的な判例ですが、最高裁ですでに出ていて、添付文書に記載していることを守らないで医療事故が起きた場合、特段の理由がない限り医師の責任が問われます。  
    Congress report of the 2014 American Academy of Neurology annual meeting (CENI 2014;5:391-9).真面目にmini-mini reviewをしつつ紹介しています。投稿規定を倍もオーバーしてしまい、ごめんなさい。面白いはずです。書いた本人は興奮して書きました。フィラデルフィア美術館さえ行きませんでしたが、聞いた範囲がそれでも限定されてはいます。筆者が興奮した発表の一部のみを紹介。抗KIR4.1はボロクソに言われていますが、糖鎖が問題であることを教育コースで質問に答えていて(だから、コースはバカにできません。ECTRIMSのコースでもProf WeinshenkerがNMOsdの新診断基準を詳しく紹介)、9月のECTRIMSでは公式に発表していました。この内容は「神経内科」2014年12月号で紹介しました。ビックリする内容です。また、わずか数秒しかスライドを出さなかった、NMOsd新診断基準を雑誌には記載しました。講演したProf Wingerchukが全く説明しなかったので、内容が不明のため、この原稿でも本文では一切説明はしていません。Fig. 1のカラー写真にもご注目(カラーを指定はしていません。えらく大きいですが、これも出版社の意向です)。
  11. 音楽教科書から消えてゆく 
    ゆとり教育の時代に教科書に掲載される唄の数が激減したんだそうですネ。数自体が減っただけでなく、外国の詩が1960年代に比して1/10に減少。これは、そもそも明治時代に教科書を作製する際に、国産の唄が少なかったために外国の唄に日本語の歌詞を付けて量産したのが始まり。それゆえ、歌詞が文語調だったりするため、教師自身が意味を説明できなくなったことも理由なんだそうです。小中学生のほうが、むしろ意味が分からなくても授業に出てくれば記憶に残るもの。古い美しい日本語を音と音階で記憶することの大切さを文科省は理解するべきでしょう。「美しい日本を守る」って、そういうことなんじゃないいんかい?  
    テレ朝「題名のない音楽会」(2014/10/19)で紹介されたのは、そんな唄。「埴生の宿」(埴生って地名だと思っている人がいるんだそうな)英国の民謡が多いような気がします。この唄は、映画「ビルマの竪琴」で使用されていて、英軍に包囲された日本兵が歌い出したら、戦闘を止めて両軍で歌い出す、というシーンがあるんだそうですね。「ローレライ」(福井さんの潜水艦を部隊にした小説もあります。関係ないけど)「峠の我が家」スティ−ブン・フォスターの曲も激減しているそうで、「金髪のジェニー」草競馬「ケンタッキーのわが家」「おおスザンナ」「夢見る人」。フォスターは今年、没後150年。長調なのに、懐かしさを呼び起こす短調っぽさが特徴、と。
  12. 「愛と暴力の戦後とその後」 
    作家・赤坂真理 (講談社現代新書) さんの新作。「戦後」とはなんなのか、小説「東京プリズン」の背景とも言える、エッセイのようですが、ぎくっとする記述が満載。その中から・・・  
    戦犯にはA, B, C級があります。C級=人道に反する罪は主にナチスのニュルンベルク裁判が主体で、東京裁判ではほとんどなかったんだそうですが (全くなかったわけではないのかな?)、一般的なイメージとして、A級はB級より大物が対象、というのは誤解。東京裁判のように軍事法廷で裁かれていたのは国際法違反に対してで、捕虜の虐待や民間人の殺戮が対象。平和に対する罪がA級で、人道に対する罪がC級、という誤解は戦後の発明だそうです。幼い頃、赤坂さんは母親に東京大空襲や原爆投下のほうが人道に対する罪ではないか、とお聞きになったことがあるそうな。確かに。  
    大半の米国人は「真珠湾は宣戦布告なしに突然、日本軍が爆撃した。リメンバー・パールハーバー」と考えていますが、東京裁判では騙し討ちではないという判決が出ています。もちろん、宣戦布告から攻撃まで時間をおかなければいけない、という当たり前すぎる条項がハーグ条約にはあるものの、どれだけの時間なのかの定義がない、欠陥条約と見なされたため。喜んではいけませぬ。  
    東京タワーの鉄骨は朝鮮戦争で使用された米軍の戦車を潰したもの。  
    1933年にゴーストップ事件というのが起きました。帝国軍人の自己認識と矜恃は武士階級なのだと赤坂さんが悟った、というエピソード。信号無視した軍人を注意した警官に、「軍人は警察官には従わない」「公衆の面前で帝国軍人を侮辱することは許さない」と言いだし、喧嘩になったけれども、軍部が法律を越えて動き、軍が暴走してゆくきっかけになったんだそうな。  
    赤坂さんは問います。大日本帝国軍は正規軍と言える質を持っていたのか?大局的な作戦を立てず、希望的観測に基づき戦略を立て、陸海軍統合本部を持たず、嘘の大本営発表を報道し、国際法遵守を現場に徹底させず、多くの戦線で戦死者より餓死者と病死者を多くだし、命令で自爆攻撃を行わせた、世界で唯一の「正規軍」。
    東京大空襲で8万人が死亡したとされますが、大量に出現したはずの孤児はどうなったのか?どうも政府は孤児対策として、浮浪児狩りが行われたようだ、と。  
    赤坂さんご自身も感じていたんだそうですが、「福島第一原発はオームのサティアンみたいだ」と石原伸晃議員が失言してしまいました。ま、確かに、環境大臣としても「正直」な方だったようで。  
    「『気をつけ』や『休め』は軍隊用語だから止めようということを聞いたことがないと述べ、子供の身体に触接加えられる拘束なのに」。確かに、米国へ統一された制服姿で修学旅行に来る日本の高校生は異様に見えます。  
    戦争中、鶴見俊輔は米国留学中で、日本の敗戦が濃厚になったときに帰国しましたが、それまで大学外では日系人への差別がありましたが、ハーバード大学内では一切の差別はなかったんだそうで、それは米国よりもハーバードの方の歴史が古い、という意識があったからだそうな。民主主義の基本は我にあり、ということなのでしょうか。
    東京裁判ではかつての戦争を「侵略戦争」と定義したことになっていて、否定派、肯定派はそれを前提に言い争っていますが、そんな言語は原文にはないんだそうな。起訴状の原文は”War of aggression”であって、invasionではないのですね。ニュアンスが難しいようですが、自衛に基づかない、積極的な攻撃性といったイメージなんだそうで、そこから「侵略」という言葉が出てきたようです。憲法を翻訳する際には白洲次郎さんクラスの英語力のある人や言語学者を動員していますが、東京裁判での通訳や翻訳は英語のできるヒトのレベルだったことが災いだったのかもしれません。国内での議論を英語圏のヒトたちは奇妙に感じているでしょう。でも、原文にも当たらずに、勝手に議論している知的レベルは恥ずかしい限り。  
    昭和天皇は戦後、「人間宣言」をしたとされていますが、実際は「朕は現人神ではなくて人間であるぞ」なんて言ったことはないんだそうな。「天皇を現御神 (アキツノカミ) として、それをいただく日本国民をもって他の民族より優越せる民族とし、よって世界を支配すべき運命を有する架空なる観念に基づくものにあらず」(原文そのままではありませぬ)と言っただけ。しかし、これは神の本質を喝破した言葉なのだ、と。「イスラム国」とかキリスト原理主義者に聞かせたい言葉でありますね。  
    日本国憲法は占領軍に押しつけられたと言われていますが、成立までに政府とGHQとの間で議論はされています。草案と現在の憲法にも違いがあるそうですね。草案は人類史上、きわめて過激だったようです。革命条項さえある合衆国憲法をもつ米国人ですら、結局は諦めた(?)草案からの議論の推移と、原文と日本語との比較も是非必要なようであります。9条なんて、renounceという動詞です。abandonでもthrough awayでもありません。