2014年12月号 NO.3

  1. JCV-associated granule cell neuronopathy (JCV GCN)
  2. 紀伊國屋書店HPの本棚コーナーの紹介追加
  3. Natalizumab中止201例のリバウンド割合
  4. Natalizumab中止後、Fingolimodへswitchして再発
  5. Natalizumab後にリバウンドとも思える現象が出現することがある理由
  6. Natalizumab治療をいつ中止するか?
  7. 「イギリス人は歩きながら考える」は本当か?
  8. “Meet the Expert”と題して、Natalizumab講演会
  9. 入院患者に「外因死」の死亡診断書を発行
  10. 羽生選手の衝突後の演技へ賛否両論
  11. presymptomaticからasymptomatic PMLへ変更した理由は?
  12. NMOへのTocilizumab作用機序
  13. ドイツの498例MS患者の年齢別抗JCV抗体陽性率
  14. ある有名病院医長のお言葉
  1. JCV-associated granule cell neuronopathy (JCV GCN)  
    2例報告されています(Ann Neurol 2013;74:622-6; Neurology 2014;83:727-32)。小脳症状発症当初はCSFでJCV PCRは陰性のこともありますし、初期では小脳萎縮は認められません。大脳にもPML病変はないので、この病態の存在を知らないと診断は難しいでしょう。因みに、PMLは白質脳症なので誤解されますが、白質病変だけではありません。U-fiberがinvolveされ、皮質から白質にまたがった病変が脳MRIの特徴。
  2. 紀伊國屋書店HPの本棚コーナーの紹介 
    たとえば、こんな本を追加紹介しました。全部読んでいるわけではありませんよ。無理。
    筒井康隆「反映の昭和」 
    文藝春秋 SFなので、こういう領域をなんというのか知りませんが、本のタイトルにもなっている短編はこっちが混乱します。80歳の巨匠。最近でもTVでちょくちょく拝見しますネ。
    朝日新書「ルポ 医療犯罪」
    処方箋は患者に手渡されるものとされているため、医師法上、入院患者で使用されている院内処方箋は単なるメモなんだそうな。さすがにおかしいので法改正されるようですが、こんな問題も指摘されているそうです。
    「ムーミンの生みの親、トーヤ・ヤンソン」河出書房新社
    フィンランドの少数民族でありながら、北欧の強国だったスウェーデン系という屈折した立場の作家、というだけで物語が生まれる複雑な背景が想像できますが、戦争も影を落とし、レズビアンという立場でも社会的少数派だった反骨の作家の評伝。
    円居 挽「クローバー・リーフをもう一杯、謎解きバー『三号館』へ」KADOKAWA
    主人公は京大のキュートな文系の新入生。理系の女の子に恋しますが・・・様々なカクテルがそれぞれの謎解き物語に登場。ただ、謎自体には直接の関連はないようです。ご当地小説なので、市内の観光案内にもなっています。
    福田和代「ユダの棺」朝日新聞出版
    沖縄とアフリカの小国とを対比させつつ、「中央」から離れた土地で生きる人々。主人公は公安の刑事ですが、アフリカ学の教授もまた、主役の一人。沖縄出身の研究者も重要な脇役。力作。
  3. Natalizumab中止201例のリバウンド割合 
    中止後12ヶ月以内にリバウンドが認められたのは11.9%という報告があり、これらの患者ではNTZ治療前のARRが低く(p = 0.001)、NTZ治療効果がリバウンドのなかった群に比して乏しかった群だそうな (p < 0.001)。86%の患者がNTZ中止後に他の薬剤にswitchしていますが、当然のことながらwashout期間の短い群でリバウンドが少なかった(p = 0.013)、と(Acta Neurol Scand 2014;130:97-102)。
  4. Natalizumab中止後、Fingolimodへswitchして再発 という報告が相次ぎ(JAMA Neurol 2014;71:436-41; Neurology 2014;82:1196-7; Neurology 2014;82:1204-11)、中には重篤な再発を呈したという報告が出ています(Neurology 2012; 78:928-30; Neurology 2012;79:2004-5)。NTZへswitchした後に再発するリスクが高くなる原因としては、washout期間が6ヶ月以上、NTZ治療前の再発頻度が多く、元々の疾患活動性が高いこと、有害事象などでNTZ治療をきちんと実行できなかったり、治療中も再発するなど、治療が不充分な場合が挙げられています(Nat Rev Neurol 2014;10:1)。
  5. Natalizumab後にリバウンドとも思える現象が出現することがある理由
    1). NTZ治療中のCD19+B細胞やCD19+CD10+pre-B細胞の著増 (Neurology 2008;71:1350-4)
    2). IFNγやtumor necrosis factor、IL-17といった炎症性サイトカインを抗CD3刺激で産生するCD4+細胞や刺激によりIL-2やIL-17を産生するCD8+細胞の増加 (Neurology 2009;72:1922-30; PLoS One 2012;7:e52208)
    3). 第一選択剤であるglatiramer acetateと比較して、NTZ治療中患者の末梢血サイトカインを調べると、IL-6、MCP-1、GM-CSFが増加していて、Th1/Th2バランスをみたときにTh2-biasedが劣っている (BMC Neurol 2012;12:95)。
    4). 末梢血単核細胞のIFNγやtumor necrosis factor (TNF) mRNA増加 (Eur J Neurol 2009;16:528-36)
  6. Natalizumab治療をいつ中止するか? 
    可能性としては以下のケースが考えられます。
    1). 抗JCV抗体陽性の場合は初めから投与しない。
    2). 抗体の有無に関わらず、投与開始24ヶ月で終了する
    3). 抗JCV抗体が陽転化したら中止する
    4). (asymptomatic) PMLが発症(あるいは脳MRIでPML病変検出)まで継続する (ただし、NTZ中止後に直ちにPML発症リスクがなくなるわけではなく、治療中止後に発症する報告もある)
  7. 「イギリス人は歩きながら考える」は本当か? どうかは知りません。残念ながら、そこまで深い付き合いのある英国人の知り合いがいないためですし、中東地域をフランスと適当に分割した上に、パレスチナにとんでもない歴史的後遺症を残したことを考えますと、甚だ疑わしくも思えます。一方、「アメリカ人はちょこっとだけ考えた後に目的に向かって走り出し、走り終わった後でちょっとだけ考えてはみる。(あるいは考えたふりはしてみる)」感じでしょうか?「日本人は、こっちだと思い込んだら、一目散に走り始め、走りながら考えることはしない。目的に近づいた頃になんか違うんじゃないか、と他から指摘されたら、別の方向へ向かって走り始める。目的に近づいた頃、なんとなく考えていたイメージに近かったらとりあえず満足。論理的な議論は避ける。違っていたら、また、変える。」
  8. “Meet the Expert”と題して、Natalizumab講演会 
    2014年9月23日に東京で開催されました。NHO北海道医療センターの新野研究部長はNatalizumab治療のoverviewをされました。その中で、seronegative NMO患者でもNatalizumabはriskyであること、日本のNatalizumab治験参加者での抗JCV抗体陽性率は63%であったことが示されました。  
    後半はDept Neurology, VU Univ. Med Center, AmsterdamのDr WattjesによるNatalizumab-associated PMLの脳MRI診断について紹介がありました。
    1). PMLの診断には、FLAIRとDWでスクリーニングすると良いそうですよ。
    2). PMLはgrey & white matter diseaseであることに留意。HIVで発現するclassic PMLとは様相が異なり、造影病変が32%で認められます。病変部位としては、frontal lobeが38%、occipital lobeが20%、parietal lobeが12%。
    3). JCVによるGranule cell neuronopathyの報告例はすでに16例あり、HIVが10例、Natalizumabが2例(Ann Neurol 2013;74:622-6; Neurology 2014;83:727-32)、Rituximabが1例。
    4). PMLでIRISが有名ですが、もちろんPMLに限定してはいません。元々はHIV治療中に見出された現象。CD8-mediatedだそうな。皮質に多いけれども、基底核でもしばしば。
    5). 脳MRIでのMSとPML病変の鑑別が問題となり、皮質がinvolveされているかどうか以外に、MS病変では境界がPMLよりsharp、と。PMLでは脊髄が傷害されませんが、理由についての質問もでたのですが、不明、と。ただ、無症候性の脊髄病変が検出された病理報告が2例あるそうです。不思議。
    6). JCV index in the CSFはasymptomatic PMLの診断に有用かもしれない。報告はあるそうです(おそらく、Ann Neurol, in pressの論文かな?)。診断できない場合は2週間ごとにCSF PCRのfollowを。2ヶ月で診断できれば幸運だ、と。日本では50 copies/mLでPCR可能とされるNIHでの検査は依頼することは困難なようなので、PCRは150-200 copiesが必要となりましょう。
    7). 抗JCV抗体陽性でNatalizumab治療24ヶ月以降の高リスク患者では、3ヶ月ごとに脳MRIでfollowする。抗体陰性患者なら、24ヶ月以降でも年1回。
    8).奇妙な症例もあって、”steroid-resistant demyelination during natalizumab treatment with multiple enhancing lesions”という現象なんだそうですが、もちろん抗JCV抗体は陰性で、どうしたものか・・・
    9). PML lesionはmass effect (-)
  9. 入院患者に「外因死」の死亡診断書を発行 した医師がいたそうです。筆者は書いたことはありませんし、書いた同僚を見たこともありません。通常、この場合、腹部に刃物が刺さったとか、屋上から転落死したとか、いう状況を想像しますね。ところが、原因は食物を誤嚥した窒息死。どうも、食物は「外因」だと思ったようで・・・吉本のギャグみたいな実話。
  10. 羽生選手の衝突後の演技へ賛否両論   
    フィギュアスケートのグランプリシリーズ第3戦の中国杯で練習中に中国選手と激突し、頭部と頸部から出血し、直後は暫く動けない状態に。日本選手団には医師の付き添いがなかったのですが、リフトのあるペア競技に参加していた米国選手団の医師の診察を受け、大丈夫と判断され、羽生選手は競技に復帰。中継をしていた中国のアナウンサーは「12年この仕事をしているけれど、頭部に包帯をして出血を止めながらスケート競技をした選手を初めてみました。感動しました。」30代前半と思われるこの女子アナはメッチャ綺麗。中国公安部にはウジャウジャいるんだろうな、このレベルは・・・しかし、競技への復帰に対して、帰国後に異論が噴出。主に、医師の側からが多かったようです。スポーツ医学の専門家による診察を受けたとは言え、脳震盪が疑われる以上は競技への復帰は危険でしょう。結果的には顎を7針縫う程度で済んだとは言え、スポーツ全体への警鐘にはなると思われます。日本ラグビー協会のHPで2011年に公表された、International Rugby Board (IRB)によるガイドラインの日本語訳が見られます。  
    AANからもスポーツにおけるconcussionへの評価と対策についてのガイドラインが出ています。スライドも入手できますし、HPではsummaryも見られます。(www.aan.com/guidelines) 米国ではアメフトもあるので、AANの新聞でもSports Neurologyは守備範囲内。
  11. presymptomaticからasymptomatic PMLへ変更した理由は?
    Natalizumab治療中に定期的な脳MRI検査で偶然に発見されたPML類似病変をどう呼ぶかは、薬剤のイメージからも科学的根拠からも重要であるに違いありません。発見時にNatalizumabを中止することにより必ずしもPMLを発症するとは限らない、ということからはpreとは必ずしも言えないのかもしれません。偶然の発見なので、asymptomatic PMLからPML発症までの期間は議論しにくいでしょうが、気にはなりますね。Dr OkudaはRISからCISまでの期間をPLoSOneに発表しましたが、同じことは言えます。  
    JCVは脳内でどうやって感染が拡大してゆくのでしょう?Natalizumab治療前から抗JCV抗体陽性患者と治療後にseroconversion起こした患者とで、PMLの発症リスクに差はあるのでしょうか?PMLの重症度は?
  12. NMOへのTocilizumab作用機序 
    IL-6の作用をブロックすることによるlymphoblastの増殖抑制では時間がかかりすぎ、実際の治療効果発現までの時間の説明にはなりません。抗体は簡単には陰性化しませんし、plasma cellの生存期間はえらく長いはずですし。Th17分化への影響(Eur J Immunol 2010;40:1830-5)のほうが、まだ早いでしょう。もっと早く作用する部位があるかもしれません。
  13. ドイツの498例MS患者の年齢別抗JCV抗体陽性率 
    性差はなく(511例、p = 0.5)、加齢により陽性率は増加し(p = 0.0004)、10代では37%、20代で50%、40代で64%、60代で77%。これは報告されている年間陽転化率(2-3%)(Ann Neurol 2010;68:295-303)に合致する、と(Mult Scler 2012;18:1054-5)。
  14. ある有名病院医長のお言葉 
    こんなことをレジデントにコメントしたそうな。「抗体陰性のNMOなんてあるはずがない。以前陽性で現在陰性なのは、以前の測定には何か問題があったのではないのか?再発時のCSF中GFAPを測定してMSとNMOを鑑別しなさい。」こんなことを言った医長の話も聞きました。「測定法なんて関係ない。抗体が陰性ならNMOじゃない。脳MRIがMS診断基準を満足しているからこのヒトはMSです。」さて、皆さんのご意見は如何でしょうか?・・・