2014年12月号 NO.1
- 最近のCENIに掲載された論文のご紹介
- 最近の邦文総説のご紹介
- 前回本誌で記載した後で発行した原著論文
- NMO再発予防薬の強さの順序
- PML発症状況
- MSとワクチン
- 羽毛布団と毛布の掛け方の上下関係
- PMLの原因薬剤はNatalizumabとRituximab
- 原因不明のPML
- 鰻の旬はいつ?
- 年齢によるNatalizumabの適応
- Natalizumabの乳汁分泌
- EMAによるNatalizumabの適応と投与法に関する勧告
- GPIFの資金を市場に回して本当に大丈夫か?
- Natalizumab治療によるCSF中の免疫担当細胞の変化
- Natalizumabの血漿交換による血中濃度とVLA-4飽和度への影響
- 日本の秋は2ヶ月だけ!?
- 最近のCENIに掲載された論文のご紹介
1). Tanaka M 6 Kinoshita M. Congress report of 2014 AAN Annual Meeting. Clin Exp Neuroimmunol, 2014;5:391-9.
2). Tanaka M. Commentary The mechanism of action of interferon-β in relapsing-remitting
multiple sclerosis: effects on Th17 and Th9 cells. Clin Exp Neuroimmunol,
2014;5:283-5.
3). Tanaka M, Tanaka K. Dose reduction therapy of fingolimod for Japanese
patients with multiple sclerosis: 24-months experience. Clin Exp Neuroimmunol,
2014;5:383-4.
- 最近の邦文総説のご紹介
1). 田中正美. 多発性硬化症の特徴と治療・看護。臨床老年看護 2014;21(5):12-20. 当院でのとりあえずのまとめ。結構なレベルの内容です。うちの副師長でも読める内容、と説明して看護施設向けの予約販売のみの雑誌に掲載させていただきました。以前、私の病棟に勤務していて現在は施設に勤めている、まだ20代のナースが偶然に職場で発見して懐かしかった、とLINEで報告してきました。
2). 田中正美. 多発性硬化症におけるフィンゴリモドの使用。日本臨床 2014;72:2010-4.
3). 田中惠子, 田中正美. 脱髄性疾患における自己抗体の意義と位置づけ。日本臨床 2014;72:2067-72.
こんなものも書いてます。患者団体である、MS Cabbinから発行されているパンフ。
1). 田中正美. Fingolimodとワクチン. リンゴチップス 2014 (4).
2). 田中正美. 投与中に感染症に注意を要する薬剤. リンゴチップス 2014 (4). ここには、RituximabのPMLについても記載しています。
- 前回本誌で記載した後で発行した原著論文 は、
1). Akaza M, Tanaka K, Tanaka M, Sekiguchi T, Misawa T, Nishina K, Kawachi
I, Nishizawa M, Mizusawa H, Yokota T. Can Anti-AQP4 Antibody Damage the
Blood-Brain Barrier? Eur Neurol 2014;72:273-277.
2). Tanaka M, Tanaka K. Anti-MOG antibodies in adult patients with demyelinating
disorders of the central nervous system. J Neuroimmunol. 2014; 270(1-2):98-9.
3). Miyamoto M, Kinoshita M, Tanaka K, Tanaka M. Recurrent myelitis in
localized scleroderma. Clin Neurol Neurosurg 2014;127:140-3.
4). Tanaka M, Kinoshita M, Tanaka K. Corticosteroid and tacrolimus treatment
in neuromyelitis optica related disorders. Mult Scler in press.
- NMO再発予防薬の強さの順序
ステロイド内服が投与直後から補体活性化を抑制するので効果発現までの速度は圧倒的で、これに変わる薬剤はありません。ゆえに、そもそも免疫抑制剤などにより治療を開始することは効果発現までに3ヶ月ほどかかることを考慮すれば、候補にはならないでしょう。Eculitumab
(Lancet Neurol 2013;12:554-62) も血中の補体をほぼゼロにしますのでPSL並の速度で効果を発現するでしょうが、コスパが悪すぎます。Tocilizumabはセンターの山村医師によれば、コストも売り、とか。確かに薬剤の価格は安いです。長期間PSLを継続できないので、PSLからの置換薬が必要です。筆者は、この効果の強さを以下のように考えています。
Eculitumab > Tacrolimus (Tanaka M, et al. Mult Scler, in press), Tocilizumab
(Neurology 2014;82:1302-6)? >> Rituximab (JAMA Neurol 2014;71:324-30)
>> Azathioprine (JAMA Neurol 2014;71:324-30)
Rituximabには以下の問題があります。
効かない患者の存在 (20-30%-理想的条件下でも17%) これが最大の理由ですが、Rituximabを使用せず、Tacrolimusを使用していてすでに英文で論文を書いています(この時点でaccept済み)。効かない原因は中和抗体の存在が大きいのでしょう。
キメラ抗体(30%はマウス蛋白由来)なので中和抗体が出現 (24.6%) PML (Natalizumab登場前は原因薬剤断トツトップ)
B 細胞の活性化や生存を抑制するataciceptの治験ではむしろ再発が増加。免疫機能をコントロールする制御性B細胞をも抑制してしまう危険性が指摘。(Lancet Neurol 2014;13:353-63; Eur J Immunol 2014;44:1247-50; Nat Rev Neurol 2014;10:182; Eur J Immunol 2014;44:1251-7) これとRTXとの関連は不明。
HBウイルス活性化による肝不全で死亡のリスク (英文のdrug informationではむしろPMLより記載の量が多いです)
自己免疫疾患に投与して、感染症で11/370例(3.0%)死亡
MGは1/5例で死亡。治療開始11.6ヶ月後に。
- PML発症状況
Natalizumab 2014年5月末現在、世界で125800例以上にNTZが投与され、うち474例のPML発症例が報告されています。死亡率は23%
(http://multiple-sclerosis-research.blogspot.jp/2014/07/clinic-speak-natalizumab-pml-update.html)。 Fingolimod 結局、診断はNMOsdと言われているルーマニアの1例。
Fumarate ドイツで化学構造が少し異なる薬剤が投与された乾癬患者で2例発症していましたが(NEJM 2013:368: 1657; NEJM 2013; 368:1950)、2014年10月にMSでも1例見出されました。
- MSとワクチン
今までも報告はありましたが、50歳以下でもMSに限定しますと、やはりワクチン投与によるリスクは認められませんでした。427例のMS患者で検討され、B型肝炎ウイルスやヒトpapillomavirus
vaccine (国内では有害事象の有無で話題ですが、MSとの関連では初めてかも?)によるMS発症リスクは認められませんでした(Lnager-Gould,
et al. JAMA Neurol, online)。
- 羽毛布団と毛布の掛け方の上下関係
TVで紹介されていましたが、目から鱗。衣服も同じですが、暖かさは空気を如何に閉じ込めて、自分の体温で温めるか、ですネ。それゆえ、毛布を羽毛布団の内側(体に近い方)では無意味で、毛布は羽毛布団の「上」にかけるんだそうな。
- PMLの原因薬剤はNatalizumabとRituximab が神経内科領域では有名ですが、MS再発予防治療として用いられている薬剤の中で、ついにフマル酸の報告が出てきました。従来は少なくとも2例の乾癬患者の報告(NEJM
2013;368:1657-8; NEJM 2013;368:1658-9)があるだけで、化合物が少し異なっていましたが、今回はドイツのMS患者さん(未発表)。Fingolimodでもルーマニア人女性で報告されています。この方はNMOsdだったそうです(2014
AAN)。
- 原因不明のPML
上記のような薬剤や基礎疾患のない患者で、突然、PMLが発症することが稀に報告されています。逆に言えば、きわめて稀な報告の場合、薬剤と関連しているかどうかは何とも言えません。ただ、なんらかの免疫抑制が一次的にでも何かとの相乗効果で出現した可能性は否定できません。目についた症例報告だけですが・・・
Neurology 1970;20:479-84; Neurology 1971;21:72-7; JNNP 2010;81:247-54;
Neurology 2011;77:297-9; J Rheumatol 2012;39:1299-303; J Neurol Sci 2013;326:107-10;
Case Rep Neurol 2013;5:149-54; Case Rep Neurol Med 2014;2014:549271
- 鰻の旬はいつ?
どうも平賀源内さんのキャッチコピーが過度に影響しているようで、鰻は夏に食べるものだ、という認識が蔓延しているようです。旬である秋にはむしろ鰻屋さんが空いている、という平賀源内がビックリするような現象が起きています。本来は夏に客が入らない鰻屋のために源内が考案したコピーなのに・・・電通や博報堂も脱帽のアイディアではあります。鰻を食べて夏を乗り切ろう、なんて。連休に金沢の「浜松」で食べてきました。浜松市や京都市内の有名店(京都市内はほぼ全店)でも食べましたが(東京は知りません)、丸谷才一さんの「食通知ったかぶり」で紹介された、新潟の「瓢亭」がやはり一番、と思います。
- 年齢によるNatalizumabの適応
1). 65歳以上の年齢層でのデータがないのでこの年齢層には投与するべきではないと主張する研究者がいます(Drug 2013;73:1463-81)。確かに、この年齢層の抗JCV抗体陽性率は日本人でもとても高いので、ほぼ全員が陽性のつもりでも良いほど。
2). 小児や若年者(思春期)では禁忌 (EMAのHP WC500044686 12 Jul 2013)。
- Natalizumabの乳汁分泌
そのため、治療中患者の授乳は禁忌とされています(EMAのHP WC500044686 12 Jul 2013)。
- EMAによるNatalizumabの適応と投与法に関する勧告
1). 対象は18歳以上で、単独投与(IFNβやコパキソン、免疫抑制剤の併用は禁忌)する。
2). IFNβやコパキソン (summary of opinion (post authorisation)12 Jul 2013)で充分な効果がない、あるいは急速に進行する病態(1年で2回以上の再発があって、脳MRIで少なくとも1個以上の造影病変の存在、またはT2病変の増加が認められる)
3). 生食100 mLに300 mg (15 mL) を溶解し、2 mL/hr以下の速度で点滴。
4). 投与後1時間は、infusion reactionの有無について注意する。
5). 4週毎に投与し、2年まで投与し、この時点で効果とリスク、特に治療継続に当たってはPMLのリスクについて再検討。
(記述以外はEMAのHP WC500044686 12 Jul 2013より) (Drug 2013;73:1463-81)
- GPIFの資金を市場に回して本当に大丈夫か?
厚労大臣の以前からの主張通りに、年金基金(平成13年度から自主運用をしています。現在の組織は年金積立金管理運用・独立行政法人: GPIF)の運用先を国内外の株式への投資割合を倍にしてほぼ半分を市場に「資金を提供」することとなりました。従来の国債を中心としたlow
risk, low returnでの運用実績はどうだったのかと言いますと、GPIFのHPによれば平成25年度の運用実績は全資産がプラスで、収益率は8.64%、収益額は10兆2207億円(ただし、運用手数料控除前なので、証券会社の取り分を除くといくらになるんでしょう?どうして実際の収益を公表しないのでしょうか?運用手数料も公表するべきです)。当然ですが、財投債では運用益がマイナスにはなりませんが、市場運用分では13年間で国内外株式ではそれぞれ5年、3年でマイナスになっています。株式市況は活況を呈するでしょうが、年金資金を増やして欲しいなんて、国民は本当に考えているんでしょうか?
運用しなくちゃいけない理由はありませんでしょ?仕事(position)を作るためですよね?危なくないか?すでに運用に失敗した民間の年金基金は大変です。
- Natalizumab治療によるCSF中の免疫担当細胞の変化
1). 形質細胞の減少(Ann Neurol 2006;59:743-7)。
2). CD8陽性T細胞よりCD4陽性T細胞の方がより減少するため、4/8比が低下(Arch Neurol 2006;63:1383-7)。
- Natalizumabの血漿交換による血中濃度とVLA-4飽和度への影響
1.5Lの血漿交換を5回施行することで血中濃度は95%以上の患者では1 μg/mLにまで低下します。この濃度は投与中止97日後に低下したときの値に相当。
血漿交換により末梢血単核球のVLA-4飽和度に直接影響はしませんが、血中濃度1 μg/mLという値は飽和度が50%以下に低下したときの数値に相当。(Neurology
2009;72:402-9)
- 日本の秋は2ヶ月だけ!?
NHKの朝7時のニュースの中の天気予報のコーナーで、前日との気温差のグラフが紹介されていました。それによりますと、9月と11月下旬に大きな谷が生じています。これが季節の変わり目なんだそうですね。気温差はもちろん緯度によって異なりますが、このパターンは緯度の異なる札幌、東京、京都で一致。ということは、秋はわずか2ヶ月で足早に日本列島を通り過ぎてしまうんですネ。