2014年10月号 NO.3

  1. 成人発症白質脳症
  2. 白糸の滝はいくつ存在?
  3. LETMの鑑別診断
  4. TEVA社による英文Copaxonの広告から
  5. Induction therapyとEscalation therapy
  6. 左心房のmyxomaの診断
  7. 日本は亜熱帯です
  8. マウスMBP特異的T細胞クローンはVLA-4/VCAM-1以外の接着分子もBBB超えに関与?
  9. 20世紀で最も有名な無名のヒト
  10. Tacrolimusの作用機序
  11. Ice Buckets Challenge
  1. 成人発症白質脳症 
    MSとの鑑別が問題となり得る疾患群のリストが出ています。ALD.AMN、CADASIL、Krabbe、MLD、CTXなど。(JNNP 2014;85:770-81)
  2. 白糸の滝はいくつ存在?  
    富士宮市が最大で、最も有名だと思われますが、軽井沢も有名。他にも秋吉台や福岡県・羽金山にもあって、いずれも細い水が流れ落ちるスタイルのようです。
  3. LETMの鑑別診断 
    Mayo Clinから出ています(Curr Opin Neurol 2014;27:279-89)。NMO以外としては、Compressive myelopathy, Sarcoidosis, Behçet disease, paraneoplatsic myelopathy, dural arteriovenous fistula, spinal infarction, B12 or copper deficiency, Alexander disease, primary spinal cord neoplasm, ADEM, infectious。
  4. TEVA社による英文Copaxonの広告から 
    Neurology Today(2012;12(19): 8-9)に掲載されていました。
    1). 特徴的な有害事象としてlipoatrophyがありますが、注射部位に出現し、治療開始後の様々な時期に出現する可能性がありますが、主に数ヶ月後。基本的に永久に残存するとされます(程度が軽ければ問題はありませんが)。治療法は知られていません。個人的には、患者数は少ないですが、常染色体劣性遺伝形式を示し、結節性紅斑や関節拘縮、高γ-グロブリン血症、筋萎縮等を呈するLypodystrophyの一群を思い起こさせます(日医新報 1991;3495:32-4; PNAS 2011;108:14914-9)。
    2). 通常用量で治療中のほとんどの患者さんで、Glatiramer acetate-reactive antibodies (中和抗体とは別なんでしょうか?) が認められ、腎糸球体で免疫複合体沈着がラットやサルで認められています。ヒトでは腎機能障害は余り知られていないようですが・・・古典的な糸球体腎炎が起きる?
    3). 治験の時のデータでは、2年後に血中IgGがbaseline時の少なくとも3倍に増加していたそうな。NMOに投与すると危険?良かったという報告もありますが (Brain. 2003;126(Pt 6):1E ; Eur J Neurol 2007;14:e12-3)。
  5. Induction therapyとEscalation therapy 
    数年前のECTRIMSから言われ始めています。MSの治療方針として、最初から強力な薬剤(DMT)を用いる、induction therapyが良いか、反応性を見ながら弱い薬剤から強い薬剤へ段階的に上げてゆく、escalation therapyか?(Willis MD, Robertson NP. J Neurol 2014, 22 June, Online)もちろん、有害事象がなければ最初からinduction therapyをやれば良いわけですが、ことは容易ではありません。患者さんたちには、MS治療は金融商品と同じです、とよく言います。”Low risk, high return”はない。”high return”を求めるなら”high risk”を覚悟しなければいけない、と。

  6. 左心房のmyxomaの診断 
    この疾患もMSとの鑑別上重要(Lancet Neurol 2006;5:841-52)。最近も62歳の症例報告(Quan, ZhangBao, Luo, et al. Mult Scler, in press)があって、これに対するLetterも出ました(Wattjes MP. Mult Scler, in press)。大脳病変だけでなく、網膜動脈につまると、視神経炎と間違うこともある、と(Am J Neuroradiol 2005;26:666-9)。脊髄病変がないことがMSではない可能性を示唆するといっても、1回のMRIで所見がないことなんてザラ(全経過をみればなにかあるかもしれないけれど)。で、このLetterを書いたヒトはオランダの方なのですが、editorial board of European Radiologyなんだそうで、血管病変ではなくてMSの血管周囲性脱髄病変の描出には、susceptibility-weighted imaging (SWI)とFLAIRを組み合わせた画像が良いそうな。これをFLAIR*と言うんだそうでありますよ。Full paperも出ています。でもこっちは7 Teslaだけど・・・(Eur Radiol 2014;24:841-9)
  7. 日本は亜熱帯です 
    子供の頃は夏でも30℃以上になることはあっても、35℃以上なんて聞いたことがありませんでしたが、今や40℃です。  
    70年ぶりに(この数字にご注目!1942-45年、南方からの帰国者が持ち込んで以来)海外渡航歴のないデング熱国内10歳代発症例(埼玉県在住)が2014年8月27日に報告され、翌日には同じ学校の生徒、20歳代の男女2名の感染も明らかに。学園祭でのダンスの練習中、東京・代々木公園で刺されたらしい、と東京新聞電子版が伝えました。同じ場所にいたとは言え、ちょっと多いですね。9月1日には予想を超えて、19名の感染者がいることを厚労省は発表。いずれも代々木公園内か近くにいたことが判明。これ以上に感染者がいる可能性が示唆されていて、公園内でロケをしていた芸能人2名の感染も19名以外に存在していることが同日には判っていて、厚労省は複数の蚊の存在を示唆。患者が国内に分散したことで、それぞれの地域の蚊にウイルスを拡散させてしまう危険性が出てきました。  
    デング熱を媒介するヒトスジシマカ(幸いなことに、この蚊の体内でのウイルスの増殖力は他より弱いんだそうでありますよ。この蚊の生育地域は急速に北上していて、いまや青森県の一部が北限)は日本では越冬できないので、定着はできず、毎年200名ほどの帰国者が国内で発症しているだけ。今回は帰国した患者の血液を吸った蚊が埼玉の子を刺して感染させたのではないか、と言われています(そんなにたくさんこの条件を満足する蚊がいる?)。ところが、他のニュース番組などでは紹介されていませんでしたが、2013年に京都などを旅行したドイツ人の観光客が帰国後に発症していて、同じようなケースのか、暖冬なので媒介する蚊が越冬できるようになったのか・・・後者の可能性も否定できないのは、関西空港周辺では南米原産の毒蜘蛛が既に定着しています。そのうち、マラリアも・・・?  “dengue”の語源はスペイン語の”denguero”(引きつり、こわばり)(スペイン語がWikipediaでは間違っているようです)に由来しているそうで、severe painのために気取った歩き方をするため。西インド諸島の奴隷たちがダンディーな歩き方をするというので、”dandy fever”とも呼ばれるそうですね。(読売テレビ「すまたん」2014/8/28放映より)
  8. マウスMBP特異的T細胞クローンはVLA-4/VCAM-1以外の接着分子もBBB超えに関与? 
    Anti-VLA-4であるNatalizumab治療中に稀ですが再発することがあり(投稿中)、VLA-4/VCAM-1以外の接着分子の関与も想定されています。in vitroですし、SJLマウス脳微小血管由来血管内皮細胞ラインを使用した人工的なシステムですが、この可能性を示唆したデータを出したことがあります(J Neuroimmunol 1993:46:253-8)。リンパ球クローンは酒井先生が神経センターで確立された、国産クローン。故に、最後のauthorはDr Tabiraでした。
  9. 20世紀で最も有名な無名のヒト 
    中国天安門事件の際に、広場に突入しようとする人民解放軍の戦車にワイシャツ姿で一人で立ち、進行を妨害した大学生のような若者がいました。この時、中国政府は珍しく海外メディアの取材を許可していために、全世界にこの行動が映像として配信され、感動を与えました。しかし、この子はその後、中国公安当局に拘束され、行方不明になっています(これはTBSが「ニュース23」で公式に報道したこと)。中国国内へ投資をするときに「チャイナリスク」という言葉が生まれましたが、そんな生やさしい言葉で表現するべきではありません。中国国内では生命をかけた行為を強いられる危険性は外国人にもあります。
  10. Tacrolimusの作用機序 
    NMOでのTacrolimus治療について2014年の金沢市で開催された神経免疫学会で発表しましたが、すでに投稿しています (Tanaka M, Kinoshita M, Tanaka K. Corticosteroid and tacrolimus treatment in neuromyelitis optica related disorders. Mult Scler in press)。ステロイドでinduction therapyを行い、2ヶ月目にはTacrolimus併用を開始し、PSL治療開始6ヶ月後にはPSL 5 mgまで減量可能です。Tacrolimusの血中濃度のコントロールがちょっとめんどいですが、きちんとコントロールできれば再発を起こす患者さんの割合を5%以下にまで可能です。  
    作用機序は基本的にはIL-2を介しているはずですが、抗体は直ちには陰性化しないので、B細胞への間接的な作用が一次的とは考えられません。根拠はありませんが、おそらくは抗体や補体をCNSへ入れるBBBの透過性亢進に関与する、ヘルパーT細胞への効果ではないかと考えられます。たとえ、このヘルパーT細胞への作用が強力でも、すでにCNS内に入ったencephalitogenic T cellsには作用しませんから、効果発現には3ヶ月程度はかかるでしょう (NatalizumabやFingolimodの効果発現に必要な期間と同じでしょう。ヒトによってはNatalizumabのほうがFingolimodより効果発現が早い、という印象もあるようですが、微妙な違い)。PSLの代わりに単独でinduction therapyに使用することは危険と思います。
  11. Ice Buckets Challenge  
    親族にALS患者がいた、プロゴルファーのクリス・ケネディさんが7月15日に最初に氷水を頭からかぶってALS教会に寄附をしたんだそうですね。  
    ブッシュ前大統領もかぶって、ALSを知って欲しい、ALS協会のHPを見て欲しい、とYoutubeで呼びかけました。多くの有名人がこのキャンペーンに参加。氷水をかぶるか100ドルを寄付するか、という選択ですが、ほとんどの有名人は両方を行ったそうです。かぶった後で、3人を指名(きちんとこのルールを守ると仮定すると、3週間で100億人に達します!)。指名されたら、24時間以内にいずれかを選択する、というルール。ビル・ゲイツ、レディー・ガガ、トム・クルーズ、孫正義(ソフトバンク)、田中将大、浜あゆ、笑福亭鶴瓶さんなどが参加。ブラジルのネイマールは今年のワールドカップで自身の腰椎骨折の原因の相手であるコロンビアの選手を指名して、美談とされました。一方で批判もあって、タレントの武井 壮さんは、「他の難病で苦しんでいる人がいる、衛生的な水が手に入らない人がいる、寄附は勧誘やキャンペーンでは行わない。」と参加を拒否し、一定の支持を集めました。ただ、逆に、全ての難病に寄附ができるのか?そもそも難病の定義とは?水飢饉地域では水自体が貴重品ですが、発展途上国で米国のALS協会への寄附を期待はしないはず。キャンペーン自体は大成功でしょう。武井クンはALSって知ってました?上記の発言以降でも、ALSを勉強しました?知る機会にはなったはずです。いや、知らないから寄附をしない、勧誘されなければ知らないところには興味はない、ということが真意なのでしょうか?様々な理由で参加を拒否すること自体、自由ですが、武井クンの根拠は小学生レベルでちょっと悲しい。米国政府は国務省や国防総省職員などに「特定の利益にために公職を利用してはならない」と通達(これは正しい)。武井クンは該当しませんが、有名人であっても、立場上やれないヒトはいるでしょう。大阪市長の橋下さんが市長の立場では参加しないと拒否したことも、珍しく大人の対応で正しい・・・かな。  
    大人の対応をしていない人たちがいます!サムスンの英国法人は防水加工をしている自社製品に水をかぶせ、非防水のiPhoneなどを指名。慈善活動を宣伝に利用したとして批判が出ています。せこいな、韓国系企業は。英国では崖から池に飛び込んだ18歳の少年が溺死して初めての死者も。  
    すでに1ヶ月で70億円以上が米国ALS協会に寄付が集まり、日本ALS協会にも1週間で1000万円の寄付が寄せられたそうです。ある日本人研究者は研究費が少ないので、ALSの研究が進まないのだ、とメディアに述べたそうですが(TBS系列「あさちゃん!」2014年8月26日放映より)、1兆円の研究費があれば進むのか、誤解の元。ALSは究極の変性疾患。21世紀中にせめて進行を止める治療法の開発ができるでしょうか?