2014年10月号 NO.2

  1. Natalizumabの夕べ
  2. 「望郷」(森瑤子 角川文庫)
  3. 紀伊國屋書店HPでの本棚
  4. McDonald診断基準の誤解
  5. 木曜日の妻たちは不倫する!
  6. NMOの病理への疑問
  7. Ebola hemorrhagic fever
  8. 北国では子供が多いか?
  9. 「出ない順 試験に出ない英単語」
  1. Natalizumabの夕べ  
    2014年AANの会期中に2013年12月に改訂されたNatalizumabの効能書に関する説明会がありました。説明したのはChicagoのRuth Med UnivのAssociateの方。PMLの3つのrisk factor (抗JCV抗体陽性、投与期間24ヶ月以上、免疫抑制剤使用歴)は米国での危険因子とされました。欧州では適応されない、っつうことですね。つまり、免疫抑制剤使用歴に関しては・・・ということ。これに関して英文で投稿中です。  

    抗JCV抗体の年間自然陽転化率は、公式には3-8%とされました。中には30%という報告もありますが・・・メーカーとしては・・・ということでしょうか?  

    ヘルペス脳炎、髄膜炎のリスクがあることが明記されました。単純も帯状疱疹もリスク。  
    肝機能障害にも要注意。  
    Hypersensitivityとしてはアナフィラキシーが1%以下に出現。2時間以内に出現するそうな。さらに注意するべきは、治療開始3ヶ月ほどで出現するとされる、抗Natalizumab抗体が血中に存在するとアナフィラキシーの頻度が高くなる、と。  
    感染症のリスクは高くなるそうです。3%で認められる、と。感染症の治療中、NTZを中止する必要はない、と。とはいっても、1ヶ月に1回の投与ですしねえ、そんなに長期間、抗生剤治療が終了しないと困るけど・・・抗生剤と一緒にNTZ投与しても構わない、という意味なんでしょうが、1週間程度で治療が終了する感染症なら、待ってもいいんじゃないか、という気もします。NTZを投与すると、回復に時間がかかるのかどうかは不明ですが・・・

    彼は、適応について以下の3条件を挙げていました。変わり映えはしませんが。
    1). 活動性の高い未治療患者
    2). 他のDMTで効果の乏しい患者あるいは投与できない患者
    3). そのほか
  2. 「望郷」(森瑤子 角川文庫) 漸く読み終えました。戦争をはさんでニッカウヰスキー設立までが主で、生活や経営が安定した直後にスコットランド出身の竹鶴夫人は亡くなっているのですね。今秋始まるNHK連続テレビ小説「まっさん」は竹鶴夫婦がモデルだそうな。日本初のウイスキーを作るために工場長として迎えた、寿屋(ことぶきや・サントリー)は鴨居商店という名前になっています。寿屋から独立する時の理由も小説では語られていますが…1956年に創刊した、チェーンバー向けPR誌「洋酒天国」の編集長が作家の開高健だったことは有名。
  3. 紀伊國屋書店HPでの本棚 
    「京都と医療と人権と」という本棚を維持していますが、9月7日の北國新聞書評欄で紹介されていた以下の本を追加しました (もちろん、全てではありません)。こんな本を紹介しています。もちろん、自分で本屋さんで良いな、と思った本も紹介しています。ごく一部には、自衛隊出身者や右翼の(一緒にしては拙いかもしれないけれど)本も紹介しています。
    カルダー「ワシントンの中のアジア」中央公論社
    清水義範「アキレスと亀」広済堂文庫
    石原壮一郎「大人の当たり前メソッド」成美文庫
    フォックス「脳科学は人格を変えられるか?」文藝春秋
    桐野高明「医療の選択」岩波新書
    長嶋修「『空き家』が蝕む日本」ポプラ新書
    バゼロン「ある日、私は友達をクビになった」早川書房
    島田雅彦「往生際の悪い奴」日本経済新聞出版社
  4. McDonald診断基準の誤解  
    この診断基準に合致しないとMSとは言わない、あるいは逆に、この条件を満足すればMSといって構わない、という誤解があるようです。この点については、Mayo ClinicのProf Weinshenkerも心配していらっしゃいました。
  5. 木曜日の妻たちは不倫する!   
    「花木」はウズウズする?いえ、ドラマの話ではありますが・・・私の周辺でも配偶者から病院に怒鳴り込まれた医師を2名知っています。不思議なことに、同じ診療科。神経内科ではありません。不倫する妻を演じているのは、「昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜」(フジテレビ)(「昼顔族」とか「昼顔妻」なんていう言葉を流行させたかったようですが、成功していないようです。フジも落ち目?)の上戸彩さん、吉瀬美智子さん、「同窓生」(TBS)の稲森いずみさん(井上由美子脚本の台詞は刺激的)。出産後でも吉瀬さんのおみ足は美しい!
  6. NMOの病理への疑問
    1). 補体が沈着していない病変の存在は、補体を標的とした、Equlizumabのような治療の限界を物語っているのでしょうか?
    2). NMOでの特徴的な視野障害として、水平性半盲を近畿大眼科の中野教授が言い始めました。私たちは全国調査の一環で自験例の調査をしていて、きわめて稀だと思っていた水平性半盲が意外に存在していることを知り、報告しました(神経内科 2013;78:118-21)。この発症機序が不明で、京大の神経眼科のグループでも検討していただきましたが、当方が想定していた血(脈)管障害、それも視交叉に近い部位ではなくて、眼球に近い遠位部に存在しているとしか考えられない、という結論に至ったことがあります。脳や脊髄の血管にIgMが沈着していることは当初から報告されています。これは何に対する抗体なのか不明ですが、視神経と同じように血(脈)管障害が存在しているものなのでしょうか?臨床症状も起こしうる病変?
    3). Misuらは、NMOで認められる病理変化を6型に分類し(Acta Neuropathol 2013;125:815-27)、Mayo ClinicのLucchinetti教授も評価しているようです。これらの病理所見のパターンはLucchinetti教授が示した、MSの4病型のように、患者さんごとに病理型が異なるのでしょうか?だとすると、治療法は統一できないことになりますが・・・
    4). NMOの病理所見の古典的な主要所見は壊死ですが、これをもたらすのは抗AQP4抗体によるastrocyteへの細胞障害単独で説明可能なことでしょうか?BBB外部からのリンパ球などの白血球浸潤による二次的な影響でしょうか?後者であれば、壊死が起きる前にBBB破綻を修復できれば影響を少なくできるかもしれません。PSLや免疫抑制剤治療中の減量過程で起きた再発では意外にステロイドパルスが効くのは、前者だけでは説明できないような気がします。
    5). Lucchinettiらはastrocyte傷害によるglutamate脱髄機序(Brain Pathol 2014;24:83-97)は必ずしも支持されてはいないようです。Uhthoff現象は脱髄病変の存在を示唆します。私たちは自験例でのアンケート調査から、MSとNMOとではuhthoff現象に頻度や臨床所見に差異はないことを報告しています(Park K, et al. Eur Neurol, in press)。MSとNMOの脱髄機序の差異について、病理学的立場から示唆できる所見はないのでしょうか?
  7. Ebola hemorrhagic fever が止まりません。8月25日現在、死者は1400人以上。28日には1550人以上と留まるところを知らず。現地ではマラリアや腸チフス、ラッサ熱と間違うことがあるほか、従来の中央アフリカではなく、ナイジェリアやリベリア、シエラレオネといった未経験の西アフリカ地域で発症したため、政府にも対策がなく後手後手に。現地では西洋医学への不信感があるため病人を隠す傾向が強く隔離も困難。死者を弔う際に体に触れる風習があるため、家族や親族、地域に住む人々に急速に拡大。従来は中央アフリカの田舎に限局していましたが、今回はすぐに首都に飛び火したために急速に拡大したとされます。地域で最大の病院が閉鎖されたり、医療関係者は疲労が蓄積し注意が不完全となり11名ものナースが集団で感染してしまう事態にも。今回の流行の発端は2歳男児が野生のコウモリかサルから感染し拡大。国際赤十字が撤退した後でも残る国境なき医師団でももはや対応できる事態ではありません。多くの国の政府が対応に参加する必要があります(対イスラム国も同じですね)。(NHK「クローズアップ現代」2014/8/25でも報道されました) また、現地ではQuarantine (検疫) とisolation (隔離) が混同されたことも大きかったようです。今や、ネットでも問題ですが、不正確な情報に惑わされないためにも教育は大切。  
    WHOはSierra Leoneから一時的ではありますが、スタッフの撤退を8月26日に発表。現地では240名以上の医療関係者が感染し、120名以上が死亡。セネガルの疫学研究者も感染。Sierra Leoneではボランティアで働いていたナースが抗体陽性となり、未承認のZMapp治療を受けるためにRoyal Air Force cargo planeで英国に帰国。FUJI Filmのインフルエンザ用に開発された抗ウイルス剤(T-705)にも効果があるようなので、FUJI Filmの株も上がる?元々はToyama Chemicalsが開発した薬剤。菅官房長官(Suga, Chief Cabinet Secretary)WHOに協力する旨を伝えています(既に現地に送られた、という情報も)。カナダは実験段階のエボラワクチンをWHOを介してアフリカへ寄附。ロシアはGuineaにエボラ診断用の実験室を寄附。(以上はProMedで8/26に寄せられたメールから)
    ZMapp治療を受けた医療関係者のうち、西側2/3名(既に退院)、アフリカ人医師2/3名は生存。感染者がは万人を超える、というWHOによる見通しが8月28日に出されました。  
    9月初め、死亡患者数が遂に2000名を超え、国境なき医師団はもう自分たちの守備範囲を超えていると悲鳴を上げています。
  8. 北国では子供が多いか? 
    神経免疫学会・神経感染症学会合同集会でMSとキス病の原因ウイルスとしても有名で、性行為関連疾患でもあるEBVの話題をしゃべった際に、北国では10-20歳代での抗EBV IgM抗体の陽転化率が高くはないのか、と他のシンポジストから質問を受けました。EBV浸透率自体の年齢別、経年変化といった全国レベルのデータが行政レベルでそもそもありません。伝染性単核球症の緯度別頻度の違いもないと思います。で、その際には、その質問に際してNY大停電の後で赤ちゃんが同時期の大勢誕生したエピソードを連想したことをお答えしました。寒くて他にやることがない、とは言いませんが、室内に閉じこもる時間が九州・沖縄よりは北国では長い可能性があります。北国では出生率が高いのでしょうか?30年ほど前、新潟市郊外の砂丘に理学部、農学部、人文学部を統合しましたが、周辺には学生が集まれるような居酒屋のような店も当時は全くなかった、新潟大学の五十嵐キャンパスでは男女大学生の同棲率が全国一位だったことがあり、まんざらないとは言えないかもしれません。で、さらに飛びますが、妊娠する可能性もあるでしょうから(アンケート調査数が10例ほどですが、副産物として判明したことで、当院の30代前半未満の看護職員の4割ほどはできちゃった婚)、合計特殊出生率の都道府県別数値をみてみました。  
    厚労省の「人口動態統計」(2011年)が出て、都道府県別の合計特殊出生率がメディアで話題になりました。全国平均が2005年の1.26よりやや持ち直し、1.39になりましたが、人口維持に必要とされる2.08より相変わらず低く、東京都は全国最下位で、1.12。毎年4月、若者が東京の大学に全国から集まってきますが、次世代には男女1ペアから生まれる子供はほぼ一人っ子なので、東京に来る集団では次世代に人口が半減する事態。生みたくても保育待機児童が多い上、保育を依頼すると幼児一人に月16万円かかるので、とても二人目は産めないんだそうな。

    さて、緯度との相関ですが、計算する気も起きないほどバラバラですが、全国平均を下回っているのは関東甲信越以北(東京、埼玉、神奈川を含むとは言え)では10/17で、中国四国以西では1/19に過ぎません。さすがに近畿は低く、滋賀と和歌山以外は全国平均以下(兵庫は都市圏だけではないためか、1.40とほぼ平均値)。緯度とセックスの関連はむしろ想定の逆。日本テレビ系列「月曜から夜ふかし」での都道府県別童貞%とか、セックスの相手人数では南の方が多かったことと相関?寒くて他にやることがない条件よりも、肌の露出面積などの刺激性や解放感のほうがより重要であることを示唆?  
    ちなみに、日本でもMS患者有病率は緯度と相関しますが、紫外線照射量だけでは説明しきれないことを私たちは神経免疫の楠班で以前、報告しています(submit中)。EBVかどうかは不明ですけどネ。
  9. 「出ない順 試験に出ない英単語」 (飛鳥新社)が日本テレビ系列読売テレビの朝の情報番組「すまたん」で紹介されました。例文が斬新で、こんなことが書かれているそうな。 “今晩ご一緒に匍匐(ほふく)前進どうですか?
    駅近くに危険地帯を見つけたんですよ。 Could you do an army crawl with me past the station tonight? It`s dangerous there.” “部長は真っ裸でサンタクロースを追いかけていた。 The department manager tried to tackle the Santa Claus while completely naked.” (http://matome.naver.jp/odai/2135134984509055501より)