2014年9月号 NO.3

  1. Recombinant TNF受容体-IgGの治験
  2. サッカーのワールドカップでドイツが頑張ってます
  3. 「やさしい多発性硬化症の自己管理
  4. 日本のイスラエル化
  5. NatalizumabからFingolimodへswitch直後にrebound した症例報告
  6. Natalizumab投与後のFingolimod治療中の再発
  7. Natalizumab中止後に再発しうる
  8. 街中で注意すると・・・
  9. ○○に怒られますよ
  10. Natalizumab治療後の抗JCV抗体のリスクは免疫抑制剤の使用歴と関連しない
  11. Natalizumabのnet benefit-risk analysis
  12. Natalizumabによる血小板減少
  13. Drug-induced immune thrombocytopeniaの機序
  14. 2014年日本文具大賞
  15. Fingolimodは怖い夢を軽減?
  16. 肉を1時間漬けて軟らかくするには、タマネギかヨーグルトか?
  17. 脳の神経細胞は再生するのか?
  18. 透析不開始や中止も
  1. Recombinant TNF受容体-IgGの治験
    有名な失敗例ですが、今日でもこの教訓は生きています。同じことがAtaciceptでも起きたことは前号でご紹介しました。  

    in vitroでTNFαがoligodendrocyteに対して細胞傷害能を有することは古典的に有名です。現在、ポーランドに帰国してMSの治験も精力的に行っている、SelmajさんのProf. Raineとの仕事(Ann Neurol 1988;339-46; J Neuroimmunol 1988;18:87-94)は良く知られています。Lenercept, a recombinant TNF receptor p55 immunoglobulin fusion protein (sTNFR-IgG p55)はEAEに対して抑制効果があったため、168例のMS患者を対象に、double-blind, placebo-controlled phase II studyが48週間行われました(Neurology 1999;53:457-65)。

    その結果、作業仮説とは異なり、3種のうち、10 mg群では有意ではありませんでしたが、50 mg、100 mg群ともplaceboに対して有意に年間再発率が増加しました(それぞれp = 0.0006, p = 0.006)。ARRはplaceboで0.96、10 mg群で1.00、50 mg群で1.64、100 mg群で1.47でした。  

    ところが、Ataciceptと同じように、脳MRI活動性のある病変数も患者の割合もplaceboと有意差なし。再発とBBB破綻の機序の違いを物語っています。Selmajらがこの論文でdiscussしているのは、薬剤を投与した直後にMRIを施行していれば造影病変を検出できたかもしれない、という技術的な問題。というのは、2例のMS患者に抗TNF抗体を投与した直後のMRIでは造影病変が検出できたけれども、2-3週後には元に戻った、という報告(Neurology 1996;47:1531-4)があるため。  

    しかし、上記の現象はFingolimod中止時とも似ています(神経内科 2013;79:400-10)。ただ、この時は半減期が長いため、末梢血中のリンパ球の回復が緩やかということも加味されますが。再発の頻度と造影病変数とが相関しない現象は同じ。前号でご紹介したAtacicept論文でのdiscussionが科学的でもあり、面白いでしょ?
  2. サッカーのワールドカップでドイツが頑張ってます

    ドイツ代表の7/30人がバイエルン?2013年からブンデスリーガ・バイエルン・ミュンヘンの監督に、スペインリーグのバルセロナ全盛時代を監督として築いた(カンテラ出身で、バルサの精神的支柱と言われた、CBのブジョルもいました)、グラウディオラが就任しています。就任後からFIFAクラブワールドカップ2013やブンデスリーガ最速優勝を達成。ただ、2014年4月のチャンピオンズリーグ準決勝でレアルに敗北。DFBポカール決勝は制したそうな。


  3. 「やさしい多発性硬化症の自己管理」

    よりよい毎日を過ごすためのQ & A」 (深澤俊行編、医薬ジャーナル社) 深澤医師の拠点である、札幌の「医療法人セレスさっぽろ」の看護部長や師長さん、リハビリスタッフ、管理栄養士の分担執筆。現在、病院建設中、という噂が流れています。


  4. 日本のイスラエル化

    米国では、近隣諸国ともめ事を起こす、やっかいな同盟国として、日本を論じる論調が出ている、とTVで報じていました(番組を忘れました)。イスラエルと一緒かよ!と思いますけどね。


  5. NatalizumabからFingolimodへswitch直後にrebound した症例報告 が出ています。(Neurology 2008;70:1150-1; Neurology 2012;78:928-30; Neurology 2012;79:2004-5; Neurology 2012;79:2000-3)
  6. Natalizumab投与後のFingolimod治療中の再発

    日本では発売の順序が欧米と逆になったため、世界でも例のない、FingolimodからNatalizumabへのswitchという可能性が出てきて、果たしてFingolimodは免疫抑制剤か、という問題が出てきました。骨髄抑制はないので取り扱いは違うでしょうが、Natalizumabのriskになるかどうかは別問題。  

    Natalizumab治療後にFingolimodへswitchした場合、最初の再発までの時間はFTY開始するまでの6ヶ月間の再発数に依存(Hazard ratio 1.59 per relapse, 1.19-2.13, p = 0.002)するという報告が出ています(Neurology 2014;82:1204-11)。PMLを考慮しないで再発のリスクだけを考えると、最大2ヶ月以内にswitchすると再発のリスクが低いことも示されています。2-4ヶ月のwash out期間をあけると、gapのない場合よりリスクがわずかですが出てきます(HR 2.12, 1.04-4.32, p = 0.040)。


  7. Natalizumab中止後に再発しうる という報告があります。 (Neurology 2008;70:1150-1; Arch Neurol 2011;68:186-91)
  8. 街中で注意すると・・・
    「セブンイレブン」のロゴって知っていますか?「7」の字の上に横に「11」を英語で重ねていますが、数字自体ではロゴにならないため、工夫されています。”ELEVEn”と最後だけが小文字表記であること。サントリーも同様なんだそうで、”SUnTORY”。注意すると、いろいろなモノが発見できるかも。(日本支社長がお書きになった本、「リッツ・カールトン 至高のホスピタリティ」角川oneテーマ21より)
  9. ○○に怒られますよ
    子供に注意をするときに、「そんなことをしていると、誰々に怒られますよ。」と言う母親がいますネ。自分では注意はしないけれど、誰かに怒られるから止めた方が良い・・・知られなかったら、あるいは知られるまではやっても良い、ということにならないでしょうか?子供に妙な学習をさせる機会になってはいないか、心配です。自分で注意しましょう。こげなお馬鹿な母親、自立した市民から構成された欧米には、いないわなあ・・・
  10. Natalizumab治療後の抗JCV抗体のリスクは免疫抑制剤の使用歴と関連しない という報告が複数出ています(Ann Neurol 2011;70:742-50, Neurology 2012;78:1736-42Mult Scler 2011;10(Suppl):P520)。
  11. Natalizumabのnet benefit-risk analysis
    MLのriskをDMT別に解析した論文で、quality-adjusted life years (QALYs)という指標で表現しています。この指標が理解しにくいのですが、natalizumabはどのDMTよりPMLのriskを考慮しても、net health benefitsが高いと評価されています。あくまでも「間接比較」であることを頭の隅に置いて・・・  
    fingokimod、」IFNβ、治療しないという3群で、natalizumabはそれぞれ
    2年間で、4.6-84.2倍、24.0-444.3倍、5.7-106.1倍
    20年間で、1.4-123.4倍、1.5-138.3倍、2.2-193.7倍  
    抗JCV抗体陽性群で、免疫抑制剤使用歴のある場合とない場合とで、治療効果にPMLのriskの加えた場合、2年間の治療期間でfingokimod、」IFNβ、治療しないという3群で、natalizumabはそれぞれ 4.6と13.0倍、24.0と68.4倍、5.7と16.3倍  という、ちょっと判りにくい論文が出ています(Curr Med Res Opin 2014;30:629-35.)。
  12. Natalizumabによる血小板減少
    10年の経過を有するRRMSの52歳女性。IFNβ1aとGAの使用歴があり、前者で109000まで血小板が減少したという既往歴があります。中止後に元の値に戻ったそうで、natalizumabに変更。3回投与後に重篤な注射関連有害事象が発生し (測定していませんが、この時点で抗natalizumab中和抗体が出現した可能性があり、IFNβ1a投与時から抗体が産生しやすい背景があったのでしょう)、全身の紫斑が出現。Natalizumab中止3週後が血小板の最低値、43000を呈しています。出血性合併症はなかったそうな。ステロイドパルス (1g x 5 days) と内服薬 (1 mg/kg/day x 2 weeks) の後療法しましたが、回復が悪かったため、rituximabを投与 (1 gを2週間間隔で投与して6ヶ月ごとに反復) し、Rituximab投与開始30日後に血小板数は回復 (Cachia, Izzy, Berriosmorales, et al. BMJ Case Rep 2014, in press)。
  13. Drug-induced immune thrombocytopeniaの機序
    1. Immune-complex formation
    2. Hapten formation
    3. Autoantibody formation
    4. Drug-specific antibody formation
    5. Fibran-type drug mechanism
    6. Quinine-type drug mechanism (N Engl J Med 2007;357:580-7)

  14. 2014年日本文具大賞
    機能部門グランプリは(株)ソニックの「ラチェッタ ワンハンディ鉛筆削り」で、鉛筆を回す方向が一方向ではなく、向こう側こっち側と往復できるので鉛筆を持ち帰る必要がありません。便利ではありますが、学校で鉛筆ってそんなにまだ利用されているのでしたか?デザイン部門グランプリは(株)呉竹「ZIG メモリーシステム ウイング オブ ブラッシュ」。機能が今ひとつ不明確ですが、外観の美しさと濃い色の紙にも書けるメタリックな鮮やかな発色が特徴。他に、プラス(株)ステーショナリーカンパニーの「マーキングテープモジライナー」はクレヨンのような色で一様に着色されるのではなくて、細かくまだら状にマーキングされます。ゼブラ(株)の「水拭きで消せるマッキー」など。
  15. Fingolimodは怖い夢を軽減?
    マウスの実験です。Fingolimodは細胞の核の中でsphingosine kinase 2 (SphK2)によるリン酸化の後、class I histone deacetylases (HDACs)を阻害します。Fingolimodは内服後、正常のBBBを超えて脳に入りますが、海馬のHDACsを阻害します。Sphk2をノックアウトしたマウス(Sphk2-/-)があって、内因性HDAC阻害作用のある海馬のS1Pがないため、恐怖を感じる記憶を減弱する機能が障害されているんだそうな。リン酸化されたFingolimodは恐怖を感じる記憶を減弱させる作用があるらしいことが判明(Hait, Wise, Allegood, et al. Nature Neurosci 2014, in press)。ヒトでも同じ作用があるかどうかは不明ですが、HDAC阻害作用のある薬剤は精神科領域で使用されているそうです(Nat Rev Drug Discov 2008;7:854-8; Trends Pharmacol Sci 2010;31:605-17)。NightmareやPTSDの治療に応用できそうですし、精神科病棟での治療の必要性や社会への不適合のために社会問題にもなっている、イラクやアフガンからの帰還兵にも利用できる可能性がありそうです。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は、アセチル化されたヒストンタンパク質からアセチル基を除去してクロマチン構造を形成させることで遺伝子の転写を抑制する作用を示しますが、バルプロ酸にもHDAC阻害作用があることが知られていて、山中教授のマウスiPS細胞の効率的な誘導に利用されたこともあるそうです。
  16. 肉を1時間漬けて軟らかくするには、タマネギかヨーグルトか?
    シャリアピンステーキの印象のためか、筆者はタマネギだと思っておりましたが、肉を軟らかくする酵素はタマネギには余り入っていないんだそうで、ヨーグルトが正解。かみ切る力(棒状の器具で圧力を加えます)を測定すると、未処理で1.6 kg、タマネギは1.5、ヨーグルトでは1.1。乳酸の力だそうでありますよ。  

    家庭で作るチャーハンのコツは? Triadです。
    1). 炊きたてのご飯を使用
    2). 先に卵を炒める
    3). 余りかき混ぜない (日本テレビ系列 「世界一受けたい授業」 2014/7/19放映より)
  17. 脳の神経細胞は再生するのか?
    TBS系列「夢の扉」で2014年7月13日に、田口明彦先端医療センター 再生医療研究所 再生医療研究部長の仕事が紹介されました。先端医療センター長は鍋島陽一先生(新潟大卒、元京大教授)。番組の冒頭で、1906年のノーベル賞受賞者・解剖学者、サンティアゴ・ラモン・カハール博士の「カハールの呪い」とも呼ばれる言葉が紹介されました。「成熟した脳の神経細胞は死ぬことがあっても再生することはない」これは100年間、脳医学の常識とされ、「脳の神経を再生させる」という発想を妨げてきたと述べ、過去の常識にとらわれない発想として田口先生の仕事を紹介しました。自己造血幹細胞を骨髄から採取して投与することで血管新生を促進させ、機能回復を図るというもの。すでに、脳梗塞9/12例で著明な機能回復したことが臨床試験で認められ、チャンピオンケースなのかもしれませんが、6ヶ月間で著明な脳血流が改善し、歩行可能になった患者さんが紹介されました。2つの疑問が生じます。

    1). 番組の構成から、脳の神経細胞が再生したかのように紹介されていますが、証拠はないようです。ホンマでっか?
    2). 血管新生することは番組で紹介された末梢血管の例からは明らかですが、中枢神経でも新生したのかどうか、番組の内容だけからは不明です。SPECT所見は明らかに変化していますけどね。最も重要なことは、機能回復したことが幹細胞移植と関連しているか否か・・・神経細胞が再生しなくても、機能回復できるなら、それで良いですけどね。機序の解明は後から付いてきます。
  18. 透析不開始や中止も
    日本透析医学会は2014年7月9日までに、本人の意思が明らかな場合は人工透析を始めないことや中止することも選択肢とする提言をまとめたことを共同通信が伝えました。2013年末時点で慢性透析患者は31万人を超えていて、新たに透析を始める患者の平均年齢は68.7歳と高齢で心筋梗塞などの合併症を伴う患者が増加しているそうです。糖尿病などが存在しているのでしょうか?サッチャー政権下の英国でしたら、生活習慣病による腎不全が圧倒的に多い年代のため、そもそも自己責任だとして透析の適応外。透析が登場した初期の倫理問題、限られた機器を誰に使用するか、という倫理問題(機器の数や職員数、医療保険費など)と規模が大きくなっただけで共通しています。関係団体自身が発言していることに注目したいですね。