2014年8月号 NO.2

  1. CyclophosphamideはNMOには効かない
  2. この60年間で1840名の自衛隊員が死亡
  3. Natalizumabをいつ中止するか? 今でしょう?  
  4. 6月23日は「慰霊の日」
  5. SPMSを対象としたNatalizumab治験(ASCEND trial)始まる
  6. オペラ「アイーダ」の凱旋行進曲が何故日本のサッカーの応援歌?
  7. Natalizumab治療後に抗AQP4抗体が陽転化
  8. 体長2.7mのホオジロザメを飲み込んで580mまで一気に潜った怪物  
  9. Natalizumab中止後の再発  
  10. 自民党都議の女性差別発言  
  11. Paraneoplastic NMO  
  12. 「星星の火」(福田和代)  
  13. ナタリズマブ発売記念講演会
  14. Soluble CD163  
  15. 「国境のインテリジェンス」(佐藤 優、徳間書店)  
  16. 小児MS/NMO診断のポイント
  17. サッカー・ワールドカップで日本人サポーター賞賛の嵐
  18. NMO IgG陰性の再発性LETM12例中6例で抗AQP4抗体陽性  
  19. 科学は何故、捏造されるのか?
  1. CyclophosphamideはNMOには効かない
    B細胞に対する細胞障害作用だけではNMOの再発を予防できないようです(Arch Neurol 2012;69:938-9)。隔月で500-700 mg/m2を1 gのメチルプレドニゾロンとともに点滴(毎月だと危険?3-6ヶ月連続で投与した後に、2ヶ月ほど休んでこのコースを反復する、なんていうのはどうでっしゃろ?)。7例中5例で再発し、うち1例は重篤な再発で死亡。何故効果がなかったのかは不明とされています。平均リンパ球数は4/5例で1000以下。541の患者のARRは3.9です。Azathioprine + Predonisone併用に切り替えてコントロール可能になっているとされていますが、4/5例で再発がまだ認められています。1例はfollowから脱落。効いているとも言えませんけどねえ。ブラジルからの報告。  

    免疫応答の最下流である補体を抑制することが治療効果を早く、強力に作用するように思われます。ステロイドやEqulizumabなどの作用点は補体です。
  2. この60年間で1840名の自衛隊員が死亡
    意外に多いのです。戦後60年間、「戦闘行為」で死亡した自衛隊員は一人もいませんが(厳密には、朝鮮戦争当時に海上保安庁に所属していた警察予備隊の機雷掃海艇を2隻失い、1名が戦死しています)、防衛省の敷地内にある殉職者慰霊碑に名前が納められた1840名は訓練や災害派遣などの最中に亡くなった隊員たち。内訳は国内のTVでも報道されていませんから不明です。長期間の閉鎖空間の特殊性が問題となっている、海自では自殺者も出ていますが、少なくとも退職後の自殺者はこの数字には含まれてはいないようです。  

    米軍では空母や新しい戦闘機やヘリの開発時に多くの兵士が死亡していますし、イラク軍(旧フセイン軍)などのように余りに武器や練度に差がある場合、相手から打たれて死亡するよりも米軍戦闘機や戦車からの誤爆で死亡する場合が少なくありません。正規軍相手の場合ですけどね。
  3. Natalizumabをいつ中止するか? 今でしょう?
    PMLとの関係があるため、難しい問題ですが・・・あなたはどれに?抗体陽性だったら、そもそも投与しないでしょうか?
    1). 抗JCV抗体の有無に関わらず、asymptomaticあるいはPML発症まで継続する。
    2). 半年ごとに抗JCV抗体を測定し、陽性になった時点で中止。
    3). 抗JCV抗体の有無に関わらず、2年で中止。
  4. 6月23日は「慰霊の日」
    組織的な戦闘が終了した日として沖縄では条例により公休日に指定されています。20万人を超える戦死者のうち、9万4000人余りが沖縄県民。砲弾が降り注ぐ中逃げ回った人々だけでなく、自決を強いられた県民や本土から来た軍人や行政官(中には沖縄戦が始まる前に本土に出張し、そのまま帰らなかった、本土から赴任してきた行政官も)には理解できない方言を話した高齢者夫婦が軍刀で殺害された例さえ。  

    糸満市摩文仁の平和記念公園で沖縄県、沖縄県議会主催の「沖縄全戦没者追悼式」が毎年開催されています。今年、2014年は安倍首相だけでなく、ケネディ在日米国大使も参加。  

    この公園に並んでいる石碑には地元の県民だけでなく、戦死した米国軍人の氏名も刻まれています。丘から崖の下の太平洋が見えますが綺麗です。  

    沖縄関連本として、朝日新聞で以下の4点が紹介されていました。紀伊國屋書店HPの私の本棚「京都と医療と人権と」でも紹介しました。冨山 一郎「増補 戦場の記憶 (増補)」日本経済評論社、目取真 俊「眼の奥の森」影書房、真尾 悦子「いくさ世(ゆう)を生きて―沖縄戦の女たち」ちくま文庫、仲宗根 政善「ひめゆりと生きてー仲宗根政善日記」琉球新報社。
  5. SPMSを対象としたNatalizumab治験(ASCEND trial)始まる
  6. オペラ「アイーダ」の凱旋行進曲が何故日本のサッカーの応援歌?
    WikipediaやYahoo智恵袋、豊島区吹奏楽団HPに出ていますが、諸説あるものの詳細は不明のようです。中田英寿さんが所属していたパルマの応援歌だった、というのが最有力?
  7. Natalizumab治療後に抗AQP4抗体が陽転化 したという報告があります(Lee, Laemmer, Waschbisch, et al. J Med Case Reports 2014;8:155)。Natalizumabを含めてDMTで再発がコントロールできない場合、反復して検査することの重要性を著者らは指摘しています。
  8. 体長2.7mのホオジロザメを飲み込んで580mまで一気に潜った怪物
    追跡用のタグを付けて放していたサメからタグだけが回収され、記録によれば突然体温が上昇した後に580mまで一気に潜っていたことが判明し、おそらくは共食いではないか、と。推定の大きさは2トン。オーストラリアでの出来事。2014/6/11にCNN電子版が報じました。映画「ジョーズ」はまんざら大げさではないようです。
  9. Natalizumab中止後の再発
    中止3ヶ月後から急速に再発頻度が増加します(Neurology 2009;72:396-401; #394 2010 ECTRIMS)。第II相試験では、早ければ、中止3ヶ月後には治療前の活動性に戻る、とされます(N Engl J Med 2003;348:15-23)。Monthly pulseやGA、IFNβ1aでは、NTZ中止後の疾患活動性を抑えられないと言われます(2011 ECTRIMS)。利用できるのはFingolimodとBG-12。概ね、欧米では前者が使われています(Neurology 2014:82:1-8)。中止後の疾患活動性の予告因子として、遺伝子検索が行われています(Mult Scler 2013;19:59-68)。
  10. 自民党都議の女性差別発言
    CNN日本電子版は「日本では職場の男女格差は一般的だ。また、結婚や子育てよりも仕事を選ぶ女性が増える中、以前から今後出生率が低下し続けることが懸念されてきた。安倍首相は職場の男女格差是正を目指す「ウーマノミクス」を推進しているが、依然として管理職の大半を男性が占め、給与も男性が女性を上回っているのが現状だ。」と報じました。「早く結婚しろ」と野次った議員は名乗り出て、塩村議員に謝罪し離党しましたが、「産めないのか」という野次の発言者は特定されていません。当初からばれていた鈴木議員だけ首を差し出して、子育て関連の質問に対して最も下品な野次を発言した議員はいなかったことにしたい意図が明白。  

    安倍首相の成長戦略の一環として、女性活用を目指していて、2015年度の国家公務員採用についても一般、総合職とも30%を目指すそうですが、一般の国民には縁遠い話のようであります。相変わらず、専業主婦をベースにしていて、女性が働く場合はあくまでもパートをイメージしています。配偶者控除も非正規労働力確保が狙いとしか思えません(その後、配偶者控除はなくなる方向ですが、専業主婦だった人たちにいきなりOLとしてフルに働きなさい、は無理)。永田町も霞ヶ関もいい加減、専業主婦を家庭の基礎にすることは止めてはどうですか?女性労働力の活用と言っても、介護のような現場を想定しているとしか思えません。労働現場では相変わらず女性に対して冷たい環境が続いています。厚労省のモデル家族もせいぜいパートをする専業主婦がいて、子供二人、なんていうのではなくて、共働きで子供が1-2人、というのを標準世帯にするべきでしょう。せめて、2本立てでは?
  11. Paraneoplastic NMO
    通常のNMOの発症年齢は39歳ですが、Paraneoplastic NMOでは基礎疾患を反映してか、一般的には55歳以上(Lancet Neurol 2007;6:805-15; Arch Neurol 2008;65:629-32; Neurol Sci 2009;30:397-400; J Spinal Cord Med 2012;35:267-9; J Neuroimmunol 2013;263:145-7)。55歳以上で発症したNMOsdでは腫瘍の存在の可能性に留意するべき、と言う意見(JAMA Neurol 2014;71:495-8)があります。基礎疾患としては乳癌が最多(JAMA Neurol 2014;71:495-8)。AQP4が腫瘍に発現し、患者血中に抗AQP4抗体が見出されます。
  12. 「星星の火」(福田和代)
    双葉社からの新刊。中国からの留学生などによる犯罪が増えたことで、刑事出身の通訳が必要になったという設定で、警視庁通訳センターの通訳捜査官を主人公とする新しい警察小説が登場しました。通訳の妻も不思議なキャラで絶世の美人、という設定。題名は「星星之火,可以燎原」から由来。最初は小さな火であっても、やがては荒野を焼き尽くすほどになる、という意。1930年に毛沢東が林彪に送った手紙に記載されているそうな。今は、小さな勢力であっても、東から東南アジア地域での「RPC」の横暴に抵抗する国家はそのうちに大きな力になることでありましょう、っていうことですかね、マオセンセ。
  13. ナタリズマブ発売記念講演会
    2014年6月21日に東京のHオークラ本館で開催されました。その中から・・・
    1. MS病変類似の脳MRI所見が出現して3ヶ月後にPMLと診断されたケースがあることが紹介されました。おおざっぱな鑑別が可能でも、脳MRIではMS再発とPMLとをきちんと鑑別することは困難であることは留意するべきでしょう。当たり前ですが。CSFでのJCV
      PCRが決め手に。
    2. HIV-PMLがoccipitalに多いのとは異なり、Natalizumab-associated PMLではfrontalに目立つ。この理由は不明。
    3. Asymptomatic PMLではdisabilityが低く、生存率も高いことが、2013年のAANでDr Dong-Siらにより報告されているそうです。当然でしょうが、PCRが陰性なので診断が困難。疑わしい脳MRI所見が出たら、とりあえずNatalizumabを中止するしかないですね。
    4. 国内での治験結果とその後の1年間のextension studyの結果を齊田先生が紹介。new T2 lesionあるいはexpanded T2 lesion数は、治療開始3ヶ月後にはplaceboと有意差あり。2ヶ月間は効いてこない、ということですね。抗JCV抗体陽性率は65/103例(63.1%)で、抗Natalizumab抗体は5/47例のみで、followできたのは2例のみで、6週後も陽性だったのは1例のみ。欧米での出現率は持続陽性率が6%ですが・・・出現するのは3ヶ月頃なので、4ヶ月以降、再発したり、注射関連有害事象が目立つようなら、この抗体のためでしょう。
    5. 関西MSセンター(大阪・入野クリニック)での49例の結果も報告されました。抗JCV抗体のseroconversionは5例(10.2%)と結構ありました。3年間で24例が中止。13例はPMLが怖いため中止。9例は妊娠や住所変更などの仕方のない理由にて。ARRの推移が凄いです。
       期間  ARR (mean ± SD)
      -12~0    2.04 ± 1.36
       1~12M  0.11 ± 0.32*
       13~24M  0.06 ± 0.25*
       25~36M  0.05 ± 0.23*
      * p < 0.0001 compared with baseline ARR
    6. Natalizumab-associated PMLでは痙攣の頻度が多いので(8/15例: 53%)、Prof Goldは予防的に抗痙攣剤を投与している、と。
      Hoepner R, Dahlhaus S, Kollar S, Zurawski B, Chan A, Kleiter I, Gold R,
      Hellwig K. Prophylactic antiepileptic treatment reduces seizure frequency
      in natalizumab-associated progressive multifocal leukoencephalopathy. Ther
      Adv Neurol Disord. 2014;7:3-6.
    7. Cortical demyelinationに対するNatalizumabの予防効果については不明ですが、T cell-mediatedではないといわれているので、多分、効かないのでしょうね。
    8. 単純血漿交換によるNatalizumab濃度の変化が以下の論文に示されています。 Khatri BO, Man S, Giovannoni
      G, Koo AP, Lee JC, Tucky B, Lynn F, Jurgensen S, Woodworth J, Goelz S,
      Duda PW, Panzara MA, Ransohoff RM, Fox RJ. Effect of plasma exchange in
      accelerating natalizumab clearance and restoring leukocyte function. Neurology.
      2009;72(5):402-9.

  14. Soluble CD163
    SPMSやPPMSの病因として、macrophage/microgliaの関与が示唆されていて、2014年のAANでも話題でした(Clin Exp Neuroimmunol, in press)。CD163はhaptoglobin-hemoglobin complexes受容体であり、monocyte/macrophage特異的な膜蛋白で、CNS血管周囲のmacrophage/microgliaに発現しています(Glia 2005;51:297-305)。Soluble CD163のreviewも出ています(Scand J Clin Lab Invest 2012;72:1-13)。MS患者さんのsCD163のCSF/serum ratioを算出した論文が出ていますが(PLoS One 2014;9:e98588)、比の実数自体に有意差はなく、ROC (receiver operating characteristics) analysesで計算しています(0.73; 95% CI: 0.64-0.82)。しかし、これでもIgG indexの方が圧倒的にbiomarkerとしては有意(0.89; 95% CI: 0.84-0.95)と記載されています。感度と特異性のグラフなのですが・・・95% CIの数値の意味(AUCと言っていますが)が今ひとつ理解困難。
  15. 「国境のインテリジェンス」(佐藤 優、徳間書店)
    外務省の内部情報が面白く紹介されています。
    1. ロシアに語学研修に来た、ある職員は寮にロシアの金髪娘を連れ込んで毎晩パーティーをやったあげく、ロシア人を孕ませてしまい、KGBから脅されたそうですが、この研修生は開き直り、逆に本省での評価が上がったそうな。一昔前、「自殺の大蔵、汚職の通産、不倫の外務省」と言われ、男女関係には甘い伝統があるそうです。
    2. 「沖縄処分」はサンフランシスコ講和条約を締結する際に、沖縄を本土から切り離したこと。「琉球処分」は当時の日本政府の公式用語で、清との関係を断ち切り、日本に帰属する過程で、日本が台湾出兵後に沖縄本島以北を日本領、宮古島と八重島列島(石垣島や与那国島など)は清国領という提案を1880年に行い、沖縄本島以南を見捨てたこと。幸い、清国側の事情で批准されなかったため、現在の国境に。
    3. 麻生外相、首相時代に、北方領土の全てが返還されなくても平和条約の締結が可能、という誤ったシグナルを提案した、当時の外務省ロシア課長を実名で批判。
    また、ロシアが「不法占拠」しているという国際法上の用語を使用すると、サンフランシスコ平和条約で放棄した千島列島の範囲についての不毛な議論に陥るし、歴史的な議論に入ると1800年までは択捉島ではロシアの影響力が大きかったので不利になるため、あくまでも「四島が我が国の領土である、というのが我々の立場だ」と主張するしかないのだと、かつて北方領土返還交渉に関わった当事者の重い言葉。
  16. 小児MS/NMO診断のポイント
    1. 小児MSではLETMが稀ではないので、成人と異なり、脊髄MRI所見はNMOの診断根拠にならない。新しいNMO spectrum disordersの診断基準ではなくなります(Tanaka M &amp; Kinoshita M. Clin Exp Neuroimmunol, in press)。
    2. ステロイド依存性反復性視神経炎やADEMでは、抗MOG抗体が陽性の可能性があり、MS治療の対象から外す。PSL主体。

  17. サッカー・ワールドカップで日本人サポーター賞賛の嵐
    1990年代から続けられていることなんだそうですが(北澤選手が現役の頃からあったそうな)、日本チームのブルーに因んで青色のゴミ袋を膨らませて応援することがいつの間にか、流行したもの。雨が降ってきても、頭にかぶればカッパ代わりにもなりますし、荷物にかぶせることもできるので便利。基本的にゴミ袋なので、試合後に周辺のゴミを入れて変えることはごく自然なこと。どうせ袋も持ち帰るので。これが今回は目立ったため、世界中のメディアから賞賛されました。AP通信は「開催国への敬意がその源にある」と伝えたそうです。」UKのインディペンデンスはともかく、中国の人民日報まで賞賛。第二戦のギリシャ戦後には、現地のブラジル人たちにもブルー袋を配布したそうな。南西地震が起きたときはちょっと怖いです、岸和田、姫路は大丈夫だろうか?
  18. NMO IgG陰性の再発性LETM12例中6例で抗AQP4抗体陽性
    要は組織を染色する古典的な方法より、recombinant human AQP4を細胞表面に発現させた系の方が感度が高く、陽性率は89%。以前よりseronegative NMOの割合は低いということと、抗体検出法にgolden standardがなく、組み合わせるのが最も良いけれど、一つ選ぶとすればFACSというのがMayo Clinicの結論。患者さんは2005-2011年の方。検出法の違いは・・・
    FACS          89%
    Cell-based assay   85%
    ELISA          81% (ELISA kit; RSR [Kronus Ltd])
    (JAMA Neurol 2014;71:48-54)
  19. 科学は何故、捏造されるのか?
    メディアは文系が多いですが、彼らはむしろ大学時代にコピペを平気でやっていたため、その行為の倫理性を理解しにくいのかもしれません。しかし、理系とても他人事ではなく、「捏造」と思っていない、医師や学者は少なくありません。都合の悪いデータを隠すこと自体が情報としては捏造と言って良いでしょう。そのうち、「研究結果」を思い込みの「結論」に合わせるようになってしまいます。臨床医の場合でしたら、症例報告なら構わないよね、という感覚が感覚麻痺を起こしてしまい、臨床研究全体へ順次拡大してゆくまでに時間はかかりません。その場限りの嘘で言い逃れることも初期段階の捏造です。多分、判ってないんだろうなあ・・・自分には極度に甘いヒトもいるし・・・