2014年5月号 NO.5

  1. 伝染性単核症後のMS発症リスク
  2. Fingolimod治療後の末梢血TregとTh17の変化
  3. 「ニュースルーム2」始まる
  4. MSとウイルス
  5. MSの原因は感染性病原体
  6. MS患者から樹立したEBNA-1特異的細胞ラインはミエリン抗原と交叉
  7. MS発症機序におけるEBVの役割
  8. MSとEBVとの関連についての仮説
  9. MS小児例でのEBVの役割
  10. EBVの潜伏場所と再活性化
  11. MS小児例ではEBV再活性化が高率に起きている
  12. 3Dプリンターはもはや家電製品
  13. EBVとMAPのMBPとの交叉反応
  14. MS以外のCNS炎症性疾患
  1. 伝染性単核症後のMS発症リスク について、1940-1988年のデンマークの25000例余りの伝染性単核症(IM)患者を対象としたコホート研究(Arch Neurol 2007;64:72-5)。うち、104例でMS発症。Standardized incidence ratio (SIR) は29歳以下でIM発症した場合MS発症リスクが高く、30歳以降では有意ではなくなります。
                 SIR        95%CI      
    <10 3.08 1.38-6.85
     10-14 2.99  1.88-4.74 
     15-19  2.48  1.90-3.23
     20-29  1.72  1.15-2.57
     >30  0.91  0.23-3.65

    時間経過とトレンドに関しては、p = 0.03。  

    このMS発症リスクはIM発症後10年未満後が最もリスクが高いのですが、30年以上経過しても持続しています。上の結果(これは他の結果とも良く合います)との整合性がよく判りませんが・・・この部分のhomogeneityのリスクはp = 0.09。
  2. Fingolimod治療後の末梢血TregとTh17の変化
    東北大からの報告(J Neuroimmunol 2014;268:95-8)。Treg (CD4+CD127dim/CD25+ %)は治療前より投与2週後には増加しています(p < 0.001)。ただし、分布は治療前と完全に重なっています。Th17(CD4+IL-17A+ %)は治療開始4週後には2群に別れ、11/21例(52.4%)で増加し、残りは減少。この2群間でIFNβの反応性に違いがあったら面白いですが、記載はありませんでした。
  3. 「ニュースルーム2」始まる
    WOWOWで第2シーズンが始まりました。ニュース番組のキャスターを中心とした制作チームを主人公にしたドラマ。第1シーズン(初回は210万人が視聴したそうな)では「メキシコ湾原油流出事故」や「福島第一原子力発電所事故」など、実際にあったニュースを素材にドラマが進行していましたが、相変わらず、とんがった脚本です。企画、脚本は「ザ・ホワイトハウス」(‘99?’06)の脚本を書いた、Aaron Sorkin。NHKで放映されていた、この番組でエミー賞TVドラマシリーズ部門最優秀ドラマ賞を’00から’04まで4年連続で受賞していました。  

    前回、キャスターは「ティーパーティーはアメリカのタリバンだ」と番組内で発言。南部を含む全米で放映されているドラマの中で、実際に存在し、共和党の有力な政治団体(キリスト教原理主義者ともオーバーラップする、極右集団)の名前を出すなんて、とんでもない番組ではあります。たとえ、テロリストや9.11首謀者(アルカイダ)という意味ではなく、原理主義者という意味だとしても、たとえがきついですねえ。とても、日本では書けない脚本です。東部だけでなく、全米に放映される、という状況を考えますと凄い国。しかも、台詞のテンポが速くて、意味不明な会話が少なくなく、ちょっと疲れます。
  4. MSとウイルス
    25年ほど前までは麻疹ウイルスとの関連 (McFarland HF, McFarlin DE. Cellular immune response to measles, mumps, and vaccinia viruses in multiple sclerosis. Ann Neurol 1979;6:101-6.) が示唆されていました(金沢医大の大原教授の総説を発見してしまいました!Jpn J Infect Dis 1999;52:198-200)。ウイルス全般に関する総説としては、NMOも含めた以下の論文があり、freeで入手可能です(Neuroscientist 2011;17:659-76)。最近ではEBウイルスとの関連に関して膨大な報告があります。ところが、Fingolimod (Neurology 2011;76:1023-4; Neurology 2012;79:2002-4; Neurology 2013;81:306; Neurology 2013;81:306.)やNatalizumab治療で (Neurology 2013;80:1812-3; Clin Infect Dis 2013;57:849-52; Neurology 2013;81:1966-7; J Neuroinflammation 2014;11:19) VZVによる脳炎や皮疹の合併が時に認められます。Fingolimodではhemophagocytic syndromeが国内外で2例知られていますが (公式には未発表です)、不思議なことにほぼ100%既感染のはずのEBVではなくて、VZV関連のようです。  

    メキシコからRRMS患者さんの再発と寛解期の末梢血やCSF中のVZV, HSV, EBV, HHV-6のPCRによる検索が報告されています(Clin Neurol Neurosurg 2014;119:44-8)。つまり、ウイルス自体を検出しようというもので、驚くべきことに、VZVのみが31例全例のCSFで認められています。末梢血中では28例(90%)。16例では寛解期でも検索されていて、5例(31%)のCSFで認められました。つまり、寛解期になるとCNSからウイルスが消失する、と。VZVが活性化されやすい条件があるのでしょうか?  

    ここでは議論されてはいませんが、逆に言えば、再発などの炎症が起きている状況では、ウイルスによる脳炎や髄膜炎を起こしていなくても、CSFでウイルスが同定されると言うことで、上記の薬剤治療中に起きた「脳炎」や「髄膜炎」が再発ではなくて、純粋なウイルスによる感染症なのか否かの診断には注意が必要である、と言うこともあるように思われます。
  5. MSの原因は感染性病原体 と初めて言ったのは、Dr. Poskanzerで1963年のこと(Lancet 1963;2:917-21)だそうな(Clin Exp Immunol 2010;160:120-4)。MSと伝染性単核症の患者の分布が一致(Clin Exp Immunol 2010;160:120-4)。
  6. MS患者から樹立したEBNA-1特異的細胞ラインはミエリン抗原と交叉するという報告が出ています(J Exp Med 2008;205:1763-73)。
  7. MS発症機序におけるEBVの役割
    ほとんど判っていなくて、仮説の範囲を出ない部分が大きいのですが・・・
    1. Molecular mimicry between certain EBV anrugens and certain epitopes of MBP
    2. Bystander injury  
      EBV感染B細胞をCTLが攻撃し、周辺の組織がダメージを受けるという説明ですが、当初の報告(J Exp Med 2007;204:2899-912)はその後confirmされず(Brain 2009;132:3318-28; Neurology 2010;74:1127-35)、それほど感染B細胞は脳内には存在しないとされています。
    3. Superantigen effect-αB crystalline is erroneously recognized as “self”  HLA class II 陽性の細胞傷害性細胞が活性化される、というもの。
    4. Injury mediated by EBV-infected, autoreactive B lymphosytes  CNS内にEBV感染B細胞はそれ程多くはない (Eur J Microbiol Immunol 1 2011;4:267-78)

  8. MSとEBVとの関連についての仮説
    1. Molecular mimicry
    2. Activation of superantigents (J Exp Med 1996;184:971-80; Mult Scler 2008;14:1175-80)
    3. Increased expression of alpha B-crystallin (J Immunol 1999;162:129-35; Nature 2007;448:474-9)
    4. Infection of autoreactive B lymphocytes (Trends Immunol 2003;24:584-8) (Clin Exp Immunol 2010;160:120-4)
    2つのまとめは概ね一致しています。これ以外にもreviewがあります。
    Autoimmun Rev 2009;8:563-8; Neurology 2010;74:1092-5
  9. MS小児例でのEBVの役割
    小児期発症MS例での抗体陽性例は85-99%とされ、成人発症例よりやや低いですが、性や年齢をマッチさせた健康小児群より明らかに陽性率は高い(42-72%)ことが知られています(JAMA 2004;291:1875-9; Neurology 2006;67:2063-5; Lancet Neurol 2007;6:773-81; Neurology 2013;81:1392-9)。ただし、発症年齢によって、小児期発症MSは病態が異なりますので、10-12歳以下の患者のCIS発症時あるいはせめて発症時にできるだけ近い時期のサンプルではどうなのかが問題で、小児期発症MSでのリスクになり得るか否かはもう少し検討が必要と思われます。と言うのは、たとえば最後の論文での採血時の年齢は12-18歳(16.2±1.7歳)とEBV初感染年齢とダブりますから、MS発症後に感染した可能性を否定できません。少なくとも、young adultでは発症前に抗体価が上昇することは見いだされてはいますが(JAMA 2005;293:2496-500; Arch Neurol 2006;63:839-44)。
  10. EBVの潜伏場所と再活性化
    EBVはmemory B cellsに持続感染していて、形質細胞に分化する際にウイルスが再活性化され、末梢血や口腔粘膜に見いだされるようになります。ウイルスはoropharyngeal epithelial cellsで複製され、唾液中に分泌されます(PLoS One 2009;5:e10000496)。また、EBVの再活性化はEBV特異的T細胞によりコントロールされているそうな(N Engl J Med 2000;343:481-92)。
  11. MS小児例ではEBV再活性化が高率に起きている
    対照群に比して、22例の患者群では唾液中に高率にEBVが排出していることがPCRで認められています(52.6% vs 20%, p = 0.0007)。(Neurology 2013;81:1392-9)
  12. 3Dプリンターはもはや家電製品
    今年中には7万円を切るそうでありますヨ。TBS系列の「朝チャン」(2014/4/8)によりますと、自分の写真を撮影してもらって、そのフィギュアを作ることができます。元が写真ですからそっくり。残念ながら、色づけは機械ではしてくれません。驚くことに、子供が描いた2次元のお絵かきも3次元に構成してくれます。今年中には、砂糖を素材に菓子を印刷するサービスを始める業者が出てくるそうな。もちろん、食べるためです。
  13. EBVとMAPのMBPとの交叉反応 なんていう奇妙な現象が報告されました (Mameli, Cossu, et al. J Neuroimmunol, in press)。ただし、SardiniaのMS患者さんの血清中の抗体を用いた研究で、合成ペプチドを用いたELISAによるcompetitive assayによる解析。ペプチドの部位は、それぞれEBNA-1400-413、MAP_0106c protein121-132、MBP85-98。 前2者は後者のエピトープと交叉反応をしていることが判明。MAPというのは、Mycobacterium avium subsp. Paratuberculosisのことで、ヒトではCrohn病との関係も示唆されていますが、元々はヨーネ菌といって反芻動物に慢性肉芽腫性腸炎(Johne’s disease)の原因となる細菌。Sardinia島のMS患者さんではEBVとともに、発症リスクと考えられているそうです(Mult Scler 2012;18:1181-4; Future Microbiol 2012; 8:223-32; J Neurol Sci 2013;335:131-3; J Neuroimmunol 2013;264:120-2)。さらに、MBP85-98とEBNA-1400-413はconformational homologyがあることが報告されています(PLoS One 2013;8:e59711)。また、HLA DRB1*15を有する普通のMSでは、EBNA-1400-413が含まれるEBNA-1385-420に対する抗体価がHLA DRB1*15陰性患者より高いことが示されていて、HLAとの関連が示されてもいます(Genes Immun 2012;13:14-20)。
  14. MS以外のCNS炎症性疾患
    人口300万人の英国南部地域で、2009-2010年の2年間、ある医療機関に入院した1525例のうち64例について、3年間に渡る充分な観察と検査によっても原因が不明な患者が16例(25%)いました。診断が付いた疾患としては・・・神経サルコイドーシス(14%)、NMO (14%)がトップで、次いで大脳血管炎と抗VGKC抗体脳炎が6%、ADEMと感染後がそれぞれ5%と続いて、抗NMDAR抗体脳炎、リンパ腫に伴う傍腫瘍性症候群、opsoclonus-myoclonus、神経ベーチェット、非典型的MSが各3%など(Neurology 2014;82:1186-9)。CISは含まれていませんが、RISは1例(2%)。