2014年5月号 NO.4

  1. 90例のNMO/ NMOsdへの治療効果
  2. 銀行の窓口近くに置いている観葉植物の意味
  3. Natalizumabでfatigueが改善
  4. 主要国内メディアが流さないネタも共同通信は逆境の中で頑張っています
  5. MSの鬱
  6. 歩きスマホの危険性
  7. Natalizumabに関する疑問点-再整理
  8. EDSS 3.0から6.0までの期間は発症から3.0までの期間と関係なく、一定
  9. 解凍しても細胞壁が壊れない冷凍技術
  10. 米軍兵士を対象にEBVのMS発症リスクを前方視的に検討
  11. 抗EBV抗体陰性群でのMS発症リスク
  12. 『ジャンゴ 繋がれざる者』
  1. 90例のNMO/ NMOsdへの治療効果 をまとめた結果が米国から報告されています(JAMA Neurol 2014;71:324-30)。suboptimal doseでのtherapy failure rateは
    Azathioprine         53%
    Rituximab           33% (17%)
    Mycophenolate mofetil   36% (25%)
    括弧内はoptimal doseの条件ですが、それでもずいぶん悪いです。免疫応答の最終段階を一時的に抑制するという意味ではNatalizumabと発想が似ている、Eculizumab (Lancet Neurol 2013;12:554-62) の有用性の根拠になるでしょうね。ほぼゼロですから。筆者はステロイドで導入し、タクロリムスを併用して、6ヶ月以内にステロイドを5 mg以下に減量できています。タクロリムス併用療法の現在のデータ(タクロリムス開始時が遅かった初期例含む)では、suboptimal doseでもtherapy failureは10%以下ですし、血中濃度をきちんとコントロールできれば5%以下にできます。  

    ここでsuboptimal dosingが定義されています。Azathioprineの結果は示されていないのですが、定義は6ヶ月以内に再発した場合、あるいは投与量が2 mg/kg以下の場合。前者の定義からすると、6ヶ月以上飲まないと効かないと考えている、ということになるようです。この定義自体は確立したものではないし、この研究に参加した3病院で共有化はされていなかったため、結果がないようです。Rituximabでは、CD19陽性細胞が0.1%以上、あるいは治療期間が1ヶ月以下か5ヶ月以上(後者がよく判りませぬが)。Mycophenolate mofetilの定義も6ヶ月以上あるいはリンパ球が1500以上。
  2. 銀行の窓口近くに置いている観葉植物の意味
    植物の高さが概ね決められているそうで、170 cm。これは日本人男性の平均値。銀行強盗が入ってきた時の身長の目安にするためなんだそうな。銀行によっては他の目安にしているところもあるそうです。日本テレビの朝の番組で紹介していました(2014/4/14)。
  3. Natalizumabでfatigueが改善
    欧米のMS患者さんでは54-95%でfatigueが認められる、と報告されています(Can J Neurol 1994;21:9-14; Mult Scler 2012;19:217-24; Exp Opin Pharmacother 2012;13:207-16)。原因はよく判ってはいませんが、中枢神経由来と考えられています。発症と性別や罹病期間、再発頻度、障害度との関連は弱く、危険因子ともされていません。  

    以前から50例規模の報告(Eur Neurol 2011;65:231-2; PLoS One 2012;7:e35843)はありましたが、195例のopen trialの報告がありました(PLoS One 2013;8:e58643)。12ヶ月後、FSMC total scoreが12.6%有意に低下(p < 0.0001)。この効果は従来のDMT (IFNβやGA)ではコンスタントな評価がなかったので、意味はあるのでしょう。ただ、機序はよく判ってはいません。考察で著者らが記載しているのは、
    1. 再発の間、fatigue症状が増悪することが知られていますので、著明に再発が抑制されることで、まず効果が発揮される可能性はあり得るでしょう
    2. TNFαやIFNγがfatigueと関連しているとされており(Mult Scler 2004;10:165-9; JNNP 2006;77:34-9: JNNP 2011;82:814-8)、BBB破綻が抑制されるので、BBBを超えて抹消循環系からCNS内にサイトカインが入らないことが良い、と。

  4. 主要国内メディアが流さないネタも共同通信は逆境の中で頑張っています
    人事部長が就職希望の女子大生にセクハラをした(どうも体を触ったとかいうレベルではないようです)として社長までが辞任に追い込まれた共同通信ですが、カリフォルニア南部のサンオノフレ原発2基が三菱重工製の烝気発生器の故障を乗り越えられず、廃炉になるという記事を共同のロス支局がきちんと流し、東京新聞が一面トップに据えたと「田英夫とジャーナリストの会」第89号(2013/6/8)が伝えました(http://www011.upp.so-net.ne.jp/dennews/chok90.htm)。東京新聞はニューヨークタイムスの東京支局長により最も注目すべき報道をしている日本の新聞、と紹介されています。
  5. MSの鬱についてのreviewが報告されています(Sleep 2010; 33:1061-7)。機序は不明ですが、PETで前頭葉皮質や基底核の糖代謝の低下が示されています(Neurology 1997;48:1566071)。鬱を呈したMS患者では、血中のTNFαやIFNγが高値を示し(JNNP 2006;77:34-9)、末梢血単核球のTNFαmRNAが高値を示したことが報告されていますが(Mult Scler 2004;10:165-9)、TNFα antagonistsを投与するとMSが増悪することが示されています(Neurology 1999;53:457-65)。
  6. 歩きスマホの危険性
    ドコモが渋谷駅前のスクランブル交差点で1500人が歩きスマホをしながら交差点を渡るとどうなるかについて、シミュレーションした結果がCG動画となっていて、Youtubeにアップされています。歩行速度など一定の条件が設定されていて、その結果、衝突は446件、転倒が103件、スマホの落下が21件で無事に横断できたのは、わずか547人のみ。視野は1/20に低下するそうです。如何に危険か、デスね。中国では歩きスマホでマンホールに落ちた女性がニュースになっていました。歩きスマホでなくても危険な道路ではありますが・・・こういうところは確かに発展途上国!
  7. Natalizumabに関する疑問点-再整理
    すでに一部は記載しましたが、
    1. NTZ投与すると、末梢血T細胞は活性化することはconfirmされたと言えますか?
    2. Biogenグループが開発した第2世代ELISAによる抗JCV抗体とNIHのPCRとで感度の違いは?第1世代ELISAを用いてNIHで検証した結果では、両者とも測定した方が良い、という結果がNIHから出ています。製薬メーカーの関係者が重篤な有害事象(PML)の診断あるいはNTZ治療継続の有無の決定に関与する検査をすることに、倫理的問題はないでしょうか?検査法自体に問題のあった、抗IFNβ中和抗体測定とは重要性が異なります。抗NTZ抗体の測定もメーカーにしかできないのか?
    3. NTZ投与中にseroconversionした時、抗体価あるいはanti-JCV indexは治療を継続しているとさらに上昇するのでしょうか?
    4. Seroconversionした患者さんと最初から抗JCV抗体が陽性だった患者さんとで、PMLのリスクに差は?
    5. 欧米とは発売順序が逆になったため、NTZからFingolimodへのswitchだけでなく、欧米ではなかったFingolimodからNTZへのswitch患者が集団で発生する可能性があり、どのような問題が出るのか、注目されているようです。FTY治療歴はNTZ治療中のPML発症のriskになり得るのでしょうか?
    6. NTZ治療中はまず再発はしませんが、2年以内に中止しますと治療前の活動性に戻りますから、短期的な疾患活動性には影響しないと考えられます。それでも、世界最強?5年以上投与すると、中止しても再発は起きにくいと言えるでしょうか?
    7. NTZ治療中MS患者さんの体重別のPMLリスクの差は?
    8. NTZの適応は?

  8. EDSS 3.0から6.0までの期間は発症から3.0までの期間と関係なく、一定
    1609名のRRMSと445名の進行型で発症した患者を対象にフランスから報告されています(Brain 2010;133:1900-13)。この図は有名。Phase 1の期間に関わりなく、ゆっくり進行しようと、急速に進行しようと、Phase 2になったら、disabilityの進行速度は一定。この研究からMSの経過は2段階に分かれることが改めて示され、Phase 1は炎症主体の病態であり、Phase 2は局所の炎症性病変とは関係のない、おそらくは軸索病変を主体とした変性過程。「MSは変性疾患である」 (こう言うと、ALSやSCD研究者は嫌な顔をされますが、仲間に入れてよー) とも外国では言われる所以であります。
  9. 解凍しても細胞壁が壊れない冷凍技術
    普通に冷凍しますと、細胞内の水分が膨張して凍ってしまい、解凍の際に細胞壁が破壊され、マグロの刺身なんかまずくなってしまいます。冷凍機の営業マンだった二宮一就さんは営業先で冷凍した食材なんか料理に使えるか、と罵倒されて悔しくて脱サラして菱豊フリーズシステムズを起業。この人、理系ではないのです。退職した際に、なんの技術もアイディアもなかったので、通常ならそのまま朽ち果ててしまうはず。退職金まで開発費に回してしまい、妻から明日からどうするの、と言われる状態まで追い込まれたそうな(夫人は現在は同社の経理担当)。この時、降臨したんですな。冷凍する際に磁気をかけると水分子は整頓して並ぶようになるので、冷凍しても余り膨張はしないんだそうですね。全く細胞壁が壊れないわけではないようですが、漁業関係者にも理解され、東北の漁港にも震災後の復興に役立てようと設置されそうです。なにせ、マグロの刺身は生と解凍と区別が付かないそうですし、なのより凄いのはお弁当のように様々な食材が混じっていてもそのまままとめて冷凍と解凍が可能なこと。従来は料理毎に冷凍していましたから、お弁当ごと冷凍できるようになりました。有名シェフが作った料理を家庭でも味わうことができます。日本の技術って凄い!(TBS「夢の扉」より)
  10. 米軍兵士を対象にEBVのMS発症リスクを前方視的に検討
    222例がMSを発症していますが、奇妙なことに、対象とした米軍兵士は陸軍と海軍、海兵隊のみで、空軍は対象にしていません。以前、本誌でも紹介しましたが、MS発症リスクが低いのは海兵隊のみ。EBNA-1に対する抗体価と発症リスクはlinearに相関。EBNA-1 comlexに対するIgG抗体は、x320以上の群が20倍以下の群の36倍(Mult Scler 2011;17:1185-93)。
  11. 抗EBV抗体陰性群でのMS発症リスク
    meta-analysisの結果が示されています(Mult Scler 2013;19:162-6)。2760例の成人発症MSと3637例のコントロール、303例の小児発症MS患者とコントロール386例を対象とする論文をまとめたもの。成人での陰性率は、患者群で1.7%、コントロールで6.3%であり、小児ではそれぞれ8.3%と34.7%。成人と小児のORと95%CIは、0.18 (0.13-0.26)と0.18 (0.22-0.50)でした。ただし、小児例に関しては、おそらく12歳以上の発症例も含んでいると思われます。10あるいは12歳以下の発症例だけに限局したら、違うかもしれません。  

    そもそも一般住民での陽性率が90%以上で、MS患者群では99%以上(Rev Med Virol 2005;15:3-15)。抗体陰性群の中でMSが発症する場合、全員がMS発症前に陽転化(Ann Neurol 2010;67:824-30)。CSF中oligoclonal bandsの一部はEBVと反応(Neurology 2010;74:1127-35; Mult Scler 2012;18:1204-8)。EBV初感染の年齢が高くなると免疫システムが成熟してしまい、伝染性単核症(IM)発症のリスクが高くなりますが、IM発症後のMSリスクが高くなる現象は性や年齢、IM重症度に関係なく、リスクはIM発症30年以上経過しても持続(Arch Neurol 2007;64:72-5)。
  12. 『ジャンゴ 繋がれざる者』
    Django Unchained)はマカロニウェスタンテイストだと思っていましたら、監督はクエンティン・タランティーノ。「ジャンゴ」という主人公の名は、代表的なマカロニウェスタン映画「続・荒野の用心棒」(フランコ・ネロ主演)の原題であり、主人公の名前なんだそうで、この映画へのリスペクトが感じられます。3時間ものこの映画は奴隷から自由人になった男がドイツ系の歯科医と賞金稼ぎをして金を稼ぎ、妻を取り戻すために、米国深南部の大農園主に戦いを挑む物語(30人近くを拳銃で射殺します。最後は・・・)。ドクター・キング・シュルツ役のクリストフ・ヴァルツ(そもそも本人の父親がドイツ人。本人自身は生まれも育ちも母親系のウイーン育ちで、現在はドイツとオーストリア国籍)は2度目となるアカデミー助演男優賞をこの映画で受賞しています。北野映画張りに相当に暴力的。諦めない奴隷を主人公にした映画(「それでも夜は明ける」)が2014年第86回アカデミー作品賞を受賞したり、この映画のようにレオナルド・ディカプリオが残虐な農園主を演じたり、かつての恥部としか思えない奴隷制度を描いた映画にスター俳優が出演したり、制作費を出す(内地でいい働き口があるといって韓国人女性を騙して従軍慰安婦にした日本人業者に、女性の恋人が復讐するなんていう映画は日本では制作できませぬ-女性は性奴隷にはされてはいませんが、この映画は類似の設定)映画会社があることに驚きます。世界中で自分勝手さのために米国は嫌われ者になってはいますが、懐の深さを感じます。凄い国ではあります。