2014年5月号 NO.3

  1. ナルコレプシーの有名人
  2. Narcoleptic dogs
  3. Narcolepsyは自己免疫
  4. 性的関係により女性から女性へ感染したHIV例
  5. 小児MS患者血漿中のバイオマーカー
  6. 多発性硬化症の痒み
  7. 反政府勢力が支配するリビア港から北朝鮮国旗を掲げたタンカーをシールズが制圧
  8. 腸のリンパ組織に多いTh17のホーミングを阻害するとEAEが増悪
  9. CNS抗原と反応する自己抗原応答性T細胞はCNSの健康維持に役立っている
  10. マウス前脳由来樹状細胞が頸部リンパ節でTregを調節
  11. 台本のない素人男女6人の青春ドラマ「テラスハウス」
  12. Trans-synaptic axonal degenerationを視覚路で証明
  13. 「妊活」なんていう言葉知ってました?
  14. 今、いずこへ?Lupoid sclerosis
  15. 2014年4月の診療報酬改定
  16. なりふり構わぬナース確保
  17. オーバーを着ている客に外で30分待て?!
  1. ナルコレプシーの有名人
    作家の阿佐田哲也 (色川武大) さんが日本人では最も有名です。真偽のほどは解りませんが、ネットでは、Winston Churchill, Thomas Edison, Nastassja Kinskiもそうだそうです。
  2. Narcoleptic dogs
    覚醒作用のあるホルモン、hypocretin受容体欠損によるんだそうです。一般のヒトのナルコレプシーとは病態が異なりますが、ヒトでも遺伝性タイプもあるのかもしれませぬ。
  3. Narcolepsyは自己免疫という報告がスタンフォード大から出ています。ヒトではhypocretinを産生する脳の細胞が外因性の要因により7万個ほど消失するか、障害を受けるためだそうな。彼らの一連の研究は(Neurology Today 2014;14(3):1, 10-11)、
    1. インフルエンザウイルスとのmolecular mimicryが考えられていて、2009-2010年のH1N1流行の際、少なくとも900名のナルコレプシー患者が発生。この時に使用されたのは、GlaxoSmithKlineのワクチンで米国では使用されませんでした。マーケットから回収。
    2. ナルコレプシーは遺伝的背景とH1N1ウイルスあるいはStreptococcus pyogenesへの暴露、という外因が組み合わさって発症。
    3. ナルコレプシーの流行の前にH1N1の流行が英国、スウェーデン、アイルランドで認められています。
    4. 患者のCSFでhypocretinが検出限界以下。
    5. HLA- DQ0602が関連。23例の患者のCD4+T細胞はhypocretin由来の2種類のペプチドと反応しましたが、DQ0602を有する健康人のT細胞は反応せず。
    6. 一卵性双生児でも、患者のみのT細胞が反応し、健康な同胞は反応せず。
    7. ナルコレプシー患者の2/3で認められるcataplexyについてですが、非合併型も健康人よりはhypocretinが低値を示しますが、合併型ではさらに低値に。
    8. 一般的な治療は、modafinil, armodafinil, 抗うつ剤、Sodium oxybate。全てのhypocretin産生細胞が全滅する前に、早期診断が必要、と。

  4. 性的関係により女性から女性へ感染したHIV例
    2014年3月15日に米国テキサス州で薬物注射や異性との性行為ではなく、女性同士の性行為により感染した珍しい例が発生したと、CDCが報告(CNN電子版より)。ウイルスのDNAで確認されていて、一方が陽性患者だったので治療していましたが、2010年に中止していて、パートナーの女性は2012年4月まで反復検査で陰性であることが証明されているそうです。ただ、生計の足しにこの女性は血漿を売っていたそうで・・・
  5. 小児MS患者血漿中のバイオマーカー
    9例の小児期発症RRMS患者を対象。多分、寛解期。二次元電気泳動した後、ゲルからpickupしたサンプルを液クロで調べ、データベースで照合。9例の健康な小児と比較すると、vitamin D-binding proteinやhemopexinなどが増加していることが判明(Mult Scler 2009;15:455-64)。
  6. 多発性硬化症の痒み
    以前、本誌で前慈恵医大教授の井上聖啓先生による大学で出している紀要に掲載された痒みに関する総説(井上先生から別刷りをいただきました)を紹介したことがありますが、もう少し入手しやすい総説をご紹介します(最後の文献もコピー業者から入手は容易)。特徴は、
    1. CNS lesionで痒みを症状として呈する、おそらく唯一の疾患は多発性硬化症で、再発の初期症状にもなります。
    2. 上肢から上肢帯、頸部に多く、体幹が次ぎ、下肢は少ないようです。
    3. 髄節性と考えられ(頸髄病変が主体)、脊髄のlong tract lesionによることはおそらくはありません。
    4. 抗ヒスタミン、カルバマゼピン、フェニトイン、メキシレチンは効きません。 など。(綜合臨床 2004;53:1807-11; 神経内科 2003;58:42-7; MB Derma 1999;30:1-6)

  7. 反政府勢力が支配するリビア港から北朝鮮国旗を掲げたタンカーをシールズが制圧
    ロイター電子版(2014/3/17)によりますと、3月16日、キプロス沖で米国海軍特殊部隊(SEALS)により制圧され、リビア政府側へ引き返しているそうです。2時間の作戦で負傷者はなく、3人のリビア人は拘束。まるで、映画の世界。マレーシア航空機行方不明の陰で、くらーいインテリジェンスの世界は続行中。
  8. 腸のリンパ組織に多いTh17のホーミングを阻害するとEAEが増悪
    ヒトのTh17はBBBを破壊して、CNSの炎症病変を誘導するとされています(Nat Med 2007;13:1173-5)。  
    EAE resistantなB10.SマウスではEAE sensitiveなSJL/Jマウスと比較して、腸でのTh17が多く、Th17の腸へのホーミングに関与する接着分子である、α4β7に対する抗体をB10.Sに投与するとEAEの症状が増悪する、という報告が出ました(PLoS One 2014;9:e87876)。ここで使用しているEAEは、MOG特異的T細胞クローンのTCRを発現させた、SJL由来自然発症トランスジェニックマウスで、B10.Sの実験にはbackcrossしたマウスを使用。直ちに治療へ結びつける実験ではないところが惜しい!
  9. CNS抗原と反応する自己抗原応答性T細胞はCNSの健康維持に役立っている
    逆説的な感じはしますがそうではなくて、イスラエルのDr Schwartz叔母様の一連の研究は日本では知られていませんが、重要でしょう(Nat Med 1999;5:49-55; Nat Rev Neurol 2010;6:405-10)。これも誰か日本語でまとめて下さいませんかねえ(いつか、誰かに頼んじゃおう!基礎の方、覚悟しってネ)。
  10. マウス前脳由来樹状細胞が頸部リンパ節でTregを調節という面白い論文が出ていますが、Fingolimodにより本来はEAE resistantマウスでEAEを誘導できるそうで、これは頸部でのDCによるTreg誘導を変化させるためだそうな(J Clin Invest 2014;124:1228-41)。誰か、この論文を説明して!ここでは引用されてはいませんが、脳からのリンパの流れが深部の頸部リンパ節に流れ込むことは以前から知られていますので、頸部リンパ節でCNS抗原によりT細胞が活性化されてもおかしくはありません(J Mol Med 2009;87:273-86)。ここで言っているのは、もっと込み入った話で・・・
  11. 台本のない素人男女6人の青春ドラマ「テラスハウス」なんていう変なドラマがフジテレビの深夜に放映されています。たまたま発見したのですが、きちんとカメラワークされていますネ(制作側からの説明では、数台のカメラを使えば技術的には可能だそうな)。テロップでわざわざ台本のないドラマと銘打ってはいますが、タレントの卵たちのようでもありますし、多少の打ち合わせはするだろう、というのがネットでの一般的な見方のようです。70年代から米国では完全なリアリティードラマがあるようですが、常にやらせとの境目が議論されているようですし、精神的に追い込まれて自殺者も出ています。
  12. Trans-synaptic axonal degenerationを視覚路で証明した、という論文が出ました(Ann Neurol 2014;75:98-107)。100例のMS患者を対象に、視神経の軸索変性はOCTで、後頭葉萎縮はMRIで計測。視神経炎による外側膝状体を超えた影響を定量的に検討したもので、1年後の再検でも確認されています。概念としては理解していても、画像で定量的に検討して、統計計算した結果は少ないでしょう。方法が限られていますからネ。ある雑誌で日本語訳を提案(ダメだったら、ごめんネ)。
  13. 「妊活」なんていう言葉知ってました?

    妊娠するための活動、なんだそうな。未婚、既婚は関係ないようです。ベビーシッター事件で改めて焦点が当てられましたが、シングルマザーは全国で100万人いるんだそうな(公式の数字なので、実態はもっと多いかも)。妊娠しやすくする食生活、なんていうものまでネットでは紹介されています(http://woman.mynavi.jp/ad/nintama/)。1食2蛋白を心がけるとか、不足しがちな鉄分、亜鉛、葉酸を積極的に摂るとか。これって妊娠した後の話でしょ?モデルみたいな痩せすぎ、栄養不良は別ですが。


  14. 今、いずこへ?Lupoid sclerosis
    最近、言わなくなりましたねえ。概念から言ったら、MSではなくて、NMOではないかと思っていましたが、やはりMSなんでしょうか?抗AQP4抗体はどうなのでしょう?ギリシャからMS (819例)、SLE(728例)の中から、MS + SLEの自験例9例が報告されました(Fanouriakis A1, Mastorodemos V, et al. Semin Arth Rheum, in press)。特徴は・・・
    1. 全例が女性 (既報9例*も全例が女性!)
    2. SLE発症年齢の平均が42.1歳。SLE診断先行例が5例。うち4例でのtime lagは5年以下。つまり、SLE発症後5年以内にMSも発症。(文献例ではSLE先行は0/9例)
    3. MSの初発は7例で脊髄症状。(文献例では逆で、33%のみ)
    4. SLEはmildな皮膚粘膜、関節症状が主体。
      * 文献例は、Acta Neurol Scand 1993;87:356-60; Scand J Rheumatol 2001;30:120-2; Lupus 2007;16:991-2; Indian Pediatr 1997;34:159-62; Eur Neurol 1996;36:327-8; J Am Acad Dermatol 1988;969-72
  15. 2014年4月の診療報酬改定
    曖昧だった部分を明確にしたり、より在宅へシフトさせるための方策を盛り込んだりしていますが、3%の消費税増税分は医療機関持ちのため、全体の改定率では+0.10%ですが、実質的には診療報酬減額。当院に関連した、いくつか気になる点を見てみましょう。
    1. 「在宅療養後方支援病院」という新しい制度を新設し、入院初日だけ2500点をつけました。条件があって、200床以上で、あらかじめ24時間いつでも受け入れますよと契約している患者が対象。文書でこのことを書いて渡すことになります。必ずしも当該病院外来に通院していなくても良いのですが、逆に、必要な診療科があるとは限らないので、その場合は他を紹介することになります。緊急時に入院できると言っておいて、できない場合は契約違反にならないのか、他を探すまでに手遅れにはならないか、などといった問題が考えられます。総合病院なら受けられるでしょうが(500床以上の場合、受け入れの患者に制限がありますが、神経難病は大丈夫)、逆に、そのための常にベットを空けておく必要があり、急性期の病院にとっては非現実的。
    2. 「在宅自己注射指導管理料」がガクンと減額されます。今までは820点だったので、MS診療の売り上げに貢献していました。今回の改訂で1ヶ月の注射回数が4回以上では190点、8回以上で290点になってしまいます。IFNβでもアボネックスでは190点で、ベタフェロンでは290点と差別化。インスリンのように28回以上では810点。これは内分泌の医者たちが抵抗したのでしょうか?注射回数と指導とにどういう相関があるのか?今回、さらに、導入初期加算500点が3ヶ月間のみ算定が認められました。ただし、中止した短期間後に再開したりしないように、過去1年以内に使用した薬剤は対象外。
    3. 外来患者さんでもリハビリの請求が可能となりました。これは大きいですね。短期的に当院はリハビリでの収益割合に依存することになります。将来はどうなりますか・・・入院(急性期だけ残して)から外来へシフトさせるのは在宅促進のためでしょうから、外来負担が大きくなれば、慢性期リハをさらに減額あるいは訪問リハへ誘導するかもしれません(現状では、提携しているマッサージ師を訪問リハ代わりに派遣してこの分を医療費請求しようとする、訪問看護ステーションがすでに関西では出ています)。
    4. 外国より多いといわれる胃瘻造設の抑制のために、造設術が10070から6070 or 4856点へ減点されました。嚥下機能評価加算を加えると、当院は6856点。
    5. 診療録管理体制加算に新しい基準が新設され、30から100点へアップ。ただし、どこの病院でも昔から大変なのですが、退院総括がきちんと出されていないとクリアされません。その条件も今回の新項目はきつくて、14日以内に90%以上が提出されていること。無理だなあ・・・

  16. なりふり構わぬナース確保
    7対1の看護基準の維持が次第に困難になっていくことが予想され、そのうち医療機関による看護職員の確保が現在よりも容易になる可能性は否定できませんが、どうなるかはまだ不明です。数年で離職あるいは最初の就職先から離れてしまう傾向は変わらないでしょうから、急性期病院の環境は余り変わらないでしょう。新卒者を取りあえず確保し続けなければならない状況はそう簡単には変わらないように思われます。看護学生に奨学金を提供する全国規模の公的病院も存在するようです。新卒で奨学金提供機関での同期間の就職を義務づけるというもの。通常の給料は出ますから人身売買とまでは言えないまでも、事実上の丁稚奉公とも言えます。医療機関にとっては大変な時代。
  17. オーバーを着ている客に外で30分待て?!
    久しぶりに金沢で美味しい蕎麦を食べよう(誤解のないように記載しておきますと、少し郊外へ行けば、京都でも美味しい蕎麦は食べられます)、と「四季の庵」(高岡町19-4、中央小学校南)へ行きました(筆者は以前、偶然発見したのですが、最近では食べログにも掲載されています。褒めすぎ!)。予約不可の店。開店時間から遅れたので最初の一巡には入れないとは思っていましたが、時間はあるので待つつもりでした。「時間はあるの?30分くらいは待ってもらわなくちゃなんないけども。」何回か来ているので、待つ覚悟はできていましたし、開店1時間半後には蕎麦がなくなってしまうくらいに、商売っ気がないことも理解はしていました。カウンターの隅の客は食べ終わっていましたので、こあがりの端に二人ほど座って待っている客もすぐに食べられるだろう、自分たちもすぐだろうと思って、店の隅で立って待っていようと思って、隅に移動したとたんに、店主が「お客さんが食べているんで、外で待ってくれますか?」一瞬、おっさんの言っている意味が理解できず、「外で?」。今までも、テーブルに座れない客は店の余った椅子に座って待っているのが常態だったのですが・・・  

    普段は温厚な連れが何も言わずにさっさと店を出てしまうので、慌てて追いかけ、入り口で立っていようかと思ったら、店の前を離れていきます。「待たないの?」と先に出た背に問わば、振り向きもせずに、「良いんじゃない?」背中で「アホか!あの親父!」と怒っているのが判ります。世の中には店の主人に怒られて喜ぶ、困った「グルメ」もいるようで、本来の「おもてなし」の心が一部で失われています。あのような言動は店の中で食べている客にも不愉快。蕎麦の味だけで店の評価はできません。もはや、筆者のガイドブックからこの店は消えました。店の名前は遠慮せずに、明記します。自信があるのは判るけれど、一緒に働いている妻に対して暴君なのは二人の問題なので(自宅でDVなら別だけれど)どうでもいいけれど、商売をしているなら態度も価格の範囲内。学会出張で金沢へ行く機会があっても(今年は神経感染症学会・神経ウイルス学会が9月に開催されます)、お奨めしません。たとえ、蕎麦が美味しくても、不愉快な思いをするリスクがあります。  

    それに引き替え、こっちは地元新聞でも話題(北國新聞 2014/3/12朝刊)。「ブランコ」(18:00-26:00、月曜日定休、075-254-0018)スペイン料理自体も美味しいですが、20代にしか見えない男女数名のウェーターたちの親切さ、小気味よいスピーディーな反応、元気の良さなど、従業員が良く訓練されていて気持ちが良いです。安いです。金沢駅西側(堀川町5丁目9)に2013年2月にオープンしたばかりで、観光客は少ないですが予約が取りにくくなっています。料理長の八木恵介さんはバルセロナのミシュランガイド2つ星レストランで修行された方。米ではなく極細のパスタを短くカットして予め炒めてから使った、パエジャ「フィデウア」(2-3人前で2480円)は仕上がりに30-60分かかるそうな(米を使った通常のパエジャも、筆者には味は濃いですが美味)。なんと言っても、お薦めは「エビのアヒージョ」。あつあつの”カスエラ”に入れて出されます。エビを食べた後、カスエラ底の真っ黒になった乾燥甘エビを残りのオイルとともにパンに付けて食べるのは絶品。