2010年5月号 NO.2

  1. Natalizumabが投与されたMSでPML発症
  2. MS寛解期へのステロイド治療
  3. 今月のことば           
  4. HTLV-1とNMO
  5. Lupus myelitisには2種類存在する
  6. マネジメント戦略からみた高校野球
  7. 抗神経抗体が見いだされるimmunotherapy-responsive seizure
  8. 「遠まわりの雨」
  9. Leptomeningeal enhancementをきたしうる疾患
  10. Pachymeningeal enhancementをきたす疾患
  11. モーニングアフターピル
  12. イスラムの極刑
  13. 視神経炎
  1. Natalizumabが投与されたMSでPML発症
    すでに有名な副作用になっていますが、Neurology Today 2009;9(20):5-7で紹介されていました。  
    少なくとも1年間毎月投与された患者の1000人に一人に発症するリスクがあると考えられています。PMLを発症した13例の投与回数は12から35回で、平均25回。  
    PMLの診断は容易ではなく、血清学的には陰性のことも。一般には次の3点で診断されます。
    1). Motor dysfunction, cognitive impairments, visual deficits, seizureなどの症状が進行性に出現すること。
    2). 病変がMRIで検出されること。
    3). CSFでJCV DNAが検出されること。  
    脳生検でviral DNA見出されれば診断はより確か。末梢血でのviral DNAの存在はウイルスの再活性化の指標にはなっても、診断には役立ちません。というのは、健康人でもviremiaが出現するため。

  2. MS寛解期へのステロイド治療
    一般的には無効ですが、その古典的文献です。有効だったら、NMOか別の病気を考えるべきでしょう。
    Sibley WA. Handbook of Clinical Neurology, Vol 9, 1970, p383
    Ellison GW, et al. Neurology 1980;30: 28

  3. 今月のことば
    「心の傷を癒す簡単な方法はない。 ただ、こうも思う。 心の傷はきっと必要なものだ。 なぜなら、心に傷を負うことで、 他人の痛みに気づけるようになれるから。」 (山下智久演ずる藍沢耕作レジデントのことば。
    「コードブルー」フジテレビ 2010年3月8日放映より)国家・民族も一緒だね。  
    もう一つ。
    「ヒトは、ヒトから必要とされないと生きてゆけない。だからみんな必死になる。勉強でも仕事でも。ヒトから必要とされる人間になるために。医者もそのために腕を磨く。患者から必要とされたいからだ。」 「医者も?」(idolの新垣結衣扮するレジデントが聞いて) 「外科医は一番にならないと意味がない。二番目、三番目の医者に誰が命を預けたい?」 (山ピーの言葉。「コードブルー」第1シーズン第5回「過去」より)生き甲斐や働きがいは、精神衛生にも大切。どの職場でも・・・
  4. HTLV-1とNMO
    梅原先生 (鹿児島大)による2009年11月の仙台でのご講演のメモだと思います。  
    NMO with anti-HTLV-1が山口大から報告された(Int Med, 2009)。
    HAM患者でも70%は上肢深部腱反射が亢進している。Subclinicalには頸髄にも病変が存在。

    Chronic progressive cervical myelopathy with HTLV-1 infectionとしてUmeharaがNeurology 2004に報告。Variant of HAM?
    HAM30例、variant HAM14例でanti-AQP4 abを測定したらすべて陰性。
    Acute transverse myelitis患者が視神経炎をきたしanti-HTLV-1陽性。後に視神経炎が再発し、anti-AQP4が陽性になった例を経験。

    府立医大で急性発症の脊髄障害をきたしたanti-HTLV-1陽性の一例を第81回近畿地方会で報告。pro viral DNAが高かったので、HAMと考えた。その後、再発し、anti-AQP4が陽性になったため、NMOに。
    Anti-AQP4/anti-HTLV-1がともに陽性だったのが6例 数時間から1週で症状が感性。脊髄梗塞と診断されたほど急性の経過。5例は女性。これらから、anti-HTLV-1陽性例でacute transverse myelitisきたしたら、NMOか?6例中3例で視神経炎。他の2例でVEP延長。2例で難治性hiccup.
    20-372 copyあり、ほとんどキャリアのレベル。一部で高い。中には血清とCSFともにx1024と高い患者も。
    Rapidly progressive HAMと従来言われていたのは何だったのか?

    HAMでONは・・・   
       鹿児島大眼科・中尾久美子は0/175例   
       鹿児島大神経内科では0/100例
    一方、intreatable hiccupはHAMでは0/100例 (鹿児島大神経内科)

  5. Lupus myelitisには2種類存在する

    Gray matter myelitis (11例) White matter myelitis (11例)
    極期での対麻痺 100% 0%
    回復期での膀胱カテーテル挿入 100 30
    再発 9.1 72.7
    視神経炎の既往歴 0 54.5
    NMO診断基準(2006)を満足 0 45.5
    Lupus anticoagulant陽性 0 54.5
    抗リン脂質抗体症候群の既往歴 0 36.4
    NMO IgG陽性 12.5 57.1
    (Arth Rheum 2009;60:3378-87より再構成)

  6. マネジメント戦略からみた高校野球
    岩崎夏海作「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(ダイヤモンド社)。How toものではありません。これでも小説の題名です。企業の経営戦略に基づいて、3回戦より上に行ったことのない都立校を甲子園へ行かせるにはどうしたらよいか?女子高生の名前はなんと「みなみ」。名字は浅倉ではありませんが。マーケティングからこの女子マネージャーは始めます。面接をし、自己目標管理をし、やりがいを見出し、なにやらふだん病院でも最近始めているシステムを連想させます。良くできている小説です。この本をガイドに経営学へ入ることも可能な感じさえします、かな?

  7. 抗神経抗体が見いだされるimmunotherapy-responsive seizureがOxfordのDr. Angela Vincentらによりまとめられています(Curr Opin Neurol 2010;23:144-50)。  

    静岡てんかんセンターの高橋らにより報告されている、Glutamate receptor epsilon 2 antibody encephalitisについては、Takahashiらが報告 したAnn Neurol 2008;64:110-11へのDr Dalmauによる激しい批判 Ann Neurol 2008;64:111-2も引用した上で、以下のように記載しています。  

    majority of the sera positive for glutamate receptor epsilon 2 antibodies by western blot or ELISA do not appear to be postive on NMDRR expreessing cell. these cases do not yet have a reproducible antibody test that is available outside the Japanese centre.  

    本稿の表題を以下のようにまとめておきます。
    1). VGKC
    Men:women 2:1, >40 years mainly
    amnesia, seizure, behavioural disordersで発症し、進行するとrefractory seizures and severe memory loss if untreated but can resolve spontaneously. 稀に、hyponatraemia.
    2). NMDAR
    Women >:men 2.5:1, All ages including children, but majority between 15 and 40 years
    behavioural disorders, psychosis, seizuresで発症し、進行すると orofacial and limb dyskinesias. 稀に、can be limited to seizures only
    3). GAD
    Women > men, <40 years
    Epilepsy predominating with cognitive impairment. 稀に、other features unusual but can be associated with stiff person syndrome or ataxia  

  8. 「遠まわりの雨」
    雨の降る江ノ電(この電車は京都市内を走っている嵐電の提携会社)の極楽寺駅(かつて、中村雅俊さん主演のTV「俺たちの旅」シリーズのご当地。長谷駅と稲村ヶ崎駅の中間)で、二人が別れるシーンにかぶるエンディングは、イギリスで素人が参加するオーディション番組で世界的に話題になった、スーザン・ボイルさんが歌う「翼を下さい」。サッカーでもお馴染みですが、この場合、意味深長な選曲です。  
    渡辺 謙さん(アカデミー賞主演男優賞受賞)と夏川結衣さん(7つ年下のチュートリアルの徳井義実さんと半同棲中?)主演のドラマ。決して、ヨーロッパの古い映画のようなしゃれた別れではありませんが、ついに一線を越えることはなく自重して別れてしまいます。20年ぶりに再開したかつての恋人同士のせつない大人の恋を描いています。脚本は山田太一さん。山田さんはこの別れのシーンを描きたくて、この本を書いたように思われます。遠回りしてきたけれども、でも、ハッピーエンドには終えられない、大人の恋。白い翼はなかったのですね。大空に翼を広げて、飛んでゆくことはかなわず、二人は鎌倉と藤沢と逆方向へ、二人はそれぞれの家庭のある大田区と高崎へ別れてゆきます。
  9. Leptomeningeal enhancementをきたしうる疾患
    Meningitis/Meningoencephalitis/Cerebellitis
     Neuroborreliosis
     Neurobrucellosis

    Malignant tumor with leptomeningeal dissemination

    Vasculitis
    SLE
    Granulomatous angiitis of the CNS
    Rheumatoid leptomeningitis
    Sjogren's syndrome
    Susac's syndrome

    Nonvasculitic autoimmune inflammatory meningoencephalitis (NAIM)
    Neurosarcoidosis
    Wegener's granulomatosis

    Leptomeningeal lymphoma
    Adult T-cell leukaemia
    Multiple myeloma
    Haemophagocytic lymphohistiocytosis

    Sturge-Weber syndrome
    Moyamoya disease
    Intracranial dural arteriovenous fistulas
    Parry-Romberg syndrome
    Leptomeningeal familial amyloidosis
    Cerebral amyloid angiopathy
    Eclampsia
    Superficial siderosis

    After carotid stent insertion
    Iatrogenic (parenteral nutrition via a cath

  10. Pachymeningeal enhancementをきたす疾患
    Intracranial hypotension (idiopathic, spinal cerebrospinal fluid leaks, after shunt) Meningeal metastases Neuroradiology. 1998 Jan;40(1):23-6.
    Chronic subdural hematomas Clin Imaging. 2004 Mar-Apr;28(2):90-2.; J Magn Reson Imaging. 2003 Apr;17(4):484-6.
    Neurosarcoidosis J Neurol. 2006 Apr;253(4):488-95; Arch Neurol. 2003 Mar;60(3):426-30.
    Hypertrophic pachymeningitis Am J Roentgenol. 1997 Nov;169(5):1425-8.
    Chemical meningitis Ann Hematol. 1999 Dec;78(12):564-7.

  11. モーニングアフターピル
    性交後避妊薬 (Postcoital Pill)のことだそうですが、無防備な性交後避妊薬をいうようです。そのうち、国内でも入ってくるのでしょうか?良いことなのかなあ。HIV感染がさらに拡大しますね。現在使用されている、levonorgestre (1.5 mg) (商品名:LevonelleあるいはNorlevo-ノリエガではありません)との比較試験がイギリスで行われ、その結果が公表されました(Lancet 2010;375:555-62)。Ulipristal acetate (商品名:Ellaone) (30 mg)は3日後までは同等の効果で、5日後までになると対象薬より優れていたそうです。ま、普通は翌朝に飲むんでしょうね、この手の薬は。だから、モーニングアフターピル。
  12. イスラムの極刑
    インドネシアのアチェ州は住民のほとんどがイスラム教徒で、世界最大のイスラム教徒の住む同国でもちょっと特殊な存在。独立意識が強く、かつては自由アチェ運動と政府軍の間で戦闘を繰り広げていましたが、スマトラ島の地震で組織も住民も壊滅的被害を受け、休戦中。そんな地域なので、国の法律にもない特殊な条例がこの州には存在。配偶者ではない相手とセックスすると、独身者にはむち打ち100回、既婚者には投石による死罪、しかも公開です。存在するということは、必要性があったということなんでしょうね。(「世界情勢」探求会「世界紛争地図」角川SSC新書より)
  13. 視神経炎
    第2回岡山多発性硬化症研究会に、近畿大学眼科・中尾教授とともに招かれて講演をして参りました。私は、MSとNMOの診断と治療に関する問題点を紹介しましたが、如何にまだ解っていない問題が多いかをご紹介しましたので、知識の整理にはならなかったかもしれません。中尾教授とはこれで3回目のペアで、なにやら西日本でこのコンビで営業をしているような感じ(?).  さて、中尾先生のご講演から。3回目ですが、まだ新しい発見があります。  
    視神経炎の臨床的特徴は今までに本誌でご紹介してきましたが、色の弁別、特に赤と緑が解りにくくなりますが、これは黄斑で色覚を判定しているためで、中心暗点の拡大によるため。また、視神経炎の臨床的特徴は視神経が障害されたときの非特異的症状なので、炎症によらず、Leberでも虚血でもエタンブトールなどによる中毒による視神経障害でも症状は同じ。

    視神経炎が初発であっても、以下の所見はNMOに特徴的なので、診断が可能なはず、と。
    1). 抗AQP4抗体陽性視神経炎28例(27例は女性)のうち、それぞれ特徴的所見の頻度は、
    水平性半盲    4/28例
    両側性半盲    6/28
    同名半盲      1/28  
    控え室で水平性半盲が話題に。中尾教授はこれは血管分布と一致した症状であり、虚血の際の症状なので、NMOではvascularの要因が絶対にあるはずだ、と。
    2). MRIで頭蓋内視神経や視交叉に病変  
    また、両側の視力が同時に障害されるのはMSではなく、視交叉か視索に病変が存在していることを示唆していますが、小児のADEMでも出現しうるそうです。  
    300例に満たない視神経炎患者のうち、視神経と脊髄炎が同時に発症した、Devci病は2例いたそうです。当院では900例以上のMS/NMO患者でわずか1例のみ。  
    傷害部位別視神経の診断に利用されるMRIの撮影法の特徴は・・・

    頭蓋内視神経や視神経管内視神経の描出 視交叉、視索や頭蓋内視神経の描出
    STIR ◎  ×
    FLAIR  × ◎ 
    T1 Gd × ◎ 
    T1脂肪抑制Gd ◎ 

    STIRは炎症でも萎縮でも高信号になるので、長期経過例では区別がつかないが、初発の時には使える方法。  
    Axialで撮影する場合、多くはOM lineに平行の断面になるけれども、視神経の走行角度はOM lineより30度ほど前下方へ傾いているため、OM lineのまま撮像すると、視神経は2-3つのsliceに分断されてしまうそうです。そこで、近畿大では初めから角度をつけて撮影しているそうですが、患者さんによってはこの角度が30度以上のことがあるそうな。近大では視交叉の角度でFALIRのaxialをとり、眼窩内病変はSTIRで診断しているそうです。  
    NMO視神経炎の治療はパルスを1回やった後、反復せずに、直ちに単純血漿交換を行っているそうです。週に3回、計7回施行しているそうなので、置換液はFFPなのでしょう。9例中7例で視神経炎再発の前までの視力には戻った、と。