2010年5月号 NO.1
- Paraneoplastic cerebellar degeneration
- Sporadic cerebellar ataxiasをきたす疾患
- 抗GAD抗体陽性疾患を呈する疾患
- 辺縁系脳炎の新しい抗体
- 突然死の原因
- Late-onset cerebellar ataxia弧発例での抗神経抗体の頻度
- 「クラシック音楽は『ミステリー』である」
- 神経細胞表面の抗原に対する自己抗体
- 今月の言葉
- FLAIRによる造影病変の検出
- MSの脳MRI診断基準 復習です
- Reactive astrocytesにNa channel Nav1.5が高発現
- 3T MRIによるNa量の画像化
- 9.4T MRIによるMS大脳皮質病変の検出
- 鈴木邦夫「右翼は言論の敵か」ちくま新書
- 多発性硬化症で出現する痒みの特徴
- 青筋を立てた死体
- Paraneoplastic cerebellar degeneration
抗体 腫瘍 Anti-Yo Gynecologological, Breast Anti-Hu SCLC Anti-Tr Hodgkin's lymphoma Anti-Ri SCLC, Gynecological, Breast Anti-mGluR1 Hodgkin's lymphoma Anti-CV2 (CRMP5) SCLC, thymoma Anti-ZIC4 SCLC Anti-VGCC SCLC
mGluR1: metabotropic glutamate reveptor type 1
ZIC4: zinc finger protein 4
VGCC: voltage-gated calcium channel
(Lancet Neurol 2010;994-104より)
- Sporadic cerebellar ataxiasをきたす疾患
Alcoholic cerebellar degeneration
Ataxia due to other toxic causes
Paraneoplastic cerebellar degeneration
Anti-GAD ataxia
SREAT
Ataxia due to aquired vitamin B12 deficiency
Ataxia due to aquired vitamin E deficiency
Superficial siderosis
Tabetic neurosyphilis
Whipple's disease
HIV ataxia
Ataxic variant of sporadic CJD
Friedreich's ataxia
Spinocerebellar ataxia
FXTAS
Cerebbelar variant of MSA
SAOA
GAD: glutamic acid decarboxylase
SREAT: steroid-responsive encephalopathy associated with autoimmune thyroiditis
FXTAS: fragile-X--associated tremor/ataxia syndrome
SAOA: sporadic adult-onset ataxia of unknown aetiology
(Lancet Neurol 2010;994-104より)
- 抗GAD抗体陽性疾患を呈する疾患
Stiff-person症候群
慢性小脳失調
難治性てんかん
口蓋ミオクローヌス
辺縁系脳炎
免疫介在性能炎
(臨床神経 2010;5092-7)
- 辺縁系脳炎の新しい抗体
中枢神経症状で発症した再発性多発軟骨炎に伴う血管周囲炎を主体とした髄膜 脳炎の剖検例が報告されていて(臨床神経 2009;49172-8)、考察で紹介されています。辺縁系脳炎を呈した再発性多発軟骨炎の患者血清中に従来知られていない抗neutral glycosphingolipid抗体が見いだされています(FEBS Lett 2006;5804991-5)。
- 突然死の原因
大阪府監察医事務所が1982から85年までをまとめたデータがあります。死に至る重要な徴候が出現した発症時から死亡までの時間が24時間以内の内因性急死の1230剖検例を対象に解析。50歳代が最多(26%)で、全体の1/3が就寝中。月別では11月から2月が当然のように多い結果。死因としては、66%が心臓疾患で、その3/4が虚血性心疾患。既往歴としては高血圧が多い(26%)のですが、死亡前の健康状態で健康(30.9%)や治療中であるが問題はない(37%)が意外に多く、本人にとっても家族にとっても本当に「突然」の死ということになるようです。ちなみに、死因のベスト3は、心臓疾患(65.9%)、脳あるいはくも膜下出血(16.3%)、肺炎や喘息などの呼吸器疾患(6.6%)。
(的場梁次、近藤稔和編著「死体検案ハンドブック 改訂2版」金芳堂より)
- Late-onset cerebellar ataxia弧発例での抗神経抗体の頻度
Paraneopastic neurologic syndromeの研究をしていて、Dept Neuroimmunol, Univ Munich & Dept Palliative Med, Univ Cologne, GermanyのProfになったR. Voltzからの報告。67例中8例(11.9%)でP/Q型VGCC特異抗体が見出されたそうです。これらの患者さんで、傍腫瘍性を疑わせる所見はなく、測定してみないと判らない、と。性別は4:4。罹病期間が1年という患者さんが2名いらっしゃいます。
(J Neurol 2010;257:59-62)
- 「クラシック音楽は『ミステリー』である」
ご自身が作曲家でもある,吉松 隆さんの著作(講談社α新書).そのなかから・・・ 五線譜にはラから始まるA, B, C・・・がありますが,簡単な単語なら音符で暗号を書くことができるんだそうで,BACHは名前が簡単なので,自分の名前を曲の中に署名していた,と.似た例は結構あるそうです. チャーチルが大戦中に勝利のVサインを主唱しましたが,これをモールス信号にすると,「トン,トン,トン,ツー」.これはベートーベンの第5番の冒頭ですね.連合国ではこの曲が勝利の合い言葉になったんだそうです.ただし,作曲家は敵国人. この本ではモーツアルトの「ドン・ジョバンニ」を取り上げ,主人公が最後に騎士長の石像に地獄は連れ去られたことになっていますが,この死体なき殺人事件の謎を解いています.犯人はいったい,誰なのか?答えは本をお読みください.映画「アマデウス」ではモーツアルトに「ドン・ジョバンニ」の作曲を依頼する仮面の男とオペラでの石像とがダブっていたように思いましたが・・・ NHKの子供番組の「ピン,ポン,パン」は,中国を舞台にしたプッチーニの「トゥーランドット」(「誰も寝てはならぬ」が有名.荒川静香さんがオリンピックで使用した曲)に登場する三人の中国の官吏の名前からとられたものなんだそうな.
- 神経細胞表面の抗原に対する自己抗体
Ab Tumors (%) 症状 特徴 VGKC SCLC, thymoma 辺縁系脳炎
Morvan’s syndr
CJD like男性優位, REM sleep disorderと関連、しばし ば低Naを伴う NMDA R ovarian teratoma 精神症状で発症
catatonia, dystonia, aphasia, hypoventilation女性優位,
45%はMRI正常
18歳以上では腫瘍合併頻度が高いAMPA R SCLC, breast, thymoma 辺縁系脳炎, 非典型
精神病女性優位,
60%で再発GABAB R SCLC 辺縁系脳炎, 86%で痙攣 3例でGad ab陽性 Glycine R Lung ca Progressive encephalomyelitis with rigidity, Stiff person syndr 1例報告のみ
(J Neurol in press, Drs. Graus & Dalmauのreview)
- 今月の言葉
離婚者数は減少していますが、離婚率は上昇中なんだそうですね。つまりは結婚者数が減少しているため。現在、離婚率は30%と高く、3人に一人は離婚することに。で・・・ 「結婚に後悔することはあっても、離婚に後悔することはないんです。」(「みのもんたの朝ズバッ!」TBS 2010/3/26放映より、コメンテーターのTBS解説委員、アナウンサースクール校長の吉川美代子さんのお言葉)ふかーい独身キャリアのお言葉ですが、コメントしようがありません。知っているヒト、そうなの?後悔しないまでいっちゃってるってことですかね?元さやに収まりたい、と公言して、それもネタにしているお笑い芸人もいますが・・・
- FLAIRによる造影病変の検出通常のGd-DTPA 1A静注5分後(early)と1時間後(delayed)に、1.5TのMRIを使用して、通常のT1とT1-weighted
FLAIRによる造影病変検出率を46例のclinically definite MSで検討した結果が出ています(Acad Radiol 2008;15:15-23)。30例で87病変が検出されています。表でまとめますと・・・
early delayed T1 72.4% 97.7 FLAIR 96.6 93.1
奈良医大からも6例のMSを対象に、同様な報告が出ています(J Neuroimaging 2009;19:246-9)。検出率の差ははっきりしません。T1陰性の1例でFLAIRで脳室周囲に病変が見出されています。深部白質やテント下病変では差はありませんでしたが、脳室周囲やjuxtacorticalでよりFLAIRでsignalの増加が認められています。
- MSの脳MRI診断基準復習です。
1). Paty (1988)の基準
Four or more T2-hyperintense lesions or
Three lesions, one periventricular
2). Fazekas (1988)の基準
Three or more lesions, with two of the following characteristics:
Size 6 mm or greater
Abutting bodies of lateral ventricles
Infratentorial
3). McDonald (2001)の基準
Three of four of the following:
One Gd enhancing lesion or nine t2-hyperintense lesions if there is no Gd enhancing lesion
At least one infratentorial lesion
At least one juxtacortical lesion
At least three periventricular lesions
* Lesions must be at least 3 mm in cross-section. One spinal cord lesion may be substituted for one brain lesion.
- Reactive astrocytesにNa channel Nav1.5が高発現しているという報告が出ています(Brain 2010;133:835-46)。Sodium channelには9種類(Nav1.1-1.9)あるんだそうで、マウスなどの齧歯類のastrocytesでは1.1-1.3、1.5が発現していますが、加齢や外傷などの刺激で変化するんだそうな。Microgliaのsodium
channelをブロックすると、phagosytosisやサイトカイン/ケモカインの放出、migrationを抑制することが報告されています。Sodium
channelのヒトでの報告はないそうですが、正常の白質では発現していない、Nav1.5がMS病変部位では高発現していることが判明。
- 3T MRIによるNa量の画像化に成功しています(Brain 2010;133:847-57)。MS病変部位ではNa量が増加しており、正常人白質に比し、NAWMでもMSでは高値だそうな。軸索内Na量が軸索変性と関連していることが知られていますし(Waxman
SC. Nat Rev Neurosci 2006;7:932-41)。Na MRI自体は虚血性脳血管障害や脳腫瘍、アルツハイマー病で報告されています。
- 9.4T MRIによるMS大脳皮質病変の検出
DH Millerらの報告(Brain 2010;133:858-67)。この報告自体は、剖検で得られた組織を使い、組織像と画像とを対比させた研究で、生体に9.4 Tの磁場をかけたわけではありませんが、すでに7 Tは国内でも稼働しています。ヒトはどこまでの磁力に耐えられるのでありましょうか?
- 鈴木邦夫「右翼は言論の敵か」ちくま新書
かつて東アジア武装戦線のテロルを右翼の側から評価した本を出したこともある、一水会顧問による戦後右翼思想史のような本。「生長の家」創設者・谷口雅春さんが入信したのは、「邪宗門」のモデルともなった(こんなこと書いても、誰も知らないかな?)、出口王仁三郎の「大本教」だったんですね。
六本木にあった防衛庁近くに住んでいた、白井為雄さんを著者が訪ねたときにはボーヴォワールの「第二の性」は良い本だから読むように薦められた、と。
朝日新聞社の社長室で割腹自殺を遂げた、野村秋介さんの最も有名な俳句。
俺に是非を説くな激しき雪が好き
野村さんも鈴木さんも違法な行為はたくさんされていたようですが、テロを実行されたことはなく、野村さんは言葉は激しかったけれども、他人を傷つけたことは一度もない、と鈴木氏。
- 多発性硬化症で出現する痒みの特徴は、
a). 突然生じる。
b). 日に数-数十回反復する。
c). 持続時間は数秒から数十分。
d). 部位は分節性で、脊髄横断性感覚障害の最上位のレベルと一致することが多い。
e). 頚髄レベルに多発。
f). 接触により誘発され、入浴で増悪。
g). ステロイドが有効。時に、carbamazepineも有効。
h). 症状増悪期の初期に出現することが多い。 i). 有痛性強直性攣縮へ進展することが多い。
j). MSの約30%で認められる、と。
(デルマ, 30:1-6, 1999より) (2000年の小針浜通信からの再掲です)
- 青筋を立てた死体
テレビ朝日で放映された土曜日の2時間ドラマの冒頭、たまたまつけっぱなしにしていたら眼につきました。自宅玄関前で刺されて死亡した被害者を刑事たちが取り囲んでいます。「死体」がアップされたら、なんと、この「ご遺体」は青筋を立てているではありませんか!浅側頭静脈が怒張しています。亡くなっていたら、血液の流れはなくなるわけですから、静脈が怒張しているのは変ですね。もちろん、ドラマですから、俳優さんは死体を演じているわけですが、あまりに奇妙です。この「ご遺体」は悪いことに仰向けに倒れていますから、俳優さんは胸が呼吸運動で上下しないように、必死で呼吸を我慢してたんですね。そのために、胸腔内圧が上昇して心臓への静脈還流が抑制されて浅側頭静脈が怒張(HPでの公開も前提にしているため、一般の方でも解るように、いやこれでも理解できないかもしれませんが、しつこく説明しました)。