2010年5月号 NO.3

  1. I’m OK. You’re OK
  2. 体温低下による症状
  3. 「乱神」(幻冬舎)
  4. アルツハイマー病の免疫療法
  5. 認知症に胃瘻は必要か?
  6. 今月の言葉
  7. 弧発性IBMにAlemtuzumab治療が有効
  8. 知っている女優で世代が判る
  9. アジ化ナトリウム混入事件決着
  10. 開散麻痺(divergence palsy)
  11. 「逃げない・ごまかさない・嘘をつかない」
  12. 京都市民未婚率
  1. I’m OK. You’re OK
    これは1969年に米国だったと思いますが、Thomas A Harrisという方がヒトとヒトとのコミュニケーションを”The Parent, Adult, Child (P-A-C) Model”として説明した本。理想的にはAdult同士の人間関係ですが、特に一方がChildだと大変です。この場合はI’m OK. You’re NOT OK. ということになります。自分勝手なガキみたいな自己中を相手にしないといけないと大変なことは、皆様ご存じの通り。生活環境によって違うでしょうが、筆者の周囲には10-20%いますね。この割合が高くなると、社会が崩壊しますが、どこまで増殖の負担は許されるのでしょうか?

  2. 体温低下による症状
    深部体温 症状
    34℃ 健忘・構音障害
    33 運動失調
    29 意識レベル低下、瞳孔散大
    26 反射、痛覚消失
    23 角膜反射消失
    20 脳波平坦
    16 救命し得た成人の最低温度
    15.2 救命し得た新生児の最低温度
    (的場梁次、近藤稔和編著「死体検案ハンドブック 改訂2版」金芳堂より)
  3. 「乱神」(幻冬舎)
    原発や地震、火山噴火、水害といったパニックものを主に書いてこられた、元原子力研究所の研究員、高嶋哲夫さんの新作は、なんと歴史小説。しかも、十字軍の生き残りが日本に漂着し、鎌倉幕府に協力して2回目の元寇と闘うという物語。正史には記述されなかった理由まで、作家の想像力は及びます。武家社会を築いたばかりの時宗を案じさせた、萌芽的民主主義や強力な武器とは・ ・・
  4. アルツハイマー病の免疫療法
    Passive immunotherapies
    Drug Sponsors Phase
    Bapineuzumab Elan, Wyeth, JANSSEN III
    Solanezumab Elly Lilly III
    Gammagard Baxter III
    Bapineuzumab Wyeth II
    PF-04360365 Pfizer II
    R1450 Hoffman-LaRoche II
    IVIg Octapharma II
    GSK933766A GlazoSmithKline I

    Active immunotherapies
    Drug Sponsors Phase
    ACC-001 Elan, Wyeth II
    CAD-105 Novartis II
    Affitope AD001;

    Affitope AD002 Affiris AG, GlazoSmithKline Ib
    V950 Merck I
    UB311 United Biochemical I
    (Nat Rev Neurol 2010;6108-19)
  5. 認知症に胃瘻は必要か?
    ここまで露骨な題名ではありませんが、経管栄養により生命予後、誤嚥性肺炎、栄養状態、褥瘡が改善したという非ランダム化報告さえないという指摘に始まり、そのletterへの批判と反論が認知症学会誌に掲載されました(Dementia Japan 2009; 23: 64-5; Dementia Japan 2010; 24: 65-6; Dementia Japan 2010; 24: 67-8)。珍しいことです。根拠がないことが問題なのか、栄養や水分を投与できなくなることが医療倫理に反するからか、必ずしも論点は明確とは言えません。引用はされていますが、患者側の希望の視点はどうなのでしょう?医療者はともかく、日本人のメンタリティーには議論しにくいテーマですね。医療従事者ではなく、患者側の論理が重要と思います。死に方の問題ですね。
  6. 今月の言葉
    「時間というものは、有効に使おうと思えば思うほど、足りなくなる。」 「時間は、無駄にしても良いと思った瞬間、ゆったりと流れ出す」
    (久坂部 羊「日本人の死に時 そんなに長生きしたいですか」幻冬舎新書より)
  7. 弧発性IBMにAlemtuzumab治療が有効  
    以前,NIHにいらしたDr. Dalakas, MCはギリシャに帰ったわけではなく、イギリスのImperial College's Hammersmith Hospital in Londonで教授になっていらっしゃいます。 本剤は、CD52に対するモノクローナル抗体で、正常リンパ球、単球、ある種の樹状細胞に発現しています。MSでも注目されていますが、MSではGraves’ diseaseやTTPが副作用として有名。  彼が研究リーダーとなって、13例の患者に4日間、 0.3 mg/kg/day投与し、6ヶ月間観察したところ、disabilityは改善しなかったものの、この期間は安定していた患者が存在(Brain 2009;132:1536-44)。  
    IBM弧発例(S-IBM)は成人発症の炎症性ミオパチーとしては最もありふれた疾患なのだそうで(!)、炎症性組織変化が特徴的ですが、あらゆる免疫療法に抵抗性を示す難儀な疾患。この治療により、投与後2週間で末梢血のリンパ球が著減し、6ヶ月間持続。
    Univ Southern California Keck School of MedicineのProf. Valerie Askanas (なんと!懐かしいお名前でしょう)がコメントを寄せています。治療後の筋生検ではTリンパ球の浸潤が著減していたことから、Tリンパ球がS-IBMの発症に関与していることを示唆。しかし,筋組織でアミロイドβ前駆蛋白やユビキチンは減っていなかったので、筋の変性過程には影響していないだろう。と。ま、当たり前。
    (Neurol Today 2009;9(18):5-7より)
  8. 知っている女優で世代が判る
    医局の昼休み、最近、固有名詞が出なくなって・・・特に芸能人って、顔を思い出せるのに、名前が出なくて・・・最近の女優は知らないけれど、昔の女優も名前が出てこなくなったなあ、と話題となり、どんな女優さんを知っているかで、青春時代を過ごした年代が判るんだろうな、という話に。  
    さて、読者の皆様は如何ですか?  
    ソフィア・ローレン なんといっても「ひまわり」で、ソビエト戦線で行方不明になった夫を捜しに行ったときの表情は天下一品(京都ではラーメンのチェーン店ですが)。  
    リュドミラ・サベーリエワ 「ひまわり」で行方不明の筈のマルチェロ・マストロヤンニが一緒に生活をしていたロシア娘。ここではちょい役でしたが、CGを使わずにソビエト陸軍が協力した会戦シーンが圧倒的だった「戦争と平和」のヒロイン役の方が有名。  
    カトリーヌ・ドヌーブやブリジット・バルドーは医局ですぐに名前が出てきました。大体の年代が想像できるでしょ?前者はもう67歳です!さすがに、リタ・ヘイワース(1940年代のセックス・シンボルだったので、第二次世界大戦で最も有名なピンナップガール。兵隊の部屋に写真が貼っていなければ、時代考証的におかしいようなヒト)やジーン・セバーク、ジェーン・マンスフィールド、グレタ・ガルボ、ビビアン・リー、マレーネ・ディートリッヒ、キャサリン・ヘップバーンは出てきませんでした。筆者もネットで確認しながら書いています。でも、言われりゃ、判る世代。  
    筆者の個人的な趣味としては、キャサリン・ロス(「卒業」「明日に向かって撃て!」)、ジャクリーン・ビセット(「大空港」「アメリカの夜」後者はお奨め)、フェイ・ダナウェー(「俺たちに明日はない」)、ジョディ・フォスター、ジェニファー・コネリー(主役級ではありませんが、きれいなヒト。Connellyと書いて、007のConneryとは別姓で血縁関係はなし)、ブルック・シールズ(「青い珊瑚礁」)はもう45歳、ファラ・フォーセット(離婚前はこの後にメジャースと名乗ってました。TV版「チャーリーズ・エンジェル」)は2009年に62歳で癌で死亡、バーブラ・ストライサンド(「追憶」)、ジュリー・アンドリュース(「サウンド・オブ・ミュージック」「メリー・ポピンズ」)、オードリー・ヘップバーン(「ローマの休日」「マイ・フェア・レディ」)、ナタリー・ウッド(「ウエスト・サイド・ストーリー」)は撮影中、ボートの転覆事故で1981年に43歳で死亡、アンナ・ニコル・スミス(元プレイメートですが、映画化までされる伝説的な生き方をしたヒト)、シェリル・ラッド(TV版「チャーリーズ・エンジェル」))、ジェーン・フォンダ。  
    最近の女優さんはほとんど知りません。以下は筆者がかろうじて知っている人たちで、ギリギリ現役?というひとも。メリル・ストリープ、ドリュー・バリモア、メグ・ライアン、シャロン・ストーン、バネッサ・レッドグレープ、デミー・ムーア、アンジェリーナ・ジョリー、キャメロン・ディアス、シガニー・ウィーバー、ニコール・キッドマン、ジュリア・ロバーツ、メラニー・グリフィス。結構平均年齢が高いですねえ。  
    名前を思い出すために、ウィキペディアを利用しましたが、思い出せない名前を確認するにはこれは良いですね。「コンバット」のサンダース軍曹は、ビック・モローですね。撮影中、ヘリコプター事故で死亡(意外に撮影中の事故死って多いんですね)。  
    改めて、アメリカン・ニューシネマって、めっちゃ男性映画だったんですネ。女優さんの名前が出てきません。せいぜい、キャサリン・ロスとフェイ・ダナウェー。男優は凄いです。ジャック・ニコルソン、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ピーター・フォンダ、ジーン・ハックマン、ダスティン・ホフマン、ドナルド・サザーランド、ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード。いいですねえ・・・
  9. アジ化ナトリウム混入事件決着
    京都市の旧国立療養所宇多野病院(現国立病院機構宇多野病院)で1998年10月、ポットの湯にアジ化ナトリウムを入れ医師7人を中毒にしたとして、傷害と浄水毒物混入の罪に問われた元内科医長の医師石田博(いしだ・ひろし)被告(53)の上告に対し、最高裁第1小法廷(金築誠志(かねつき・せいし)裁判長)は2010年3月3日までに、棄却する決定をしたことが報じられました。ずいぶん時間がかかっていますが、04年8月の二審大阪高裁判決は「自白の経緯は自然」として一審を破棄。最高裁も支持し、差し戻されて、06年9月の京都地裁の差し戻し審判決は懲役1年4月を言い渡していました。さらに、08年5月の差し戻し控訴審判決は「犯行の中心的部分に関する供述は一貫し信用できる」として差し戻し審判決を支持、被告の控訴を棄却。今回は最高裁による最終決定で、これで確定。

  10. 開散麻痺(divergence palsy)
    調べておりましたら、新潟大・脳研神経内科出身の聖隷三方原病院の荒井元美先生は本邦でほぼ唯一のこの症候の専門家であることが判明。新潟市民病院時代からいくつかの英文の報告をしていらっしゃいます。ここでは、邦文の総説(神経内科 2009;70:8-12)をご紹介しましょう。この症候の特徴は、
    1). 遠見時に同側性複視が出現し、近見時には消失するという症状が突然発症
    2). 遠見時に内斜視が出現
    3). 複視の程度(複像間距離)は注視方向により変化しない
    4). 眼球の単眼運動と側方注視は正常  
    鑑別としては、輻輳けいれん、内斜視の遠見時での代償不全、軽微な両側性外転神経麻痺。最後は特に解りにくいように思われます。外転時にsaccade速度が低下することで麻痺の診断が可能に。
    本症候が認められた疾患としては、MJD, PSP, Arnold-Chiari奇形、慢性硬膜下血腫、ウイルス性髄膜炎による脳圧亢進などだそうです。病巣の局在診断上の意義はないことが強調されています。

  11. 「逃げない・ごまかさない・嘘をつかない」
    それまで(建前は?)高齢者医療をやっていて、周辺の住民からは、一度入ったら死ぬまで退院できない、「しにかつ病院」と言われていた。東京都葛飾区の病院を1998年に新院長として赴任した心臓外科医・清水陽一医師(60)が24時間対応の救急病院として蘇生させた際の病院改革として掲げたスローガン。ハエや蚊が院内を飛び回っていたそうです。高齢者医療が病院職員のやる気を削いだわけではなく、医療の質の問題なのだと思います。スローガンもごく当たり前のもの。現在は自らが大腸がんに罹患し、病と闘いながら医療を行っています。自らが患者となって、患者と同じ目線で死に方を考えるようになり、看取りにも取り組んでいるそうな。もちろん、一人で改革をしたわけではなく、それまで一緒に働いていた職員を引き抜いてきたようです。つまり,旧職員と入れ替えたんでしょうね。2010年2月11日朝のテレビ朝日「スーパーモーニング」で放映されていました。久しぶりに、以前、サンデープロジェクトの司会をしていた、赤江アナのお姿を拝見。関西から上京した同時期のアナウンサーに山本モナさんがいらっしゃいますが、すっかり赤江さんはテレ朝の顔に定着したようです。祝着至極。
  12. 京都市民未婚率
    なんと、2005年に35-39歳の未婚率が男性33.7%、女性が23.5%に増加。  
    京都市民の平均初婚年齢は、1970年に男性が27.4歳(全国平均は26.9歳)、女性が24.6歳だったのが、それぞれ30.5歳(30.2)、29.1歳(28.5)に「高齢化」しています。(京都新聞 2010/2/24朝刊より)少子化の一番の原因なんだろうな。フランスみたいに、single motherも結婚している母親と同じ権利を与えたとしても、解決しない問題のように思います。今や、日本の女性たちは妻や母親としてのdutyから解放されていて、なんで、キャリアを捨ててまでこんな男のたちのために自分を犠牲にしなければならないのか、と考えているように思われてなりません。東京文京区長は同区では男性職員として初めて育休を公的に取得することを宣言しましたが、その程度で女性たちは結婚の有無を問わず子供を産みたがるものでしょうか?女性たちが社会復帰しやすくするだけでなく、保育ももっと公的にサポートするなど、根本的な社会制度の変革が必要でしょう。子供手当程度ではどうにもなりません。これはショッキングなデータでした。