2010年4月号 NO.2

  1. 免疫の記憶の長さ
  2. 急性脊髄損傷へのパルス治療の方法
  3. 西日本にはアトピーが多い?           
  4. 映画「追憶」にみる赤狩りマッカーシー旋風
  5. 寝たきり糖尿病患者の経管栄養
  6. 米国での州別喫煙関連死ベストとワースト
  7. 「黒い春」
  8. 「執着を恥じ、潔さを尊ぶ心」
  9. 刑法39条
  10. 「最後の晩餐」ならぬ「最後のコンサート」
  11. 小児パーキンソニスムをきたす疾患
  12. 民族紛争
  13. Retinal migraine
  14. Twitter
  15. Major League Soccer players
  1. 免疫の記憶の長さ はどれくらいか、というのは時に筆者も質問を受けます。機序の証明はきわめて困難だろうと思いますが、この設問に対する回答が出ていました(医事新報 2009;4469:84)。たとえばウイルス感染によりリンパ球が反応し、ウイルスが除去された後、大部分の活性化リンパ球は死滅しますが、5%ほどは死滅せずに残存します。これがメモリーリンパ球になるそうです。この細胞の寿命は不明ですが、宿主が死亡するまでは生き残れないようです。ならば、終生免疫はどのように成立するのか?クローンが活性化されて免疫の記憶が受け継がれる機序は二通りあるそうです。
    1). 同一の抗原による再刺激
    2). 他の抗原刺激によるサイトカインなどの刺激で一緒に活性化 (bystander effect)。
    これなら、molecular mimicryでも活性化されるかもしれませんね。  

    ただし、類似の構造を有する抗原刺激を全く受けない場合は、そのうち免疫の記憶は消滅するでしょう。BCG免疫が長期間持続しないのはこのためでしょうか?筆者はとっくにツベルクリン反応は陰性です。

  2. 急性脊髄損傷へのパルス治療の方法
    受傷8時間以内に、メチルプレドニゾロンとして30mg/kgを15分かけて点滴しますが、添付の溶解液に1500mgを溶かした後に生食100mlに入れますと、ほぼ500ml/hrの速度になります。ほぼ全開で点滴。その後、45分休薬後、5.4mg/kg/hrを23時間で持続点滴します。体重50kgとしますと、6gr以上になりますね。

  3. 西日本にはアトピーが多い?
    新潟から京都へ移って、最も感じることがこれ。やたらとアトピー性疾患が多いこと。亜熱帯モンスーンともいえる気候なので、ダニが多いのでしょうか?喘息の既往のある患者さんも少なくありません。妙なリストを発見しました(日内会誌 2009;98:3096-102)。職場の粉塵が原因となる職業性喘息がありますが、国内で報告のある原因リストをみていますと、第二次・第三次産業現場での意外なリスクを産業医としては感じます。D群なんて、どういう過程で粉塵として舞い上がるのでしょうや?
    A群: こんにゃく、そば、木材、生コーヒー豆、トマトの茎など
    B群: ほやの体液、羊やウシの毛、蜂蜜など
    C群: 花粉や胞子・菌糸
    D群: INH、ペニシリン、アラビアゴム、白金など

  4. 映画「追憶」にみる赤狩りマッカーシー旋風
    妙な話で、演説記録がなくて演説内容の詳細は不明なんだそうですが(映画界を直接的に批判したわけではないようです)、1950年に共和党のマッカーシー上院議員(後に大統領候補となる民主党の上院議員とはなんの関係もないようです)の演説を契機に、ハリウッド映画界の人びとを対象に、共産党(いつまであったのか、今でもあるのかは知りませんが、スペイン人民戦争時代はアメリカ共産党が実在し、相当な組織力を持っていたようです。国際義勇軍をNYから派遣し、日本人としてただ一人国際義勇軍への参加の記録が残っているジャック・白井さんという方もこのルートでイベリア半島へ渡っています)支持者やシンパ、党員を友人に持っているもの達を告発する聴聞会が設置されました。社会派ドラマを制作していたスタッフが次々に呼び出され、疑わしいだけで映画界から追放されました。この非米活動調査委員会の犠牲になった、代表的な映画人をハリウッド・テンと呼び、映画「追憶」でも10人を救え、とバーブラ・ストレイサンド扮する女性が叫びます。この10人には著明な俳優は含まれず、主に一般には知名度の低い脚本家達が血祭りに上げられたようです。映画でもロバート・レッドフォード扮する夫は駆け出しの脚本家で、もともと大学時代からの活動家だった妻とは違い、ノンポリのスポーツマンだった彼はハリウッド・テンをサポートしようとする妻と結局別れます。この「赤狩り」に関連して、二つの事件を記憶しておきましょう。一つは10人の一人だった、ドルトン・トランポはハリウッドで仕事ができなくなりましたが、ペンネームで脚本を書いた「ローマの休日」「黒い牡牛」でアカデミー賞脚本賞を受賞しています。もちろん、当時は正体不明とされました。実名が判明していたら、剥奪されていたでしょう。プロデューサーは知っていたでしょうから、影で応援していた人たちはいたということでしょうね。仲間を売った人物として最も有名になってしまった、エリア・カザン監督は、1998年にアカデミー賞特別賞を受賞しましたが、激しいブーイングを受けました。NHKで放映されているERで脚光を浴びて映画デビューした、ジョージ・クルーニーはマッカーシーに抵抗したニュースキャスターを主人公にした映画を制作しており、硬派の一面も持っていることを示しています。

  5. 寝たきり糖尿病患者の経管栄養
    以前、筆者も方法がないものかと思っていましたが、記述を発見しました(医事新報 2009;4469:78-9)。記事ではインスリンは低血糖の危険があると記述されていましたが、経管栄養は一定量が入っている限り条件は同じなので、インスリン必要量は感染症でも起こさない限り安定しているはずで、摂取量が不安定になりがちな経口摂取に比して、低血糖のリスクは低いはず。でも、インスリンを使用しなくとも済むようなら、施設を探す際にも有利でしょう。方法がいくつか紹介されていました。
    1). 寝たきりの50-60kgのヒトなら、エネルギー量を800-1000kcalに。
    2). 投与速度を遅く。100ml/hrでもダンピング症状を起こすようなら、その半分に。この数字には驚きました。
    3). 食物繊維のよる糖質吸収の抑制や蔗糖以外の糖質の利用などの商品(グルセルナ-Ex、Inslowなど)が市販されているそうです。
    4). 半固形化栄養剤の利用
    5). 腎不全がなければ、インスリン分泌を促進するナテグリニド投与

  6. 米国での州別喫煙関連死ベストとワースト
    ベスト3 ワースト3
    ユタ 138 ケンタッキー 371
    ハワイ 168 ウエスト・バージニア 344
    ミネソタ 215 ネブラスカ 344
    人口10万人当たりの死者数 (元ネタはCDC。USA Today 2009/4/28より)  
    ユタ州はいかにも敬虔な州らしいですし、ハワイも健康的なのでしょうか?プア・ホワイトの多そうな州が悪いような気が・・・

  7. 「黒い春」
    WOWOWでドラマ化されました。原作は山田宗樹、監督は京都府立医大卒で、医学生の群像を描いた映画「ヒポクラテスたち」を1980年に発表した、大森一樹 さん(現在は大阪芸術大学芸術学部映像学科教授)。  
    人が黒い粉を吐き出して死亡する奇病が発生。監察医が遺体を解剖すると肺に無数の黒色胞子が発見され、新種の真菌と認められます。その後も死者が続々と発生し、病気は「黒手病」と名づけられます。やがて琵琶湖近くで発見された1400年前の石棺に収められた人物が、黒手病の菌を持っていたとの推測がなされます。聖徳太子が小野妹子に挑発的な隋宛の手紙を託さなかったら・・・。古代史ミステリーにも通じるような壮大な話でもあります。この真菌は植物に寄生し、ヒトからヒトへは感染しません。11月に胞子をヒトが吸い込むと5月に胞子をまき散らしながらヒトは死にます。真菌に感染したことは血液検査ですぐに判りますから、死までに半年の猶予時間があるということにもなります。主人公の妻は悪意により胞子を吸入させられてしまいます。新薬を試みることもせず、帰宅し、死を従容として受け入れます。ドラマになりやすいからでしょうが、最近のテレビドラマでDNRが目立ちすぎます。アンダーグラウンドで医療費抑制キャンペーンが張られているのでしょうか?そのうち、サッチャー時代の英国のように、75歳を過ぎたら抗生剤を投与しない、なんていうことに・・・それもええかな、と自分が当事者になった場合を考えると思いますが、でも、苦しくはしないで欲しい。最後くらいは。酸素や麻薬をけちるな!

  8. 「執着を恥じ、潔さを尊ぶ心」
    これは、高齢者に安楽死を選択させようとする厚生労働省のキャンペーンのCFのキャッチコピー。もちろん、小説の世界ですが。大阪大学医学部卒の外科医・久坂部 羊さんの「破裂」(幻冬舎文庫)より。

  9. 刑法39条
    この条項は心神喪失状態での犯罪は刑に問わないという規定。精神障害者だけでなく、覚醒剤などの薬物中毒も含まれます。捜査する刑事はむなしいでしょうね。  

    これをテーマにした小説が、久坂部 羊さんの「無痛」(幻冬舎文庫)。この規定はおかしくはないか、というテーマで取材した結果がレポートされています。日垣 隆「そして殺人者は野に放たれる」(新潮社文庫)。刑法39条を支持するヒトも疑問を感じているヒトも、読んでおくべき本ではないでしょうか?具体例と問題点が整理されています。一人を殺すと無期に、二人を殺すと死刑に、しかし、五人も殺してしまうと理解不能だから心神喪失ということで不起訴に・・・なんていうことで良いのか、と。  

    「〈法〉から解放される権力」(新曜社)や「狂気と犯罪」(講談社+α新書)などの著書で知られる芹沢一也さんは、「精神障害者の犯罪に対しては基本的には健常者と同じ基準で起訴をし、その罪状をきちんと裁判で判断すべきだと思います。そして、刑罰と治療を両立させるような刑事システムを構築するべきです。公判を維持したり、あるいは受刑するのが困難な場合は治療に委ねればよい。精神科医の役割は治療だけに限定するべきです」と。

  10. 「最後の晩餐」ならぬ「最後のコンサート」
    以前、久米 宏さんが司会を務めていたテレビ朝日のニュースステーションで、人生最後に食べるとしたらどんな食事をしたいか、というテーマで著名人にインタビューする連続企画がありました。同じ主旨で食事ではなくて、コンサートを選ぶとしたら、何を選択するか・・・条件は国内外を問わないかわりに、故人は避ける。ZARDも良いし、フォーククルセイダースも、ジョン・レノンも、チェリビダッケ指揮のミュンヘンフィルによるドイツレクイエムや新世界も良いけれども、みなさん故人。WOWOWで高橋真梨子さんのコンサートを放映していましたが、個人的には上位にランクされるでしょう。さて、あなたは誰を選びますか?
  11. 小児パーキンソニスムをきたす疾患
    1. Genetics PARK-2, PARK-6, PARK-7, Park-9, Park-16, SNCA-α-synuclein
    2. Infection 嗜眠性脳炎, EB, HIV, mycoplasma, 梅毒, SSPE, そのほか
    3. Metabolic hypoparathyroidism, pseudo hypoparathyroidism, Wilson disease
    4. Vascular 脳血管障害, 血管炎
    5. Neurodegeneration Mitochondrial disease, Niemann-Pick C disease, GM2, pantothenate kinase-associated neurodegeneration, Wilson disease, Huntington disease, neuronal intranuclear inclusion disease, FBX07-associated neurodegeneration
    6. Structural lesions 脳腫瘍
    7. Drug-induced Neuroleptics, calcium channel blockers (flunarizine), valproic acid, metoclopramide, tetrabenazine
    8. Head injury
    (Continuum 2009;15:167-90より 一部修正)

  12. 民族紛争
    先日、阪神淡路大震災のときの神戸新聞の記者たちをモデルにして、現在の本人たちへのインタビューも交えながらのドラマは秀逸。感動して涙が出ました。中越地震の時は、まだ入れない高速道路を病院お車で入って行ったことがありますが、日赤の充実した装備にとても太刀打ちできず、たいした仕事はできませんでした。NHO本部へのアリバイ主張みたいな出張(駄洒落のつもりではありません-為念)だったのが心残り。  

    週末のNHK BS深夜に変わったドキュメントを流してました。  

    バルカン室内楽管弦楽団というチームを編成した日本人指揮者がいて、彼はコソボ共和国の首都の6畳ほどの1Kで単身赴任中。この楽団は11人しかいないのですが、アルバニア人とセルビア人とで構成され、全員そろって練習ができません。10年前まで戦争をしていたため、共和国の国境を越えることができないのです。昨秋、日本で公演をやったのですが、日本へ来て始めて全員練習。なんとか音をそろえるのですが、それだけでなく、お互いに漸く話ができるようになるという話。音楽を通じて、民族間のわだかまりをなんとか超えたいという指揮者の思いは楽団員だけでなく、視聴者にも確かに伝わったように思います。  

    指揮者のユダヤ人であるバレンボイムは、イスラエル在住のユダヤ人とアラブ人の若者を集めて交響楽団を編成しています。こっちの方がスケールが大きいですが、同じ思いなのでしょう。

  13. Retinal migraine
    自験6例と文献例40例とをまとめた報告が出ています(Cephalalgia 2006;26:1275-86)。本症は片頭痛を伴った1側の視力低下を反復します。従来の診断基準(Cephalalgia 2004;Suppl. 1: 1-160)では視力低下は完全に回復することと、頭痛はauraを伴わないことが特徴とされていましたが、この報告ではこれらは訂正する必要があることが示されました。  

    28例 (61%)は女性で、21例 (46%)では恒久的な視力消失を呈しました(恒久群)。発症年齢は7から54歳 (平均は完全回復群で24.7歳、恒久群は23歳)。経口避妊薬の中止により一過性視力消失が消失した患者が1例ありました。  

    全例で、視力消失が発症する前に片頭痛の既往歴を有していました。Auraを伴っていたのが50%、auraのないのが26%、probable migraineが24%。疼痛は、83%では視力消失と同側、4%では対側、13%で両側に出現。視力消失が頭痛に先行したのが48%、同時が50%、頭痛が先行したのが2%。  

    視力消失時間が5分以内が22%、5-15分が30%、20-30分が4%、1時間が11%、8例では長く、4例が数時間、2例が数日、2例が数週間持続。本症の定義から、少なくとも2回エピソードがありますが、その最短の間隔は年単位が13%、1年未満が17%、月単位が21%、週単位が42%。  

    視覚障害には陽性と陰性徴候があり、前者としての症状は、flashing rays of light、zigzag kightning-like patterns、bright coloured streaks、halos。後者としては、blurring、ECgrey-outsEC、ECblak-outsEC。陽性のみの徴候を呈したのが4%、陰性のみは65%、両者とも認められたのは31%。恒久群のほとんどの患者では、陰性徴候のみを呈しました。  Complicated migraineですから血管収縮作用のある薬剤は症状を増悪させる可能性が強いですね。β-blockers、Ca拮抗剤、三環系抗うつ剤、抗痙攣剤、アスピリンで本病型でも片頭痛が軽減することが何人かで認められているそうな。  

    また、片頭痛は血管内皮細胞のdysfunctionによるというvasculopathyだという仮説を論じた論文が出ています(Cephalalgia 2009;29:989-96)。

  14. Twitterが話題です。つぶやきというこのシステムは、オバマ大統領の陣営が選挙で利用したことでも有名になったそうですが、現在でも大統領はしばしば投稿しています。ユーザー登録をすると自分専用のページが作成され、そこから何しているかを更新(発言)していきます。大勢で会話も可能。担当大臣である、原口総務大臣も自身の頁を持っていて、数時間おきに投稿しています。写真も可能なので、今回のハイチ地震のように、インターネットが一部でも接続可能なら、ジャーナリストが現地に入る前に写真が全世界へ発信されることとなります。動画のYouTubeよりさらにお手軽。

  15. Major League Soccer players
    アメフトやバスケ、アイスホッケーに比して、それほど人気はないように思いますが、米国にはプロのサッカーチームもあって、あのベッカムもプレイしています。2/3の選手は米国生まれだそうですが、128名も外国生まれの選手がいるんだそうな。ベスト5は、 Argentina 11名 Canada 9 Brazil 8 England 8 Jamaica 8  アルゼンチンやブラジルは判りますが、隣国とはいえカナダがやけに多いのが目立ちます。英国は言語の問題がないことが大きいでしょうが、ヨーロッパやアフリカが少ないようですね。意外に米国のサッカーはワールドカップでも強いのです。