Medical Essay  NO.17

言い換えることで差別がなくなると考えるのは、やはりおかしいと思います。精神分裂病と言う方が判りやすいですし、病気の本質は変わりません。さて、この病気に罹患した有名人として、ニューズウイーク, 2002.3.27は以下の方々の可能性を指摘しています。
メアリー・トッド・リンカーン(リンカーン大統領夫人)
ゼルダ・フィッツジェラルド(作家のF・スコット・フィッツジェラルド夫人)
ビンセント・ヴァン・ゴッホ
ワスラフ・ニジンスキー(20世紀初頭に一世を風靡した舞踏家。「ニジンスキーの手」という赤江 爆の小説があります。)
デービッド・ヘルフゴット(ピアニスト)(筆者はどういう人か知りません)  
インターネットで調べてみましたら、次のような有名な患者さんもいらっしゃいました。John F. Nash, Jr, 1928-。1994年のノーベル経済学賞受賞者。筆者はもちろん知りませんでしたが、有名なんでしょうねえ。31歳で発病したそうです。と、言っていましたら、ラッセル・クロウと筆者の好きなジェニファー・コネリー(スタンフォードとコーネル大だったかを卒業した才媛)が共演した話題の映画「ビューティフル・マインド」のモデルだそうです。映画はアカデミー作品賞、監督賞、脚本賞を受賞。ジェニファーは助演女優賞を受賞し、B級映画女優からようやく脱皮。(わがことのように嬉しい!)この映画を見るために、初めてワーナー・マイケル・シネマという新潟市内にあるマルチスクリーンの映画館へ行って来ましたが、入り口はまるでディズニーみたい。良いもんですな、やはり映画館で観る映画は。ジェニファーを久しぶりに見ましたが、濃い眉毛と涼しげな瞳は健在でしたが、30歳を過ぎたら、なんかデミ・ムーアに似てきました。突然、巨乳になんてなるなよな!  
また、ニーチェ、ワーグナー、夏目漱石も罹患していたと言われているそうです。
都立墨東病院に勤務する浜辺祐一さんによる救急室からの報告(集英社)。  
この病院に心肺停止でかつぎ込まれた10年間で1500名の予後が紹介されています。再び帰らぬ人となったのが98%、植物状態になったのが1.6%、社会復帰できたのが0.4%。0.4%という数字を多いと見るか、少ないと見るか・・・。しかし、0.4%の患者を助けられるというのが救急救命医の生き甲斐というものでしょう。1999年4月12日、NHK BS2で「ER IV」がスタートしました。  
高所からの転落外傷の場合、5階が生死の分かれ目だそうです。もちろん、落ちた場所にもよりますが。  
最近、筆者は農薬中毒を診る機会がありませんが、パラコート中毒の患者さんが紹介されています。進行するにつれて血液中の酸素濃度が低下し、呼吸障害を止める方法がなく、人工呼吸器でも酸素を供給できず窒息状態で死亡する残酷な中毒だそうです。
グリム童話の紹介でまたまたブレークした女性二人組のペンネーム桐生 操さんの初期の傑作から(角川文庫)。  
紫式部や清少納言はどうやってお尻を拭いていたのでしょうか?どうも手で水をすくって洗っていたらしい。インドで左手が不浄とされるのもこのためだそうです。左利きはどうするんでしょ?  
用便中の音を消すことは、昔から女性たちの重要事だったんだそうですね。水洗トイレなら水を流しながらできますが、昔は土瓶と土まんじょうが必需品だったんだそうです。前者は排尿用で、後者は排便用。女性の尿道は3-4 cmしかないのでどうしても勢い良く出てしまって、男性に比して大きな音を出してしまうんだそうです。ま、桐生さんは女性ですから経験からでしょうが、でもどうやって男性の音と比べたんだろ?  
江戸時代から明治にかけて、女性は立ち小便をするのが江戸以外では常識だったそうですが、さすがに明治41年に福岡県の教育者が「女子学生の立ち小便の禁止」について議論しているそうです。江戸時代、京都では道の脇に小便桶が置いてあって、女性は裾をまくって前屈みになって小便桶にお尻を向けて立ち小便をしていたんだそうで(医者なら、解剖学的に理解できるでしょうが、後ろ向きに飛ばすんですね)、こういう風習の無かった江戸からの旅行者を大いに驚かせたんだそうです。優雅なはずの京女がなんてことを!と。  
1946年7月1日、北太平洋のビキニ環礁でアメリカの原爆実験が行われましたが、その数日前にパリのプールにわずかな水着に身を包んだストリッパーが登場して周囲を驚かせたんだそうで、それがビキニの元祖だそうです。でも、どうして原爆と結びついたんでしょうか?  
平塚らいてうは青鞜社を設立しましたが、青鞜は青いストッキングのことで、命名者は森 鴎外だそうです。
低Na血症の補正により出現することは周知の通り。橋だけではなくて、基底核や視床、皮質下白質といったextrapontine lesionも起こりうることも良く知られていますね。少し古いですが、すばらしいreviewが出ています(Medicine, 72:359-373, 1993)。毎年、医学部の学生さんには臨床医になるヒトが大部分だろうし、どこの診療科でも点滴をする機会はあるので、これだけは注意するようにと、Wernicke脳症の予防とともにしつこく言っていることで、シラバスにも書いているネタ本がこれ。補正をする場合は、最初の24時間は10 mEq/Lまで、48時間で21 mEq/Lをめどに。
今更、そんなもの知ってどうする?かえって、不妊の方が便利じゃないかって?本誌の読者の多くは、不妊を治療しようなんていう年代ではないでしょうが・・・。科学雑誌からの引用ではなくて恐縮ですが、ニューズウイーク2002年4月10日号に出ていました。
  1. 精索静脈瘤が原因としては最も一般的で、陰嚢の静脈が怒張し、睾丸の温度が上昇して、精子をうまく生産できなくなる、というもの。ラジエーターが壊れた車みたいなものか。
  2. クラミジアや淋病などの性感染症による線維化で副睾丸がブロックされることも。
  3. ヘルニアの手術で精管が閉塞されてしまうことも。
  4. 生活習慣(タバコ、コカイン、アルコール)に原因があって、奇形の精子が作られる。
  5. 薬剤(シメチジン、ジギタリス、アルファ遮断薬、カルシウム拮抗薬、抗生物質)
  6. ぴったりしたパンツをはくこと。
  7. サウナや長時間のドライブなど睾丸を温めるような行動。
  8. Work-related
トラック運転手(上記の理由による)、ピザ店経営者(オーブンに近づかなくなったら、父親になれたというケースも)  
ま、よそで子供を作らないようにするためには、この方法を利用すればいいのでしょうが、大体、出来て欲しいときにできずに、出来ては困るときに限って出来てしまうのが子供だ、と筆者の大学時代の同級生は言ってましたですね。筆者の経験ではないですよお、為念。(あいつ、広大な土地付きの娘さんと学生結婚したのは良いのですが、早く孫を見せろ、と圧力をかけられていましたね。幸せに生活しているでしょうか?)
hypertrophic pachymeningitisは硬膜が炎症性に肥厚して、神経組織を圧迫することで様々な神経症状を呈する病態で、部位によりspinal, intracranial, そしてより頻度は低くなりますがcraniospinal typeに分かれます。以前は結核や梅毒のような特定の原因によるものがありましたが、最近ではidiopathicが多くなっています。特に、MRIが登場して以来診断が容易になり、Gd剤による造影効果は診断に有用。生検してsteroid投与により完全寛解も期待でき、自己免疫機序が想定されています。自験2例報告と詳細な文献的考察が報告されています(Canad. J. Neurol. Sci., 27:333-340, 2000)。  

hypertrophic pachymeningitisと関連した病原体としては、以下のようなものが報告されていて、idiopathicと診断する場合に鑑別が重要になります。
1). 梅毒
2). 結核
3). HTLV-1
4). 真菌  
また、硬膜の肥厚あるいは炎症は以下のような疾患でも認められます。
1). meningioma
2). craniopharyngioma
3). lymphoma
4). metastatic carcinoma
5). other tumors
6). sinuses, middle ear, epidural, or subduralでの炎症性病変  
自己免疫疾患が合併することも知られていて、idiopathicの場合に自己免疫機序が想定される根拠の一つにもなっています。合併する疾患として報告されているのは、
1). 慢性関節リウマチ
2). orbital pseudotumor
3). multifocal fibrosclerosis
4). MCTD
5). Wegener's granulomatosis  
歴史的には最初にspinal formが報告されました。臨床的には3つのstageに分かれます。
i). intermittent radicular pain、やがては持続性に
ii). muscle weakness & atrophy
iii). spastic paralysis & loss of sphincter control  
cranial formでは頭痛、脳神経障害、失調を呈します。  steroidが硬膜の肥厚を減少させ、時には完全寛解することも。
1999年4月の連休直前のある地方競馬の厩舎で起きた椿事。出走数日前の牝馬が突然出産。おめでたいことではあるのですが、多分出産直後の母親の出走は中止。生まれた児の父親は不明で、「誰の子か分からない状態。」勿論、母親は知っているかもしれませんが、人間には教えてはくれず、「未婚の母」。きちんと管理しているはずなのに、何ともやんちゃなオスがいたもの。可哀想に、児は血統が分からないため、競馬には出られないそうで、馬肉になるんでしょうか?「婚外子」は馬の場合、人間より更につらいようです。DNA鑑定すれば責任をとるべきオス探しは、対象がそう多くはないはずですから(深夜、盛り場へ出歩いていたわけではないのですから)、検査は可能でしょうに。
認知症(痴呆)患者を診たときに、治療可能な病態を見逃さないようにすることが大切ですが、総説が出ています。ちょっと古いのですが・・・(Arnold, s.E. & Kumar, A.: reversible dementias. Med. Clin. North Amer., 77(1):215-230, 1993)  治療可能な痴呆の鑑別診断上問題となることは3つ。
  1. secondary dementias
  2. drug-related & metabolic confusional states drug-induced delirium, dehydration, electrolyte disturbance, renal failure, hepatic failure, hyperlipidemia, hypoxemia, Wilson's disease
  3. psychiatric pseudodementias, especially depression  
secondary dementiasは最も大切で原因は多岐にわたります。
Normal pressure hydrocephalus
Mass lesions
   Tumor
   Chronic subdural hematoma
Infectiuos
   Chronic meningitis
      Tuberculous
      Fungal
      Parasitic
   AIDS
   Neurosyphilis
   Whipple disease
   Lyme neuroborelliosis
Collagen-vascular
   SLE
   Temporal arteritis
   Rheumatoid vasculitis
   Sarcoidosis
   TTP
   Granulomatous angiitis
   Idiopathic hypereosinophilic syndrome
Endocrine
   Thyroid disease
   Parathyroid disease
   Adrenal disease
   Pituitary disease
   Insulinoma
Nutritional
   Vitamin B12 deficiency
   Folate deficiency
   Pellagra
   Thiamine deficiency
Chronic alcholism
Miscellaneous
   Obstructive sleep apnea syndrome
   Chronic obstructive pulmonary disease
   Congestive heart failure
   Limbic encephalitis*
   Radiation-induced dementia
   Dialysis encephalopathy*
(*今日、病態が以前よりは明らかになってきているとは思いますが、当時はここに分類されていました)
また、「事件」が起きました。2002年4月19日、川崎市の川崎協同病院で1998年に院内で起きた「事件」が内部調査の結果を基に、警察に報告されました。気管支喘息で入院していた50歳代の男性患者が10日以上意識不明状態が続いていて、これ以上の延命は忍びないと、当時呼吸内科医のトップだった、担当の47歳女性医師が気管挿管されていたチューブを抜去し、筋弛緩剤を投与して「殺害」したもの。病院側は、楽にしてあげたい、という意味をきちんと家族に説明していなかったと判断して届けたようです。  

現在、我が国で安楽死が認められている条件というのがあります。これは、東海大事件の判例に基づくもので、1995年に横浜地裁が出したもの。
1). 耐え難い苦痛が存在する。
2). 死期が近い。
3). 苦痛を取り除く方法がもはやない。
4). 患者が安楽死を希望していること。  
個人的には次のような捕捉をしたいと思います。  
4)では日を替えて、少なくとも2回以上患者の意志を確認する必要があります。この際に、うつ状態になっていないか、正しく判断できる状態であるか否かについて、精神科医の判断も必要でしょう。さらに、後で混乱を防ぐためにも、遺族の了承も必要でしょう。  
さらに混乱を避けるためにも、筆者は以下の2点を追加するべきであると考えます。
5). 複数の医師によって判断されるべきである。  
基本的にチーム医療をするべきで、主治医が単独で判断するべきではありません。この際、異なる診療科に属する医師が参加することが望ましいでしょう。国内ではまだ充分なコンセンサスができていない状態ですから、場合によっては医療施設が組織として判断するべきかもしれません。
6). 苦痛を伴わない方法で死亡させるべきである。  
今回は意識不明だったそうなので、筋弛緩剤でも患者は苦痛を感じなかったでしょうが、逆に言えば上記条件の4)が欠けていることにもなります。仙台の病院などでも安楽死の方法として筋弛緩剤が用いられることが多いですが、この方法は適切であるとは言えません。
1)と4)の条件から、安楽死の対象となりうる患者は本来意識生命であるはずなので、筋弛緩剤では窒息の恐怖を患者に与えることになり、最後に強烈な苦痛を与えることになります。筋弛緩剤ならば、顔面の表常勤も麻痺しますし、苦痛を患者は訴えられないため、周囲は安らかに死んだと誤解するのかもしれませんが、医療レベルが低すぎます。静脈麻酔で意識を落とし、酸素飽和度を落とさずに、静注まで時間がかかるようなら、呼吸は必要なら人工呼吸ででも確保しておいて、塩化カリウムを大量に一気に静注するのが良いでしょう。当院のように常勤の麻酔科医がいる医療施設なら、この際に麻酔科医が立ち会ったほうが良いと思います。  

今回の川崎市の事例では、上記1), 2)の条件とは関係がなく、死期が近いとは言えない安定した状態であった可能性が高いこと、患者の意思が反映されていないこと、主治医の独断だったようで、医療サイドでの充分な議論がなされていなかった可能性が高いこと、しかも、「安楽死」が主治医側から提案されていたこと、が問題でしょう。ところが、後で遺族は安楽死であるとは説明されておらず、気管チューブの抜去は医療行為だと思っていたことが判明。気管内挿管されてはいたようですが、「植物状態」(わずか10日ほどの経過だったようで、定義上植物状態とは言えず、改善する可能性を秘めていました)と言っていますから、自発呼吸はあったようですし、今回の川崎例が認められるようなら、植物患者は全て「安楽死」させませんか、と医療サイドから家族へ圧力がかかることになります。実際は植物でさえなく、医師のレベルの低さが露呈。(これは2002年当時の記述そのままです)