2014年6月号 NO.1

  1. Fingolimod治療でリンパ球が下がりすぎると、かえって再発の危険
  2. 米国企業からの金品の提供を禁止されている医師の条件
  3. 第66回アメリカ神経学会(AAN)がPhiladelphiaで開催
  4. アマゾン欲しいものリスト・マーカーペン部門第1位
  5. 再発時に血中やCSFにEBV virusが検出
  6. 「黎明の笛」
  7. 重症筋無力症治療にTacrolimusが有効な理由は?
  1. Fingolimod治療でリンパ球が下がりすぎると、かえって再発の危険
    以前、本誌でもご紹介しましたが(2013ECTRIMS, #1074)、イタリアから報告されています。この時の議論としては、Tregも減少するためか、とされました。機序については、他も考慮する必要がありそうです。
  2. 米国企業からの金品の提供を禁止されている医師の条件
    宿泊しているホテル(学会のヘッドクオーターが入っているホテルはコンベンションセンターまで濡れずに行けてやっぱり便利)で開催されたAANのサテライトミーティングの会場入り口の前を通りかかりましたら、こんな表示を発見しました。  

    「ミネソタ州とバーモント州在住者(これらの州法の感覚が凄い!ユタ州じゃないところに注目したいですねえ。ユタ州には州立病院がない?)、ルイジアナ州とオレゴン州職員、そしてNIH(ちなみに、25年前は筆者もFederal Peopleでしたが、製薬会社からは20ドルを超える品物を受け取ってはいけない規則でした。厳密さは知りませんが、そもそもカレンダーどころか、メモ帳やボールペンさえもらう機会はありませなんだ)やNIHお向かいのレーガン大統領が癌の手術をした海軍病院のような米国政府自身や連邦政府職員は立ち入り禁止。」  

    もちろん、自己申告なのでしょうが、米国には戸籍も住民票もないのですから、主催者側はどこの州に居住しているかなんて、AANのネームプレートのバーコードでも判らないはずです。registrationの際に、自宅の住所なんて入れてませんから。京都市内に住んでいるけれど大津市役所の職員なんていうかんじのヒトは州境だったらあり得るでしょう・・・ニュージャージーじゃなくて田舎の州だったらないか・・・な?
  3. 第66回アメリカ神経学会(AAN)がPhiladelphiaで開催
    officialなCongress ReportはClin Exp Neuroimmunolに掲載しますので(昨年のAAN学会報告は既に掲載されていますし、昨年2013年のECTRIMSはMS Frontierに近日中に掲載されます)、そちらをご覧下さい。王道から少し外れた報告も実はとっても議論しやすくて面白いのです。  

    NYのCornell Medical Collegeとの共同研究した若い医師がspinal MS (SMS) (Spinal Cors 2005;43:731-4) という懐かしい概念を持ちだしてきて、自験例を発表していました[P5.197] 。MS全体の463例中28例 (6.3%) も占めます。ご本人にも確認しましたが、視神経の症状や所見はなくて、脊髄症状のみなんだそうな。患者さんをデータベースから選択するときの条件は、横断性脊髄炎があって、MRIでは2椎体以上の長さの病変があり、脳MRIは正常か病変があっても小さな非特異的な所見で、NMOは否定できること (全例抗AQP4抗体は陰性)、2回目の再発があるか脳脊髄液中にIgG indexの増加あるいはオリゴクローナルバンドが存在していること。F/M比はNMO的で、11:3と圧倒的に女性に多く、詳しい記載はありませんでしたが、治療はIFNβやGAを使用していて効果に乏しく、Breakthrough disease状態のようです。視神経機能についての検索は充分とは言えず、既往歴はないものの(診断まで平均で39年もかかっていますから、まあないのでしょうが)subclinical optic neuritisを検出するためにOCTやった?とお聞きしましたら、何それ?どこでできるの?と聞くので、眼科医でと答えましたら受けてました。ステロイドも使用せずに、EDSSが2.34でもありseronegative NMOにしても奇妙です。PPMSの良性型?そもそもどうして6%もいるんでしょう!  

    再発時のステロイドパルスの作用機序について検討した結果がベルギーから示されました[P1.208]。免疫応答を抑制するnatural and induced reguratory T cells (Tregs)は増加しませんでしたが、再発を抑制的に作用すると考えられるCD39とIL-22がパルスにより増加していることを見出しました。CD39はTregに発現しているそうな。数ではなくて、表面の蛋白が変化しているんですな。ただし、他のT細胞やB、NK細胞には変化がないそうです。Preliminaryにはaryl hydrocarbon receptorのmRNA発現がパルス後に増加している、と。  

    RRMS患者さんに週に5回、6週間紫外線を照射し、血中の変化や皮膚生検までしています [P1.217]。照射後、ビタミンD値の上昇や皮膚のTregs and tolerogenic DCs増加とT-cell effector cytokine IL-21(表示のまま)が低下。  

    日本初のFingolimod類似品で国内でも治験をしたONO-4641はMerkSeronoに売られました。いつまでも小野薬品の名称がついているのが気に入らなかったのか、一般名が即座に付きました。その名はCeralifimod。学会ではこっちが括弧に入っていましたが [P1.219]、急速に逆転し、近いうちにONO-4541というコード番号はなくなるでしょう。この報告ではDAラットに全長のMOGを免疫した急性EAEへの作用を脳や脊髄のMRIで検討し、良好な結果が得られています。ま、当たり前。  

    Fingolimodを投与されたRRMS患者さん国内外の2例でHemophagocytic Lymphohistiocytosis Syndromeが出現しています。今回はPortugalの39歳男性例の報告 [P2.206]。RRMSと診断された3年後にFingolimod治療が開始され、16ヶ月後、発熱(38,6℃)、黄疸、肝腫大、下肢にSLE様皮疹が出現。当初は感染症が疑われましたが(EBVは既感染型の血清反応)、血中フェリチン高値(14.364 ng/ml)、triglycerides 693mg/dl, β2 microglobulin 10.336μg/L、骨髄穿刺と肝生検でNK細胞が増加していましたがモノクローナルに増殖はしておらず、血球貪食像が認められ、HLSと診断。末梢血や肝からEBVがPCRで証明され、HLSはEBV再活性化がトリッガーと考えられました。入院した2012年4月の同月末に脳血管障害で死亡。  

    米国内の多施設共同研究で、PMLのリスクを下げるためにNatalizumabを4週間隔ではなく、6-8週間隔で投与する治療法(NTZ extended dosing)が行われています[P2.251]。この間隔はNTZ中止後血中濃度が低下する12-16週後に再発することから設定されました。投与間隔を開けすぎると再発する危険がありますから。3回以上投与された患者が既に586名いて、今のところPML発症はなし。抗JCV抗体は63%で陽性。  

    英国からNMO患者数が増加していることが報告されました [P2.265]。ある地域の1998から2011年で78例いるのですが、男性が23例もいます。頻度が1998年に1.5 (95%CI: 0.2-5.3)から2011年の3.80 (1.7-7.2)へ増加し、男女の有病率は今や女性が人口10万人当たり2.69 (21.0-33.9)で、男性は1.19 (8.0-17.0)。英国ではこの期間、急速にアジアやアフリカから移民が殺到していますが、これらの人々の影響はないのでしょうか?米国での3ヶ所のMSセンターでのデータから、医療機関内でのアフリカ系の人口に比して。どこの医療機関でもアフリカ系アメリカ人のNMO患者が多かったことから、正確な疫学調査はないものの、以前、言われたように有色人種にNMOが多いのではないか、と想像されます。  

    MS患者での閉経についての調査が米国から発表されました[P4.163]。あるセンターでの391例(平均50歳)が対象。232例の閉経後患者のうち、66%は自然に生理が消失した患者ですが、16%がmitoxantroneやcyclophosphamideなどの化学療法が原因で、閉経した平均年齢は40.9歳。全体の1/4がホルモン補充療法を行っています。

    Natalizumab治療後のPMLが話題ですが、CLLがありながら無治療で観察されていた69歳男性がPMLを発症[P4.321]。CSFでPCRにより診断されています。免疫抑制剤すら投与されておらず、発症のリスクが不明だそうな。  

    305例のMS/CIS女性患者と3050例のコントロールを対象に、経口避妊薬を調査[S34.003]。発症前の3年間服用していた女性、特に少なくとも発症1ヶ月前に服用を中止した女性で発症のリスクが高いことが判明しました(OR: 1.35, 95%CI: 1.01-1.80, p = 0.04)。出産直後に再発リスクが高くなることと類似の現象のようです。  

    一般的に、ワクチン注射はMS発症や再発のリスクにはならないとされていますが、B型肝炎ウイルスや子宮頚癌ワクチンに関しては意見が一致していないんだそうで、カリフォルニア州のグループが780例の患者と3885例のコントロールを対象に解析[S34.005]。結果、いずれも有意差がなく否定されました。B型肝炎ワクチンはOR: 1.12, (95% CI 0.72-1.73)、子宮頚癌ワクチンは1.05 (0.62-1.78)、全てのワクチンで1.03 (0.86-1.22)。  

    最近、Hereditary Diffuse Leukoencephalopathy with Spheroids (HDLS)が話題ですが、まれにPPMSの鑑別が必要になることがあると報告がありました[S34.009]。スウェーデンとノルウェーの218例ものPPMSでデータベースの中で、29歳で徐々に右下肢の上位運動ニューロンの障害によると思われる筋力低下で発症し、CSFで4本のオリゴクローナルバンドが見出され、発症4年後の脳MRIで脳室周囲白質にpathyな病変が認められためMSと診断され、IFNβ治療が開始されましたが、高次機能障害や小脳失調も出現したため、Natalizumabへ変更されました。ところが、家系内にMSと診断された患者が3人もいたため、遺伝性疾患が疑われ遺伝子検査でCSF1Rの変異が認められました。
  4. アマゾン欲しいものリスト・マーカーペン部門第1位
    アンキスナップスクラップマーカー(ぺんてる)という商品が話題なんだそうな。わずか442円。スマホに専用アプリをダウンロードする必要がありますが、マーカーで言葉や文章を覆って写真を撮ると、その部分が隠れます。タッチすると見えるようになるので、ノートや教科書にマーカーペンで要点を隠しておくと、いつでもどこでも勉強ができると、学生たちに評判なんだそうな。(TBS系列、朝の情報番組「あさチャン」2014/5/6で紹介されていました。)
  5. 再発時に血中やCSFにEBV virusが検出
    再発から2週以内に得られた末梢血やCSF55例のRRMSで、EBV DNAがCSF cell-free分画で5.5%に、cell-associated分画で18.2%に、末梢血ではそれぞれ7.3%、47.3%に見出されました(PLoS One 2014;9:e94497)。イタリアからの報告。他の神経疾患患者ではそれぞれ7.8%、7.8%と5.8%、31.4%に見出されていますので、極端な差異ではありません。寛解期では低下しているでしょうが、データは示されていません。再発時にEBVが再活性化することは既に報告されていますが、二次的な現象でしょうが、なぜこんなことが起きるのでしょう?生物的な理由ではなくて、機序ですが。
  6. 「黎明の笛」(数多久遠 祥伝社) 
    元航空自衛隊員が書いたエンターテインメント。2013年におそらくは心筋梗塞で亡くなったと思われる(死因は非公表)トム・クランシーのような作家(最近作は「米中開戦」)が日本にもいても良いのではないか、というのが動機だったそうです。カタログ作家ではなくてプロが書いた小説ですから、臨場感があるのは当然ですし、設定もプロ的で、今後の発展が楽しみな作家の登場です。処女作では、韓国軍が管理している竹島を陸自の特殊部隊が急襲して占領する場面から始まります。自衛隊はどうする?日本政府の選択は?占領した特殊部隊隊長の恋人でもある空自の情報分析官が対応策を立てます。このアイディアもプロならではでしょう。竹島占領場面を全く描いていませんが、その後の分析と対応がテーマなので不要な場面でしょうし、余り正確には書きにくいでしょう。日韓の戦力分析が絡んできますから。ここで書かれている中から注目した部分は・・・  

    ジュネーブ条約第1 条追加議定書56条で原発やダムを攻撃することは禁止されているそうです。以前、イスラエル空軍が原発を空爆したことがありますが、まだ核物質が搬入される前で建物だけだったから条約違反にはならなかったんだそうな。世界中に核汚染がまき散らされる危険がありますからね。  

    日本の憲法第9条の制約で、日本に向かってきた目的不明の爆撃機(国籍を問わず)に対して用意できるオプションは、
    1. 防衛出動 (国会承認が必要?)、
    2. 治安出動 (国会での承認は後でも良いけれど、法の趣旨は警察力では対応できない事象が対象)、
    3. 警護出動 (自衛隊や米軍基地への攻撃が予測できなければ無理で、石油備蓄基地などへの攻撃が予測されても対象外)、
    4. 災害派遣 (武器の使用はさすがに無理。基地から持参できるのはシャベルだけ?)、
    5. 害虫駆除 (種類が問題とはなるかもしれないけれども、一応、武器は使えるようですが、毒ガス?日本は条約を批准してましたよね?)、
    6. 領空侵犯 (これしかないけれども、領空外にいる限り攻撃できない上、領空に入ってすぐに発射すれば到達できるミサイルがあるので、領空侵犯の警告を発してから空自側がミサイルを発射しても間に合う時間がほとんどない地域-秋田とか-があるようです。韓国空軍の所有している長い射程のミサイルは14マイルもあります。そもそも韓国軍には対北朝鮮戦では不要な武器が多すぎませんか?)。

  7. 重症筋無力症治療にTacrolimusが有効な理由は?
    神経筋接合部への直接作用は別にして、免疫系への作用に関しては必ずしも明快とは言えないように思われます。IL-2を介したヘルパーT細胞の抑制による抗体産生への影響だけであれば、治療効果が認められる時点では抗体は陰性になっているはずですから。  

    ステロイドの素早い効果発現は補体活性化抑制と考えられます。では、ヘルパーT細胞が補体活性化に関与している可能性はないのでしょうか?両者の関係は実は論文が少ないようです。もっとあるのかもしれませんが・・・  

    樹状細胞による補体合成にはTh1活性化が必要という報告があります(J Immunol 2006;176:3330-41)。また、補体がTh17誘導をプロモートしていて、このシステムがEAEのadaptive transferの系に関与しているという報告があります(Blood 2009;114:1005-15)。逆はないのかなあ・・・