2013 年 6月号 NO.1

  1. MS再発での診療のポイント
  2. フェロー諸島でのMSのその後
  3. MS発症に及ぼす環境要因の相加作用
  4. 誕生月の偏位は有病率に比例する
  5. 日本人HLA解析 
  6. MS治療の各治験の比較
  7. 年間再発率で見たFingolimodと従来の第1選択薬との比較
  8. 山本覚馬を巡るさらなる疑問点
  9. Novel coronavirus 
  10. 誕生月の偏位
  11. スッポンの嗅覚はすごい
  12. NMO再発時のCSFではやはりIL-17Aが高値
  13. Anti-IL-17A治療でVCAM-1発現が低下し、CR-EAEの再発防止
  14. West Nile virus?
  15. 日本人SPMS患者に視神経脊髄型はいない
  16. MS治療薬の妊娠へのリスク
  17. 中国で新しい鳥インフルエンザ
  18. SPMSの進行性経過へのIFNβ治療の効果
  19. カロリーメートのCFで流れている歌
  20. 北海道のMS有病率は16.2
  21. どのような情報をどう伝えるか?
  22. Susac syndrome MSと鑑別を要する大脳白質病変を呈する疾患
  23. 外国旅行での支出ランキング
  24. 外傷とMS 外傷と関連する神経疾患
  25. 修学旅行のない高校
  26. 血液脳関門の図
  27. 小豆島での帯状疱疹疫学調査
  28. 日本版missing children
  29. CSF oligoclonal IgG bandの対応抗原は何か?
  30. 今夜も生でさだまさし
  1. MS再発での診療のポイントをまとめてみたいと思います。意外に、こういうことを記載できる原稿依頼がないですネ。当院のレジデントたちと議論していて気づいたこと・・・
    1. MS/NMOの再発はacute stroke、てんかん重責、脳炎や髄膜炎と同じく、神経内科
      救急の対象疾患であります。疫学上24時間あるいは48時間持続することが再発の条件とされています。これは痙攣や掻痒発作などを除外するため。時には国内の治験でも24時間以上経過しないとステロイドパルスができない、という条件を設定しているものもあります。しかし、日常診療では待つ理由はありません。炎症性病変による疼痛以外は点滴をしたからといって時間単位で症状が消失してしまうことは通常ありませんから、retrospectiveに24時間以上、症状が継続して認められることは確認できます。
    2. . 脳卒中とは異なり、顔面を含む一側上下肢の運動あるいは感覚障害を呈することはきわめて稀。通常は一側上下肢の症状で、通常は頸髄病変によります。これは国際的な常識。1カ所しかMRIが撮れない場合、迷うことなく脳1MRI1ではなく、頸髄MRIを撮るべきでしょう。可能なら脳MRIを。上記の患者さんの場合、後者の目的は無症候性造影病変があれば疾患活動性が高いことを確認すること。
    3. 1.5Tの機種を用い、造影剤を1筒静注することでBBB破綻を検出する方法は、感度が悪いことを覚悟するべきです。3Tや7Tを用いたり、造影剤を多くすればより発見できることが知られていますが、後者の方法は日本人での経験を聞いたことはありません。腎臓への影響もありますから、無理をしない方が良いでしょう。
    4. MS患者さんやステロイドなどがすでに投与されているNMO患者さんでは、パルスは効きます。効果が充分ではない場合、NMOだけでなくMSも血漿浄化療法の対象になります。この場合、血漿交換か吸着療法が良いでしょう (MSでのDFPPは不明ですが)。
    5. MSでパルス後にステロイド内服剤を後療法として投与する必要はありません。欧米では施行していません。
    6. 症状が軽ければ、あるいは投与中に軽減しているようなら3日間でも良いでしょうが、3日間を反復する可能性があるなら、初めから5日間投与するべきでしょう。5日間をさらに反復する場合もあります。NMOでは血管確保が困難などの理由がない限り、早めに、あるいはパルスと平行して血漿浄化療法を施行するべきでしょう。
    7. 医療機関の近くに住んでいて、通院に時間がかからないようなら、再発の症状が軽ければ外来で点滴も可能ですが、炎症性病変であることを考えると入院の上、安静にしている方が患者さんには良いでしょう (米国だったら、病院前のモーテルから通院なんていう方法も)。女性に多い疾患ですから、主婦の場合、自宅にいたのでは安静が保てません。体の負担を軽くするべきでしょう。もちろん、配偶者の理解が良ければ通院の距離だけの問題。でも、子供がいたりするとねえ・・・

  2. フェロー諸島でのMSのその後
    第二次大戦前にはMS患者がいなかったのに、戦後、患者が多発するようになった背景に、戦時中、島に駐屯した英軍の影響が想定されたことは有名。この時、英軍が持ち込んだイヌなどのペットの影響が考えられましたので、イヌディステンパーウイルスなども調査されましたが特定の原因ウイルスの同定には至りませんでした。その後の経緯は国内ではあまり知られていないのではないでしょうか?  

    フェロー諸島の疫学調査を行ったKurtzkeらは、フェロー諸島でのMSの流行はその後も13年程の期間をおいて反復したこと(Kurtzke JF, Heltberg A. Multiple sclerosis in the Faroe Islands: an epitome. J Clin Epidemiol 2001;54:1-22.)や米国内でのMS多発地域が五大湖周辺からゆっくりと拡大していったことから、MSは感染性病原体によると想定しました
  3. MS発症に及ぼす環境要因の相加作用
    ビタミンD、EBウイルス (特に初感染の高齢化)、喫煙歴が確立していますが、それらの相加作用効果のまとめが出ています(CNS Neurol Disord 2012;11:545-55)。この領域は一部で判っていますが、なかなか解析は進みません。計算することは簡単でも、正確な情報を数千人あるいは数万人規模で収集することは容易ではありません。大体、その時点で資料の質が低下します。
  4. 誕生月の偏位は有病率に比例する
    妊娠中の紫外線照射量が胎児のmRNA発現に影響して、結果としてMS発症リスクになっている、と考えられている報告が山のようにあります。ヨーロッパのデータのまとめ(BMJ 2005:120)。4万人以上のMS患者さんたちの誕生月をまとめると、北半球では5月に多く、11月に少ないことが確立していますが、この傾向は有病率が高い地域で顕著であることをここで示しています。カラー写真がきれい。ちなみに、5/11月比でみますと、Sctland (1.89), Denmark (1.22)、Sweden (1.18), Canada (1.13)。この時点で、この比と有病率は相関しているそうな。ま、少し古いデータなので、カナダはこの10年間でもっと典型的になっていると思われます。
  5. 日本人HLA解析
    DRB1*0405が最近増加している若年発症や良好な予後を示す一群と関連し、DRB1*0405がEBVと関連していることを報告しています(PLoSOne 2012;7:e48592)。
  6. MS治療の各治験の比較
    最近、こういう方法も出てきました。この論文では4165の論文を精査し、109論文を取り上げてnetwork meta-analysisを行い、59のプラセボと比較した報告とIFNβ1b (250μg)と比較した8論文などを解析して、それぞれのオッズ比と95% CIを計算して、薬剤同士の効果や安全性を比較しようとするもの(Zintzaras , Doxani, et al. Clin Ther in press)。100例以上を対象とした論文だけに限りますと、本当に少ないことと、患者背景は同一ではないので、無理はありますが参考にはなるでしょうか?数千人規模の治験ならばらつきが相殺されて比較できるんでしょうけどねえ・・・
  7. 年間再発率で見たFingolimodと従来の第1選択薬との比較
    あくまでもデータ上での比較で直接比較した治験の結果ではありません。当然、それぞれの治験でばらつきがあるはずなので、薬剤同士の優劣は比較できませんが、上の報告と似たようなものだと思うけど・・・(Curr Med Res Opin 2012;28:767-80)
    Treatment vs Fingolimod 5mg relative relapse rate* (95% CI)
    IFNβ1a 22μg        1.67 (1.32-2.10)
    IFNβ1a 44μg        1.55 (1.26-1.90)
    IFNβ1a 30μg        1,93 (1.59-2.34)
    IFNβ1b 250μg       1.51 (1.22-1.86)
    GA 20mg            1.43 (1.16-1.77)
    Placebo             2.32 (1.95-2.77)
                 1.0より大きいほど、Fingolimodの効果が大きい
    * odds比ではないのです。ちょっと判りにくい。
  8. 山本覚馬を巡るさらなる疑問点
    「神経内科」の2013年5月号でNMOの可能性について言及しましたが、山本覚馬の病状については京都市図書館や同志社大学の図書館や資料センターでの調査でも判明しないことが多いのです。NHKの大河ドラマでの症状は、視力が改善したり悪化したり、1日のうちでも変動しているような描き方をしています。このような記述はなく、脚本を書いていらっしゃる山本さんの創作。日記を書く習慣がなかったようですし、直系の子孫がいらっしゃらないので一次資料がきわめて限られていることが壁になっています。とりあえずの不明点を列挙してみます。これらは同志社大に提出した書類の一部です。
    1. 当初、視力障害は左右どちらかの一側性だったのでしょうか?左右のどちらかが重要なのではなく、一側性だったのか、それとも左右ほぼ同時に視力低下を発症したのでしょうか?
    2. 歩行障害はいつ頃から出現したのでしょうか?
    3. 刀の検定はできたようですから、上肢の障害はなかったようですが、食事に不自由はなかったのでしょうか?
    4. 従来の記述では、最終的には両下肢機能がほぼ全廃しているようですが、運動機能障害だけだったのか?下肢の感覚障害はなかったのでしょうか?膀胱直腸障害を疑わせるような、失禁などを疑わせるような記述はなかったのでしょうか?
    5. 視力障害や歩行障害の経過は緩徐進行性だったのでしょうか?それとも時に増悪するような、階段状に進行したようなエピソードはなかったのでしょうか?「この頃に急に進行した」というような。これは疾患の特異性を考慮する上できわめて重要です。
    6. 視力障害や歩行障害に対してはほぼ無治療で、自然経過と考えられますが、その経過中に自然に症状の一部が軽減したり、改善するようなエピソードはなかったのでしょうか?

  9. Novel coronavirus
    以前、本誌でもご紹介しましたが、最近になって、拡大しつつあります。WHOは警告しています。MMWR 2013;62(10):194によりますと、Mar 7, 2013の時点で感染者数は14名、死亡例が8例だったのですが、BBC 12 May, 2013電子版によりますと34名が感染し、18名が死亡、と徐々に拡大していて、フランスでは院内感染したと思われる症例が見いだされ、ヒトーヒト感染の可能性が出てきました。Saudi Arabiaの患者から始まって、CDCによりますと患者は他にJordan, Qatar, Germany, the UKと6ヶ国に広がっています。患者のほとんどがなぜか男性で、24-94歳。このウイルスはSARSの仲間で、SARSと同様にコウモリから感染する可能性が指摘されていますが、今回の流行の原因となった動物は判ってはいません。中東とそこに関連した欧州に限局していて、米国では発見されていませんが、拡大が懸念されています。
  10. 誕生月の偏位
    MS患者さんの誕生月に一定の偏位があることは確立していますが、典型的には北半球では5月生まれが多く、11月生まれが少ないこと、これらの現象は北欧やカナダで顕著で、南半球では逆であることが知られています。これらは胎児期の母胎の紫外線照射による胎児のmRNA発現への影響が示唆されています。ただ、有病率が高い地域でこれらの現象は顕著で、有病率に低い地域では偏位がなかったり(Acta Neurol Scdand 2012;126(Suppl 195):58-62)、日本のように少しずれていたりするようです(Araki et al. J Neurol Sci, in press)。  
  11. スッポンの嗅覚はすごい
    イヌより優れていることが判明。理化学研究所発生・再生化学総合研究センター(神戸)などの国際共同研究チームがNature Genetics (2013/4/29付け電子版)に発表したことが読売新聞で報じられました。嗅覚受容体の遺伝子数を調べたところ、イヌ(811個)に対してスッポンでは1137個もありました。においへの感度は鼻の中の表面積の広いイヌの方が優れているだろうけれど、繊細さではスッポンの価値ではないか、と報じられています。スッポンの数はラット(1207個)並み。因みにヒトは396個。  

    ゲノム解析の結果、カメの祖先は2億6000万年前にトリや恐竜、ワニの共通の祖先から分れて出現し、進化上は両生類より鳥に近いことも判ったそうな。カメって、鳥の親戚!
  12. NMO再発時のCSFではやはりIL-17Aが高値
    再度報告されました(PLosOne 2013;8:e61835)。以前のデータ(Brain 2005;128:988-1002)がconfirmされました。
  13. Anti-IL-17A治療でVCAM-1発現が低下し、CR-EAEの再発防止
    ABHマウスに脊髄のホモジェネートを注射して作製している慢性再発性EAEモデル。面白いのはVCAM-1の発現をanti-VCAM-1 microparticle of iron oxideを利用してMRIで見ていること。IntroductionはEAEとIL-17に関するmini-review (Mardiguian et al. Am J Pathol 2013, in press)。
  14. West Nile virus?
    2013年4月30日午前8時前、横浜市中区の繁華街でカラスが大量に死んでいる、との通報が神奈川県加賀町署にありました。半径100mの範囲にカラスが17羽死んでいたそうです。鳩も死んでいた、という情報もあるようです。目立った外傷はなく、トリインフルエンザウイルスの簡易検査では陰性。県警では毒物検査を行っているそうです。これらが陰性の場合、念頭に置くべきはWest Nile virusでしょうか。かつてのNew Yorkでのエピソードを思い出させます。NK郊外で大量のカラスが死んでいるのが発見され、大騒ぎになり、ProMedでも話題になりました。  

    ペンシルベニア州立大学のHP (http://www.cidd.psu.edu/research/synopses/ why-west-nile-virus-kills-so-many-crows) では、Why West Nile virus kills so many crowsと題した頁があって、” it is so deadly to American crows (Corvax brachyrynchos), that crow deaths are used as an early indicator of viral presence in an area.”と記載されていて、イスラエル株よりトリの死亡率が高く、これは一部の遺伝子変異によるようです。  

    米国では1999年に東海岸に上陸して以来、西へ向かって拡大し、2003-2004年には西海岸に到達していて、飛行機に乗って太平洋を越えてくる可能性はあります。一応、担当官が機内をチェックはしていますが、短時間ですし、蚊の駆除は完全には難しいという指摘は以前からありました。ヒトへの感染は蚊に刺されることによります。  

    米国CDCの集計では発症者は5387名報告があって、うち51%が中枢神経症状を呈し、243名が死亡。(http://www.cdc.gov/ncidod/dvbid/westnile/index.htm)  

    重篤な神経合併症を発症することに留意する必要があります。主な神経症状は、髄膜炎、脳炎、急性灰白髄炎。NYでは当初、高齢者の死亡率が高いことで大騒ぎになりました。高齢者は3-15%の死亡率だそうです。対症療法のみ。感染症法では四類感染症 (動物又はその死体、飲食物、衣類、寝具その他の物件を介して人に感染し、国民の健康に影響を与えるおそれのある感染症) に属し、狂犬病やオウム病、エキノコックス症と同じ。輸血や移植を除いて、ヒトーヒト感染はなし。抗体は日本脳炎と交叉反応します。

    厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou08/ (上記は2013年5月1日付け)  

    その後、追加報道がなく、少なくとも感染症ではなかったようです(2013/5/7)。  

    テレ朝電子版ニュースでは、死んだカラスからは吐血や吐瀉物が認められていた、と4/30に報道されていて、日テレNEWS24の電子版によりますと、横浜市は5月2日に2羽のカラスの胃の内容物を分析した結果、殺虫剤などとして使われる「シアノホス」という薬品が検出された、と発表したそうです。犯人が逮捕されたら、大々的に報道されるんでしょうか?
  15. 日本人SPMS患者に視神経脊髄型はいない
    記憶はしていましたが、論文にはなってはいないはずですが、Wingerchukより早く齊田孝彦先生が報告している記載を偶然発見しました。宇多野病院の自験例240名のうち、SPMSは8.6%いましたが、視神経脊髄型はいなかったそうです。もちろん、ここで言っているのは症状の分布でしかないので、視神経脊髄型には軽症のMS+NMOが含まれます。NMOはSPを呈することは稀という今日的常識の先駆的な記述とは言いがたいのですが、重要な記述(神経免疫 2002;10:19-20)。このことはWingerchukに伝えたことはあります。覚えていないだろうけれども。  
  16. MS治療薬の妊娠へのリスク
    FDAやEMAのガイドラインが表になっている総説が出ました。母乳への影響も表に。これは有用です。ちなみにRituximabやAlemtuzumabでさえEMA基準で1なのに、IVIgはGAやIFNβと同じ2ランク。FDA categoryでもCでGAのBより1ランク下でIFNβと同じ。(J Neurol 2013;260:1202-14)  
  17. 中国で新しい鳥インフルエンザ
    2013年3月末、中国海岸部でH7N9型鳥インフルエンザに罹患して死亡する患者が相次いで発生。4月4日、中国農業省は上海市内の卸売市場で売られていたハトから同ウイルスを検出した、と発表。動物からこのウイルスが検出されたのは初めて。ニワトリと違って、野生のハトは自由に移動するので、広範囲にウイルスが拡散する危険性があります。ウイルスの遺伝子を解析した国立感染症研究所によれば、元々ニワトリや野鳥などが持つ3つのウイルスが混ざり合ってできたそうです。4月5日付け日本経済新聞によりますと、5万人以上在留邦人のいる上海では特に相次いで日本企業は現地社員に人混みを避けるよう注意喚起を呼びかけていますが、出張の自粛や観光などの渡航自粛にまでは至ってはいません。  

    トリから感染したと推定されていますが、ヒトからヒトへの感染はまだ不明。ただ、患者周囲で発熱患者1名が見いだされているため、可能性が疑われています。この時点ですでに5名が死亡しています。同日付けの毎日新聞朝刊に感染者14名(M/F: 8/6例)の一覧が出ていますが、これによりますと、回復中の4歳男児から87歳男性まで、年齢層はばらばらで、SARSのときのように以前の流行で抗体を保有していて感染しにくい年齢層の存在は否定的。人類にとって全く新しいウイルスの可能性が高いようです。感染ルートはよく解ってはいません。この表ではトリとの接触は14例中3例にあって2例でなし。他は不明。職業もトリに接触する可能性のあるのは3例のみで、他に調理師が1名。発症時期は2月19日から3月31日で、3月25日以降が6例いて、ウイルスの潜伏期は7日程度と言われているため、これからの感染拡大が懸念されています。CDCはすでにワクチン製造を始めており、国立感染症研究所も4月中に分離されたウイルスを分けてもらってワクチン製造に着手するそうです。冬までに間に合うかどうか、ギリギリの時間との戦いになります。ただ、中国で施行されたin vitroでの感受性試験ではタミフルやリレンザは効果があるようなのが救いです。  

    同日の読売新聞によりますと、3月10日に上海で死亡した男性の妻は肺炎で死亡したと聞かされていたが、今回の報道で初めて死因を知った、と不満を述べているそうで、中国のシステムに相変わらず問題があることが判ります。同日の毎日新聞によりますと、ウイルスが分離されたハトを売っていた屋台は閉鎖されているものの周囲の店は営業をしていて、隣の豚肉店の店主(42)は「鳥インフルエンザなんて名前を聞いたこともない。風邪を引いて死ぬなんてよくあることだ。心配なんかするわけがない」と素っ気なく語ったそうでありますよ。以前はこういった報道自体が規制されていたので、海外にまで知られるようになったことは進歩ではありますが、中国の民衆の公衆衛生への関心の低さ、命の値段の低さが海外にまで問題を波及させています。(「朝生ワイド す・またん!」および「ZIP!」 読売テレビ放映、2013年4月5日より)  

    鶏と豚とヒトが同じ空間で生活するような環境を何とかするべきですし、鳥インフルエンザが国際的な問題になってから生きた鳥の販売を自粛するのではなく、恒久的に中止するべきでしょう。鯨漁は文化と関連していますが、生きた鳥を家庭でさばくことに文化的背景があるのでありましょうか?  

    内科学会総会で長崎大・河野教授によりますと,2013年4月12日現在,中国でのH7N9感染者は43名いて,うち11名が死亡しているそうです。  

    日経メディカルの4月12日付けオンライン版によりますと、死亡例は発症から1週間でARDSで死亡している、という急激な経過のようです。抗生剤投与までに7-8日間もかかっていることが問題のようですが、こういったことがSARSの時とは異なり、いち早く世界に発信され、N Engl J Med (2013, in press, free article)にも論文が掲載されるようになった中国政府の「進歩」に注目が集まっています。  

    4月24日現在、中国国内で109名が感染し、22名が死亡。  

    2割はブタとの接触がないと考えられ,ヒトーヒト感染の可能性が否定できない理由になっているそうです。(2013年4月27日のTBS系列「みのもんたのサタデーずばっと」に出演された東大医科研の特任教授の方のお話)  

    また,現在,ワクチン製造には以前のような卵ではなくて細胞を使用しているそうですが,ワクチン製造には半年かかり,国民全員に行き渡るのに1年半かかります。国内にはワクチン製造業者が4つあるそうですが,一つは技術的に無理だと言うことで降りたそうです。残った業者にしても施設や技術が足りないことが製造速度が遅い原因で,前回のように外国から輸入できるかどうかも不明。

    5月6日現在、131名が感染し、31名が死亡。死亡患者数が急増しています。5月8日現在,WHOは131例の感染者と36例の死亡を確認。  

    4月に台湾で確認された患者から抗ウイルス剤が効くウイルスだけでなく、タミフルなどが効かない耐性H7N9型ウイルスが見いだされた、と5月18日付け台湾紙が報道しました。
  18. SPMSの進行性経過へのIFNβ治療の効果
    以前、欧州ではEDSS scoreが1.0-point progression rateが有意に抑制されたのに、北米では似たような登録条件にもかかわらず証明できなかった、という有名な「歴史的」な治験結果の相違が話題になったことがありました(Semin Neurol 2003;23:133-46)。この理由は定かではありませんが、治療効果が両者で異なる結果になる可能性はあり得ます。最も大きな問題は北米、特に米国で治験を施行する場合、一定の割合で治療効果の悪い重篤なAfrican Americanが入ってくる可能性があります。勿論、欧州でもフランスや英国のようにアフリカ系住民はいますが・・・最近の治験はポーランドやウクライナ、ロシアが中心で、治験に登録される白人率は95%程度で高いことが特徴です。

    カナダ・British Columbia州での結果が報告されました。治療群868例、非治療群829例、historical cohortが959例で、1985-2008年に集計。観察期間はそれぞれ中間値で5.1年、4.0年、10.8年。EDSSが6.0に到達するまでの期間の非治療群に対する治療群のオッズ比は1.30 (95%CI: 0.92-1.83, p = 0.14)で、historical cohortに対しては0.77 (0.58-1.02, p = 0.07)と有意ではありませんでした(JAMA Neurol 2012;308:247-56, 2013;70:248-51)。  
  19. カロリーメートのCFで流れている歌
    澄んだ声で米米CLUBの「浪漫飛行」を歌っているのは女優の満島ひかりさん。ほとんど横顔だけですが、美しい方です。知りませんでしたが、この方も沖縄アクターズスクール出身。1997年に歌手デビューしてたんですね。27歳、既婚者です。
  20. 北海道のMS有病率は16.2
    帯広の保前先生による疫学調査(NMOを除去した数値)では人口10万人当たりの有病率は北海道ではついに16.2となりました。2004年の全国調査(MS+NMO)では全国平均で7.7で,私たちが特定疾患登録患者数から割り出した数値では全国平均で10のオーダーに達しており,このとき北海道では20近かったので,特定疾患登録患者数を元にした数値もまんざらいい加減な値ではないことが類推されました。登録患者数は驚異的に増加していますが,帯広での有病率も増加していて,F/M ratioは・・・
    2001  2006   2011
     2.63  2.75  3.38

  21. どのような情報をどう伝えるか?
    ニュースルーム WOWOWで2013年4月から米国HBO制作の新しいテレビドラマが始まりました。アンカーや番組の制作責任者である (アンカーの元カノの) エグゼクティブ・プロデューサーをはじめとする,テレビのニュース番組を制作するキー局の報道チームを主人公にしたドラマです。大学の討論会でアンカーが女子学生からの「なぜアメリカは世界一で一番偉大な国なのでしょうか?」という質問に対して,民主党支持者は「多様性と機会があるから」と答え,共和党支持者は「自由があるから」と答えます。司会者から「アメリカを世界一たらしめているものは?」と質問された主人公のアンカーはこう答えます。「この国の憲法は素晴らしい。ジェームス・マディソンは天才だった。独立宣言は,私に言わせれば,アメリカの文書の最高傑作です。」(法律と先生の文書だけですか?あなたの本心をお聞きしたい。国民は?)と司会の教授にきちんと答えるように指示されて。  

    「世界一じゃありませんよ。芸術基金は負け組だ。確かに国民の負担はわずかだが,(共和党員を指さして)彼みたいな保守派の攻撃対象となる。金はかからんが票を失う。放送時間や広告料の無駄。リベラル派が嫌われるのは負けるからだ。(と,民主党員を見る)リベラル派が利口なら,こんなに負け続けるわけがないだろう。あんたは真顔に言うのか,学生に。(と,共和党員へ向いて)アメリカは偉大な国で,自由を享受しているのは世界で我々だけだ,と?カナダにも自由はある。日本にも自由はある。イギリス,フランス,イタリア,ドイツ,スペイン,オーストラリア,ベルギーにも自由はある。自由は世界の207の主権国家のうち180ヶ国にある。(学生に向かって)間違って君が投票所に迷い込んだときに知っておくべきことがいくつかある。一つにはこの国が世界で一番だと示すものは何もないこと。読み書きは世界7位,数学は27位,化学は22位,平均寿命は49位,乳児死亡率は178位,平均世帯所得は3位,労働人口は4位,輸出は4位,一番なのは3つの分野だけ。全国民に占める投獄者数の割合,天子の存在を信じる大人の数そして国防費,2位以下の26ヶ国の合計より多く,うち25ヶ国は同盟国。これは君のような二十歳の学生の性ではない。にもかかわらず,間違いなく,君たちは今までで最悪の世代の一員。なのに,この国が世界で一番偉大だなんて,君はいったい何の話をしている。大丈夫か?・・・かつてはそうだった。正義のために闘い,法律の制定や廃止をモラルに基づいて行い,貧しい人々ではなく,貧困と闘った。己を犠牲にし,隣人を気にかけ,口先だけでなく行動し,常に理性的だった。巨大なものを作り上げ,飛躍的な技術の進歩を遂げ,宇宙を探検し,病気を治して,世界一の芸術家や世界一の経済を育てた。より高みを目指し,人間味があった。知性を求めることは決して恥ずかしいことではなかった。選挙で誰に投票したかで自分を分類せず,たやすく動じなかった。それができたのは,我々に情報が与えられていたからだ。尊敬できるものたちによって。問題解決への第1歩は問題を認識すること。アメリカはもはや世界で一番偉大な国ではない。」  

    戦場ジャーナリストだった元カノが戦場を離れてヘッドハンティングされたテレビ局へやってきて,視聴率を気にするアンカーに,スタッフを総入れ替えをしてニュース番組を作り替えたい,と説得する場面。上記の大学での場面とセットになっているとも言える,このドラマの初回放送の白眉。

    「民主主義で重要なのは有権者が正しい情報を与えられること。もし情報がなかったり,あるいは情報が間違っていたら悲惨な決断に繋がり,活発な議論ができなくなる。だからニュース番組をやりたいの。あなたは視聴者が離れることを恐れ,視聴率を取るためなら何でもする・・・私は100人に向けた良い番組を造りたい。100万人に向けた酷い番組より。私が来たのは,以前,あなたとやったようなニュース番組を造るため。あなたが誰も責めないで人気者になる前のね・・・良いニュース番組は人気が出ないって誰が言った?私たちは良質かつ人気のあるニュース番組を造る・・・確かに視聴者は見たい番組を選ぶけど・・・もし国民の大多数が馬鹿だってあなたが思っているならね・・・私は違う。やらせてくれるなら証明する。あなたがあの説教で(上記の大学での発言)言い残したのは,アメリカは世界で唯一建国以来,繰り返して言い続けてきた国ってこと。我々はもっとうまくやれるってこと。それは国民性なの。誠実さを持って伝えれば人々はニュースを見る。全員や大多数じゃなくても,5%が,まさにその5%のヒトがこの国を変えてゆく。我々がもっとうまくやれる様に。」 アメリカって奥が深いです。いろんな人がいますが,やはり凄い。多分,5%だけは。
  22. Susac syndrome MSと鑑別を要する大脳白質病変を呈する疾患 <
    1979年にSusacが初めて報告した疾患。その特徴は・・・
    1. 20-40歳,M/F比は1/3で男性優位 (J Neurol Sci Dec 2010;299:86-91)
    2. 3徴候は,脳症 (片頭痛あるいは筋緊張性頭痛で発症し,6ヶ月以内にstroke-like deficitsやlong-tract sign, 局所症状,痙攣,膀胱機能障害など),branch retinal artery occlusion (Fluorescence angiographyで診断), sensorineural hearing loss (低中音域の障害)
    3. 本態はinflammation-related occlusion of the microvesselsで,抗血管内皮細胞抗体が検出される患者も。
    4. 脳MRIの特徴:
      ① ”string of pearls”, the studding of the internal capsules with microinfarcts, on diffusion weighted imaging (J Neurol Sci 2010;299:86-91)
      ② small callosal adnperiventricular “snowball”-like lesions
      ③ 大脳皮質や脳軟膜の造影
      ④ 小脳も52%で病変あり
      ⑤ 視床や基底核障害もcommon (Neurology 2003;61:1783-7) (Autoimmun Rev 2011;10:548-52; Eur J Neurol 2012;19:800-11;J Neurol Sci 2012;322:35-40)

  23. 外国旅行での支出ランキング
    国連世界観光機構(UNWTO,本部はマドリード)による2013年4月4日の発表によりますと,国外旅行の支出額で2012年,香港を除く中国がついについに米国を抜いて世界第1位になったそうです。前年より40%増し,過去7年で5倍に増加。世界市場の9.5%を占め,2位も米国ではなくドイツで,中国とドイツの差は2兆円近い大差(9兆8000億円 vs 8兆円)。日本は2兆7000億円で8位。こんなことで競争しても仕方ないですが(日本人は家電製品を買いに外国へは行きませんから),外国為替を本来あるべき変動レートにすれば,あるいは中国の紙幣発行額やレートを西側諸国と同じ基準にすれば,本来の生活レベルを反映するのでしょうが・・・
  24. 外傷とMS 外傷と関連する神経疾患としてはALSが有名ですが,MSでも議論がありました.で,mrta-analysisの報告(Can J Neurol Sci 2013;40:168-76)。質の高い論文だけを選択すると,結果は否定されました。OR: 1.00 (95%CI: 0.86-1.16)  
  25. 修学旅行のない高校

    島根県の公立高校の31/40校では修学旅行がありません。昔からそのような風習がなく、現在の島根県の地元出身の高校教師自身に経験がなく、当たり前だと思っています。では、何をしているのか?1泊2日の研修旅行があります。決して、神戸などには行きません。県内の農林大学校へ行き、到着したら、まず1時間、「農業とは何か」をテーマにオリエンテーションとしてレクチャーを受けます。その後、果樹、畜産、野菜、有機農業、花、林業の6つから生徒が選択して実習。一番人気の野菜コースでは、トマトの収穫、選別、袋詰めを体験。畜産コースでは牛の手入れ、餌やり、直腸検査を体験します。一方で、海外へ行って観光旅行している私学の高校もあります。そういう高校へ行ける子供たちは家族でも行っているでしょうから、学校で行く必要もないような気もします。(「月曜からよふかし」より)


  26. 血液脳関門の図
    構造についての総説が出ていますが、ここの図が今まで見た中で最も判りやすいです。細胞が通り抜ける際にtight junctionだけでなく、内皮細胞の胞体内を通り抜けるルートも一つの図で示してありますし、物質が通り抜ける際の機序(passive diffusionとか)別にそれぞれの物質も列挙してあります。(Neurobiol Dis 2010;37:13-25)
  27. 小豆島での帯状疱疹疫学調査
    厚労省研究班(主任研究者: 山西弘一医薬基盤研究所理事長)による調査結果が2013年3月に発表されました(毎日新聞 2013年3月4日付け朝刊)。50歳以上の日本人の年間発症率は1.07%で,免疫力が低いヒトでは5.6倍発症しやすいことが,小豆島の50歳以上の住民12000人を地元医師会や自治会の協力の下,2009年から3年間追跡調査した結果,判明したもの。  

    3年間の発症者は396名で,70歳以上での発症は70歳未満に比べて1.53倍多く,女性は男性に比して1.51倍発症しやすいことが解りました。水痘の抗原を用いた皮内反応では発赤の長径が10mm以上の陽性者に比べ10mm未満の陰性者では5.6倍発症しやすく,長径が5mm未満では5mm以上のヒトより帯状疱疹後神経痛のリスクが14.3倍も高まることも判明。ヘルパー型T細胞が関与する遅延型免疫反応である皮内反応と抗体は異なりますから,抗体陽性であっても皮内反応が陰性,ということはあり得るでしょう。  

    MSでも免疫抑制剤や免疫調整剤を投与することでヘルペス系ウイルス感染症のリスクが高くなることが判っています。すでに体内に潜んでいるこれらのウイルスがどのようにして再活性化するのかはよく解ってはいないのですが,風邪を引いたときのような体調が悪いときに口唇に単純ヘルペスが出現することは経験的に判っていますネ。口唇ヘルペスだけなら心配ないですが,脳炎や髄膜炎,EBVに関連して血球貪食症候群を発症したら大変です。小児用水痘ワクチンを高齢者に接種すると,皮内反応を陽転化できることが判っているそうなので,水痘ワクチンも風疹・麻疹・ムンプス生ワクチンと同様にMS治療でも使用するようになるかもしれませんネ。  

    ただ,Fingolimodの場合は少し複雑です。投与中でさえワクチン投与で抗体産生は出来ますが,T細胞は誘導できても(投与前のワクチン接種でも)炎症の現場には一部しか行けない可能性がありますね。いわば,火事の現場に手動の消化器(抗体)は使えても,10台動員したい消防車(NK細胞や細胞傷害性T細胞)が3-4台しか来ない,という状況でしょうか?小さな火事ならそれだけでも鎮火は出来るでしょう。
  28. 日本版missing children
    2013年4月21日,横浜市磯子区の雑木林で6歳の女児の遺体が発見され,秦野市などでの行政による親の児童への虐待発見の難しさが問題になりました。ある統計によりますと,1年以上生存が確認できない児童は,小学生が704人,中学生でも272人もいることがTVで報道されました。かつての米国では,行方不明の児童の多くは別れた元配偶者が連れ去ったことが多かったのですが,今日の日本ではむしろ両親の問題としてはより深刻。
  29. CSF oligoclonal IgG bandの対応抗原は何か?
    東北大からphage display法を用いた研究が報告されていて,MS発症と関連が深いとされているEBVのアミノ酸配列も見出されています(Mult Scler int 2011;353417)。
  30. 今夜も生でさだまさし
    1ヶ月に1回、NHK総合テレビで90分番組として放映していますが、朝まで生放送、という企画が2013年3月31日の6時近くまでほぼ5時間ありました。1ヶ月かかって、ようやく見え終わりました。今回のテーマは「いつでも夢を!」。東北支援がテーマ。基本的には橋幸夫、加山雄三、コロッケ、アルフィー、泉谷しげる(敬称略)らが次々に登場する演奏会なのですが、なにせ司会がコンサートのトーク部分だけを抽出してDVD販売しても売れる、という歌手なので、トークの方が長い印象。前橋汀子さんまで登場。最初から最後までスタジオに参加した視聴者と一緒にいすに座っていたのは岩崎宏美さんだけでした。橋さんや加山さんはそうそうに家路に。最大40分押し、というスケジュールで、明け方になると落語家のお二人は落語の時間がなくなって、一人は副芸の紙切りだけ、もう一人は1分半の短縮バージョン。予算がないためか、出演者や歌のタイトルは手書きのフリップで、自分の名前を手で持つ、という状態。さらにNHKらしからぬことに、画面に音声さんやカメラマンが入るだけでなく、さださんと会話もし、打ち合わせしているディレクターが遠くに見えるオープンさ。制作局長まで挨拶していました。このスタイルで次回もあるのかどうか・・・参加者はNHKの前に来る定期バスが7時過ぎまで来ないため、6時まで番組を続けて欲しかったそうです。頑張れ!ラジオの深夜番組をそのままテレビにしたような感じ。オールナイト日本やTBSのパックインミュージック、落合恵子さん(レモンちゃん)が出ていた文化放送が懐かしい世代がまだまだいます。団塊だけじゃないぞー。