2010年2月号 NO.3

  1. 「豚インフルエンザ事件と政策決断」
  2. EULAR (THE EUROPEAN LEAGUE AGINST RHEUMATISM)
  3. アルツハイマー病のワクチン療法           
  4. 世界の臨床治験情報
  5. ALS診療指針
  6. 「感染列島」
  7. 「医療機関での産業保健の手引き」
  8. POEMS症候群の診断基準
  9. 京大の「遺伝医学・遺伝医療に関するガイドライン集」
  10. Epileptic ictal bradycardia
  11. ペースメーカー、ICD使用者への注意
  12. ウブレチドによるcholinergic crisis
  13. 母指探し試験の意義
  14. 水頭症と緑内障は関連
  15. 呼吸器外し「事件」が相次いで不起訴に
  16. 筋ジス川井班HP
  17. 日本の製薬企業が海外拠点を移転
  18. NHO理事長のインタビューからみた国立病院機構の目指すもの
  1. 「豚インフルエンザ事件と政策決断」(時事通信社) 
    1983年に米国で出版された本ですが、2009年10月にようやく邦訳が出版されたそうです。1976年の豚インフルエンザワクチン騒動にまつわる、意思決定とその見直しのやり方が記されているそうです(医事新報, 2009;4464:1)。

  2. EULAR (THE EUROPEAN LEAGUE AGINST RHEUMATISM)というHPがあります(http://www.eular.org/)。リウマチ性疾患に関するさまざまなrecommendationが掲載されています。当院リウマチ科・柳田診療部長からの情報。

  3. アルツハイマー病のワクチン療法治験をまとめたリストが出ています(CNS Neurol Disord Drug Targets 2009;8:82-7)。少し古いですが・・・

    I. Active Immunization
    名称 Immunogen
    AN-1792 Aβ42 peptide with QS21 adjuvant
    ACC-001 Aβ fragment conjugated to CRM197a carrier & formulated in QS21
    CAD-106 Human Aβ1-6 coupled with Qb virus-like particles
    V950 Aβ peptide formulated in Alum with or without ISCOMATRIXTM
    AFFITOPE AD01 and AD02 Mimotopes of N-terminal end of Aβ administered with or without adjuvant (Alum)

    II. Passive Immunization
    名称 Immunogen
    AAB-001 Aβ-specific humanized monoclonal antibody (bapineuzumab)
    IGIV Human immunoglobulin (IGIV)
    LY2062430 Aβ-specific humanized monoclonal antbody
    PF-04360365 Humanized monoclonal antibody specific for the C-terminus of Aβ40
    R1450 Aβ-specific humanized monoclonal antibody
    GSK933776A Monoclonal antibody
    一部修正

  4. 世界の臨床治験情報がネットで確認できます。
    http://www.clinicaltrials.gov/

  5. ALS診療指針
    初診から診断後の呼吸器を付けるかどうかのIC、北里大学病院の事前指示書の見本などが書かれているそうです。当院の須藤医師からの紹介。荻野美恵子. 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の医療手順。神経治療 2004;21:127-37. ちなみに、神経治療 2003;20はALSの治療特集。

  6. 「感染列島」
    TBSが制作した2009年の映画。養鶏場で鶏が鳥インフルエンザで大量死する場面から始まります。新型インフルエンザを疑わせる飛沫感染するウイルス疾患が急速に日本列島に浸透してゆくのに対して、医師たちが戦う物語です。「たとえ明日、地球が滅びるとも、今日、君はリンゴの木を植える」がキーワード。でも、奇妙な設定です。
    1. 新型インフルエンザが疑われていますが、鳥インフルエンザのヒトへの感染とどうも区別されていないようです。「新型」という意味がわかっていない。インフルエンザというものの、出血傾向が激しく、最初からエボラが疑われる症状なのに、医師たちはタミフルを与え(そう言えば、NHKではないせいか、メイロンとかボスミンとか、商品名を乱発。素人さんには説明がないので判らないでしょうが、臨場感はあります)、専門家たちはインフルエンザかどうかを検討しています。
    2. 野戦病院と化してしまう市立病院に勤務する、妻夫木 聡扮する内科医と病院に感染症対策専門医として介入してくる、檀 れい扮するWHOメディカルスタッフはかつて恋人同士という設定になっていますが、男は医学部学生、女性は助手という設定で、どうも脚本を書いた人にとって、助手というのはお手伝いする秘書のような立場を想像しているようです。いくら年上女性でも良いといっても、通常、相当な年齢差があるだけでなく、社会的立場が相当に違うでしょ?恋人同士になる条件ではないですけどね。(俳優の実年齢では9歳違いでしたから、良いのかな?)でも、檀 れいさんて本当にきれい。ノーブルな美しさ。キャッツアイの柴咲コウより断然美しい。
    3. 一番酷いのはこれ。80万人が感染し、半数が死亡した時期になっても、感染症研究所はウイルスを同定できません。妻夫木は病院に無断でサンプルをカンニング竹山扮する、いかにも怪しげな組織に属していない一匹狼のウイルス学者にウイルス分離を依頼します。ここですでに怪しいですね。ウイルス分離なんていう、設備やお金がかかる処理が簡単にできてしまうと思っている、文系の頭(脚本家のですよ)に脱帽。どうせ作り物なんだから、という言い訳は後述する理由で通りませぬ。
    4. 全体の流れ、最後に登場人物の一人が抗血清で助かるのも、米国映画「アウトブレイク」の真似で、オリジナリティの乏しさを露呈。

  7. 「医療機関での産業保健の手引き」
    相澤好治監修、篠原出版新社、という本が平成18年に出ています。医療機関での産業医の役割を記述した珍しい本。  

  8. POEMS症候群の診断基準
    多発性神経炎と単クローン性形質細胞増職性疾患 (ほとんどがラムダ鎖)があって、他に少なくとも大項目1つ以上と小項目1つ以上を満たすこと。
    I. 大項目 骨硬化性病変
    キャッスルマン病
    血管内皮細胞増殖因子 (VEGF) 上昇
    II. 小項目 臓器腫大 (脾腫、肝腫大、リンパ節腫脹)
    血管外体液貯留 (浮腫、胸水、腹水)
    内分泌異常 (副腎、甲状腺、下垂体、性腺、副甲状腺、膵臓)
    皮膚変化 (色素沈着、多毛、糸球体様血管腫、多血症、肢端チアノーゼ、紅潮、白色爪)
    乳頭浮腫
    血小板造多症・赤血球造多症
    他の徴候 ばち指、体重減少、発汗過多、肺高血圧症、拘束性肺障害、血栓性素因、下痢、ビタミンB12低地
    関連症状 関節痛、心筋症 (心収縮障害)、発熱
    (最新医学 2009;64:2595-602. 一部修正)

  9. 京大の「遺伝医学・遺伝医療に関するガイドライン集」です。
    http://www.pbh.med.kyoto-u.ac.jp/gccrc/link/index.html

  10. Epileptic ictal bradycardiaという稀な病態があるそうです。これはてんかん患者での突然死の原因ともなり、ペーシングが必要です。  
    69例を対象に、1277回の痙攣発作を解析し(うち、17は頭蓋内電極)、通常より少なくとも30以上減少し、心拍数が60以下に低下したものをepileptic ictal bradycardiaと定義。大部分はむしろ頻脈になりましたが、5例(7.2%)で認められました。2例では3秒以上の心停止に。5例の患者では、彼らの痙攣発作の18%がこの病態だったそうです(Can J Neurol Sci 2009;36:32)。反復する可能性があるってことですね。(J Watch Neurol 2009;11:25より)
  11. ペースメーカー、ICD使用者への注意
    「すでにご存じの通りCT撮影で5秒以上の連続撮影で、オーバーセンシングとなる事実が知られていますが、この度、X線透視でもオーバーセンシングが発生する場合があるとの報告が不整脈学会より出されました。食道透視、肺生検、カテ挿入等の透視検査時に現象が起こることが想定されます。ペースメ-カー・ICD使用者対する検査にご注意下さい。」というメールが当院放射線技師長から発信されました(2009/12/1)。

  12. ウブレチドによるcholinergic crisisが問題になっています。重症筋無力症(MG)でそんなに今頃問題になるんだろうか、と不思議に思っておりましたら、メーカーに報告されたケースはどうも全て泌尿器科で神経因性膀胱に投与された患者さんたちのようです。ただ、用量は1錠でも起きていることで、不思議な現象です。筆者はMGでも、もう30年間、見たり聞いたりしたことがありません。診断は確かなのでしょうか?

  13. 母指探し試験の意義
    福武先生が紹介していらっしゃいます(モダンフィジシャン 2006;26:132)。千葉大学グループの提唱するこの試験は、後索・内側毛帯系障害の簡便かつ鋭敏な検査法。上下肢の4つの組み合わせで可能ですが、異常は運動肢に由来するのではなく、固定肢に由来することが重要。母指探し試験は温痛覚とは解離しますが、触覚、振動覚と相関し、母趾捜し試験では温痛覚、振動覚と解離しますが、触覚、位置覚、Romberg試験と相関。位置覚障害の2-3倍頻度が高く、鋭敏、と。  
    筆者も症例報告をしたことがあります。高野弘基, 田中正美, 辻省次:「母指さがし試験」が有用な検査法と考えられ速やかに回復した急性失調型多発神経炎。 神経内科, 39(2): 202-204, 1993.

  14. 水頭症と緑内障は関連しているという論文が出たそうです(医事新報2010;4471:28-9)。特発性正常圧水頭症患者とこの診断基準を満足しない交通性水頭症患者それぞれ72例での緑内障有病率は、それぞれ18.1%、5.6%と差があり、特発性正常圧水頭症患者では緑内障の有無を検査するべきなんだそうな(J Glaucoma 2009;18:243)。両疾患に共通しているのは、「神経の脆弱性」だそうであります。

  15. 呼吸器外し「事件」が相次いで不起訴に2009年12月21日、富山県射水市民病院で発覚した呼吸器取り外し問題は、殺人容疑で書類送検された医師2名に対して地検が嫌疑不十分として不起訴処分としたことで決着しました。「患者7人が死亡する重大事案でも検察が不起訴としたことで、医師による通常の延命措置中止は刑事責任に問われないとの流れが定着しそうだ。」と、22日の読売電子版は伝えました。また、「延命措置の中止を巡っては、今回の問題が明らかになった06年以降、北海道立羽幌病院と和歌山県立医科大付属病院紀北分院の医師が、患者の人工呼吸器を外して死亡させたとして殺人容疑で書類送検されながら、いずれも不起訴(嫌疑不十分)となった。その一方、川崎協同病院では、患者の自発呼吸に不可欠だった気管内チューブを外し、筋弛緩(しかん)剤を投与した医師が殺人罪で起訴され、有罪判決が確定している。」とし、筋弛緩剤の投与が境目であるかのようです。呼吸器のチューブが外れてしまったり、警告音をoffにしたままチューブの接続を忘れたりすることはよくある事故でしたが、薬剤の投与を行うことで、積極的に死に関与することに問題があるようでもあります。これも一つの考え方かもしれません。一つ一つの事例を詳細には知りませんので、患者の意識はどうであったのか、脳死と言える状態だったのか、患者側の状態によっても判断は分かれるかもしれません。仮に、意識があった場合、人生最後に窒息の恐怖を味わうこととなります。そういう場合、静脈麻酔もされずにそのまま呼吸器を外すことは残虐な行為とは言えないでしょうか?locked-inだったら、やはり殺人罪が適応されても致し方ないような気もします。川崎協同病院の医師は被害者としてTVでは報道されていました。患者自身の生前の意思が不明確だったことも問題があったようです。しかし、患者さんが仮に意識がない状態で、呼吸器を外すことで死に至らしめることが判っている状態なら、筋弛緩剤は不要ですし、この薬剤を使用する必要性があったなら、患者は苦しがることを主治医は想定していたことになります。少なくとも、呼吸器を外す行為が、今後、病院で可能になるなら、静脈麻酔の使用については安楽死や尊厳死との関連で議論するべきでしょうが、筋弛緩剤は投与するべき薬剤ではないと考えます。このような状況では、使用禁忌にするべきでしょう。

  16. 筋ジス川井班HP http://www.pmdrinsho.jp/
    厚労省 筋ジスの臨床試験実施体制構築に関する研究班(川井班)のHPで、下記の筋ジス関連の班会議プログラム以外に、以下のような情報が掲載されています。
    イデベノンの臨床第3相試験
    デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬として、スイス・サンテラ社と武田製薬が共同開発中の イデベノンの第3相試験が、欧州、米国、カナダで開始されました。
    日本での実施は未定です。

    小児筋疾患診療ハンドブック
    国立精神・神経センターの小児筋疾患担当の先生方によるハンドブックが刊行されました。埜中征哉 監修、小牧宏文 編集、診断と治療社
    ISBN:978-4-7878-1699-3 定価 5,800円(税別)

    ポンペ病ガイドライン
    遺伝子検査説明書
    保険適応となつたデュシェンヌ型筋ジストロフィーと福山型先天性筋ジストロフィーの遺伝子検査を医療機関で受ける際に用ゐる説明書です。
     ● 安全で意味のある筋生検を行うために
     ● 筋生検法
     ● 筋生検の失敗例

  17. NHO理事長のインタビューからみた国立病院機構の目指すもの
    Medical ASAHI 2009年12月号 (16-9頁)に矢崎義雄理事長がジャーナリストのインタビューを受けていらっしゃいます。NHO傘下145病院のうち、急性期対応が3分の1で、残りが結核や神経難病などの政策医療を担っているそうであります。意外に多いんですね。機構で黒字なのは104病院で、41がまだ赤字、うち13は人件費も出ない状態。意外に経営状態が良いじゃん、と思われるかもしれませんが、国から運営費交付金が500億円出ています。ただ、政策医療分は70数億のみで、残りは国の時代に退職した人たちの恩給や年金。日赤や自治体病院がどうなっているのかは不明ですが、確かに固定資産税は払っていないはずなので、経営上は有利には違いありません。それでも、赤字の病院がまだ存在するところに、旧療養所のしんどさがあると一般の方々には理解して頂きたいもの。  
    これから始まる第2期計画では4つの計画があるんだそうで、「情報発信」「医療の質のさらなる向上」「人材育成」「非公務員化」。ただ、情報発信は本誌やHPのような意味ではなく、NHOから上がってくる医療情報が今後の医療業政策立案に重要なデータを提供するだろうとして、4月にデータを解析する総合研究センターを本部に設置するんだそうですね。ここから情報を発信してゆくんだそうであります。また、高度な実践能力を持つ看護師育成のために、学校法人青葉学園東京医療保健大学と提携し、4月に新しい看護学部と大学院を立ち上げるそうです。

  18. 日本の製薬企業が海外拠点を移転
    従来は人口減や薬価引き下げで伸び悩む国内市場から、主に米国を中心に海外での売り上げを伸ばしていきましたが、ここにきて米国での逆風にあっているそうです。全企業を襲っている経済不況の他、オバマ大統領の医療保険制度改革も製薬会社の収益を抑制する可能性がある上、主力薬の特許が相次いで切れる「2010年問題」や米当局の新薬承認の厳格化などの影響を受けているそうです。そこで、メキシコやEUへ販売拠点を移す動きが始まっている、と。従来、北米への依存度が日本の製薬メーカーはいかに大きかったか、Top 4の次の表が物語ります。
    日本 北米 欧州 その他
    武田薬品工業 6952 6316 1845 270
    アステラス製薬 4967 2350 1803 535
    第一三共 4688 2213 982 538
    エーザイ 3325 3699 510 283
    単位:億円 2009年3月期実績        (Fuji Sankei Business i 2009/10/16号)