2009年10月号 NO.2

  1. 中枢神経脱髄性病変を伴ったFabry病
  2. 皮膚筋炎の新たな自己抗体
  3. 弧発性late-onset cerebellar ataxiaでの抗神経抗体
  4. プリオン蛋白はT細胞の活性化,分化,生存のkey regulator
  5. クイズです.1シーズンでNFLの1チームは何個のボールを消費するでしょうか?
  6. 第26回ECTRIMS
  7. 第10回International Congress of Neuroimmunology
  8. 英国では2013年には一般医(GP)の大半が女性医師に
  9. NarcolepsyはT-cell receptor alpha locusと関連
  10. Primary erythermalgia
  11. PDへのDBSと内科的治療の比較RCT
  12. PD治療薬スクリーニングに新しい開発法
  13. Lyme病の病原体
  14. 自己免疫疾患での痙攣の頻度 
  15. Neurosarcoidosis
  16. 小児サルコイドーシスの特徴
  17. 若年性サルコイドーシスは自己炎症症候群
  18. 自己炎症症候群
  19. サルコイドーシスの神経・筋病変に関する診断基準
  20. 1シーズンでNFLの1チームは何個のボールを消費するでしょうか?解答編
  1. 中枢神経脱髄性病変を伴ったFabry病 という奇妙な報告があります(Mult Scler 2008;14:1003-6)。Fabry病にはまれに自己免疫疾患が合併することがあり、SLE (Clin Exp Rheumatol 1998;16:475-8)、RA (Ann Med Int (Madrid) 2003; 20: 28-30)、Celiac病 (Pediatr Nephrol 2004;19:679-81)合併の報告がありますが、今回は23歳発症女性で、症状を呈した病変部位は脳幹と脊髄で、再発寛解型。抗AQP4抗体の記述はありませんが、LCL陰性。MRIでは脳室周囲、脳梁、脊髄に病変。VEPでは遅延。X染色体劣性遺伝の疾患なので、carrierということですね。MS様疾患との合併は世界初例。

  2. 皮膚筋炎の新たな自己抗体 
    1. 7種類のアミノアシルtRNA合成酵素(ARS)に対する自己抗体が見出される病態は抗ARS症候群と呼ばれ、間質性肺炎、多発関節炎、レイノー現象、発熱、機械工の手などが高頻度に認められ、一般にステロイドに良く反応し、予後良好。
    2. PM/DM以外の膠原病でも検出される筋炎関連自己抗体の中で新しい自己抗体としては、抗CADM140、抗p155抗体が知られている。
    前者は、clinically amyopathic dermatomyositis (CADM)患者血清がK562細胞を用いた免疫沈降反応により140kDa蛋白と反応することで見出され、CADM患者の8/15例、急速進行性間質性肺炎4/5例で見出されました。後者は、Hela細胞/K562細胞を用いた免疫沈降反応で見出された155 kDa蛋白と反応する抗体で、悪性腫瘍関連DMで高頻度に見出され、早期診断に有用とされています。 (医事新報 2009;4425:67)

  3. 弧発性late-onset cerebellar ataxiaでの抗神経抗体 について、免疫組織学的方法とイムノブロット法とで検討した結果がドイツのR. Voltzが報告しています(J Neurol 2009; in press)。67例中8例(11.9%)でP/Q-type VGCC特異抗体が見出されました。臨床的には3例はMSA-Cで、うち2例の画像はOPCAでした。
  4. プリオン蛋白はT細胞の活性化,分化,生存のkey regulator という報告がECTRIMS 2009でドイツ、米国の共同研究で示されました。筆者も以前にリンパ球の混合培養を報告したことがありますが、 Tanaka M, Tanaka K, Miyatake T: Lymphocytes in Creutzfeldt-Jacob disease. Neurology 43: 2155-2156,1993
    Tanaka, M., Yoshimoto, H., Tanaka, K., Tsuji, S.: Decreased spontanous lymphocyte proliferation in CJD. Neurodegeneration, 3:175-176, 1994.
    関連文献は出ていたんですね。
    Cell 1990;61:185
    Br J Haematol 2000;108:488
    Haematologia 2000;85:475
    Blood 2001;98:3133
    Cell Immunol 2001;207:49
    FEBS Lett 2004;560:14

  5. クイズです。
    1シーズンでNFLの1チームは何個のボールを消費するでしょうか?
    解答
    1). 約100個
    2). 約500個
    3). 約1000個
    4). 約2000個
    解答は最後です。

  6. 第26回ECTRIMS がSweden第2の都市Goteborgで開催されます。係の女性はwest coastなのよ、と言ってましたが、カリフォルニアかい?確かにバルト海に面したストックホルムの反対側で、対岸はデンマークですが、ここって北海?とても温かなイメージではありません。しかも、白夜の季節ではなくて、13-16, Oct 2010と寒そう。観光客はいないだろうけども・・・名前を聞いたことがなかったので田舎だと思いましたが、人口は89万人と70万人の政令指定都市・新潟市より少し多いのです。人口の割に凄いのは、オペラハウスがあって、national orchestraもあることで、Museumsは17もあり、映画館は38 cinema screensあり、中心部から車で30分以内の距離に30もゴルフ場があります。一人あたりのGDPが日本より圧倒的に高いことに納得。

  7. 第10回International Congress of Neuroimmunology が26-30 Oct 2010, Barcelonaで開催されます。ECTRIMSに近いですが、日本から両方へは行きにくいですねえ。どっちを選ぶべきか・・・究極の選択です。治療か、免疫か・・・場所か・・・やっぱ、両方、行くっきゃないか?
  8. 英国では2013年には一般医(GP)の大半が女性医師に  
    現在の英国の医学部ではすでに女子学生の占める割合は57%に達しており、1960年代初めの10倍以上。女性医師は出産や常勤医師の割合が少ないため、女性医師の労働力は常勤医師の60%なんだそうな。また、常勤になりたがらない、田舎へ行きたがらないだけでなく、診療科の選択パターンも男性とは異なることが世界中で共通しているようです。一方で、医療機関や大学での女性が管理職に占める割合が低いのは欧米でも同じ。こういう現象が今後、どのように波及してゆくのか・・・医師の生活全体にも影響してくるのは必然でしょう。女性医師の少なくない割合は配偶者も医師なのですから。(BMJ 2009;338:b2252; MMJ 2009;5:396)
  9. NarcolepsyはT-cell receptor alpha locusと関連 しているという論文が出ました(Nat Genet 2009;41:708-11)。NarcolepsyはHLA-DR2と強い相関があり、DQB1*0602とも関連しています。今回の免疫応答に重要な遺伝子座と関連しているからと言って、Narcolepsyが自己免疫というわけではありませんし、リンパ球の反応と関連しているという証拠でもありませんが、どういう意味なんでしょう?

  10. Primary erythermalgia は常染色体優性遺伝で、四肢にburning painが出現します。原因はNav1.7 sodium channelをコードするSCN9Aのmutations。erythermalgia自体は毒キノコ中毒でも出現します。
    稀にこの患者さんが脳症(意識障害、幻覚など)を呈することがあるんだそうで、3例目が報告されました(J Neurol, in press)。CSFやMRIでは異常はないそうです。脳症の機序は不明。

  11. PDへのDBSと内科的治療の比較RCT が米国の大学や退役軍人病院で多施設共同研究が行われ、6ヶ月後の結果が公表されました(JAMA 2009;301:63-73; MMJ 5:399-401)。視床下核60例、淡蒼球へのDBSが61例、内科的治療が134例。Yahrは2あるいはそれ以上で、25%が40歳以上。Dyskinesiaを伴わない「オン」時間の長さや運動機能の改善はDBSが圧倒的に有意(p<0.001)。凝固術時代から指摘されていたことですが、認知機能に関して、言語機能と記憶機能の低下がDBSでは起こりやすく、治療の合併症もDBSが高いことが判明(p<0.001)。

  12. PD治療薬スクリーニングに新しい開発法 
    米国MITの生物学(なんで、工科大学に生物?そう言えば、工学部長になった経済学者が親戚にいたっけ)のグループがなんと5000万種の環状ペプチドをα-シヌクレイン産生酵母を使って、2種類の酵母菌の細胞死を予防する環状ペプチドを同定。その後、線虫C. elegansを使った動物モデルで神経細胞の死滅の抑制効果を証明した、とNature Chemical Biologyで発表するそうです。線虫C. elegans はドーパミン産生神経細胞が少量しか存在しないので、効果を判定するには便利なんだそうな。(MMJ 2009:5:461-2)

  13. Lyme病の病原体 
    米国でそもそも報告されたので、Borrelia burgdorferiが有名ですが、これは関節症状を起こすもので、神経症状を起こす病原体は異なります。ヨーロッパや日本に多いのはこっちのタイプで、Borrelia gariniiです(日本臨床 2004;62(増刊号1:235-8))。 通常、抗体を検査業者に依頼しますと、米国型しか測定してくれません。国立感染症研究所では両者のリコンビナント蛋白を所有しており、イムノブロットで測定して下さいます。その上、自治体を経由しますと、検査に要する費用は自治体で持ってくれます。この制度は余り知られてはいないようです。ただ、あくまでもサービス業務なので、結果が出るまで1ヶ月以上はかかる覚悟が必要です。本当に困ったときにはお願いするしかありませんね。たまたま、京都市の窓口には、大学の後輩である、石川和弘先生がいらっしゃいました。依頼主である私の名前を発見して、連絡が来ました。
  14. 自己免疫疾患での痙攣の頻度
    SLE            12-20%
    Sjogren          1.5
    Crohn’s disease        6
    Neurosarcoidosis      20
    MS            2-6
    Paraneoplastic limbic encephalitis 70
    ほかに、抗VGKC抗体陽性辺縁系脳炎、橋本脳症、Rasmussen脳炎が知られています。  Infantile spasms and Lennox-Gastaut syndromeでは、40年前からACTHが有効であることが知られていますが、機序はいまだに不明です。痙攣重責状態でもステロイドは有効ですが、長期間投与するべきではないとされています。細胞性免疫が障害されていて、IgAが低下し、IgGやIgMが増加。(Rev Neurol Dis 2008;5:109-16)  
  15. Neurosarcoidosis
    米国NashvilleのMS Center, Vanderbilt Univ Med Centerから54例が報告されています(Q J Med 2009, in press)。多くが無症候性ですが、全身サルコイドーシス患者のうちの25%で中枢神経症状が出現。患者が12-66歳に分布していますので、小児例が混じっています。初発症状は、
    両側視神経炎        24%
    ミエロパチー         19
    痙攣              17
    頭痛              17
    片側性視神経炎       11
    顔面神経麻痺        11 など  
    代表的なMRI所見は、
    T2高信号白質病変              30%
    髄膜造影病変                 19
    脳白質造影病変                19
    正常                        11
    視神経・視神経交叉の造影あるいは腫脹  9
    造影されないT2皮質病変            8
    脳内腫瘤                      6

  16. 小児サルコイドーシスの特徴  
    英仏独から報告された29例をまとめた論文が出ています(Pediatrics 2003;112:e480-6)。3ヶ月から18歳で、男女比は12/17例。14例(48%)が13歳以下。痙攣が最も多く11例(38%)を占め、うち8例が13歳以下。6例(21%)で視床下部機能低下(DIが4/6例、short statureが3/6、sexual immaturityが2/6)が認められています。成人に比し、痙攣が多いこと、脳神経麻痺が少ないこと、space-occupying lesionを起こしやすいことが指摘されています。  
    小児の場合、臨床像に2型存在しています。
    1. 年長児、思春期に発症し、成人型と同様に、肺病変、リンパ節腫脹、体重減少、発熱、低カルシウム血症を呈し、関節症状は乏しい。
    2. 4歳以下に発症する若年性サルコイドーシス。若年性特発性関節炎(JIA)と類似。
    (小児内科, 2007;39:2036-9)

  17. 若年性サルコイドーシスは自己炎症症候群  
    若年性サルコイドーシス(EOS, MIM #609464)は5歳未満に発症し(5歳以上で発症することも)、ブドウ膜炎、関節炎、皮疹をきたします。成人型とは、肺門部リンパ節腫脹を伴わないこと、ブドウ膜炎や関節炎が高頻度に認められ、予後不良であることが異なるといわれます。また、臨床像が類似しているBlau症候群(MIM #186580)は常染色体優性遺伝で、NOD2/CARD15遺伝子の異常が指摘されています。基本的にはEOSとBlau症候群は同一の病態と考えられるようになっています。サルコイドーシスは結果としての組織像からの病名ですが、ずいぶん印象が違いますね。上記の小児サルコイドーシスの中に本来は含まれるはずの病態なのでしょう。

    京大小児科・岡藤らによりますと、彼らが収集したEOS/Bau患者では神経症状は認められなかったそうです(小児科, 2007;48:45-51)が、関節炎を有する小児の30%で脳症や痙攣があったという報告があります(Clin Exp Rheumatol 1993;11:685-91)。

  18. 自己炎症症候群
    (autoinflammatory diseaseあるいはsystemic autoinflammatory diseases)は、周期熱を特徴とする疾患群の総称で、遺伝性と非遺伝性疾患とがあります。自己抗体や自己反応性T細胞は関与せず、自然免疫系の異常により発症する疾患群と考えられています。  
    遺伝性疾患としては、家族性地中海熱、TNF receptor-associated periodic syndrome (TRAPS)、高IgD症候群、Cryopyrin-associated periodic syndrome (CAPS)があり、CAPSには家族性寒冷蕁麻疹、Muckle-Wells症候群、Chronic infantile neurologic cutaneous articular syndrome (CINCA症候群)が含まれます。  
    非遺伝性疾患としては、クローン病、ベーチェット病、成人発症スチル病などが範疇に入り、痛風や偽痛風も一種の自己炎症疾患と考えられているそうです。(医療 2009;63:363-9;などより)
  19. サルコイドーシスの神経・筋病変に関する診断基準 が杏林大・作田教授、大分大・熊本教授らによりまとめられています(脳神経, 2006;58:471-6)。
  20. 1シーズンでNFLの1チームは何個のボールを消費するでしょうか?解答編  1000個です。(USA Today 2009/9/11-13国際版) regular gameで1試合で36-48個消費するんだそうです。そう言われると、なんか無駄使いしているような感じがしますね。そんなになんで必要なのか?簡単には敗れないだろうし、野球と違って、ホームランでなくなることもないのに。網を張ってますもんね。