2009年10月号 NO.1

  1. CIS発症時のMRI所見
  2. NMO IgGはAQP4機能に影響しない
  3. 再発評価でのMRIの有効性
  4. 2009年米国でのMS再発予防の現況
  5. MSへの抗CD25抗体治療
  6. Radiologically isolated syndrome (RIS)-1
  7. Radiologically isolated syndrome (RIS)-2
  8. Charcot Award Lecture
  9. MRIでのMS造影病変検出アップ法
  10. 健康人での容積別の白質構成成分
  11. MECOMBIN study
  12. Rituximab投与2週後に抗AQP4抗体価が上昇して再発を誘導
  13. MSに利用されつつあるmonoclonal antibodies
  14. MSへのFuture treatment paradigms  
  15. MSへの4-aminopyridineを使った対症療法
  16. MSでのfatigueの病因
  17. Idiopathic chiasmal neuritis
  18. Anisocoriaの原因
  19. 抗AQP4抗体のエピトープ
  20. 新しいMS特集雑誌
  21. MSの新しい感受性遺伝子
  22. Japanese IFNβ1b-RCTのfollowing study
  23. Glatiramer acetateがnaive CD4+CD25+FOXP3+CD31+-T cellをexpansionさせる
  24. 未治療のRRMSやCISではCD8lowCD56+CD3-CD4-が減少
  25. MSではTh17細胞が増殖していて、IFNβはこれを抑制する
  26. Th17とMSの関係
  27. 活動型MSの特徴的リンパ球サブセット
  28. リンパ球のCNS炎症病変へのmigrationを抑制する新しい治療法
  1. CIS発症時のMRI所見 について、本来は別の目的の論文ですがBarkhof’s criteriaを満足するのは9/20例だったという記載があります(Brain 2007;129:1993-2007)。

  2. NMO IgGはAQP4機能に影響しない という論文が出ていますが(Glia 2009, in press)、実験条件によって変わるでしょうねえ。BBBが破壊されており、vasogenic edemaが主体なので、cytotoxic edemaが関与する必要はないのですが、AQP4の機能がどうなっているかはもう少し検討の余地はあるでしょう。でも、それならなんでAQP4でなければいけないのか?

  3. 再発評価でのMRIの有効性 が23のRCT報告の解析で証明されています(Ann Neurol 2009;65:268-75)。再発予防への効果とMRI activityでの効果とが相関(0.81)することが証明されましたが、合計の患者数は6591名。
  4. 2009年米国でのMS再発予防の現況  
    市販されているのは、IFNβ1a筋注、IFNβ1a皮下注、IFNβ1b皮下注、glatiramer acetate, natalizumab, mitoxantroneの6種。  Phase IIIも6種あり、alemtuzumab, BG0012, cladribine, daclizumab, FTY720, laquinimod, teriflunomide。(Ann Neurol 2009; 65:237-8)

  5. MSへの抗CD25抗体治療  
    CD25はIL-2受容体α subunitで、活性化T細胞表面に発現しています。MSでは可溶性CD25が増加していたり、自己反応性T細胞のIL-2反応性亢進が報告されています。で、抗CD25抗体(daclizumab)を治療に利用できないか、というアイディアが出てきました。NIHのNeuroimmunology Branchで15例を対象に投与され、9/13例で効果があり、他の4例ではIGNβとの併用が有効。新しい造影病変は72%の減少が認められたことがDr R Martinらにより報告されました(Arch Neurol 2009;66:483-9)。Fullとpartialに反応した患者さんの指標を比較したところ、CD56bright NK細胞の増加とCD8陽性T細胞の減少が認められています。しかし、CD25は制御T細胞にも発現しています(CD4+CD25+ Treg)。臨床効果はありますが、Tregは減少していることが同じNIHのDr S Jacobsonらが報告しています(Arch Neurol 2009;66:471-9)。また、15例中3例で皮膚炎が認められています。

  6. Radiologically isolated syndrome (RIS)-1  
    MSを示唆する脳MRI所見はあるけれども、無症状の患者を言いますが、44例中30例を平均5.4年間観察したところ、10例がCISまたはclinically definite MSに進展した、という報告が出ています(Okuda DT, et al. Incidental MRI anomalies suggestive of multiple sclerosis. The radiologically isolated syndrome. Neurology 2009:72:800-5)。

  7. Radiologically isolated syndrome (RIS)-2  
    BarkhofのMS MRI診断基準を満足するけれども無症状の患者70例(男性17例、女性43例)を平均2.3年経過観察したところ、23例(33%)が症状を呈し、視神経炎と脊髄炎が6例ずつ、脳幹症状が5例、神経過敏症状が4例。つまり1/3がCISになったわけですね(Arch Neurol 2009;66:841-6)。
  8. Charcot Award Lecture  
    ECTRIMS 2009でSydneyのProf Prineasが受賞.よく解らない主張もあるのですが・・・ありのまま記しますと
    1). The perivascular demyelinating disease that resemble MS most closely is NMO
    2). NMO is a diseases of astrocytes
    3). Perhaps MS also is not a disease primarily of myelin and oligodendrocytes  
    これが現時点での病理の結論だそうな。最後は壇上で号泣。奥様のことのようでしたが。
  9. MRIでのMS造影病変検出アップ法
    1). triple and delayed dose contrast
    2). high field imaging (3T)
    3). subtraction method
    4). ultra small particle iron oxide (USPIO) (Dousset, 2006) (ECTRIMS 2009でProf ComiのTeaching Course 5での講演から)

  10. 健康人での容積別の白質構成成分
    Axon         46%
    Myelin        24
    Glial cells       17
    Other elements    13
    (ECTRIMS 2009でProf ComiのTeaching Course 5での講演から)

  11. MECOMBIN study  
    IFNβ1aをベースにステロイドパルス(500 mgを連続3日間を毎月投与)を併用する治療群とplaceboの点滴をする群とでRCT。北欧3ヶ国,スイス,オランダ,ベルギー,デンマークが参加。18から55歳のEDSSが≦ 4.0のRRMS,過去1年以内に1回以上再発のあった患者を対象。3年間施行。

    MP (171例) placebo (167)
    MS Functional Composite Total 0.031 -0.139 (p < 0.05)
    年間再発率 (1年目) 0.205 0.333
    3年目でも有意差あり。  
    神経学的症状やMRI pathology (ΔT2 volumeやnew T1 lesionsなど)で評価すると効果が認められました。ただ、6ヶ月間EDSSの進行を止めることはできませんでした。

  12. Rituximab投与2週後に抗AQP4抗体価が上昇して再発を誘導 という報告が東北大・中島先生からECTRIMS 2009で。米国,韓国,フランス,カナダの共同研究。early exacerbationについてはすでに指摘されています(Neurol Sci 2007;28:209-11; Arch Neurol 2008;65:1443-8)。中島らによりますと、抗体の上昇はB細胞を活性化させるサイトカインであるBAFF上昇のためで、抗体価はその後に減少し、8ヶ月後に再び投与2週後のレベルにまで再上昇。後の方の増加はRituximabの効果が切れたためでしょうが、そうすると、いつまでも抗体価は下がらないことになりますね。うちらの結果とは異なります。

  13. MSに利用されつつあるmonoclonal antibodies
    HarvardでCD4に対するマウスのモノクローナル抗体を投与していた時代が嘘のようです。名前の付け方に原則があるんだそうな。

    名称 -momab -ximab -zumab -mamab
    由来 mouse chimera humanized human

    標的別の分類です。
    T cells Natalizumab, Declizumab, Alentuzumab, Ustekimumab
    B cells Rituximab,Otatumumab, Ocrelizumab, Atacicept

    Daclizumabは1997年にFDAにより、1999年にEMEAによりapproveされていて、すでに6000例以上に投与されているそうな。RRMSを対象とした、CHOICE study (phase II)がECTRIMS 2007に報告されているそうです。
    Alemtuzumab(Campath-H)はT, B, Monocytes, NKに発現しているCD52に対する抗体ですが、2日目にCD4, CD8, B細胞は末梢血からほぼ消失し、18ヶ月後もT細胞は低値のまま。3年間でEDSSが低下するのが最大の特徴。(N Engl J Med 2008;359:1786-801) UstekimumabはIL-22/23に対する抗体ですが、RRMSへの投与は思ったほどではないようです。  
    RituximabはPPMSへの投与(Olympus Trial)はnegativeでしたが(Ann Neurol, in press)、造影病変のある患者では効果があったそうです。 (H-P Hartung #86 in ECTRIMS 2009)
  14. MSへのFuture treatment paradigms と題して、ポーランドに帰国したSelmajが教育コースで講演。4つのポイントを挙げていました。
    1). Monoclonal antibodiesの役割がますます増加するだろう
    2). 内服薬の開発が最終段階へ
    3). 重篤な副作用の危険が増してゆく
    4). Patient framed therapy ??? これはまだ夢。  
  15. MSへの4-aminopyridineを使った対症療法  
    Univ Texas Southwestern Med Ctr at DallaのDr Frohmanはジョークを連発しつつ、対症療法を教育講演。その中でカリウム・チャネルブロッカーである4-aminopyridineの利用法を紹介。
    1). 歩行や運動、発熱時によい。
    2). paresthesia, abdominal painに

  16. MSでのfatigueの病因  
    Univ Texas Southwestern Med Ctr at DallaのDr Frohmanはジョークを連発しつつ、対症療法を教育講演。その中から、
    1). Sleep hygiene
     spasticity, restless legs ± ferritin deficiency, pain, apnea, bladder dysfunction
    2). Increased work requiment for movement
     spasticity, weakness, balance
    3). Uhtoff
    4). Iatrogenic
    5). Endocrine/metabolic/anemia/nutritional

  17. Idiopathic chiasmal neuritis という論文がスイスのLausannneの病院から出ています(Arch Ophthalmol 2009;127:76-81)。著者はAki Kawasakiという方で、女性かもしれませんが、直接メールでPDF fileを頂いたものの、漢字が不明です。もしかしたら、留学生ではなくて日系の方でしょうか?  Chiasmal neuritisの原因となりうる基礎疾患としては・・・
    MS
    Tuberculosis
    Sarcoidosis
    SLE
    Epstein-Barr disease
    Lyme disease など  
    この病院のシリーズでは、1983年から2001年までの20例(M/F比は6/14)の自験例を対象として解析しており、年齢は13から73歳(平均37歳、中間値34.5歳)で2例のAfrican American以外は白人。古い患者さんが多いためか、MRI施行例は15例にとどまり、12例で視交叉の腫脹や造影が認められています。視力の予後は良好で、NMOは入っていないようです。平均5.7年間の観察期間で40%がMSへ移行。CISとしてのchiasmal neuritisの解析と言ってもいいかもしれません。

  18. Anisocoriaの原因
    Aki Kawasakiは最近のCONTINUUMに書いています。写真では30歳代に見えますが、日本人は若く見えるので実際は不明です。邦文の総説でも著者の写真を掲載する雑誌があり、知り合いで10年以上前の写真を掲載している輩がおりました。Kawasaki A: Anisocoria. CONTINUUM 2009;15(4):218-35.その中から、
    I. Causes of anisocoria greater in bright light
     Mechanical Anisocoria
      Ocular trauma
      Iridectomy
      Angle-closure glaucoma
      Iris tumor or mass
     Neurologic Anisocoria
      Oculomotor nerve palsy
      Post ganglionic
      Parasymptomatic nerve palsy
     Pharmacologic Anisocoria
      Toipcal anticholinergics
      Topical sympathomimetrics
      Aeroslolized bronchodilatots
    II. Causes of anisocoria greater in dim light
     Mechanical Anisocoria
      Iris adhesions
      Pigment dispersion syndrome
     Neurologic Anisocoria
      Horner syndrome
      Aberrant regeneration of oculomotor nerve
     Pharmacologic Anisocoria
      Glaucoma medications
      Topical anti-inflammatory
     Physiologic Anisocoria
  19. 抗AQP4抗体のエピトープ について、田中恵子らが報告しています。主な結合部位は3つ目の細胞外ループ(loop E)で、ヒトとマウスで異なる228番目のアミノ酸の周囲が特に重要なようです(J Neuroimmunol 2009;211:110-3)。
  20. 新しいMS特集雑誌 が出ました。近畿大学の楠教授監修です。田中正美、梅村敦史、富田 聡、荒木保清、松井 大:多発性硬化症-病態解明と治療戦略の最前線 画像による解析。カレントテラピー, 27:774-7, 2009. を書きました。MS特集として邦文の総説は結構出ていますが、1990年代の論文を字数制限はありましたが、日常診療にも役立つように、許す限り真面目に引用してあります。  
    田中恵子が抗AQP4抗体について書いています。カレントテラピー, 27:814, 2009.  最後に、楠教授の司会のもと、九大・吉良教授、神経センター・山村部長による鼎談が掲載されていますが、お二人の立場の違いが明解で、議論がかみ合っていないことに、MS/NMO researchの現況が垣間見えます。  
    Current Opinion in Neurologyの2009年22巻3月号にClinical Update 1として、”Debate: confidence in existing multiple sclerosis therapies versus enthusiasm for new ones”と題して、3つの論文を掲載した、わずか14頁のsuppementのような付録が付いています。
  21. MSの新しい感受性遺伝子  
    ゲノムスキャンのメタ解析と再現性研究により(なんのこっちゃ)、MSの新しい感受性遺伝子として、CD6, IRF8, TNFRSF1Aが同定されたそうです(Nat Genet 2009;41:776-82)。商売敵のLancet Neurol 2009;8:708で紹介されています。

  22. Japanese IFNβ1b-RCTのfollowing study  
    齋田先生がまとめたデータで、発売10周年だったかの記念講演会で最初に報告されました。まだ論文にはなってはいません。2009年にお聞きしたときの肝心なところは・・・  LCL陽性例は43例あり、その内訳はConventional MSが58.1%、Optic-spinal MS (Optico-spinalではありません)が41.9%で、LCLのないOSMSではIFNはgood response。年間再発率でIFNのhigh vs low doseの比較で、-57.7%。LCL-MSへのIFNβ治療はrecommendしない、と(Saida, 2009)。
  23. Glatiramer acetateがnaive CD4+CD25+FOXP3+CD31+-T cellをexpansion させるという、新しいMSの再発予防機序が報告されました(J Neuroimmunol in press)。
  24. 未治療のRRMSやCISではCD8lowCD56+CD3-CD4-が減少 しているという報告がハーバードから出ています(Brain 2008;131:1701-11)。NK細胞を意味しています。これは以前コメントした(田中正美:多発性硬化症での疾患活動性とは何か?神経内科, 68:515, 2008.)噴火状態(再発)ではなくて、活火山の指標のようでありますね。NK細胞とMSに関しては、妊娠の最後のtrimesterで増加するCD56bright細胞が女性患者で再発頻度が減少したときに増加するとか(Clin Exp Immunol 2008;151:235-43)、IFNβ治療をしたRRMS患者で増加するとか(Neurol Sci 2007;28:121-6)、CD56+NK細胞がMBP特異的T細胞の活性化をregulateしている(Brain 2004;127:1917-27)といった報告が知られているようです。
  25. MSではTh17細胞が増殖していて、IFNβはこれを抑制する という新しいIFNβの治療機序が報告されました(Ann Neurol 2009;65:499-509)。30例の活動期MSではTh17%が増加していますが、MBP刺激した細胞群に認められています。(抗原特異的という意味ではないと思います)Th1ではこのような変化はありません。5例の患者に再発数週後からIFNβを投与すると、6ヶ月後、12ヶ月後寛解期にTh17が減少。IFNβはTh17のapotosisを誘導することが示されています。健康人や活動性にかかわらずMS患者では、IFN-αR1を発現している細胞はTh1よりTh17に多く、IFN-αR1がIFNβのターゲットになっているそうな。
  26. Th17とMSの関係
    1). MS患者から得られたTh17細胞は、in vitroでTh1よりBBBを容易に超える (Nat Med 2007;13:1173-5)
    2). EAEではTh17が増加したときのみ、脳実質内に浸潤(Nat Med 2008;14:337-42)
  27. 活動型MSの特徴的リンパ球サブセット が報告されています。安定期に比し、活動期の変化としては、
    CCR7-CD45RA-CD4+αβT cells 減少
    CCR5+γδT cells           増加
    DN CD28+αβ T cells        増加
    CD25+CD8+αβT cells        減少
    (Brain 2006;129:1993-2007)

  28. リンパ球のCNS炎症病変へのmigrationを抑制する新しい治療法 が考えられつつあるようです。リンパ球がCNSへ流入する際に、renin-angiotensin pathwayと血漿中のkallikrein-kinin systemが重要であることが判ってきました。Kinin receptor B1 (Bdkrb1)がこのときのkey moleculeだそうで、Bdkrb1がCNSへ入るリンパ球をコントロールしているそうです。Bdrkb1 agonistをEAEに投与すると発症しなくなり、逆にantagonistを投与すると、EAEが増悪するそうな(Nat Med, 2009;15:788-93)。(Lancet Neurol 2009;8:708)