9.Paraneoplastic NMOは存在しうるか?

田中正美、田中恵子
神経内科, 70:223, 2009  

最近、悪性腫瘍患者でNMOが認められることが報告されていて、傍腫瘍性にNMOが発症しうる、つまり、悪性腫瘍にAQP4が発現していて、これが抗原刺激となって神経症状が発症しうる、という可能性が議論されています。

転移性乳癌の既往のある63歳女性が、3椎体以上の長い脊髄病変を伴う脊髄炎を呈したという報告1)があります。 NMO IgG、さらに抗AQP4抗体発見の元となった、傍腫瘍性神経症候群の抗体スクリーニングをしていたMayo Clinicから、悪性腫瘍を伴い、NMO-spectrumを呈した13例の患者で抗AQP4抗体が見出されたことが報告されました2)。うち5例は乳癌でした。これらがたまたま合併したのか、科学的に意味のある現象なのかはさらに検討が必要です。

彼らは、これらの患者さんたちの腫瘍細胞にAQP4が発現していることを証明してはいませんが、抗AQP4抗体により広範囲に正常細胞や腫瘍組織、細胞株への反応が認められることから3)、腫瘍細胞が抗原刺激になる可能性を指摘しています。彼ら自身も指摘していますが、mRNAの発現を証明する必要があります。 通常、このような傍腫瘍性にNMOが発症しうる可能性を指摘する場合、AQP4がNMOの主要な標的になっているかどうかは別にして、腫瘍組織にAQP4が発現しているかどうかの証明が必要とされています4)。一般的に、抗体により染色されたからと言っても、そこに対応抗原が存在するとは限りません。誤解されやすいことですが、抗原抗体反応は鍵と鍵穴のような1対1の関係ではなく、酵素反応や遺伝情報の伝達とは異なり、三次元構造や類似のアミノ酸が抗原決定基に存在していれば、「特異的に」結合し得ます。それゆえ、AQP4のmRNAを解析する必要が出てきます。

また、筆者らも新潟で乳癌を合併したNMO患者さんを経験しています(未発表)。NMOは圧倒的に女性に多く、患者層が古典型多発性硬化症(classic MS: CMS)より高齢なので、腫瘍が合併する頻度はCMSより高いでしょうし、乳癌はありふれた腫瘍なので、関連があるかどうかは腫瘍組織にAQP4の発現でも証明されない限り、個別には議論しにくいと思われます。 経験的には、CMSと比較して、100例近いNMOでは悪性腫瘍の頻度が特に高いことはないように思われます(未発表)。 今後、NMOの悪性腫瘍例の症例報告が国内でも出てくる可能性が高いですが、せっかくの機会ですから、是非、その患者さんの腫瘍にAQP4が発現していることを、mRNAおよび蛋白レベルで確認して頂きたいと思います。

文 献

  1. Mueller S, Dubal DB, Josephson SA, et al. A case of paraneoplastic myelopathy associated with the neuromyelitis optica antibody. Nat Clin Pract Neurol 2008 ; 4 : 284-8.
  2. Pittock SJ, Lennon VA. Aquaporin-4 autoantibodies in a paraneoplastic context. Arch Neurol 2008 ; 65 : 629-32.
  3. http://www.proteinatlas.org/
  4. Greenlee JE, Steffens JD, Clawson SA, et al. Anti-Hu antibodies in Merkel cell carcinoma. Ann Neurol 2002 ; 52 : 111-5