5.多発性硬化症におけるミトキサントロン治療の留意点

田中正美、小森美華、今村久司
神経内科,67:309-310, 2007.  

私どもは、多発性硬化症(MS)をclassic MSとNeuromyelitis optica (NMO)とに分け(NMOをMSに入れるべきか否かの議論はここでは本筋とは異なりますので、従来のように便宜的にここではこうしておきます)、再発予防の治療方針を分けています。前者では、Interferonβを、後者では内服の副腎皮質ホルモン剤と免疫抑制剤(Azathioprineなど)を第1選択薬とし、難治性の場合、いずれの病型に対してもMitoxantrone (MITX)を考慮しています。後者に対して、Interferonβは第1選択とは考えてはおりませんが、明らかに再発を抑制できているように見える場合は中止していません。

欧米では難治性MSの治療法として、MITXがすでに定着していますが1)、本邦ではまだ報告が少ないのが現状です。当院では、すでに30例以上に投与し、良好な結果を得ています。最近、当院への投与方法などに関する問い合わせが多くなっており、MITXの使用が拡大しつつあるように思われます。ただ、本剤は必ずしも使用しやすいわけではありませんし、最近、本治療法に関連した注目すべき副作用も指摘されていますので、ご紹介したいと存じます。

当院では、Interferonβ治療などでも再発が抑えられず、EDSSの進行を抑えられない場合に本治療法を用いていますが、その多くはNMOで、いかに本病型が難治性であるかを物語っています2)。また、比較的強力な治療法とはいえ、再発予防には数ヶ月時間がかかること、必ずしも再発を完全には抑制できない場合もあることを充分説明するべきでありましょう。

私たちは、投与前に心電図や心エコー検査で心機能に問題がないことを確認した後に、まず12mg/m2から投与を開始し、1ヶ月に1回1時間で点滴することを3回行った後、3ヶ月に1回の投与にしています2)。MITXの投与前に、吐き気止めとして塩酸アザセトロンを1筒静注しています。食欲の低下や吐き気は1日で消失することが多いですが、時にこれらのために中止せざるを得ないこともあります。また、血管外に漏出しますと組織壊死を起こしますので、原則として留置針を用いています。不幸にして漏れてしまった場合、当院ではMethylprednisolone40mgを生食5mlとともにその部位に皮下注するか、Triamcinolone水性懸濁注1筒をその部位に皮下注射するかのいずれかの方法で対処しています。 投与量は白血球の回復をみながら投与量を減量し、5回以降は必要に応じて投与間隔を延ばすことも考慮し、総投与量を96mg/m2以下に抑えるようにしています(実際は、2年間でこの限界に達することはありません)。稀に、12mg/m2ずつ初めの3回分を投与できることもありますが、一般的傾向として、この薬剤は蓄積性なので、投与量が同じでも投与回数の増加とともに、白血球の減少の割合は強くなっていきますので、投与量の調節が必要となります。 12mg/m2から始めますと、多くは危険なことはありませんが、MITX初回投与10日後に白血球数が500にまで減少した例があります。投与1週間後以降は週に2回検血検査を行っていますが、予想外の反応を引き起こすことがありますので、この治療を外来で行うことは危険と考えています(最初に、必ずしも3ヶ月間の連続入院の必要はありません。白血球数が回復すれば、4週間の投与間隔の最後の1週間は退院できます)。

最近、気になる副作用が報告されています。従来、MITXにより骨髄性白血病が0.07%3)-0.25%4)の頻度で出現することが知られていて、今年になって急性リンパ芽球白血病も起こりうることが報告されています5)。神経内科領域での報告はないようですが、G-CSFにより急性骨髄性白血病あるいはacute myeloid leukemiaの発症のリスクが2倍に高くなることが乳癌患者への化学療法で報告されています6), 7)。従来のMITXによる影響と考えられていた一部は、G-CSFによるのかもしれません。しかし、先天性白血球減少症や周期性白血球減少症で、長期間G-CSFを投与した際の白血病の発症頻度に著しい差異があることや、幹細胞移植の際に健康人にG-CSFが投与された際の白血病発症率も一定ではない、という批判もあります8)。結論は出ていませんが、G-CSFにはこのような背景があることにも留意するべきでありましょう。

文 献

  1. Neurology 2004;63 (Supple 6):s1-s54.
  2. 小森美華、田中正美、村元恵美子ら:日本人多発性硬化症患者に対するミトキサントロン治療の検討。臨床神経 2007;47:401-6.
  3. Ghalie RG, Mauch E, Edan G, et al. A study of therapy-related acute leukaemia after mitoxantrone therapy for multiple sclerosis. Mult Scler 2002;8:441-5.
  4. Boissy A & Fox RJ. Current treatment options in multiple sclerosis. Curr Treat Options Neurol 2007;9:176-86.
  5. Cartwright MS, Jeffery DR, Lewis ZT, et al. Mitoxantrone for multiple sclerosis causing acute lymphoblastic leukemia. Neurology 2007;68:1630-1.
  6. Hershman D, Neugut AI, Jacobson JS, et al. Acute myeloid leukemia or myelodysplastic syndrome following use of granulocyte colony-stimulating factors during breast cancer adjuvant chemotherapy. J Natl Cancer Inst 2007;99:196-205.
  7. Le Deley M-C, Suzan F, Cutuli B, et al. Anthracyclines, mitoxantrone,radiotherapy, and granulocyte colony-stimulating factor: Risk factors for leukemia and myelodysplastic syndrome after breast cancer. J Clin Oncol 2007;25:292-300.
  8. Touw IP & Bontenbal M. Granulocyte colony-stimulating factor: Key (F)actor or innocent bystander in the development of secondary myeloid malignancy? J Natl Cancer Inst 2007;99:183-6.