41.視神経脊髄炎へのタクロリムス療法の注意点

田中正美、越智香保
神経内科 2015;82:238.に掲載されました。

タクロリムス(tacrolimus: TCR)はTリンパ球の活性化を抑制します。重症筋無力症では3 mgという固定された用量で承認されましたが、米国医薬品局に提出された、5 mgを1回内服後の最大血中濃度と半減期(平均16.5日)から計算しますと、体の大きさは異なりますが、7日間連続投与後の定常状態でトラフ値は3.8 ng/mLにすぎません。  

視神経脊髄炎(NMO)の再発予防に、筆者(MT)はまず補体の活性化抑制を目的にステロイド(PSL)内服から始め、翌月にはTCRを併用して6ヶ月後にはPSL 5 mg以下に減量して良好な成績を得ています1)。効果発現までに時間がかかるため、TCRから治療を開始することは危険です。目標濃度はトラフで3-7 ng/mLです。15例のNMO患者の血中濃度の日内変動を検討したところ、9時と15時では0.9 ng/mLの差がありました。関節リウマチでは1.5 mg/日以下の少量投与が行われています。NMOではトラフでギリギリ3 ng/mLで再発例がありますから、午前の採血での濃度として最低4.5は必要と思います。  

グレープフルーツやハッサク、ブンタン、スウィーティー、報告により異なるようですがザボンでも血中濃度が上昇します。オレンジやみかん、レモンでは影響はありません2)。針治療で血中濃度が低下することもあります3)。  

夕食1時間以上前に内服するように指示していますが、薬剤師の常識としては「夕食前内服」は30分前なのだそうで注意が必要です。  

chemiluminescent enzyme immunoassayによる測定では代謝産物との交叉反応4)があり、内服量に比して濃度が高いときには注意が必要です。本来なら、液体クロマトグラフィーで確認するべきですができないのは残念です。概ね、夕食前1回の3-6 mgの内服で目標とする濃度は得られます。


文 献

  1. Tanaka M, Kinoshita M, Tanaka K. Corticosteroid and tacrolimus treatment in neuromyelitis optica related disrders. Mult Scler, in press.
  2. 荒井元美. ハッサク摂取によるタクロリムス血中濃度の上昇. 神経内科 2007 ; 66 : 604-5.
  3. 田中正美、高坂雅之、小林恭子. 針治療後にタクロリムスの血中濃度が低下し、再発した視神経脊髄炎. 神経内科 2012 ; 77 : 672.
  4. Hirano K, Murayama S, Mino Y, et al. Suitability chemiluminescent enzyme immunoassay for the measurement of blood tacrolimus concentrations in rheumatoid arthritis. Clin Biochem 2011 ; 44 : 397-402.