40.抗アクアポリン4抗体測定系の検討: cell-based assay とELISAの比較

田中正美 、田中惠子
神経内科 2014;81:685-7.に掲載されました。

再発寛解型多発性硬化症(multiple sclerosis: MS)の再発予防を目的に、疾患修飾薬が開発されており、本邦でもインターフェロン-βに次いでフィンゴリモドとナタリズマブが承認された。しかし、フィンゴリモド1)とナタリズマブ2)はいずれも抗アクアポリン(aquaporin: AQP)4抗体陽性の視神経脊髄炎(neuromyelitis optica: NMO)に投与すると、短期間で再発が認められることが知られており、治療前にNMOの除外が重要である。  

抗AQP4抗体は三次元構造を認識するため、ヒトAQP4由来ペプチドを抗原としたイムノブロットでは抗AQP4抗体は検出できず(未発表)、N-メチル-D-アスパラギン酸(N-methyl-D-aspartic acid: NMDA)受容体に対する抗体と同様に3)細胞表面に発現させた抗原を用いる。抗AQP4抗体測定系は多くの報告があるが、多くは細胞表面に発現させた抗原をどのように検出するか、という違いである。それぞれの利点、難点があり、統一された唯一の方法はない4)。2013年秋から医療保険でenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)による抗AQP4抗体測定が医療保険の適応となった。

筆者らはヒトAQP4M23アイソフォームをHEK293細胞に発現させて、蛍光顕微鏡により抗体を検出する方法(cell-based assay: CBA)で抗AQP4抗体を測定している5)。同じELISAの初期の報告では、Lennonらが最初に報告した動物組織を用いた間接抗体法(NMO IgG)6)と比較しているが、NMO IgG陽性120検体のうちELISA陽性は100検体のみで(17%のfalse negative)、NMO IgG陰性34検体中ELISA陽性が5検体(15%のfalse positive)であった7)。これでは結果が陽性であっても陰性であっても、評価が困難である。その後、カットオフ値の検討により感度83.9%、特異度98.0%まで改善された8)。そこで、自験例を対象に筆者らのCBAとさらに新たに設定されたカットオフ値で判定されたELISAとの比較検討を行った。

対象と方法

対象は筆者(MT)の外来を受診したNMO spectrum disorders(NMOsd))の連続31例である。ELISAキット(英国RSR社)は昆虫細胞に発現させ精製した、ヒトリコンビナントAQP4蛋白を固相化したウェルを用いており、抗体はSRL社で測定された。カットオフ値は5 U/mLである。 CBAは筆者の一人(KT)により、診断目的の通常のスクリーニング検体に混入させて、臨床情報のない状態で評価された。

結果および考察

CBA法では31例中19例が陽性で、ELISA法では16例が陽性で、CBAを基準とするとfalse negativeが3/19例 (15.8%) 認められたが、false positive (0/12例)は認められなかった(表1)。  

カットオフ値が2.3 U/mL8)からさらに5 U/mLへ引き上げられたことにより、今後の多数例での検討が必要ではあるが、false positiveが大幅に低下したように思われ、陽性の場合の診断の確実性は向上した。現法では低力価の抗体を検出できない可能性があるが、ELISAは多数の検体を同時に処理できる上に定量的な評価が可能なので、抗原の精製の工夫などが今後の課題ではないだろうか。  

抗体陰性のNMOsdでも陽性例と同様にフィンゴリモドなどが危険か否かは不明ではあるが、理論的に陰性例の中には陽性例と同じ病態を持っている患者が必ず存在するので10)、どのように鑑別するかは今後の課題である。International Panelによる診断基準が近い将来に公表されるが、抗体陰性の場合はNMO特異的な症状や検査所見9)を参考に判断することになるようである3)

まとめ

ELISA(RSR社)による抗AQP4抗体測定は、日常診療には充分利用可能と考えられた

文 献

  1. Tanaka M, Oono M, Motoyama R, Tanaka K.. Longitudinally extensive spinal cord lesion after initiation and multiple extensive brain lesions after cessation of fingolimod treatment in a patient with recurrent myelitis and anti-aquaporin 4 antibodies. Clin Exp Neuroimmunol, 2013;4:239-40.
  2. Barnett MH, Prineas JW, Buckland ME, et al. Massive astrocyte destruction in neuromyelitis optica despite natalizumab therapy. Mult Scler 2012;18:108-12.
  3. Tanaka M, Kinoshita M. Congress report of 2014 AAN annual meeting. Clin Exp Neuroimmunol, in press.
  4. Waters PJ, McKeon A, Leite MI, et al. Serologic diagnosis of NMO: a multicenter comparison of aquaporin-4-IgG assays. Neurology 2012;78:665-71.
  5. Tanaka K, Tani T, Tanaka M, et al. Anti-aquaporin 4 antibody in Japanese opticospinal multiple sclerosis. Mult Scler, 13:850-855, 2007.
  6. Lennon VA, Wingerchuk DM, Kryzer TJ, et al. A serum autoantibody marker of neuromyelitis optica: distinction from multiple sclerosis. Lancet 2004;364:2106-12.
  7. 谷口 崇、鈴木智子、駒形美穂、ほか. ELISAによる抗アクアポリン4抗体測定キット(コスミック社)の基礎的検討。医学と薬学 2012;68:139-142.
  8. 松下拓也、宮本勝一、吉良潤一、ほか. ELISAによる抗アクアポリン4抗体測定キットの基礎的・臨床的検討。医学と薬学 2013;70:821-7.
  9. 田中正美. NMO spectrumについて. 神経内科2012;76:531-6.
  10. 田中正美、田中恵子:NMOでの抗アクアポリン4抗体のfalse negativeについて。神経内科, 69:505-6, 2008.

表1

Cell-based assayとELISAによる抗アクアポリン4抗体測定の比較。ELISAの感度は16/19例 (84.2%)であった。治療によりCBA法で陰性化した8例以外に、CBA法では陽性だった3例は抗体の低力価のためかELISAでは検出できなかった。Fisherの正確確率検定によるオッズ比は117.86、95%信頼区間は5.56-2496.13 (p < 0.001)と両測定法による結果には相関が認められた。
CBA: cell-based assay5)
ELISA: enzyme-linked immunosorbent assay7)、8)