4.視神経脊髄型多発性硬化症とneuromyelitis opticaをめぐる混乱の現状

田中正美、田中恵子
神経内科, 67:108-9, 2007  

視神経脊髄型多発性硬化症 (OSMS)とNeuromyelitis optica (NMO)との関係が混乱しています。どちらも病変部位が視神経と脊髄とに局在していることから命名されたものですが、NMOの原点であるDevic病の概念は狭く、NMOの診断基準はたびたび改定され、次第に疾患概念を拡大していった経緯があり1)、最も新しい診断基準ではついに脳病変の存在をも許容するようになりました2)。NMOの特異的病変である3椎体以上の長い脊髄病変(long spinal cord lesions: LCL)3)を伴う日本人MS例では、大脳を含む脳症状を伴う場合が決して稀ではないことを宇多野病院からも報告しています4)

NMOの概念が変化してゆき、本来の病変部位の特異性から逸脱していること、一方のOSMSも後述するように病態から見てheterogenousであることから、私たちはLCLを伴うMSをLCL-MSと呼んでいますが、内容はNMOとほぼ同一です。  

一方、国内で現在使用されているOSMSの定義は吉良先生5)によるもので、軽微な脳幹症状の存在を許容し、これ以外の脳症状を呈した場合、OSMSと呼ばず、Conventional MS (CMS)と呼ぶこととなり、OSMSからCMSへ臨床病型が変わった、ということになります。

Mayo ClinicからNMO-IgGが報告され6)、その対応抗原としてアクアポリン4が同定されました7)。このとき、NMO-IgGはOSMSの日本人例でも見いだされ、NMOとOSMSは同一であるとされました6)。このとき測定した検体は、1999年のNMO診断基準に合致する特殊な日本人OSMS例で、国内で定義される一般的なOSMS例ではなかった(藤原一男、私信)ことが注目されます。  

抗アクアポリン4抗体8)がNMOの疾患マーカーとして注目され、臨床病型により病態が異なる可能性が指摘されるに及び、「従来の、脳病変のあるMSはCMS、ないMSはOSMSといった単純な分類は改められなければならない」9)状況になって参りました。

現在の日本の定義では、欧米の通常のMSと比較する場合、CMSから脳病変を呈したLCL-MSを除外しなければなりません。これは論文を比較する上で障害ともなります。事実、NMOではインターフェロンβ(IFNβ)の効果はMSのようには期待できないが、日本人OSMSでは効果が報告されていると理解されています10)。日本人を対象としたIFNβ1bの治療効果を報告した齋田論文11)でのOSMSの定義は吉良の定義とも異なり、臨床的に視神経と脊髄に限局した患者のみ限定しており、脳症状を呈した患者はclassic MSに含まれています。それゆえ、OSMSの中には後述する経過良好な一群が含まれ、classic MSには予後不良なLCL-MS/NMOが含まれており、治療効果に影響している可能性があり得ます。  

従来、日本のMS研究は、欧米のMSと同じ疾患が国内にも存在することを強調し、その対比として、アジア特有の病型としてOSMSを位置づけ、OSMSと欧米のMSとは連続性のある一つの疾患のspectrumとして理解しようとしてきました。脳病変を有するOSMSが欧米のMSとの架け橋として期待されていたようにも思われますが、これら2疾患を両極とする一つの疾患スペクトラムで説明できるかどうかは未だに不明確で、LCL-MS/NMOでの脳MRIの特徴的所見から、むしろ異なる病態である可能性が高いように思われます。このことは、IFNβといった免疫調整剤を第1選択とするMSと自己抗体や自己免疫疾患の合併頻度が高く、免疫抑制剤の使用をより積極的に考える必要のあるLCL-MS/NMOとで、治療のアルゴリズムを確立する上でも重要と思われます。  

LCLがなく、抗アクアポリン4抗体も見いだされず、5年以上視神経と脊髄に症状が限局し、障害の軽度なOSMSの患者さんたちを私たちは見い出しました12)。これはすでに2003年の全国調査で増加していることが知られていた、軽症のOSMS(LCLも抗体も不明ですが)と同じ可能性が高く13)、OSMSには予後良好な一群があって、その病態はMSに近いという最近の報告14)とも一致しています。つまり、OSMSにはLCLあるいは抗アクアポリン4抗体の有無で2種類が存在していることが判ります。視神経や脊髄での壊死性病変を特徴とするLCL-MS/NMOは、LCLあるいは抗アクアポリン4抗体の有無による病態別分類の必要性を示唆しており、OSMSという病変部位による疾患概念にも病態別分類の加味の必要性を迫っているのが現状です。  

患者さんの病像が日本と欧米とでそれほど異なるとは思えませんから、逆に欧米での単純な分類に違和感を感じます。私たちが分類や診断名に苦労している患者さんたちをどこに位置づけているのでしょうか?欧米誌に投稿する際に、NMOとOSMS周辺の疾患を論ずる場合、名称に苦慮しているのが現実です。classic MSに類似したOSMSの存在は、一層混乱させる可能性があり、この領域での適切な名称と分類が是非とも必要と思われます。

文 献

  1. Cree BAC, Goodin DS, Hauser SL. Neuromyelitis optica. Semin Neurol 2002;22:105-22.
  2. Wingerchuk DM, Lennon VA, Pittock SJ, et al. Revised diagnostic criteria for neuromyelitis optica. Neurology 2006;66:1485-9.
  3. Wingerchuk DM, Hogancamp WF, O’Brien PC, et al. The clinical course of neuromyelitis optica (Devic’s syndrome). Neurology 1999;53:1107-14.
  4. 小森美香、田中正美、佐々木智子、ほか. 3椎体以上の長い脊髄病変を有する多発性硬化症の臨床的特徴。神経免疫学 2006;14:45.
  5. Kira J, KanaiT, Nishimura Y, et al. Western versus Asian types of multiple sclerosis: immunogenetically and clinically distinct disorders. Ann Neurol 1996;40:569-74.
  6. Lennon VA, Wingerchuk DM, Kryzer TJ, et al. A serum autoantibody marker of neuromyelitis optica: distinction from multiple sclerosis. Lancet 2004;364:2106-12.
  7. Lennon VA, kryzer TJ, Pittock SJ, et al. IgG marker of optic-spinal multiple sclerosis binds to the aquaporin-4 water channel. J Exp Med 2005;202:473-7.
  8. Tanaka K, Tani T, Tanaka M, , et al. Anti-aquaporin 4 antibody in Japanese opticospinal multiple sclerosis. Mult Scler in press.
  9. 中島一郎、藤原一男、宮沢イザベルら. 神経内科 2006;65: 377-81.
  10. Wingerchuk DM. Neuromyelitis optica. Adv Neurol 2006;98: 319-333.
  11. Saida T, Tashiro K, Itoyama Y, et al. Interferon Beta-1b Multiple Sclerosis Study Group of Japan. Interferon beta-1b is effective in Japanese RRMS patients: a randomized, multicenter study. Neurology 2005;64:621-30.
  12. Tanaka M, Tanaka K, Komori M, et al. Anti-aquaporin4 antibody in Japanese multiple sclerosis: The presence of optic-spinal multiple sclerosis without long spinal cord lesions and anti-aquaporin4 antibody. . J Neurol Neurosurg Psychiatry in press.
  13. 吉良潤一. 多発性硬化症:日本における最近の動向. 医事新報,2006;4301:53-59.
  14. Nakashima I, Fukazawa T, Ota K, et al. Two subtypes of optic-spinal form of multiple sclerosis in Japan: clinical and laboratory features. J Neurol in press.