38.MSBoston 2014- European Committee for treatment and Research
   in Multiple Sclerosis: (ECTRIMS)拡大会議-報告

田中正美
神経内科 2014;81:698.に掲載されました。

毎年1000演題を集めて欧州で多発性硬化症(MS)の学会(ECTRIMS)が開催されていますが、3年ごとに欧州と南北アメリカ(ACTRIMSとLACTRIMS)合同会議が、今回は米国ボストンでMSBoston2014と題して、2014年9月10-13日に開催されました。合同大会は次第に参加者が増加し、今回は事前登録だけで9000名に達し、巨大な学術集会に成長しました。  

MS患者さんたちが交代で大西洋をブラジルまでヨット往復する”Oceans of Hope”というイベントが進行中で、6月15日にCopenhagenを出発した一行は9月8日にボストンに到着し、Opening Ceremonyでハーバード大のWeiner教授から紹介され、4000名の参加者からstanding ovationで迎えられました。  

MS患者の腸内細菌叢が変化していて免疫制御細胞の機能に影響している可能性を示唆する演題がいくつかありました。すでに、治療の試みもされていて1)、患者は家族や友人からドナーを選び、便から細菌を分離してチューブで投与されます。もちろん、殺菌はされませんので腸液内にHIVなどのウイルスが存在していれば一緒に入ります。一度、-80℃に凍結すると臭いが軽くなるんだそうです。  

グリア細胞に発現しているKIR4.1(ATP感受性内向き整流カリウムチャネル)に対する抗体がMS患者血清中の約50%で見出されるという衝撃的な報告がありましたが、追試が相次いで不成功に終わっています。Srivastavaは糖鎖の影響があることを今年の米国神経学会で質問に答えていました2)。今回の学会で、ヒト大脳のアストログリアのKIR4.1はオリゴデンドロサイトより糖鎖が長いだけ分子量が大きく、HEK293細胞にKIR4.1を発現した場合も糖鎖が長いことを指摘し、MS患者IgGが結合するのはオリゴだけであることを示しました。これは自己抗原のposttranslationalな修飾がエピトープに影響する初めての例だそうです。細胞表面抗原に対するポリクローナル抗体なので、抗アクアポリン4抗体と同様に中枢神経に流入した補体によるオリゴへの細胞傷害を呈する可能性があり、注目されます。

文 献

  1. Smits LP, Bouter KE, de Vos WM, Borody TJ, Nieuwdorp M. Therapeutic potential of fecal microbiota transplantation. Gastroenterology 2013;145:946-53.
  2. Tanaka M, Kinoshita M. Congress report of the 2014 American Academy of Neurology annual meeting. Clin Exp Neuroimmunol in press.