34.視神経脊髄炎(NMO)「NMOの経過」

バナナチップス79号24-26頁(2012年3月30日発行) 田中正美

診断で重要なのは脊髄MRI所見と抗アクアポリン4抗体

NMOは視神経と脊髄が障害され、症状がひどく出ている時のMRIで、3椎体以上に連続する脊髄中央部の病変が出現するか、血清中に抗アクアポリン4抗体が認められます。脊髄MRIの病変は経過の途中で消えることもあります。  

診断基準としてはこのほかに「病初期には脳MRIでMS的な病変が認められない」という条件が要求されます。しかし、脊髄MRI所見や抗アクアポリン4抗体のいずれかが存在すればNMOの診断基準はほぼ満足されるので、脳MRIの所見は無視してもほとんど大きな問題となることはありません。

測定法によって抗体が偽陰性に

むしろ診断上の問題は抗アクアポリン4抗体の測定法です。ELISAによる抗体測定は本来は感度が高いのですが、抗アクアポリン4抗体の測定においては抗原の特殊性から偽陰性になることがあります。このことは業者も認めており、私たちも証明しています。ですからELISAで抗体が陰性であってもNMOを否定できないことに留意すべきでしょう。  

MSに対して国内で去年末、フィンゴリモド塩酸塩(イムセラ_、ジレニア_)が発売されましたが、この薬はNMOには禁忌です。このことからも、NMOの診断は大変重要といえます。

NMOの二次性の進行は稀

さて、NMOの臨床経過ですが、適切な治療がおこなわれていなかった時代は、発症から5年以内に、視神経炎による失明や脊髄炎による歩行不能に陥ることが少なくありませんでした。また、これらの重篤な症状から発症することもあります。失明後に抗体が陽性だったことが判明することもあります。  

欧米のMS患者さんの大半は再発寛解型(RRMS)で発症し、その半数は後に二次性進行型(SPMS)へ移行するといわれています。日本人での報告はありませんが、主要な研究者は、日本人ではSPMSは少ないと感じています。  

ではNMOではどうでしょうか?米国メイヨー・クリニックも報告していますが、宇多野病院でも、NMOは二次性に進行することはきわめて稀であることを報告しています。

NMOの再発頻度は高く、重篤

MSに比してNMOは再発頻度が高く、再発時の症状が重篤であること、脊髄液では細胞数が多いこと、ステロイドパルスが効きにくく重篤な後遺症が認められ、半数ほどで早期の血漿交換療法が効果がある、といった特徴があります。  

延髄病変による吐気や難治性の吃逆 (しゃっくり)が出現することがあります。延髄は呼吸中枢が近くにあり、場合によっては呼吸が停止して死亡する危険性があります。早期に発見できたとしても、人工呼吸器装着が必要になることもあります。

小児NMOは稀。多くは視神経炎で発症する

私たちは抗アクアポリン4抗体の測定を依頼されており、抗体が陽性だった583人の詳細を調べ、報告しています。  
このうち小児NMOをみてみると、小児期に発症したのは、583人中わずか9人でした。全員、視神経炎で発症しています。小児発症についてはフランスからも12人を解析した報告がありますが、7人が視神経炎で発症し、発症時から脳MRIで病変が多く、重篤な脊髄炎が少ないためか、下肢機能障害に関しては成人より予後が良いとされています。  
また発症から数年間、脳に病変が限局する「脳型NMO」とも呼ぶべき患者さんが存在し、日本人でも20/583人で認められています、しかし多数例を対象とした報告はなく、長期的な経過は不明です。

NMOの再発予防はステロイド・免疫抑制剤

NMOの再発予防はステロイドの持続内服が主体で、これにアザチオプリンなどの免疫抑制剤を併用します。これらの治療により多くの再発は予防できますが、これらでも抑制できなかったりステロイドを減量できないほど活動性が高い場合、ミトキサントロン(ノバントロン_)やリツキシマブ(リツキサン_)を使用することもあります。

NMOの経過は以前と全く違う

こういった治療により、NMOの治療環境が劇的に改善され、再発しても軽症で、ステロイドパルスにも反応することもあります。最近では診断レベルが向上したためか、軽症のNMO患者さんが早期に発見され、予防治療されるようになってきました。現在は、前述の「きちんと治療されていなかった時代の自然経過」とは全く異なっていて、再発する患者さんのほとんどはMS、という時代です!