26.NMO/NMO spectrum disorders日本人患者における水平性半盲
   Altitudinal hemianopsia in Japanese patients
      with NMO or NMO spectrum disorders.

朴 貴瑛*、田原将行*、田中恵子**、田中正美*
*NHO宇多野病院 多発性硬化症センター [〒616-8255 京都市右京区鳴滝音戸山8] **金沢医科大学 神経内科
神経内科 2013;78:118-21に掲載されました。

血中の抗アクアポリン(AQP)4抗体が陽性で、脊髄MRIでの中心管周囲に存在する3椎体以上に連続する脊髄病変(centrally-located long spinal cord lesion: LCL)を特徴とする視神経脊髄炎(neuromyelitis optica: NMO)は壊死性病変を特徴とするため、重篤な後遺症を呈しうる1)。われわれは、NMOの視神経障害は多発性硬化症(multiple sclerosis: MS)に比して失明する危険性が高いことを示した2)。視野障害に関しては、両耳側半盲や水平性半盲がNMOの特徴として報告されている3)。今回、NMO spectrum disorders (NMOsp)も含めたNMO多数例について視野障害の頻度を検討したので報告する。

対象と方法

対象は2011年1月から12月までに当院を受診し、以下の基準を満足する患者を診療録から選んで検討した。  

NMOの診断基準はWingerchukら4)を用いた。NMO spectrum disordersは2012年に施行された全国調査にならい、NMOの診断基準を満たさない患者で、
1). 再発性あるいは両側同時に発症した視神経炎
2). LCLを呈した急性脊髄炎
3). 1)および2)以外で抗AQP4抗体陽性例を対象とした。  
抗AQP4抗体の測定はcell-based assayにより既報のように行った5)。  
対象はNMO27例、NMOsp21例で、男性7例(うち1例はNMO)、女性41例(うちNMOは26例)である。年齢はNMOは21から75歳で48.1±13.3(平均値±標準偏差値、中間値46)、NMOspは22から74歳で50.7±15.2(52)であった。罹病期間はそれぞれ1から48年(15.3±12.2)(11.5)と1から8年(3.8±1.9)(4)であった。抗AQP4抗体はNMOで25/27例(92.5%)、NMOspでは14/21例(66.6%)で認められ、LCLは23/26例(88.5%)と14/16例(87.5%)で認められた。NMO 1例とNMOsp 5例ではMRI上で脊髄病変が認められなかった。LCLを有するNMOのうち抗AQP4抗体陽性例は21/23例(91.3%)であった。等電点電気泳動で測定した脳脊髄液中のオリゴクローナルバンド6)はそれぞれ3/27例(11.1%)と4/21例(19.0%)で認められた。

結 果

初発症状として視力低下が認められたのはNMOで11例(40.7%)、NMOspでは4例(19.0%)であり、経過中に同時ではないが両眼とも視力低下が認められたのはそれぞれ16例(59.3%)と1例(4.8%)であった。重度視力低下を呈したのは、失明患者がNMOでは4/24例(16.7%)、NMOspでは2/21例(9.5%)で、光覚弁がそれぞれ1例であった。  

経過中、水平性半盲は、NMOで6例(22.2%)7眼、NMOspで1例(4.8%)に認められ、全例一側のみで両側同時に認められた患者はいなかった。NMOの1例では左右それぞれ別の時期に認められた。右に出現したのが6眼、左が2眼で、上半分の視野障害が6例7眼で下が1眼(NMO)であった。経過が記録されていた7例中6例で、水平性半盲に対するパルスによる治療効果は良好で、いずれも改善が認められ、血漿浄化療法を必要とする患者はいなかった。1例はパルス治療をせずに改善した。しかし、2例はその後の再発や進行により同眼の失明や指数弁に陥った。  

両耳側半盲はNMO、NMOspに各1例認められた(表1)。NMOの1例では両耳側半盲と右上水平性半盲を呈した。NMOの2例では両側同時に光覚を失うほどの重篤な視力低下をきたした。視交叉に病変を呈したと考えられる症例は合計4例で、NMO 3例(11.1%)、NMOsp 1例(4.8%)であった。

考 察

以前、LCLを有するMS(NMOを含む)患者での抗AQP4抗体陽性率は25/45例(55.6%)であったことを報告した2)。その後、ステロイド依存性MSを呈した重症例は8/9例でLCLがあり、抗AQP4抗体は4/6例で陽性であったが7)、その多くは死亡した8)。抗体陽性の重症例のほとんどが死亡あるいは転院し、対象患者は今回とは大幅に異なる。今回、LCL陽性NMOで抗AQP4抗体が21/23例(91.3%)と高率に陽性であった理由は不明である。対象患者の定義は同一であり、測定法および測定者は同一で、近年、NMO患者の免疫学的背景が変化しているか否かは今後の検討課題である。  
NMO/NMOspのうち光覚弁以下の視力低下を呈した患者が8/48例(16.7%)もいたことは、重篤な病変が視神経に出現していることを示唆しており、改めて早期診断、早期治療の重要性を痛感する。  

中尾らは28例の抗AQP4抗体陽性視神経炎を解析し、両耳側半盲が6例(21.4%)に水平性半盲が4例(14.3%)で認められ、抗AQP4抗体陰性視神経炎46例ではこれらは全く認められず、視野異常としては中心暗点のみであったと報告し、両耳側半盲と水平性半盲がNMOの特徴であると強調した3)。今回のシリーズでは中尾らのシリーズに比して両耳側半盲の割合が少なかったが水平性半盲はより多く認められた。水平性半盲の頻度がNMOとNMOspとで異なったが、罹病期間の違いによる可能性が考えられる。上方からの圧迫により視交叉病変で両側下水平性半盲を呈しうることが報告されている9)。視神経は視交叉に近づくと鼻側回旋し、視交叉の上部には左右の網膜上方からの繊維が走っているので、視交叉の上部に炎症性病変が生じると両側下水平性半盲を呈する可能性はあり得る。しかし、視交叉炎によると思われる両耳側半盲が自験例では2例に認められたものの、両側水平性半盲を呈した患者はいなかった。NMO/NMOspで視交叉炎を呈した場合、視交叉中心部が障害されて両耳側半盲をきたすことはあっても、両側水平性半盲を呈しにくいのかもしれない。  

水平性半盲は頭部外傷のほか、網膜中心動脈の一部の閉塞、眼動脈動脈瘤などの血管病変、大出血後の低酸素血症、脳炎やクモ膜炎などの炎症性病変、脳腫瘍が原因で出現するとされる9)。一側性水平性半盲の原因病巣の部位としては、視神経内部であれば一側の半分を占めることとなるが、炎症がちょうど半分に留まる理由は考えにくく、中尾らは視神経病変が血管に影響して循環障害を起こし、結果として網膜の上下のうちの半分が虚血に陥るためではないか、と考察した3)。自験例でも、NMO/NMOspでの視力障害は一般に重篤なことが多いが、水平性半盲を呈した場合、ステロイドパルスの効果が良好であることが多かったことは、半盲をきたした病変は視神経内での壊死性病変によるのではなく、浮腫などで圧迫されたことによる可逆性の循環障害による可能性が示唆された。また、外傷や側頭動脈炎、大出血後の低酸素症、視交叉での上方からの脳腫瘍による圧迫が原因で水平性半盲を呈する場合は下水平性が多い9)が、今回の自験NMO/NMOspでは、7例中6例7眼が上水平性半盲を呈した。虚血性病変による半盲と考えられる、側頭動脈炎とは障害される血管が異なる理由、たとえば網膜の上下に分布する血管に影響する循環障害が、血管内部の病変と血管外部からの圧迫性病変とで循環障害の起こしやすさの違いなどが存在するのかもしれない。MSおよびNMO視神経炎での脳MRIでは、NMOではMSに比して視交叉を含む視神経のより後方に造影病変が認められるという報告がある10)。この報告によれば、NMO病変は網膜から遠いことになり、水平性半盲を呈する場合は網膜に近い異なった病変部位なのかもしれない。今回の自験例での視野障害に関するデータは病歴上の所見であり、脳MRI所見との対応はできなかった。NMO自身の病変形成に血管が関与しているとは考えにくく、水平性半盲は説明の難しい症候であり、発症機序など今後の研究を期待したい。

結 語

NMO/NMOsp 48例の水平性半盲と両耳側半盲の頻度について検討し、水平性半盲の機序について考察した。

本研究は、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「免疫性神経疾患に関する調査研究」班(主任研究者:楠 進近畿大学神経内科教授)の助成を受けた。
* 本論文に関連して、開示するべきCOI状態にある企業、組織、団体はいずれもありません。

文 献

  1. Morrow MJ, Wingerchuk D. Neuromyelitis optica. J Neuro-Ophthalmol 2012 ; 32 : 154-66.
  2. Tanaka M, Tanaka K, Komori M, et al. Anti-aquaporin4 antibody in Japanese multiple sclerosis: The presence of optic-spinal multiple sclerosis without long spinal cord lesions and anti-aquaporin4 antibody. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2007 ; 78 : 990-2.
  3. 中尾雄三、山本 肇、有村英子、ほか. 抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の臨床的特徴. 神眼 2008 ; 25 : 327-42.
  4. Wingerchuk DM, Lennon VA, Pittock SJ, et al. Revised diagnostic criteria for neuromyelitis optica. Neurology 2006 ; 66 : 1485-9.
  5. Tanaka K, Tani T, Tanaka M, , et al. Anti-aquaporin 4 antibody in Japanese opticospinal multiple sclerosis. Mult Scler 2007 ; 13 : 850-5.
  6. 大封昌子、木下真幸子、田中恵子、ほか. 多発性硬化症・視神経脊髄炎日本人患者での脳脊髄液オリゴクローナルバンドの解析。神経内科 
  7. 田中正美、岡本(佐々木)智子、小森美華、ほか. ステロイド依存性多発性硬化症とは何か?神経内科, 2010;72:646.
  8. 田中正美、高坂雅之、田原将行、ほか. 日本人多発性硬化症・視神経脊髄炎患者の死因。神経内科 2011;74:604-6.
  9. 鬼頭健一、清水 隆、別府俊男、ほか. 両側下水平半盲を呈した、ectopic pinealomaの1例. 脳神経外科 1974 ; 2 : 253-8.
  10. Khanna S, Sharma A, Huecker J, et al. Magnetic resonance imaging of optic neuritis in patients with neuromyelitis optica versus multiple sclerosis. J Neuro-Ophthalmol 2012 ; 32 : 216-20.