25.NMO spectrumについて  NMO spectrum disorders

田中正美
神経内科2012;76:531-6.に掲載されました。

はじめに

1870年に3ヶ月後に視神経病変を伴った脊髄炎として初めて記載された後、いくつかの症例報告があって、1894年にDevicとGaultによりまとめられ、20世紀に入ってNeuromyelitis optica(NMO)として視神経炎と脊髄炎の単なる組み合わせではなく、疾患概念として記載されるようになった1)。わが国ではDevic病として理解されており、Shibasakiらの「単峰性の経過で、急性両側性の視神経炎による視力障害と横断性脊髄炎の合併が4週以内に認められる」という定義2)が代表的である。この厳格な定義に基づき、ほぼ同時に視神経炎と脊髄炎が発症し、再発しない例は国内でもきわめて稀で、30年近い期間で1000名を超える多発性硬化症(MS)/NMO患者を診療してきた当院でも1名のみである。その後、「4週以内」という時間の制約が外され、1999年のWingerchukらの最初の診断基準3)でも時間の制約が外れることは踏襲された。  

傍腫瘍性神経症候群での抗神経抗体をスクリーニングする過程で、Mayo ClinicのLennonらは、マウスの中枢神経組織の軟膜、Virchow-Robin腔、小血管壁に沿って染色するIgG抗体をNMO患者血清(NMO-IgG)に免疫組織学的方法により見出した4)。翌年、染色パターンとアクアポリン(AQP)4の分布が一致していることから、NMO IgGの対応抗原はAQP4であることが示された5)。しかし、この時、NMOが周知されてはいなかったためか、報告の題名が”optic-spinal MS”であったために、概念の混乱を招いたことは否めない。  

わが国では長く視神経脊髄型(optic spinal)MSという言葉が使用されてきた。これは視神経と脊髄が障害される重症型で、脳脊髄液では細胞増多が認められる病型とされてきたが、定義上は視神経炎と脊髄炎から構成されるsymptom complexであった6)。Kiraらは、視神経炎と脊髄炎の他に軽度の脳幹障害も伴う一群を疾患単位として”optico-spinal MS”と呼んで、従来のoptic-spinal MSと区別した7)。しかし、いずれも略語がOSMSであるために前述したLennonや後述するNMO spectrum (NMOsp)を提唱したWingerchukらのように誤解を招く結果となってしまったが、Kiraらが意図したのは今日のNMOをイメージしていたものと考えられる。KiraらのOSMSもNMOも意味は同じである上、視神経と脊髄以外は傷害されないわけではないことを考慮すると、より適切な名称が望ましいと思われる。一部の研究者はアストロサイトパチー8)、9)やアクアポリノパチー10)という名称を用いているが、両者とも抗AQP4抗体が陰性の場合でも適切と言って良いか、今後の課題であろう。  

AQP4はアストロサイトの足突起に発現しており、病理学的にはNMOの病変部位ではAQP4が脱落していること11)、12)、急性期の脳脊髄液ではglial fibrillary acidic proteinが増加しており13)、ステロイドパルスにより急速に正常化することからアストロサイトの傷害が示唆された14)。さらに、抗AQP4抗体の受身免疫により動物に病変を作製できる15)~17)ことから、NMOではAQP4が標的分子であると考えられている。重症筋無力症やLambert-Eaton myasthenic syndromeのように、抗体を単に動物に投与しただけではNMOの病変を形成できず、動物実験では血液脳幹門(blood brain barrier: BBB)を傷害する必要がある。発症前に抗体が見出された、という報告もある18)ことから、ヒトでも血中に抗体が存在しただけでは発症しないことが示唆される。BBBを傷害するヘルパー型(CD4陽性)T細胞の関与が想定される。ゆえに、ステロイド治療で抗体が陰性にならなくても再発を予防することは可能である。実際、高力価の高AQP4抗体の場合、ステロイドにより再発を完全に予防できていても、抗体が陰性化するまでは場合によっては年単位の時間を要する。

NMOとNMO spectrumの概念

さまざまな疾患で視神経と脊髄の両者が障害される(表1) 1)。NMOやNMOspを診断するに当たっては、これらの疾患を除外する必要がある。抗AQP4抗体の疾患特異性は高いので、陽性の場合は問題はないが、陰性の場合はこれらの内科的疾患の存在を考慮する必要がある。  

今日、NMOはWingerchukらが2006年に提唱した診断基準(表2) 19)が一般に用いられている。病初期に脳MRIでPatyの診断基準(1988) 20)を満足する多発性硬化症類似の病変が出現することは稀(未発表)である。齋田らは、抗AQP4抗体あるいは脊髄MRIでのT2強調画像で連続する3椎体以上の病変 (centrally-located long spinal cord lesion: LCL)を有する、日本人NMO患者自験141例中11%で発症時にPatyの診断基準を満足する脳MRI病変があったという21)。実質的にはLCLあるいはNMO IgG/抗アクアポリン4抗体が血清中に存在する場合に、ほぼNMOと呼んで差し支えないと思われる。NMOの診断にはこの両者のいずれかが存在することが必要であるが、いずれも消失することもあることに留意する必要がある。また、LCLはAQP4が分布している脊髄中心管周囲に認められ、連続する3椎体以上の長さに渡った病変として、特に横断性脊髄炎の極期に認められる。NMOのLCLによく似たMRI所見はさまざまな疾患で報告があり(表3) 22)、視神経炎の既往や脊髄障害の経過などの病歴や検査所見が鑑別上重要である。  

NMOspは抗AQP4抗体が出現しうる疾患として、NMOと同じ病態としてWingerchukらにより提案された(表4) 23)。LCLを伴う横断性脊髄炎の60%が抗AQP4抗体陽性で、再発性視神経炎の25%が抗体陽性だが、単峰性視神経炎では稀にしか抗体は陽性にはならない24)。  

1回のエピソードしかないLCLを有する横断性脊髄炎患者29例中37.9%が抗AQP4抗体陽性で、1年間経過観察できた23例のうち、抗体陰性の14例では再発や視神経炎を呈した患者はいなかったが、9例の抗体陽性者では5例が再発し、4例が横断性脊髄炎を再発した、という報告がある。このように抗体陽性患者の40%で1年以内の再発リスクが高いことが示されている25)。  

視神経炎や脊髄炎の一方のみ、あるいはCerebral NMOのように両者とも認められない場合がある。NMOと同様に、抗AQP4抗体が陰性でもNMO と同じ病態である可能性は否定できない。  

NMOで認められる症状やMRIなどの検査所見の特徴を表513)、14)、23)、24)にまとめた。これらの特徴的な症状や検査所見を見た場合、NMOやNMOspの可能性に留意するべきである。これらの特徴の一部がありながら抗AQP4抗体が陰性の場合、再発予防の治療をどうするか、実地診療では悩ましい。

抗AQP4抗体測定上の問題(ELISA, 陰性例の取り扱い)

抗AQP4抗体が陰性であっても、NMOやNMOspは否定できない。本来は陽性のはずでも陰性の場合に最も可能性が高いのは抗体価が低い場合で26)、測定法の感度のほか、治療による陰性化で陽性の時点での測定の機会を逃してしまった場合、当初は陰性だったが後に陽転する27)可能性などが考えられる。  

T細胞はCD4陽性細胞でもCD8陽性細胞であっても、反応する蛋白と血中に可溶化された状態で反応するわけではない。抗原蛋白は抗原提示細胞にいったん取り込まれ、ペプチドに分解された後に、MHCあるいはHLA分子に組み込まれて細胞表面に発現した状態でT細胞に認識される。ところが、抗体は分解されていない、native moleculeに反応するので、AQP4のような大きな蛋白では認識部位は三次元構造に依存する。AQP4を細かく分解したペプチドとは反応しない(未発表)。それゆえ、さまざまな抗体測定法が考案されているが、測定法自体の感度が低い、などの問題は起こりうる。Enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)は大量に検体を処理できるし、定量的に解析できるので比較する上では有益である。しかし、現在、国内で測定できるELISAでは標準的な抗AQP4抗体測定法である組織を用いた蛍光抗体法に比して、false positiveが14.7%あることも問題だが、false negativeが16.7%存在する(http://www.cosmic-jpn.co.jp/info/aqp4ab_20091028-1.pdf)ことは治療方針を立てるに当たってNMOやNMOspを除外したい場合は看過できない割合である。われわれも同プレートを入手してヒトAQP4遺伝子を発現させた細胞を用いた、cell-based assay28)で検討したところ、やはりfalse negativeが15%存在する29)ことを経験している。

ま と め

NMOではインターフェロンβ1aや1bは効果がないし30)、fingolimod31)、32)やnatlizumab33)、34)は禁忌と考えられるので、これらの薬剤を投与する際にはNMOの鑑別がきわめて重要である。抗AQP4抗体が陰性であってもNMOやNMOspを完全には除外できないので、投与する場合は注意が必要である。効果がなかったり、再発するようなら、抗AQP4抗体を再検するべきであるし、場合によっては中止するべきであろう。

本総説は、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「免疫性神経疾患に関する調査研究」班(主任研究者:楠 進近畿大学神経内科教授)の助成を受けた。

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