23.多発性硬化症へのフィンゴリモド治療-補遺-
  Fingolimod in patients with multiple sclerosis- additional comments.

田中正美
神経内科 2012;77:444.に掲載されました。

本誌で多発性硬化症に対するfingolimod治療の適応1)と使用法の工夫2)を紹介しましたが、誤解があるようですので追記したいと存じます。  

週に投与する回数を2-6回に減らすfingolimod投与法の工夫の提案は、ステロイドの隔日療法とは目的が異なります。市販後、リンパ球数低下のために中止せざるを得ない患者さんが報告されています。従来のインターフェロン(IFN)βに比してfingolimodは明らかに再発予防効果がありますので、リンパ球数減少のために治療を中止することは大変残念です。筆者が提案した休薬法は、あくまでもリンパ球数が200以下に低下することで薬剤を中止することを避けることが目的で、副作用軽減が目的ではありません。リンパ球数がそれほど低下していないのに薬剤を減量したら、効果を失ってしまう危険性があります。薬剤を減量する場合はリンパ球数を200-400程度にコントロールすることを目標にしています。  

すでにリンパ球数が減少しているにもかかわらず、本剤治療開始直後に再発してしまい、本剤が効かないのではないかと治療を中止してしまうことはありません。実は投与後、いつ治療効果が発揮されるのかについて国内外での臨床治験ではデータがありませんでした。最近、齋田から自験例を元にした1回の脳MRI当たりの平均造影病変数の経時的変化が公表されました3)。投与3ヶ月以内に造影病変数は1/5以下にまで減少しますが、6ヶ月以降はさらにその1/2以下になることが示されました。再発数もそれに相関するそうです。末梢血中のリンパ球数が減少しても、すでに中枢神経内に侵入したリンパ球数を減少することはできません。これらのリンパ球が中枢神経から消失するまでに6ヶ月間を要するとも言えましょう。治療を開始したら、6ヶ月間は辛抱する必要があると考えられます。  

最後に、すでに提案した適応条件に一つ追加したいと存じます。実際の医療でよくあることですが、有害事象などでIFNβ継続が困難になった場合も適応になると考えられます。
fingolimod治療が安全に適切に拡大してゆくことを祈念しております。

本研究は、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「免疫性神経疾患に関する調査研究」班(主任研究者:楠 進近畿大学神経内科教授)の助成を受けた。

文 献

  1. 田中正美、越智香保. 多発性硬化症へのfingolimodの適応条件. 神経内科 2011 ; 75 : 304.
  2. 田中正美、朴 貴瑛、本山りえ、ほか. 多発性硬化症へのフィンゴリモド治療-どのように使用するか?- 神経内科 2012 ; 76 :
    390-7.
  3. 糸山泰人,越智博文,齋田孝彦ほか.多発性硬化症の新しい治療薬フィンゴリモドについてーエキスパートによる処方経験を中心にー.Pharma Medica 2012 ; 30 : 116-24.