2.視神経脊髄型多発性硬化症における胸髄病変のMRIによる高位診断

田中正美
神経内科, 65:98-9, 2006.  

視神経脊髄型多発性硬化症(opticospinal multiple sclerosis: OSMS)は、以前から日本をはじめとするアジアに多い病型として注目されて参りましたが1)、Poserに代わり、MRI所見を重視し、早期診断を目的とした、新しいMSの診断基準として提唱されたMcDonaldの基準2)では診断できないとして我が国の多くのMS研究者から批判が出ました3)。特に、3椎体以上に及ぶ長い脊髄病変(LCL)はMSを否定する項目として、批判されました。欧米では、OSMSに類似した所見を呈するNeuromyelitis optica (NMO)が存在し4)、その中核像は重症のOSMSとほぼ同一と考えられますが、NMOの診断基準が変化しておりその概念は混乱しています。

最近、NMO患者血清中に抗アクアポリン-4抗体が見いだされ、本邦のOSMS例でも陽性となることが示されています5)。新潟大学の田中恵子は当院との共同研究で、アクアポリン-4遺伝子全長を発現させたトランスフェクタント細胞を標的とした蛍光抗体法で抗体を測定する方法を、Mayo Clinicに次いで世界で2番目に確立し、LCL MS患者26例中16例に抗体を見い出しました6)。また、OSMS/NMO患者で、従来、存在しないとされていた脳病変を呈する患者が少なくないことが示され7), 8)、一躍OSMS/NMO研究がMS研究のホットな領域となりました。

2004年に施行された全国調査で、LCL病変は頚髄から胸髄までびまん性に存在するけれども、造影病変は上位胸髄に多いことが示されて、脱髄病変が上位胸髄に多く発症する9)ことが判りました。ところが、MRIで胸髄のみを撮影しますと、その位置を正確に判断することができず、頚髄から同時に長い領域を撮影しないと、高位診断ができません。これでは撮影に時間がかかってしまいますし、MRI撮影が混んでいる医療機関では緊急撮影もできません。 そこで、胸髄だけを撮影しても病変部位を正確に判断できないかと考え、胸椎椎体の高さを正確に判断する指標として、大動脈弓の上縁が良いことに気づきました。ただ、この高さは胸椎の前彎に影響するとされ個人差があるため、絶対的な高さの指標とはなりません。一度、頚髄MRIを撮影しておいて大動脈弓の高さを求めておけば、胸椎の前彎が変化しない限り、しばらくは頚髄を撮影しなくとも、胸髄単独の撮影でその患者さんでは胸髄病変のMRI高位診断の指標となります。肺病変などによる変異がなければ、気管分岐部の高さも指標となり得るでしょうが、大動脈弓上縁のほうが高さを同定しやすいように思われます。頚髄や胸髄を頻回に撮影する機会の多いMSでは、このような方法(すでに利用されている医療機関も多いのかもしれませんが)でも利用価値があると考え、ご紹介致します。

文 献

  1. Kira J. Multiple sclerosis in the Japanese population. Lancet Neurol 2003;2:117-27.
  2. Poser CM, Paty DW, Scheinberg L et al. New diagnostic criteria for multiple sclerosis: guidelines for research protocols. Ann Neurol. 1983;13:227-31.
  3. 田中正美、出塚次郎、谷 卓ほか. 多発性硬化症の新しいMcDonald診断基準の曖昧さ。神経内科 2004;60:113-5.
  4. Cree BA, Goodin DS, Hauser SL. Neuromyelitis optica. Sem Neurol 2002;22:105-22.
  5. Lennon VA, Kryzer TJ, Pittock SJ, et al. IgG marker of optic-spinal multiple sclerosis binds to the aquaporin-4 water channel. J Exp Med 2005;202:473-7.
  6. 田中恵子、谷 卓、出塚次郎ほか. 視神経脊髄型多発性硬化症での抗Aquaporin-4抗体の解析。神経免疫学 2006;14:31.
  7. Pittock SJ, Lennon VA, Krecke K, et al. Brain abnormalities in neuromyelitis
    optica. Arch Neurol 2006;63:390-6.
  8. 小森美華、田中正美、佐々木智子ほか. 3椎体以上の長い脊髄病変を有する多発性硬化症の臨床的特徴。神経免疫学 2006;14:45.
  9. 松岡 健、小副川学、村井弘之ほか. 日本人多発性硬化症130例へのMcDonald/Barkhof診断基準の適応とその評価。第47回日本神経学会総会、東京、2006 (口演).