19.視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica)の再発時に やはりステロイドパルスは必要だ
  Intravenous methylprednisolone pulse therapy is necessary for treatment of relapses
   in patients with neuromyelitis optica

田中 正美**
国立病院機構宇多野病院MSセンター
〒616-8255 京都市右京区鳴滝音戸山町8 Tel: 075(461)5121 Fax 075(464)0027
** Masami TANAKA, M.D.: (〒616-8255 京都市右京区鳴滝音戸山町8); Department of Neurology, National Utano Hospital, 8 Ondoyama, Narutaki, Kyoto 616-8255, Japan.
神経内科 2011;74:621に掲載されました。

視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica: NMO)の再発時にステロイドパルス(パルス)を投与しても古典型多発性硬化症(Multiple sclerosis: MS)と異なり、数日のうちに改善することは少なく、むしろほとんど変化しないことを多くの神経内科医は経験していると思います。再発時に施行する治療法の中で、血漿浄化療法(単純血漿交換あるいは吸着療法:アフェレシス)は、2-3回後に改善することは少なくありません。ただ、アフェレシスを行う場合、パルス後に施行しているので単独治療の効果は不明です。なんとなくパルスを行っているけれども、本当に必要なのか、という議論が出てくる可能性があります。  

NMOでは末梢血中に認められる抗アクアポリン4抗体と補体とでアストロサイトを傷害することが病態の本体であると考えられており、受動免疫で動物モデルも作製されています。

Takanoらは、脊髄液中のglial fibrillary acidic protein (GFAP)がアストロサイトの細胞傷害のマーカーとして利用でき、MSでは増加しないが、NMOではミエロパチーの病変の長さとも相関すること、さらに増加したGFAPはパルスで急速に低下して正常化することを報告しました1)。一方、すでにステロイドや免疫抑制剤の内服治療中に再発した場合は症状が軽症のことが多く、時間はかかりますがパルス単独で回復しうることも経験しています。TakanoらのデータはNMOの再発時にパルスは有用であることを示唆していますが、パルスの限定的な効果とパルスによるGFAPの急激な低下はなにを意味しているのでしょうか?Takanoらは触れていませんが、パルスによりアストロサイトの細胞傷害は停止できるけれども、症状の改善に必要な因子を充分に誘導できないか、改善阻害因子が存在し、これを解決するためにアフェレシスが相加的効果を発揮しているのではないかと愚考しております。  

軽症例を除いてパルスが効いているという実感はありませんが、アフェレシス単独では抗体のリバウンドを起こす可能性もあり、パルスでリンパ球機能を抑制した上で必要ならアフェレシスを行うべきで、アフェレシスを単独で行うことは治療上問題があることをTakanoらのデータは示唆していると思います。

本研究は、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「免疫性神経疾患に関する調査研究」班(主任研究者:楠 進・近畿大学神経内科教授)の助成を受けました。

文 献

  1. Takano R, Misu T, Takahashi T, et al. Astrocytic damage is far more severe than demyelination in NMO. A clinical CSF biomarker study. Neurology 2010;75:208-16.