17.多発性硬化症や視神経脊髄炎の再発ではいつ ステロイドパルスを始めるか?
   When to start steroid pulse therapy for acute exacerbation of multiple sclerosis
   or neuromyelitis optica?

田中 正美** 国立病院機構宇多野病院MSセンター
〒616-8255 京都市右京区鳴滝音戸山町8
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** Masami TANAKA, M.D.:
(〒616-8255 京都市右京区鳴滝音戸山町8);
Department of Neurology, National Utano Hospital,
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神経内科 2011;74:537に掲載された。

最近、外来を受診されるようになった患者さんたちから、症状が出現してから24時間経過していなかったので、受診することを控えていた、というお話を伺って驚きました。  

多発性硬化症(MS)の疫学研究では、再発は「24時間あるいは48時間以上持続する、新しい症状あるいは従来から存在している症状が増悪し、(これ以降の条件は、最近、追加されることがあります)これを説明できる神経学的所見の存在を条件としています。これは、痙攣や痒み発作などの発作性症状を除外するための条件です。欧米での薬剤治療試験(治験)でもこの定義が使用されています。24時間の定義が古いですが、最近の治験で48時間をより利用しているわけではありません。全体的に治験に組み込まれる患者の年間再発率は、最近ほど低くなっていて、プラシーボ群も含めて、以前より活動性が低くなっています。不思議なことに、48時間で定義される再発を採り上げている治験の方が、年間再発率がより顕著に低下しています。  

ところで、ベテランの神経内科医には意外に思われるかもしれませんが、医療現場では、この再発の定義を元にした誤解が一部にあるようです。  

国内でのMSを対象とした6治験のうち、以前の国内での治験では、ステロイドパルス開始時期を明記していなかったのですが、最近の治験では治療開始時間を規定するようになっています。再発の持続時間を明記し、ステロイドパルス療法開始の条件としている治験が3つあって、24時間以上経過してからが二つ、48時間以上が一つあります。つまり、これらの治験では、再発してから24時間あるいは48時間以上経過しないと、厳密にはパルスを開始できません。  

治験は薬剤の治療効果を判定する都合上、必ずしも日常診療とは異なりますが(それにしても、このような条件が適切か否かの議論は倫理的にあると思います)、逆に日常診療が妙な影響を受けないようにしなければなりません。特に、視神経脊髄炎(NMO)では壊死性の病変を呈しますから、治療は緊急性を要します。今後、NMOの治験の際に問題になるでしょう。現在の治験はMSが対象ですが、MSでも再発時の治療を待つ理由はありません。MS/NMOの再発は救急医療の対象であり、診断がついたらその日のうちに治療を開始するべき病態であることをあらためて強調したいと存じます。

本研究は、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「免疫性神経疾患に関する調査研究」班(主任研究者:楠 進近畿大学神経内科教授)の助成を受けました。

文 献

  1. Inusah S, Sormani MP, Cofield SS, et al. Assessing changes in relapse rates in multiple sclerosis. Mult Scler 2010;16:1414-1421.