15.多発性硬化症でのインターフェロンβ治療のモニタリングに 中和抗体は有意義か?
   Are neutralizing antibodies to Interferonβ1b
   useful in management of multiple sclerosis?

神経内科,
2010;73:536.
田中 正美**
国立病院機構宇多野病院MSセンター
〒616-8255 京都市右京区鳴滝音戸山町8

** Masami TANAKA, M.D.:
(〒616-8255 京都市右京区鳴滝音戸山町8);
Department of Neurology, National Utano Hospital, 8 Ondoyama, Narutaki, Kyoto 616-8255, Japan.

雑誌掲載時は字数制限のため、引用文献を一部省略していましたが、オリジナルの原稿がこれです。  

欧米では多発性硬化症(MS)のインターフェロン(IFN)β治療での抗IFNβ中和抗体の意義については一定の見解はありません1), 2)。中和抗体と治療効果との間にも逆の意見さえあります3)。最近、 MS研究者の集まりで、 中和抗体が認められたら直ちにIFNβ製剤を変更するべきだという意見が複数出され、対意見が余りありませんでした。 深澤らは日常診療には有用ではなく、治療効果の判定には症状を第一に考えるべきであると述べています4)が、この意見は必ずしも受け入れられてはいないようです。

IFNβ1aとIFNβ1bの間には交叉反応があって、中和抗体も交叉するので薬剤の変更は無意味と言われていますし5)、低力価ですとそのままIFNβ1bを使い続けても抗IFNβ1b中和抗体は消失することもあります1)。本邦例での陽性率は19/130例(15%)(自験例、 未発表)、 7/44例(16%)3)あるいは4/20例(20%)4)で欧米での20-40%7)よりやや低いのかもしれません。 この比較が困難なのは同じcytopathic effect (CPE)法でも測定条件が異なるためと言われます。 この方法は血清の抗ウイルス作用で判定しているので、 血清中に含まれる他の因子やMSでの治療効果を抗ウイルス作用で判定して良いかどうかという問題もあります。

力価のカットオフをどこに設定するかでも一定の意見はありません。自験2例ではIFNβ1bを使い続けていて、 10ヶ月間に743-2120あるいは2年間で206-488と高力価の抗IFNβ1b中和抗体を示しましたが、 再発していません。 中和抗体がモニタリングの指標として有意義であるかどうかは、 測定上の問題が少ないMyxovirus protein A (MxA)のmRNAで判定した上で検討するべきであると思われます。

文 献

  1. Goodin DS, Frohman EM, Hurwitz B, et al. Neutralizing antibodies to interferon beta: assessment of their clinical and radiographic impact: an evidence report. Neurology 2007 ; 68 : 977-84.
  2. Sorensen PS, Deisenhammer F, Duda P, et al. Guidelines on use of anti-IFN-β antibody measurements in multiple sclerosis: report of an EFNS task force on IFN-β antibodies in multiple sclerosis. Eur J Neurol 2005 ; 12 : 817-27.
  3. Reder AT Neutralizing antibodies in multiple sclerosis: a complex impact on interferon responses, magnetic resonance imaging findings and clinical outcomes. Mult Scler 2007 ; 13 : S53-62
  4. 深澤俊行, 宮岸隆司, 宮崎雄生ほか. 多発性硬化症に対するインターフェロンβ療法における中和抗体測定の意義. 神経内科 2005 ; 63 : 83-6.
  5. Khan OA & Dhib-Jalbut SS. Neutralizing antibodies to interferon β-1a and interferon β-1b in MS patients are cross-reactive. Neurology 1998; 51 : 1698-702.
  6. Saida T, Tashiro K, Itoyama Y, et al. Interferon beta-1b is effective in Japanese RRMS patients. A randomized, multicenter study. Neurology 2005; 64 : 621-30.
  7. Rudick RA. Current approaches to the identification and management of breakthrough disease in patients with multiple sclerosis. Lancet Neurol 2009 ; 8 : 545-59.