10.病態に配慮し、病変分布による多発性硬化症とneuromyelitis optica (視神経脊髄炎)の分類の紹介

田中正美
神経内科, 70:330-1, 2009.  

連続する3椎体以上の長さを呈する脊髄中央部の病変と抗アクアポリン4抗体は、それまで混沌としていた視神経脊髄炎(neuromyelitis optica: NMO)の概念を明確化させ、多発性硬化症(MS、日本でいう古典型MS)との違いを鮮明にしたようにも見えます。再発予防治療の相違から、病型分類の重要さが認識されるようになって参りました。 未だに混沌とした部分もありますが1)、多発性硬化症を病態の違いを念頭に置きつつ、病変部位により分類することは重要と思われますのでご紹介いたします。

というのは、病態により第1選択剤が異なってくるためです2)。 以下は2006年のソウルで開催されたMS Workshopで、齋田孝彦宇多野病院長(当時)により提唱された分類3)を一部修正したものです。原版はNMOではなく、LCL-MSという名称を用いていました。NMOでは脳症状を呈することが稀でないため、この名称は適切ではないとの判断で、LCL-MSという名称が用いられました。しかし、LCLが消えてしまったり、LCL検出以前に抗アクアポリン4(AQP4)抗体が出現することもありますので、LCLを有する患者にみに限定することは本来、NMOと同じ概念を想定していましたから適切とは言えないと、筆者は現在では考えています。そこで、ここでは名称に問題があることを考慮はするものの、NMOを用いておきたいと存じます。

再発寛解型多発性硬化症の分類
Classic MS (with brain symptoms and without LCL*)
NMO (anti-AQP4 (+) or LCL/with or without brain symptoms)/NMO spectrum
Optic-spinal MS (OSMS)** without LCL
Spinal MS (more than 5 years disease duration***)
* contiguous long spinal cord lesion extending more than 3 vertebral segments in MRI
** different from optico-spinal MS (OSMS) (Kira) (Saida & Tanaka, 2006改)  

30年以上前は古典的なDevic病とは区別して、Devic型とも呼んでいましたが、一般に、国内でOSMSという場合、視神経炎と脊髄炎に限定した症状を呈する、多発性硬化症の特殊型と理解され、この病型を通常、optic-spinal MSと呼んでいました4), 5)。 しかし、吉良先生は従来の病変部位のみを意味していたoptic-spinal MS (OSMS)ではなく、疾患単位として独立させ、optico-spinal MS (OSMS-Kira) (アジア型)と命名し、西欧白人に多い西欧型、conventional MS (CMS)に対比させました6)。この定義は、視神経と脊髄に加えて、軽度の脳幹症状があっても良いとされました。それゆえ、OSMSとOSMS-Kiraは異なりますし、重篤な脳症状を呈した場合、OSMS-Kiraから除外され、CMSに加わることとなります。NMOとOSMSあるいはOSMS-Kiraは多くは一致しますが、定義が異なる以上、同一ではありません。

ややこしくなっていますが、今日、国内で通常OSMSという場合、吉良先生の定義を意味していますし、アジア地域でも広く使用されるようになっています。 2004年の全国調査で増加していたMSの病型は、古典型と思われるOSMSを呈する軽症型であることは、治療方針を立てる上で、病変分布ではなく病態を考慮するべきであることを示唆しています。

Weinshenkerは以前はNMOとOSMSは同一と主張していました7)が、2008年のPACTRIMSでは違うと講演されました8)。これは日本からのOSMSの中には古典型MSが含まれるという主張9), 10)に配慮したものと考えられます。LCLを伴わないOSMSには将来NMOになりうる患者さんも含まれますが、こういう項目があると病名をつけやすいと思います。 脊髄症状を反復する患者のうち、抗AQP4抗体やLCLがなくとも、将来NMOに進展する可能性はありますし、脳症状を呈し、古典型になることもあり、発病から短期間の間はどちらの病態に進展するか不明なので、発症から5年以上経過した患者のみを特殊型としておくべきでしょう。

文 献

  1. 田中正美、田中恵子. 視神経脊髄型多発性硬化症とneuromyelitis opticaをめぐる混乱の現状。神経内科 2007 ; 67 : 108-9
  2. 田中正美. 多発性硬化症の最近の話題-2008年-。医療 2008 ; 62 : 535-42.
  3. 齋田孝彦、田中正美、小森美華他. 多発性硬化症におけるインターフェロン療法。神経眼科 2007 ; 24 : 28-36.
  4. Fukazawa T, Kikuchi S, sasaki H, et al. Anti-nuclear antibodies and the optic-spinal form of multiple sclerosis. J Neurol 1997 ; 244 : 483-8.
  5. Saida T, Tashiro K, Itoyama Y, et al. Interferon beta-1b is effective in Japanese RRMS patients: a randomized, multicenter study. Neurology 2005 ; 64 : 621-30.
  6. Kira J, Kanai T, Nishimura Y, et al. Western versus Asian types of multiple sclerosis: immunogenetically and clinically distinct disorders. Ann Neurol 1996 ; 40 : 569-74.
  7. Weinshenker BG, Wingerchuk DM. OSMS is NMO, but not MS: proven clinically and pathologically. Lancet Neurol 2006 ; 5 : 110-1.
  8. Weinshenker B. Neuromyelitis optica in western countries. Pan-Asian Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis 2008, 21-22 November, 2008, Kuala Lumpur
  9. Tanaka M, Tanaka K, Komori M, et al. Anti-aquaporin 4 antibody in Japanese multiple sclerosis: The presence of optic-spinal multiple sclerosis without long spinal cord lesions and anti-aquaporin4 antibody. J Neurol Neurosurg
    Psychiatry 2007;78:990-992.
  10. Nakashima I, Fukazawa T, Ota K, et al. Two subtypes of optic-spinal form of multiple sclerosis in Japan: clinical and laboratory features.J Neurol 2007;254:488-492.