2009年3月号 

  1. MRI造影病変の運命
  2. Tumefactive MS
  3. 抗AQP4抗体の力価と再発
  4. NMOの新しい診断基準?
  5. MSのEDSS scoreの問題点
  6. ベタフェロン注射後の発赤や硬結にドレニゾンテープ
  7. 慢性髄膜炎の原因となる感染性疾患
  8. 慢性髄膜炎の原因となる非感染性疾患
  9. Hereditary ataxia/Episodic ataxia syndromes
  10. 第17回神経学会近畿地区障害教育講演会
  11. 復習-よしよし振戦といやいや振戦
  12. 尿失禁の分類
  13. 変性疾患の画像診
  14. PDと本態性振戦の違い-Part 2
  15. ヒトヘルペスウイルス感染症
  16. Vanishing white matter diseaseの日本語論文
  17. ロバスタチンに高感度
  18. 新しいALSの生理学的診断基準(Awaji基準)
  19. Cerebral microbleedsの診断基準
  1. MRI造影病変の運命
    平成5年度免疫性神経疾患の班会議で宇多野病院から報告が出ています。これは原著としては記載されてはいませんから、きわめて貴重な資料です。1.5Tで5 mm厚, no gapで撮影。10例のMS患者(NMOが入っているかどうかは不明ですが、入っていたとしてもわずかでしょう)をmonthlyに撮影し、見つかった252個の造影病変を経時的に観察。
    その結果、
    1. 新たに出現した252個の造影病変は、4週目に29%、8週目に15%、12週目に7%、16週目に4%、24週目に3%が残存。
    2. %を対数変換して求めた回帰直線から得られた造影病変のT1/2は24日。
    3. 造影病変の拡大や融合は認められなかった。
    4. 長径10 cm以上の高濃度の新造影病変の多くは、4週でring型病変へ変化し、8週後には壁の一部を残して縮小し、12週後には造影病変として消えるが、中央部にT1強調像で低信号病変となる。T1強調像で旧い低信号病変に造影病変が再出現する場合は一般に周辺部にのみ認められる。

  2. Tumefactive MSが病理学的に誤診されやすい疾患リスト 
    Mayo ClinicのDr Lucchinettiが168例のtumefactive MSをまとめ、当初生検で誤診された疾患リストと頻度を報告しています。
    Low grade astrocytoma  39%
    High grade astrocytoma  15
    Oligodendroglioma      6
    Infarction          9
    nfection           9
    Lymphoma         3
    Non-diagnostic       18
    (Brain 2008; 131: 1759-75)

  3. 抗AQP4抗体の力価と再発
    東北大学からも報告が出ていますが、英国OxfordのAngela Vincentのラボからも報告が出ています(Brain 2008; 131:3072-80)。方法は血清を色素を結合させたリコンビナント蛋白にまず反応させ、結合したIgGをProtein sepharose beadsで落とし、蛍光をカウントする、fluorescence-based immunoprecipitation assayというもの。再発直前に力価が3倍に上昇したという東北大と同じ現象を見出していますが、必ずしも力価が増加しても再発するとは限らない例外も存在することが判明。Polyclonalな抗体ですから、再発時の治療により抗体の構成が変化するのかもしれません。また、rituximabやazathioprine、cyclophosphamideで治療すると、抗体の力価が低下し、再発頻度も減少することが改めて示されています。
  4. NMOの新しい診断基準?
    本来はMSの診断のためのred flagの点数化をしたという論文ですが、根拠や目的も明文化されずに、さりげなく従来のMayo Clinicとは異なるNMO診断基準が掲載されています。筆頭著者は英国University College LondonのDr DH Miller。ところが、二番目の著者はMayo ClinicのDr Weinshenkerで、Prof Kiraも入っています。そのcriteriaとは、

    Major criteria (すべてを満足する必要があります)
    1. 一側あるいは両側の視神経炎
    2. 完全あるいは不完全な横断性脊髄炎で、MRIで3椎体以上の長いT2病変があり、脊髄炎の急性期にT1低信号病変が認められること。
    3. サルコイドーシスや血管炎、症状を有するSLE、Sjogren症候群、他に視神経脊髄炎を説明できる原因疾患がないこと。
    Minor criteria (少なくとも以下のうちひとつを満足すること)
    1. 最も新しい脳MRIが正常か、BarkhofのMSの脳病変の基準を満足しないこと。(ovoid lesionがあってはいけないことになっています)
    2. 血中あるいはCSF中に抗AQP4抗体が存在  
    この診断基準によれば、NMOではSLEやSjogren症候群の合併と言うことはあり得ないことになります。ま、Sjogren症候群による脊髄病変なのか、NMOなのか、抗AQP4抗体が陰性の場合、区別はできませんから言い方の問題だけですが。問題は、抗AQP4抗体陰性の場合、ovoid lesionなどBarkhofのcriteria (つまりはMcDonaldの病変分布のMRI基準)に引っかかった場合、NMOとは言えないことになります。抗体は採血時が早すぎると陰性ですし、治療で陰性化する可能性もあります。抗体陰性群には病態的には抗体陽性群と同じ患者が含まれる可能性があり得ます。そこまで脳MRI所見を重視しても良いものか・・・Mayo Clinicの基準では脳MRIは病初期の所見でしたが、most recent brain MRIが取り上げられたというのはちょっと問題。

  5. MSのEDSS scoreの問題点は以前から指摘されています。下肢機能が重視されすぎていて、上肢機能がおざなりだとか、視機能の位置づけがおかしい、とか。詳しくは拙著(田中正美:実践講座 疾患特有の評価法 多発性硬化症。総合リハ, 35:167-72, 2007.)をご覧下さい。NMOのOCTを論じた報告に、以下のような記述を発見しました。”EDSS scores were assessed but without the visual data” ただし、この理由は、EDSS自体の問題ではなく、OCTとの相関を調べるためなのでした。

  6. ベタフェロン注射後の発赤や硬結にドレニゾンテープが良いそうな。京都市立病院(?)の方の発見。 

  7. 慢性髄膜炎の原因となる感染性疾患
    Bacterial Partially treated bacterial meningitis, Tuberculosis, Syphilis, Lyme disease, Leptospirosis, Brucellosis, Listeriosis, Mycoplasma pneumoniae
    Viral meningitis HIV, Herpes simplex, Epstein-Barr virus
    Fungal meningitis Cryptococcosis, Blastomycosis, Histoplasmosis, Coccidiomycosis
    Protozoa and metazoa Toxoplasma, Acanthamoeba, parasite Endocarditis
    Parameningeal infection epidural abscess, sinusitis
    (Pract Neurol 2008; 8: 348-61より)  
  8. 慢性髄膜炎の原因となる非感染性疾患
    Uveo-meningitic syndromes sarcoidosis, behcet’s disease, Wegener’s granulomatosis, Vogt-Koyanagi-Harada syndrome, Sjogren’s syndrome, SLE, Other vasculitis Hypertrophic pachymeningitis
    Drugs NSAIDS, anti-microbial agents, intravenous immunoglobulin, immunosuppressants, Allopurinol, Vaccination, Intrathecal agens
    Malignant meningitis Carcinoma, Lymphoma, leukemia
    Miscellaneous Hereditary auto-inflammatory periodic fever syndromes, Cholesterol embolisation syndrome, Fabry’s disease, Subarachnoid haemorrhage, Migraine, No cause found
    (Pract Neurol 2008; 8: 348-61より)
  9. Hereditary ataxia/Episodic ataxia syndromes
    1). Dominant
    SCA 1-29
    Episodic ataxia 1-7
    DRPLA
    Fragile X Tremor-Ataxia
    Other dominant ataxias
    2). Recessive
    Friedreich’s ataxia
    Ataxia-Telangiectasia
    Ataxia with oculomotor apraxia type 1 (AOA1) & AOA2
    Autosomal recessive spastic ataxia of Charlevoix-Saguenay (ARSACS)
    Ataxia with vitamin E deficiency (AVED)
    Mitochondrial recessive ataxia syndrome (MIRAS)
    Marinesco-Sjogren syndrome (MSS)
    Episodic ataxia syndromes
    EA age at
    onset
    duration of
    attacks
    associated
    symptoms
    interictal findings
    EA1 <20 minutes muscle spasms seizures, myokymia
    EA2 <20 hours vertigo, weakness ataxia, nystagmus
    EA3 <20 minutes vertigo, tinnitus,headache usually none
    EA4 20-50 hours vertigo, diplopia nystagmus, abnormal smooth persuit
    EA5 20-60 hours vertigo nystagmus, ataxia
    EA6 <10 hours cognitive impairment seizures, ataxia
    EA7 <20 hours vertigo, weakness none
    (Arch Neurol 2007; 64: 749-52. よりEA8はまだ出ていないようです。)
  10. 第17回神経学会近畿地区障害教育講演会が2009年2月11日、京大病院前の府 立教育文化センターで開催。  
    兵庫医大・芳川先生は「ニューロパチーの鑑別診断と治療」と題して講演。
    抗MAG抗体のないIgM monoclonal antibody
    糖尿病
    HIV infection Chronic active hepatitis
    SLE
    Sarcoidosis
    Thyroid disease  
    以上の疾患が基礎にある場合、CIDPと同じと考えて、同じように治療することになっています。  

    RituximabはIgM CIDP-MGUSの治療に有効。375 mg/m2を週に1回4週連続で投与し、3ヶ月後に再投与する方法。  

    日本におけるCIDPの調査が平成9年の研究班で行われ、有病率は2.2から 2.7人、男女比は2:1と男性に多く、発症年齢は50-60歳代。50以上のCSF蛋白増 加を示したのは約60%。IVIgは発症1年以内なら83%で有効で、2年以上経過する と有効率は30%に低下。steroid無効例の約半数で有効。京大例が多かったせいか、このときの調査では1/5がMMNだったそうな。  

    治療抵抗例に対する治療法としては、以下の2つの報告があります。5 mg/kg daily Cyclosporin Aの内服で1ヶ月後には改善(J Neurol Sci 2004;22429-35)という報告が信州大から出ています。また、IFNβ1a (Avonex)で35%が改善、50%が不変、15%が増悪という微妙な報告もあるそうな (Neurology (Suppl 3)2003;S23)。  
    また、hereditary neuropathyでもconduction blockは起こりうる、と。  

    金沢医大・田中惠子は傍腫瘍性神経症候群について講演しました。一般的な 説明の他、筆者のCTLのデータも紹介した後、抗Ma2、抗VGKC、抗NMDARについ ても紹介しました。抗NMDARは金沢医大でアッセイを樹立したことも紹介。  

    三重大・冨本先生は「皮質下血管性認知症の病態と治療」を講演。  
    Post-stroke dementiaという概念があり、脳梗塞1年以内に203割が発症。最近、数%に過ぎないのではないかという批判も。  

    vascular cognitive impairmentという概念は、血管病理だけで説明でき ず、結構アルツハイマー病の病理の関与が指摘されているため、このような概念も。  
    CADASILやBinswanger病ではmicrobleedsが多いので、安易に抗血小板薬の投与は危険。特に高血圧が存在する場合は投与を避けた方が無難で、使うならシロスタゾールなどのホスホジエステラーゼインヒビターが望ましい。アルツハ イマー病や血管性痴呆での譫妄、DLBの幻覚には抑肝散が有効。  
    マウスの慢性低かんりゅうモデルでは、まずBBBが破綻した後、microgliaが活性化し、ずーっと遅れて白質病変が起きる、と。  

  11. 復習-よしよし振戦といやいや振戦
    前者はパーキンソン病、後者は本態性振戦で出現。パーキンソン病では顎振戦もありますが、この場合ももちろん上下に動きます。
  12. 尿失禁の分類
    内因性尿道括約筋不全
    タイプ 病態 基礎疾患
    腹圧性尿失禁
    内因性尿道括約筋不全
    尿道過可動 加齢、分娩、骨盤内手術など
    放射線治療、尿失禁手術、婦人科手術、尿道萎縮、特発性など
    切迫性 排尿筋過活動 脳血管障害、パーキンソン病、MS、加齢、尿路感染など
    溢流性 下部尿路閉塞、排尿筋低活動 前立腺肥大症、尿道狭窄、糖尿病性ニューロパチー、骨盤内手術、腰部椎間板ヘルニアなど
    機能性 トイレへの移動障害 痴呆、寝たきり、ADL障害
    反射性 排尿筋過活動 高位頸髄損傷など
    医事新報, 2009; 4423: 49-52)

  13. 変性疾患の画像診断
    PSP humming bird sign or penguin sign (中脳被蓋部萎縮)
    Wilson病 face of giant panda sign (脳幹被蓋のT2高信号化-治療で消失。病理学的本態は不明)
    OPCA お歯黒歯状核徴候 (black teeth sign)-鉄を多く含む歯状核はT2で顕著な低信号に.
    賽子の四の目徴候 (four of dice sign)-水平断で橋被蓋中央部と橋底部の下向性線維路以外の領域がT2高信号化
    ALS T1正中矢状断で舌筋萎縮と高信号化
    (岩田 誠, 内科, 2008; 95: 2099-104)

  14. PDと本態性振戦の違い-Part 2 水野先生によりますと、パーキンソン病では手を挙上した瞬間は止まっていて次第にふるえ始めるけれども、本態性振戦では最初から振るえている、と。  

  15. ヒトヘルペスウイルス感染症 
    HSV-1 口唇ヘルペス、性器ヘルペス、ヘルペス脳炎、ベル麻痺、角膜ヘルペス
    HSV-2 性器ヘルペス、脳幹脳炎、脊髄炎、無菌性髄膜炎、
    VZV 水痘、帯状疱疹、ラムゼー・ハント症候群、
    EBV 伝染性単核球症、上咽頭癌、バーキットリンパ腫、日和見Bリンパ腫など
    HCMV 間質性肺炎、CMV網膜症、CMV単核球症、先天性巨細胞封入体症
    HHV-6 突発性発疹症、脳炎・脳症、脊髄炎、間質性肺炎、赤血球貪食症候群
    HHV-7 突発性発疹症
    HHV-8 カポジ肉腫、キャスルマン病、悪性Bリンパ腫
    (実験医学 2008; 26: 2884-90より)

  16. Vanishing white matter diseaseの日本語論文が少数ですが出ています。
    大竹弘哲、小野寺理. 【白質脳症update】 Vanishing white matter disease. 神経内科, 2006 ; 65 : 440-3.
    松井大, 水谷江太郎. Leukoencephalopathy with vanishing white matter 新しく確立された疾患単位. 神経内科, 2004 ; 60 : 560-4.
    小田雅也, 松谷章司, 福岡和子, 保坂暁子, 鈴木義之, 林雅晴. 高度な多発嚢胞性白質脳症の1幼児例. 脳と発達, 2002 ; 34: 511-6.  
    一番最初が新潟大学、二番目が京大からの報告で、松井先生は現在は当院臨床研究部室長です。

  17. ロバスタチンに高感度CRP抑制効果があることが米国での大規模臨床試験(JUPITER)で証明された、と報道されました。LDL-Cとともに高感度CRPは粥状硬化症の重要な危険因子として知られています。心血管疾患の既往歴がなく、糖尿病もなく、LDL-Cが130 mg/dl未満で高感度CRPが2 mg/L以上を示した男女17802例にプラセボと2群に分け、ロバスタチンを20 mg/日を投与。1年目でLDL-Cは108から55 mg/dlに低下し、4年目も55と低地を維持し、心血管イベントのリスクが44%低下。国内で使用されている用量はこれより少ないですが、高用量でなくても高感度CRPを低下させることができ、他のスタチン製剤でも効果が期待できる、という意見もあるようです。(The Mainichi Medial Journal 5(1):47, 2009より) 
  18. 新しいALSの生理学的診断基準(Awaji基準)京大系の生理グループの中でも、必ずしも一般的ではないようですが、2006年12月に淡路島で開催されたシンポジウムをベースに国際基準が作製されました(脳神経 2007; 59:1023-9; Clin Neurophysiol 2008;119:497-503)。内容は煩雑なので、直接見て下さい。

  19. Cerebral microbleedsの診断基準
    Black lesions on T2*-weighted MRI
    Round or ovoid lesions (rather than linear)
    Blooming effect on T2*-weighted MRI
    Devoid of signal hyperintensity on T1-weighted or T2-weighted sequences
    At least half of lesions surrounded by brain parenchyma
    Dustinct from other potential mimics such as iron or calcium deposits, bone, or vessel flow voids
    Clinical history excluding traumatic diffuse axonal injury
    (Lancet Neurol 2009;8165-74.より)