2009年1月号

  1. CD8陽性細胞がMSのeffectorである証拠
  2. Optic neuritisの鑑別
  3. 視神経炎特集の雑誌
  4. 傍腫瘍性神経症候群の特集雑誌
  5. 多発性硬化症の特集雑誌
  6. 多発性硬化症の本
  7. Paraneoplastic ALS
  8. Natalizumab (Tysabri)でPML2例が新たに
  9. MSでのIFNβ治療無効の定義
  10. NMOの動物モデルが作製
  11. MSの病態のおけるBBBの破壊
  12. Hashimoto脳症 
  13. RAへのAdalimmab  
  14. 白質変性症の画像診断
  15. 慢性関節リウマチいろいろ
  16. 痴呆の原因となる自己免疫あるいは炎症性原因
  17. Juvenile neuronal seroid lipofuscinosisへの間歇的ステロイド療法
  1. CD8陽性細胞がMSのeffectorである証拠
    1. CD8 T cells accumulate within active MS lesions where they often outnumber CD4 T cells
    2. CD8, but not CD4, T cells exhibit oligoclonal expansion
    3. Myelin-reactive cytotoxic CD8 T cells have been identified in MS patients, sometimes more frequently than in controls
    4. Active MS plaques exhibit MHC class I expression on CNS oligodendrocytes and neurons/axons
    (J Immunol 2008;181:1617-21. 詳細は本文をご覧下さい。)
  2. Optic neuritisの鑑別
    1. Ischemic optic neuropathy Arteritic (giant cell arteritis) Non arteritic (NAION)
    2. Leber’s hereditary optic neuropathy (男性、70%はmtDNA G11778Aのpoint mutationを有する、6ヶ月以内に対側も、pale disc with telangiectasic vessels)
    3. Neuroretinitis (Cat-scratch disease; 発熱、regional lymphadenitis, painless visual loss, papillitis and macular star, anti-Bartonella henselae antibody, antibiotic therapy)
    4. Vitamin (B1, B2, B12, B6, niacin, folic acid) deficiendy (両眼、central or cecocentral scotoma with preservation of the peripheral field, no afferent papillary defect)
    5. Susac’s syndrome (encephalopathy, branch retinal artery occlusion, sensorineural hearing loss, 脳MRIはMSに類似するが、脳梁に”snowballs”所見)
    6. Toxic (alcohol, methanol, tobacco, ethambutol, toluene) (両眼、central or cecocentral scotoma with preservation of the peripheral field, no afferent papillary defect -眼の特徴はvitamin defと同じ)
    7. Sarcoid (optic disc edema, optic disc infiltration, uveitis)
    8. Papilledema from IICP (両眼、IICP sign, 視力低下なし、no afferent papillary defect)
    9. NMO
    (Frontiers Biosci 2008; 13: 2376-90詳細は本文をご覧下さい。)  
  3. 視神経炎特集の雑誌が眼科領域で出ています。
    特集 現在の視神経炎の診断と治療 神経眼科24巻1号、2007年
    特集 視神経炎・視神経症アップデート 眼科50巻8号、2008年
  4. 傍腫瘍性神経症候群の特集雑誌が出ました。
    日本内科学会雑誌, 2008; 97(8)  
  5. 多発性硬化症の特集雑誌が出ています。
    Neurology 2008; 68(24 supple 4)
    Semin Neurol 2008; 28(1)  
  6. 多発性硬化症の本が出ました。吉良潤一編、「多発性硬化症の診断と治療」、新興医学出版社、2008. 誰がどの章を書いたのかは、目次では判りません。
  7. Paraneoplastic ALSという概念を打ち出したことでも有名なNorris FHは1993年に、なんと悪性リンパ腫で亡くなっていました。自分が研究していた疾患に近い病気でなくなったんですね。こういう事例は以前から知られていて、結核研究者が結核に罹患するのは感染症ですから理解できますが、癌研究者が癌で亡くなることもよくあります。疫学的には意味はないのでしょうが、当人にとっては気にはなるでしょう。以前、椿先生がまだ新潟にいらっしゃった頃、ALSを研究されていらっしゃいましたが、入局したての私たちに研究者は研究している病気でなくなることが少なくないんだよ、でも、ALSはなあ・・・とおっしゃっていらしたことを思い出します。
  8. Natalizumab (Tysabri)でPML2例が新たに発症本剤は一度市販されましたが、周知のようにPML発症を受け、IFNβの併用を禁止されて、欧米で2006年夏に発売が再開されました。個人的には、PMLの発症抑制に細胞傷害性T細胞が関与しているなら、中枢神経へのT細胞の侵入を完全に抑制すれば、単独療法でも投与人数が増えれば、そのうちPML発症例が出るだろう、とメーカーの方々には伝えていました。2008年9月、ついにヨーロッパで2例発見されました。現在、世界で32000例の患者さんが投与を受けているそうです。TorontoのSt. Michael’s HospitalのDr. Paul W. O’Connorによれば、6000例以上の血漿検体から5例からJCV DNAが本剤投与中に陽転化したことが報告されたことがありますが、いずれもPMLは発症してはいませんでした。癌治療と同じで、ケモデスを防ぐためには、リンパ球の機能を必要以上に抑えないことではないかと考えられます。
  9. MSでのIFNβ治療無効の定義はいろいろで、国内ではきちんと聞いた記憶がありません。欧米の定義をそのまま応用はできないと思われますので、ちょっとめんどいでしょう。最近、次のような結構日本人には敷居の高い定義が出ています。“presence of two or more Gd contrasting MRI lesions on one or more of four MRI scans and one or more relapses in the last 12 months while IFN therapy” (Neurology 2007; 69:785-9.)
  10. NMOの動物モデルが作製できたことが2008年9月にMontrealで開催されたECTRIMS/ACTRIMS/LACTRIMS合同会議で、東北大学と共同研究したオーストリアのProf. Lassmannが招待講演で突然、詳細に発表。座長をするはずだったMayo ClinicのDr. Lucchinettiは来ませんでした。代わりにLassmann講演の座長をしたのはDr. Weinshenker。競争の激しい社会を物語っているようにも見えました。EAEを作製したラットにplasmapheresisで得られたNMO IgGを投与したところ、AQP4が消失したそうです。BBBを壊す為にT細胞が必要で、単独では難しいのでしょう。
  11. MSの病態のおけるBBBの破壊というテーマで、2001年にSerono Symposiaが開催されています。少し古いのですが、記録を偶然発見したので、その中から、最も基本的な部分を。

    BBB毛細血管は4-6 nM fenestrationsがあり、蛋白の透過性を防いでいます。BBBがopenになっている部位は、neurohypophysis, median eminence, area postrema。blood-skeletal muscle barrierはBBBの100-1000倍も透過性が高いそうな。  
    一般的に、CNS作動薬の性質としては、分子量が400-500以下、lipophilic, pH relatively neutral, relatively slim like a torpedoなんだ、と。
  12. Hashimoto脳症 
    福井大学医学部・米田準教授の講演会が2008年8月29日に、京都駅に隣接するセンチュリーホテルで開催されました。自験第1例は基礎の教室での研究から臨床へ戻った直後に経験した患者さんだったそうで、CJD類似の症状を呈しておりましたが、最も異なっていたのは、症状や経過が日によって変動したこと、だそうです。Steroid投与で3日目で元に戻った、と。ab-mediatedだとすると、改善が早すぎますね。  

    脳症を呈し、抗甲状腺抗体が見出された患者さんの血清が福井大に送られています。橋本脳症の診断の指標となっている、N末α?enolase (NAE)に対する抗体陽性患者は32例見つかっていて(陰性患者は24例あって、陽性率は57%)、平均60歳 (28-85歳)で、急性脳症を呈することが多く、特にNAE抗体陽性患者の大部分はこの病型(逆に、急性脳症の70%はNAE抗体陽性)。次に多いのが精神病型で全体では19%がこれを占めます。抗体陽性例のほとんどは甲状腺機能は正常で、60%でPSLが著効します。残りの40%は投与時期の問題なのか・・・。意識障害、幻覚せん妄、痙攣、認知障害、ミオクローヌスやchoreaが出現します。痙攣発作は強直間代性で、PHTやVPAが著効。末梢神経障害やmyelopathy、自律神経症状は起こりにくいのが特徴。  

    検査依頼の母集団によるのでしょうが、抗甲状腺抗体の陽性率は100%。ただし、1例のみですが、当初抗甲状腺抗体が陰性で後に陽性化した患者さんがいらしたそうで、抗甲状腺抗体が陰性でも測定するべきでしょう。10例中2例で、脳MRIにて脳室周囲白質に瀰漫性病変があり、皮質下小血管病変らしき所見が6例に認められ、血管炎ではないかとも考えられています。SPECTは感度が高く、全般的に低下しており、症状と相関する可能性を指摘。  

    治療としてはPSLが著効することが多いのですが、10-15 mg/dayあたりまで減量した際に、再燃することが多く、この場合はAzathioprineを併用。IVIgや血漿交換の効果も認められているようです。自然緩解例も。  

    特異的な例としては、冒頭のCJD類似例の他、pure cerebellar ataxiaや辺縁系脳炎型があります。前者の例では、FT3, FT4, TSHは正常で、抗Tg、抗TPO抗体は陽性。脳波は徐波化を示し、小脳萎縮はなく、PSLで効果有り。後者は脳MRIで両側性に病変が認められていました。  

    病理報告が少ないですがあり、
    Nolte KW, Unbehaun A, Sieker H, Kloss TM, Paulus W. Hashimoto encephalopathy: a brainstem vasculitis?
    Neurology 2000;54:769-70.
    Doherty CP, Schlossmacher M, Torres N, Bromfield E, Samuels MA, Folkerth R
    Hashimoto's encephalopathy mimicking Creutzfeldt-Jakob disease: brain biopsy findings. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2002;73:601-2.  

    日本の橋本病ではA2, DR53と、欧米の橋本脳症ではB8, DR15との相関が報告されていますが、自験14例でのHLA解析ではB59がcontrolでは3.8%でしたが、橋本脳症では21.4%と増加していたことが注目された、と。
  13. RAへのAdalimmab  
    RAに罹患した有名人としてはルノワールが有名だそうで、この時代はステロイドはもちろん、アスピリンもなかったので、治療法が全くありませんでした。それゆえ、ルノワールは晩年、車椅子に乗って、絵筆を包帯で手に固定して、絵を描いていたのです。

    今や、レミケード登場後、薬剤中止も視野に入れた寛解を目指せる時代になっています。MSも似た時代が近づいてきたように思われます。レミケードの光と影をまとめますと・・・

    光としては、即効性、80%に有効、関節破壊の減少。これに対して、影としては、感染を起こしやすくなる(Friendly Fire!)。最近はヒト化抗体も登場していますが、レミケード(抗TNF抗体)は25%はマウスの蛋白なので、アナフィラキシーが起きます。抗キメラ抗体が出現し、二次性に無効になることも。また、長期的安全性は証明されていません。そして、なによりも高価。

    Adalimmabは完全ヒト化抗体で、50%が完全寛解に。レミケードなど第1世代、第2世代が効かなくなっても、効くそうな。ただし、欧米では5%にしか出現しない抗イディオタイプ抗体が日本人では40%に出現することが問題で、薬物の反応の民族差は重要ですね。MTXと併用して、抗体産生を抑制する必要があります。  RAはT細胞もB細胞も関節内ではpolyclonalで、当初はリンパ球の反応はoligoclonalかもしれないが、医療機関受診時にはcloneはexpandしているので、抗原特異的治療法は困難でしょう、と宮坂信之東京医科歯科大・膠原病・リウマチ内科学教授が。座長は一卵性双生児の宮坂昌之大阪大学免疫動態学教授。第38回日本免疫学会総会が2008年12月1-3日に京都国際会議場で開催され、クリニカルセミナーにて、「抗サイトカイン療法のもたらしたもの-Prons & Cons」と題して。  

    次回は、2009年12月2-4日に大阪国際会議場にて。宮坂教授会長。14th International Congress of Immunologyが2010年8月22-27日に神戸にて。
  14. 白質変性症の画像診断という総説が出ています(日本小児科学会雑誌 2007;111:1243-54)。
    白質変性症のMRI分類はvan der Knaapらの分類が実用的であると紹介されています(Radiology 1999;213:121-33)。原因により所見が異なるため、パターンによりカテゴリーAからGに分類されています。長くなりますので、ここでは紹介できません。どちらかの論文を参照して下さい。また、拡散強調画像(DWI)は水分子の動きやすさを画像化したものですが、細胞外の水は拡散しやすいのでDWIは低信号、ADC高値に、細胞内の水は拡散しにくいのでDWI高信号、ADC低値に。前頭葉白質では新生児から思春期にかけてADCは減少してゆきますが、Pelizaeus-Merzbacher病では髄鞘が全く形成されないため、新生児と同程度のADC高値を示します。
  15. 慢性関節リウマチいろいろ  
    柳田診療部長(リウマチ科)による当院でのレジデント向けevening seminarから。
    1. TNF inhibitor登場前はMTXで著明に改善しており、海外ではMTXが第一選択薬だった。メソトレキセートでは改善が思わしくない方の為に、レニケードが使用されている。
    2. IgG型RFはRF陰性例の20%程度だが、これを測定しているのは日本くらい。というのは、IgG型RFは血管炎合併例のマーカーなので、日本では悪性関節リウマチが特定疾患に指定されている為。
    3. 米国ではリンパ腫の合併例が多い。どうも、使用する免疫抑制剤のせいではないらしい。米国のシェーグレン症候群患者でもリンパ腫が多く、日本では少ない。米国のリスクの1/10程度。日本では危険性は一般住民の2-3倍くらい。金沢医大ではシェーグレン症候群を研究しているが、ここはリンパ腫の合併例が多いそうな(福井県自体がリンパ腫が多く、この県はparaneoplasticの宝庫。原発銀座が関連しているのではないか、と筆者は心配しております)。
    4. 最近話題の抗CCP抗体で50以上の例は関節破壊がひどく、予後不良。(Arth Rheum 2007; 56: 2929-35) もともと、RAに特異性が高い抗ケラチン抗体として知られていて、抗原を輪っか状にすると測定しやすくなることで命名されたそうな。サイクリック(C)な抗原を使用した、シトルリン化(C)されたペプチド(P)という意味だそうです。

  16. 痴呆の原因となる自己免疫あるいは炎症性原因
    Paraneoplastic limbic encephalitis
      SCLC
      Testicular cancer
      Thymoma Other tumors (breast, lymphoma, non-small cell lung)
    Limbic encephalitis with VGKC antibodies
    Morvan syndrome
    Steroid-responsive encephalopathy
      with anti-thyroid antibodies (Hashimoto encephalopathy)
      without antibody markers
    “Cognitive” presentation of MS
    Inflammatory vasculopathies (occasionally presenting as progressive dementia)
      CNS vascultis
      Retinocochleocerebral (Susac’s) syndrome
      Lupus cerebritis
      Sjogren’s syndrome
      Antiphospholipid antibody syndrome
    (Neurologists 2007; 13: 140-7詳細は本文をご覧下さい。)  

  17. Juvenile neuronal seroid lipofuscinosisへの間歇的ステロイド療法という治療法が報告されています(Neurology 2008; 70: 1218-20)。  

    本症はCLN3遺伝子のmutationが原因で、4-7歳頃に気づかれ、視力障害、知能低下、痙攣、パーキンソニスム、精神症状、睡眠障害を呈し、15-30歳頃に亡くなります。glutamic acid decarboxylase (GAD) 65に対する抗体が本症患児やCLN3 knock-out miceで見出されます(Hum Molec Genet 2002; 11: 1421-31)。変性疾患と自己免疫の接点のような疾患です。8名の患児(男女4名ずつ)に対して、0.75 mg/kg, 最大40 mgを経口で連続10日間毎月1年間投与。10歳以上では運動障害の改善を、10歳以下ではIQの増加が認められ、10歳代では改善とともに抗体が陰性化したことが注目されます。このことから、抗体の産生と運動障害との関連が示唆されました。