2008年3月号 

  1. 視神経炎のおさらい
  2. Optic Neuritisの鑑別診断
  3. プラスマフェレーシス 
  4. ミトキサントロン
  5. 非外傷性視力障害をきたす疾患
  6. Pain syndrome associated with MS
  7. Glatiramer acetate (Copaxone) 
  8. MSやNMOへのOCTの利用  
  9. Alemtuzumab (Campath-1H)
  10. 抗神経抗体が認められるautonomic neuropathy
  11. Neuropathies associated with conduction block
  12. 神経筋生検
  1. 視神経炎のおさらい 
    第5回埼玉MSインターフェロン治療研究会で、近畿大学眼科・中野雄三教授のご講演を再びお聞きする機会がありました。すでに、本誌でもご紹介していますが、もう一度。一部は重複するかもしれません。  

    眼に入った映像は網膜の一番奥にある視細胞に捉えられ、双極細胞に伝えられ、網膜神経節細胞へと伝えられます。最後の細胞の軸索が束となって、網膜表面でretinal nerve fiber layer (RNFL)を形成し、乳頭に集まり、視神経として眼科の奥へ伸びてゆきます。つまり、視神経は網膜神経節細胞の軸索の束、ということになります。  

    視神経のみに認められる症状としては、以下の2つしかありません。
    1. CFF (中心フリッカー値) これはちらつきの判りにくさを判定するもので、ちらつきが判らなくなる(あるいはちらつきに気づく)値をHzで表現し、35 Hz以上が正常。
    2. 対光反射で代表される瞳孔異常  
    発症時にさまざまな視覚機能がばらばらに出現することをすでに本誌でご紹介しています。発病時には視力は正常でもCFFが先に傷害されるため、CFFでしか異常を見いだせないことがあります。治療する場合は視力ではなくてCFFを指標とします。白内障ではCFFは低下しません。  

    MRIも重要な手がかりとなる検査ですが、ご存じのように脂肪抑制法の1種であるSTIR法を用いてcoronal sectionで撮影しますが、炎症や脱髄、萎縮がありますと高信号を呈します。このMRIはoptic neuropathyの鑑別診断に有用で、両眼性が特徴といわれるEB中毒やシンナー中毒、あるいはLeber病では、STIR法では等信号になります。また、NMOの治療にも使用されるリツキサンでもoptic neuropathyを起こしうるんだそうです。  

    視神経炎に対するステロイド治療に関しては米国から報告があって(Beck, N Engl J Med, 1992)、placebo群では回復が遅れるものの、1年経過するとplaceboと治療群とも70%は回復し、プレドニゾロンを投与すると再発しやすい、というデータがあるそうです。日本でも追試が行われて、同じような結果が出ています。PSLを内服しても変わらないんだそうですね。ステロイドを内服しても再発を予防できない古典型MSと同じようです。  

    視神経炎の60%で眼球を動かすと疼痛が出現する症状が認められます。疼痛以外に、かすむ、白っぽい、テレビの色が不鮮明、といった初期の症状を見逃さないことが重要。このような時期では、CFFや視力はまだ正常。  

    眼精疲労や近視、遠視、白内障、緑内障、ストレス(心因)は、時に視神経炎との鑑別が困難。たとえば、視力が0.3でCFF正常、マーカスガン現象陰性はあり得ず、このけーすはステロイドによる白内障だったそうな。ちなみに、加齢による白内障とは所見の出る部位が異なるので細隙灯で判定可能。  

    MSでは視神経炎を反復すると、視力回復率は次第に低下してゆきます。つまり、再発を反復することで、次第に機能が低下してゆくこととなります。  

    また、「失明」という言葉は学術用語ではないので、眼科医は使用しないそうです。  

    左右差のある(非協調性)同名半盲は視索障害の特徴ですが、視野を丁寧に調べ、中心暗転と間違わないようにする必要があります。MSでは両側性にoptic neuritisが同時に起こることはなく、ADEMや感染症を考えるべき、と。  

    障害部位の分け方は、視交叉より前では中心暗転が拡大し、視力が低下。視交叉より後方では半分は見えているので視力は低下せず、視野障害をきたす。眼球を動かした際の眼の奥の疼痛は眼の痛みではありません。球後視神経炎を起こしますと、眼球を動かすことにより硬膜が引っ張られ、痛みを感じることとなります。眼球を動かさなければ疼痛は出現しません。前の方の炎症なら疼痛は出現しません。肥厚性硬膜炎では自発痛が出現します。  

    自験38例52眼のMS患者で視神経の障害部位を調べたところ、
    眼窩内 63% ・・・内 28% (自分のメモが読めず)
    神経管内 7%
    視神経全長 2%  
    自験51例の視神経炎中、9例(18%)で抗アクアポリン4抗体が陽性。この9例の特徴は、21-70歳(平均は55歳)で、全て女性。発症時に光覚がなかったのが61%、視神経炎のみを呈したのが2/9 (22%)、視交叉炎や視索炎は5/9例(56%)で、全視交叉、視索炎例の71%を占めるそうな。ステロイドが無効だった3例中2例で血漿交換が有効で、4例中2例でIFNβが無効。
  2. Optic Neuritisの鑑別診断
    MS
    NMO
    Sarcoidosis
    Recurrent idiopathic optic neuritis
    Theumatologic disease
      SLE, Sjogre syndrome, Antiphospholipid antibody syndrome, Behcet’s disease
    Infection
      West Nile virus, HIV, Varicella-zoster virus, Cryptococcus, Toxoplasmosis, Syphilis, Histoplasmosis
    B12 deficiency
    Retinal artery occlusion
    Retinal detachment
    Acute glaucoma
    (Continnum 2007; 13(5): 13-34.)
  3. プラスマフェレーシス 
    新しい治療法とは言えませんが、見直されてきました。ステロイドパルス抵抗性のRRMSの急性増悪期が対象。再発後1ヶ月以内に施行した場合に効果が期待できます。二重膜濾過法(DFPP)は効果がなく、単純血漿交換(PE)かトリプトファンカラムを用いた吸着療法(IAPP)を用います。PEの際の置換液に新鮮凍結血漿を用いるのは感染症の危険があり推奨できません(一部で6ヶ月後にドナーの感染症の有無をチェックしている自治体もあるが)。PEの置換液をアルブミン液にする場合、フィブリノーゲンの低下に注意する必要があります。2日続けて施行しない方が安全。IAPPではアンジオテンシン変換酵素阻害薬服用中の患者では、TR350吸着材の陰性荷電によりブラジキニンが産生されやすく、ショックになることに留意しなければなりません。IAPPで効果が乏しい場合でも、PEで効果が期待できるので、途中で方法を変えることも考慮します。埼玉医大の野村によればNMOではPE終了後にリバウンドする群とそのままきれいに抗AQP4抗体価が低下する群とがあり、免疫抑制剤の併用が基本的には必要なようです。
  4. ミトキサントロン (Neurology 2004; 63 (suppl 6): S1-S54. Neuhaus O, Kiesseir B, Hartung H-P. Mitoxantrone (Novantrone) in multiple sclerosis: new insights. Expert Rev neurotherapeutics 2004; 4: 17-26.; Morrissey SP, Page EL, Edan G. Mitoxantrone in the treatment of multiple sclerosis. Int MS J 2005; 12: 74-87.)  

    抗癌剤として合成された分子量517Daの薬剤で、DNA鎖と架橋形成し、腫瘍細胞の核酸合成を阻害します。乳癌や前立腺癌進行例、リンパ腫、白血病などに効果があり、後に強力な免疫抑制作用が見いだされました。複数のランダム化試験によりRRMSで再発率の減少、EDSSの進行抑制が認められており、再発や脳MRIで造影病変を伴うSPMSでも効果が期待できます。少数例のオープン試験ですがNMOでも効果があります。(小森美華、田中正美、村元恵美子、大野美樹、松本理器、村瀬永子、北川尚之、齋田孝彦:日本人多発性硬化症患者に対するミトキサントロン治療の検討。臨床神経 2007; 47: 401-6.)組織壊死を起こすので留置針を用いて、30分以上かけて点滴します。投与法は一定ではなく、さまざまな方法が試みられています。日本人では欧米人より白血球の回復が悪い傾向があり、少なめの量がよいと思われます。日本人を対象とした報告が当院から出ていますが、最初の3ヶ月間は毎月12 mg/m2ずつ投与し、その後は3ヶ月ごとに12 mg/m2ずつ投与し、投与前の白血球数に応じて投与量を減量し、概ね2年間に総投与量は70 mg/m2をめどに行う、という方法です(小森美華、田中正美、村元恵美子、大野美樹、松本理器、村瀬永子、北川尚之、齋田孝彦:日本人多発性硬化症患者に対するミトキサントロン治療の検討。臨床神経 2007; 47: 401-6.; 田中正美、小森美華、今村久司:多発性硬化症におけるミトキサントロン治療の留意点。神経内科 2007; 67:309-10.)。一般的な副作用としては、食欲不振、脱毛、易感染性、無月経、心毒性による心不全、白血病が挙げられます。末梢血白血球数、特に好中球数の減少は必発で、投与10から14日後に認められますが、投与数日後に減少することもあるので注意。35歳以下の7%で持続する無月経が出現します。35歳以上では永久的無月経が14%で出現。総投与量の増加とともに、左心室機能低下、うっ血性心不全を起こす危険性が増しますので、FDAは140 mg/m2以上投与しない、左室のejection fractionが50%以下になったら直ちに中止する、うっ血性心不全症状が出現したらMTXを直ちに中止することを勧告しています。骨髄性白血病が0.07%-0.25%の頻度で出現することが米国FDA二より認定され、2007年には急性リンパ芽球白血病も起こりうることが報告されています。MTX投与開始から白血病発病までの期間は8ヶ月から7年で、通常、4年以内に出現します。
  5. 非外傷性視力障害をきたす疾患 対応の緊急性の高い順で・・・
     1). 網膜中心動脈閉塞症 
     2). 急性閉塞隅角緑内障発作 
     3). 内因性眼内炎  ここまでが緊急眼科医コールの対象疾患。
     4). メタノール中毒 酩酊、cherry red spot。
     5). 網膜剥離 飛蚊症、片眼視野欠損。
     6). ブドウ膜炎 頭痛、霧視。
     7). 視神経炎
     8). 側頭動脈炎
     9). 硝子体出血 飛蚊症、視界に赤い帯。
     10). 黒内障発作 一過性。
    (レジデントノート, 9:1018-24, 2008 詳細は本文をご覧下さい。)  
  6. Pain syndrome associated with MS
    Psudoradicular pain
      Dysesthetic limb and back pain
    Lhermitte sign
    Paroxysmal spasms
    Trigeminal neuralgia
    Migraine
    (Continnum 2007; 13(5): 13-34.)
  7. Glatiramer acetate (Copaxone) 
    本邦未発売ですが、欧米ではIFNβとともに、第1選択薬です。4種のアミノ酸(L-グルタミン酸、L-リジン、L-チロシン、L-アラニン)のランダムな混合物で、ミエリン塩基性蛋白(MBP)に類似しています。動物モデルで治療効果が認められ臨床に応用されました。20mgを毎日皮下注射しますが、適量は不明確と言われています。副作用は軽度。作用機序は必ずしも明確とは言えませんが、HLAに結合することでMBPのHLAへの結合を抑制し、抗原提示能を低下させることやGlatiramer acetate反応性T細胞を Th1からTh2へシフトさせることで、この細胞が血液脳幹門を通過し、中枢神経内で抗炎症性サイトカインを産生させる、などが考えられています。
  8. MSやNMOへのOCTの利用  
    2005年以降、欧米では急速にMSでのOptical coherence tomography (OCT)への関心が高まっています。目に見えた像は網膜の一番深層にある視細胞にとらえられ、その前の双極細胞、さらに網膜神経節細胞へと伝えられ、その軸索は網膜表層を乳頭へ向かって走り、乳頭から眼窩の奥へ視神経として延びています。網膜神経節細胞の軸索から形成される層をretinal nerve fiber layer (RNFL)と言い、この部位は無髄線維。OCTにより乳頭や黄斑周囲のRNFLの厚さを定量的に測定できます。  

    OCTは眼科領域では緑内障の診断などに利用されていますが、視神経炎によるRNFLの厚さが減少することが相次いで報告されています。しかも、この現象はたった1回の視神経炎でも認められ(Ann Neurol 2005; 58: 383-91)、視神経炎の既往のない患者でもRNFLが減少すること(Ophthalmol 2006; 113: 324-32)、MSでは脳萎縮と相関し (Gordon-Lipkin E, Chodkowski B, Reich DS, et al. Retinal nerve fiber layer is associated with brain atrophy in multiple sclerosis. Neurology 69: 1603-9, 2007)、病型別では再発緩解型MS (RRMS)よりも二次性進行型(SPMS)でより薄くなっている(Pulicken M, Gordon-Lipkin E, Balcer LJ, et al. 69: 2085-92, 2007)ことが報告されています。変性した視神経を定量的に計測できる上、脳内の変性過程を類推できる方法として、今後、我が国でも普及してゆくものと思われます (田中正美. 多発性硬化症とNeuromyelitis opticaへの視神経変性の定量化が可能なoptical coherence tomography (光干渉断層計)の利用。神経内科, 印刷中.)。慣れれば、神経内科医でも可能です。
  9. Alemtuzumab (Campath-1H) 
    幹細胞や形質細胞以外のリンパ球やマクロファージ表面にあるCD52に対するモノクローナル抗体で、B細胞慢性リンパ急性白血病の治療薬です。活動性の高い早期のRRMSに投与され、12ヶ月後に再発が91%減少し、EDSSが1.4低下しました。そこで、12 mg/kgと24 mg/kgの2群として5日間投与し、12ヶ月後に3日間追加投与するCAMMS223 trialが始まりました。副作用として甲状腺炎が知られていましたが、血小板減少性紫斑病が出現し、2005年に中断。2007年に2年間の解析結果が発表され、低容量群、高容量群とも75%以上の再発低下が認められています(Coles AJ and the CAMMS223 study group. Efficacy of alemtuzumab in treatment-naive relapsing-remitting multiple sclerosis: analysis after two years of study CAMMS223. Neurology 2007 ; 68(suppl 1):A100.)  
  10. 抗神経抗体が認められるautonomic neuropathy
    抗体   臨床症状 背景腫瘍
    Anti-Hu, CRMP-5 diffuse autonomic neuropathy SCLC, thymoma
    Ganglionic AChR
    (sometimes SCLC)
    diffuse autonomic neuropathy usually not paraneoplastic
    Anti-Hu, CRMP-5 Enteric neuropathy SCLC or thymoma
    Ganglionic AChR,VGKC   (sometimes thymoma or SCLC) Enteric neuropathy usually not paraneoplastic
    VGCC, anti-Hu LEMS SCLC (~50%)
    VGKC, CRMP-5
    (sometimes thymoma or SCLC)
    Neuromyotonia/Morvan’s disease usually not paraneoplastic 
    (CONTINUUM 13(6):89-110, 2007 詳細は本文をご覧下さい。)  
  11. Neuropathies associated with conduction block
    GBS
    AIDP
    AMAN
    CIDP
    Multifocal demyelinating polyneuropathy with persistent conduction block (Lewis-Sumner syndrome, multifocal acquired demyelinating sensory and motor (neuropathy) (MADSAM)
    MMN
    Inherited
      Hereditary neuropathy with liability to pressure palsies (HNPP)
    Traumatic
      Acute compressive neuropathies
    Toxic
      Diphtheria
      Buckhorn
      Fish toxins
      Tetrodotoxin, saxitoxin, ciguatera
    (Curr Opin Neurol 20: 525-30, 2007 詳細は本文をご覧下さい。)  
    Toxicというのが良く判りませんが、Tetrodotoxinでも起きるんですね。
  12. 神経筋生検この両者を1ヶ所の切開で施行することが可能です。血管炎によるニューロパチーが疑われるような場合、筋の方が血管に当たる確率が高いので、両者の組織が欲しいところ。元々、東大のグループが言い出したように思うのですが、sural nerve biopsy の際に切開を上方へ4 cmほど延長すますと短腓骨筋から生検が可能です。