2007年12月号

  1. MS市場の大きさ
  2. IFNβとMS
  3. SPMSの定義
  4. Aggressive MSの定義
  5. NMOでAQP 4が標的である証拠
  6. NMOとclassic MSの違い
  7. Ambutation index
  8. MSに対するミトキサントロン治療論文
  9. RRMSでのIFNβ治療による二次性進行経過への予防効果
  10. 夜間頻尿への治療法
  11. Hereditary sensory and autonomic neuropathies分類
  12. 腰椎穿刺後頭痛の機序の解明に一助?
  13. Eosinophilic meningitis and/or myelitis
  14. Post-streptococcal neuropsychiatric disorders
  1. MS市場の大きさ
    世界でのMS患者数 100万人
    米国と欧州 70万人
    うちSPMS  40万人  
    MSへの薬剤のマーケットは、US $ 1.5 billion per yearと言われています。
    (Jain KK. Exp Opin Invest Drugs 2000; 9:1139-49)
  2. IFNβとMS
    1. 2年以内にCISからCDMS (clinically definite MS)への進展を抑制します。いくつかの治験があって、 CHAMS (N Engl J Med 2000; 343:898-904) ETOMS (Lancet 2001; 357:1576-82) BENEFIT (Neurology 2006; 67:1242-9)
    2. 一般的に、SPMSでは効果はありませんが、European trialでのみ、EDSSの進行開始までの時間を延長させたという報告があります。(Lancet 1998; 352:1491-7)
    3. 脳萎縮の進行や慢性のblack holes形成を遅延させると言われています。(Neurology 2005; 64:236-40; Arch Neurol 2005; 62:1684-8) 抑制の機序としては、NGF作用の増強、immune-mediated destructive inflammationの抑制、病的な鉄沈着といった毒性機序の抑制などが考えられているそうです。

  3. SPMSの定義  
    経過中の6ヶ月間徐々に障害が進行する場合。(Edan G, Miller D, Clanet M, Confavreux C, Lyon-Caen O, Lubetzki C, Brochet B, Berry I, Rolland Y, Froment J-C, Dousset V, Cabanis E, Iba-Zizen M-T, Gandon J-M, Lai HM, Moseley I, Sabouraud O. Therapeutic effect of mitoxantrone combined with methyprednisolone in multiple sclerosis: a randomized multicentre study of active disease using MRI and clinical criteria. J Neurol Neurosurg Psychiatry 1997; 62:112-118.) これとは別に、12ヶ月間、進行するという定義もあります。具体的に、最低どの程度進行したら該当するのかは曖昧です。再発がsuperimposeする場合、SRMSということもありますが、欧米の治験では両者は一緒にし、必要に応じてsubgroupとして解析することもあります。  

    OSMSではSPMSにはならない、という報告が以前、宇多野病院から出ていますが、最近、NMOはSPMSにはならない、という報告がMayo Clinicから出ています(Neurology 2007; 68:603-5)。  

    欧米での臨床経過の分類と頻度は、RRMSは85%、10年経過すると、50%はSPMSに。PPMSは10%、PRMSは5%と言われています。SPMSに対するIFNβの効果は同じIFNβ1bを用いた結果でさえ、一定していません。ま、効かないと考えた方がよいように思います。日本ではclassic MSもSPMSにはなりにくいのではないか、という気はしますが・・・定義が難しいのと、判断も難しいように思います。
  4. Aggressive MSの定義 
    French regulatory authorities (AFSSAPS)の定義では以下のいずれかで、このような患者さんをMitoxantroneの適応としています(Int MS J 2005; 12:74-87)。
     1). 過去12ヶ月以内に2回再発していて、後遺症を残しており、過去3ヶ月以内に脳MRIで少なくとも一つ以上の新しい造影病変を認める。
     2). 過去12ヶ月以内にEDSSが2以上進行し、過去3ヶ月以内に脳MRIで少なくとも一つ以上の新しい造影病変を認める。
  5. NMOでAQP 4が標的である証拠 
    東北大・藤原教授によりますと以下の4点。このお話をお聞きした場所と日時がメモになくて、不明ですが・・・国際神経免疫学会かもしれませぬ。
     1). 日本人OSMS患者でGFAPの染色性が低下
     2). 剖検例でAQP 4の染色性の低下とGFAP低下がcol-localized
     3). NMO lesionはAQP 4の豊富な部位に起きる
     4). 抗AQP 4抗体の存在  
  6. NMOとclassic MSの違い 
    藤原教授が2007年に開催された、どこかのランチョンセミナーでお話しになったことです(すみません、場所と時間のメモがありませんでした)。  
    Classic MS NMO
    Cord MRI
    再発時
    寛解期

    浮腫のためか両者で差はない。
    側索、後索中心

    浮腫のためか両者で差はない。
    中心部*
    IgG index 上昇 正常
    IgG % 増加 正常
    OCB in CSF 陽性 通常は陰性
    Neurofilament heavy chain 正常 25%で増加
    Anti-AQP4 陰性 70-90%で陽性
    * この論文はまだin pressですが、この所見をcentally located long spinal cord lesionと呼ぶようになっていて、3椎体以上の長さとともに、NMOの脊髄MRIの特徴的な所見と考えられます。2日以上持続するhiccupや吐き気、視床下部病変もNMOの特徴。
  7. Ambutation index MS患者へのMitoxantrone投与でEDSSとともに利用されている指標(Lancet 2002; 360:2018-2025.)。報告の筆頭著者は、現在UCSFにいるProf Hauser SL、the last authorはProf Weiner HL(N Engl J Med 1983; 308:173-180.  詳細は本文をご覧下さい)。
    1. Asymptomatic; fully active
    2. Walk normally but reports fatigue that interferes with athletic or other demanding activities
    3. Abnormal gait or episodic imbalance; gait disorder is noticed by family and friends; able to walk 25 feet (8 meters) in 10 seconds or less
    4. Walk independently; able to walk 25 feet in 20 seconds or less
    5. Requires unilateral support (canes or single crutch) to walk; walks 25 feet in 20 seconds or less
    6. Requires bilateral support (canes, crutches, or walker) and walks 25 feet in 20 seconds or less; or requires unilateral support but needs more than 20 seconds to walk 25 feet
    7. Requires bilateral support and more than 20 seconds to walk 25 feet; may use wheelchair* on occation
    8. Walk limited to several steps with bilateral support; unable to walk 25 feet; may use wheelchair* for most activities
    9. Restricted to wheelchair; able to transfer self independently
    10. Restricted to wheelchair; unable to transfer self independently
    * The use of wheelchair may be determined by life style and motivation. It is expected that patients in Grade 7 will use a wheelchair more frequently than those in Grade 5 or 6. Assignment of a grade in the range of 5 to 7, however, is determined by patient’s ability to walk a given distance, and not by the extent to which the patient uses a wheelchair.
  8. MSに対するミトキサントロン治療論文
    要約:本剤は、ヘルパーT細胞機能の抑制、B細胞機能を抑制し抗体産生を抑制、B細胞や単球のアポトーシスや壊死を誘導したりするが、これらは容量依存性と言われる。後述するように、日本人では体表面積あたりの投与量で設定しても、白血球数減少が強く、ヨーロッパ人並の総投与量は期待できない。白血球の回復の悪さが作用の強さを物語っているとすれば、総投与量に比して、欧米からの報告以上の効果を期待できるかもしれないが、現時点では不明と言わざるを得ない。治験のシステムを理解する上でもmethodsは重要なので、治療ガイドライン作製のために院内で行ってきた勉強会を元に、少し詳しく、代表的な論文を紹介しましょう。

    進行例への治療  
    多数例を対象としたMTXの治療効果は、まず進行例を対象に検討された。Poserの診断基準でClinically definite or laboratory-supported definite MS患者で少なくともEDSSが4.0以上で、18ヶ月間でEDSSが1.0以上増悪した13例(うち女性7例、24から53歳、平均年齢:37.6歳)を対象に治療効果を検討した結果が報告された(エビデンスIV)(Noseworthy JH, Hopkins MB, Vandervoort MK, Karlik SJ, Lee DH, Penman M, Rice GPA, Grinwich KD, Cauvier H, Harris BJ, Ebers GC. An open-trial evaluation of mitoxantrone in the treatment of progressive MS. Neurology 43:1401-1406, 1993)。8 mg/m2で投与を開始、3週間ごとに10-15分かけて静注した。白血球数や好中球数、血小板数により2 mg/m2増減し、1回量10 mg/m2を超えなかった。3、6、12、18ヶ月後にEDSSを調べ、既報の対照群と比較した。また、6、18ヶ月後で一部は3ヶ月後に脳MRIを調べた。投与期間中に脱落した患者はいなかった。2例で再発を起こし、ステロイドが投与された。EDSSは12ヶ月(5.97 ± 0.32)までは投与時(5.89 ± 0.32)と変化はなかったが、18ヶ月後には進行した(6.36 ± 0.36)。しかし、18ヶ月後の増悪は、投与前18ヶ月間の少なくとも1.0増悪していた進行度に比して軽度であった。18ヶ月後にEDSSが1.0以上に増悪したのは、わざか3例であった。増悪した患者の割合を既報のプラシーボ群と比較すると、差異はなく、MTX投与群で増悪した患者の割合は低下しているとは言えなかった。MRI所見についても検討したが、投与後も造影病変は出現しており、対照群がないためMRIへの効果の判定は保留された。  

    出現した副作用は重篤なものはなかった。吐気・嘔吐が8例(62%)、感染症4例(31%)(上気道感染症と尿路感染症が2例ずつ)、一過性の無月経4例(31%)、頭痛2例(15%)であった。

    最初のランダム化試験
    Millefiorini E, Gasperini C, Pozzilli C, D’Andrea F, Bastianello S, Trojano M, Morino S, Brescia Morra V, Bozzao A, Calo’ A, Bernini ML, Gambi D, Prenzipe M. Randomized placebo-controlled trial of mitoxantrone in relapsing-remitting multiple sclerosis: 24-month clinical and MRI outcome. J Neurol 1997; 244:153-159.  

    18から45歳まで,罹病期間が1から10年、Kurtzkeのscaleが2から5点で、治療開始前2年間に少なくとも2回の再発を有する、51例のclinically definite or laboratory-supported RRMSを対象に、ランダム化され、対照群と比較するイタリアの8施設から構成された治験を行った。毎月1年間MTX8 mg/m2投与した27例、placebo 24例を対象とし、治療開始から2年までの治療効果を検討した。  

    HIV陽性患者、心血管疾患の既往歴を有する患者、心エコー検査で左室ejection fractionが50%以下の患者、腎・肝・呼吸器障害、糖尿病、悪性腫瘍、精神疾患患者、妊婦、避妊をしていない女性、治験開始前3ヶ月間にステロイドを服用している患者、免疫抑制剤の服用歴のある患者は除外した。primary end-pointはEDSS scaleで少なくとも1点以上進行した患者の割合。secondary end-pointは以下の3点とした。1). 年間再発率と再発のない患者の割合、2). 投与開始時からのEDSSの変化、3). 脳MRIで投与開始時と投与12ヶ月後、24ヶ月後のT2画像での新しい病変か増大した病変の平均の個数。EDSSとMRI評価者はblindで、再発の有無は主治医により、blindではない条件であった。  

    primary end-pointは1年目では有意差はなかったが(p=0.08)、2年目ではMTX群が有意に少なかった(p=0.01)。しかし、1年目、2年目とも両群間に平均EDSS変化は有意差がなかった。年間再発率はMTX群で1年目(p=0.001)、2年目(p=0.005)とも有意に減少した。さらに、再発のない患者の割合もMTX群で1年目(p=0.003)、2年目(p=0.01)とも対照群に比して有意に多かった。MRI所見は有意な差はなかったが、治療群で新規病変数が少ない傾向が認められた(p=0.05)。副作用は重篤ではなく、重篤な脱毛、血液異常、心機能異常はなく、認容性が認められた。吐気(18%)、上気道感染症(6%)、頭痛(6%)、尿路感染症(4%)、下痢(2%)あり、一過性の無月経が5例で認められた。

    Edan G, Miller D, Clanet M, Confavreux C, Lyon-Caen O, Lubetzki C, Brochet B, Berry I, Rolland Y, Froment J-C, Dousset V, Cabanis E, Iba-Zizen M-T, Gandon J-M, Lai HM, Moseley I, Sabouraud O. Therapeutic effect of mitoxantrone combined with methyprednisolone in multiple sclerosis: a randomized multicentre study of active disease using MRI and clinical criteria. J Neurol Neurosurg Psychiatry 1997; 62:112-118.  

    活動性の高い患者を対象に、ステロイド大量単独群を対照にステロイド大量投与併用MTX投与群の治療効果を検討した。1992年10月から1994年10月までに、5つのフランスの大学病院を受診した活動性の高いMS患者42名を毎月MTX 20mgとメチルプレドニゾロン(MP)1g併用群とステロイド単独群とに分け、ランダムに割り付けし、6ヶ月間治療を行った。

    対象:
    臨床的次いで脳MRIの2段階で患者を選択した。まず、18から45歳までで罹病期間が10年以下のPoser診断基準で臨床的確実例を選択した。活動性が高いと評価した基準は、評価前12ヶ月間に後遺症を伴う再発が2回、あるいは同じ期間でEDSSが少なくとも2点以上の増加とした。SPMSは、経過中および期間前の再発の有無によらずに6ヶ月間徐々に障害が進行する場合とした。RRMSでは少なくとも1ヶ月間にステロイドパルス治療を必要とした患者、過去3ヶ月以内に免疫抑制剤を投与した患者、EDSSが6以上の患者、全身性疾患、心疾患、精神障害を有する患者は除外した。また、妊娠可能な年齢の患者では、産児制限を行った。  

    2ヶ月の観察期間で3回の脳MRIを施行し、MRI後に1gのMPを投与した。少なくとも1回の活動性病変が脳MRIで認められた患者を対象とし、ランダムに割り付けを行った。  

    第1段階で85名がエントリーしたが、43名が除外された。36名は脳MRIで新病変が出現せず、3名は心エコー検査で境界領域の結果であり、3名はエントリー前の臨床的な他の副作用が問題とされ、1名は重篤な再発のためであった。  

    MRI評価者は臨床情報に関してはblindで、独立した2名により行われた。T2病変は径5 mm以下を小、5から10 mmを中、10 mm以上を大と分類した。  

    再発の定義は、48時間以上持続する、神経学的障害を呈する自覚症状を有し、神経学的所見により評価され、先行した再発からは安定あるいは改善してから少なくとも30日以上経過したエピソードとした。

    評価基準:
    primary end-pointは、毎月の造影脳MRIで新病変のない患者の割合。 secondary end-pointは、患者ごとの毎月の新病変の数の平均、投与期間前後での新しいT2病変数、EDSS、再発回数。

    結果:
    MP群、MP+MTX群とも21例ずつで、SPMSは前者が6例、後者は4例で、残りはRRMSであった。  primary end-point:造影病変のない患者の割合は、エントリー時、MP; MP+MTX群で10% (MP群で4.8%)であったが、2ヶ月目から増加して、6ヶ月目には90.5% (MP群では31.3%、p<0.001)に達した。  

    secondary end-point:観察期間中の新しい造影病変は月当たり4.6から9.1であった。治療期間中、MP群では2.9から13.2で、MP+MTX群では0.1から2.6と低く、この違いは治療6ヶ月間の全期間で認められた。投与終了時での両者の差は有意であった(p<0.001)。持続して造影が認められた数を含めた、総造影病変数でも同じ結果であった。T2病変を治療前後で比較すると、新しい中(p<0.05)、大病変(p<0.01)ともMP+MTX群で有意に低かった。  

    EDSS:blindではないが、4ヶ月目でのみ平均EDSSはMP+MTX群で有意に低かった(p<0.05)。治療開始時点とのEDSSの変化を比較すると、MP+MTX群では2から6ヶ月の間、有意であり(p<0.001からp<0.05)、21例中12例でEDSSが1点以上改善が認められた(p<0.01)。  

    再発回数:
    2ヶ月の観察期間中の再発回数は、MP群で12回、MP+MTX群で9回で、治療中の6ヶ月間にはそれぞれ31回、7回と有意に低下した(p<0.01)。再発に対して投与されたステロイドパルスの回数は、それぞれ19回と5回で差があり、再発が認められなかった患者数は前者で7例、後者で14例と有意であった(p<0.05)。

    副作用:
    重篤な副作用はなく、このためにこの治験から中途で脱落した患者はいなかった。副作用はMP+MTX群でより多かったが、心毒性を呈した患者はいなかった。無月経8例、脱毛7例、吐気や嘔吐6例などで、MTX投与群では全例に2週間目に著明な白血球数の減少が認められたが、2, 3日で改善した。

    結論:
    非常に活動性の高いMS患者では、MP+MTX投与は6ヶ月間、臨床症状およびMRI所見の改善に効果的であった。

    二次進行例に対して  
    二次進行例を対象に、ランダム化された二重盲検試験が行われた。(Hartung H-P, Gonsette R, Konig N, Kwiecinski H, Guseo A, Morrissey S, Krapf H, Zwinger T, and the Mitoxantrone in Multiple Sclerosis Study Group (MIMS). Lancet 2002; 360:2018-2025.)

    RRMS 85%
        10年経過すると、50%はSPMSに。
    PPMS 10%
    PRMS 5%  
    SPMSに対するIFNβの効果は同じIFNβ1bを用いた結果でさえ、一定していない。

    対象:
    1993年6月から1997年7月までにベルギー、ドイツ、ハンガリーポーランドの17施設で参加した、18から55歳までのstepwiseに進行した患者や再発の有無を問わず進行する患者で、KurtzkeのEDSSは3.0から6.0までで、治験開始前18ヶ月前にEDSSが1.0以上増悪した患者を対象とした。治験前の8ヶ月前は臨床的な再発やステロイド治療は行われていない。また、治験前にMTXやIFN、Glatiramer acetate、細胞傷害性薬剤、全身放射線照射を受けた患者はいなかった。左室ejection fractionは50%以上で、白血球が4000以上、好中球は2000以上、血小板は10万以上の患者を対象とした。

    方法: 
    点滴の中に3 mg methylene blueを入れたplacebo群、MTX 5 mg/ m2群、12 mg/m2群の3群とし、3ヶ月ごとに24ヶ月間投与した。MTX投与群、特に高容量群では血球数により薬剤量を減量した。白血球数が3500以下あるいは血小板数が10万以下の場合、最初の量を12ではなく9 mg/m2に減量し、それぞれ3000以下あるいは7.5万以下なら6 mg/m2に減量した。その後の投与量は、その前の投与から3週間以内に感染症があったら10 mg/m2に減量した。仮に白血球数が2000以下あるいは血小板数が5万以下の場合、10 mg/m2に減量した。それぞれ1000以下あるいは2.5万以下の場合、8 mg/m2に減量した。EDSS scoreのFSが2点以上増悪する症状が48時間以上継続するか、錐体路、脳幹、小脳、視覚のうち少なくとも1つ以上のシステムで少なくとも1点以上の増悪があった場合再発と考え、500 mg/day 5日間のステロイドパルス療法を行った。  

    194例のうち、188例が24ヶ月間終了した。解析対象例は、placebo 47例、MTX高容量群48例、低容量群54例。  

    first end-pointは、24ヶ月後のEDSSの変化、24ヶ月後のambulation indexの変化、ステロイドを必要とする再発回数、このような再発までの期間、24ヶ月後の神経学的所見の変化。

    secondary end-pointは、EDSSが少なくとも1.0以上増悪した患者の割合、3ヶ月後と6ヶ月後のこのようなEDSS変化を示した患者の割合、最初に持続するEDSSの増悪を示すまでの期間、最初の再発までの期間、再発数と年間再発率、再発を示さない患者の割合、入院日数、車椅子の使用、Stanford health assessment questionnaireによるQOL。

    結果:
    高容量群は認容性があり、疾患の進行や再発抑制に効果が認められた。低容量群では有位差に乏しく、placeboと高容量群の中間的な結果であった。  

    高容量群とplacebo間で、first end-pointの各項目の全て、24ヶ月後のEDSSの変化(p=0.0195)、24ヶ月後のambulation indexの変化(p=0.0306)、ステロイドを必要とする再発回数(p=0.0002)、このような再発までの期間(p=0.0004)、24ヶ月後の神経学的所見の変化(p=0.0268)で有位差が認められた。  

    SPMSにおいてEDSSの変化で治療効果を評価する場合、superimposeする再発に影響されることが判っているので、治験終了後にSPMSとSRMSとで比較してみた。少数例での検討ではあるが、治験開始前の再発の有無では差は認められなかった。  

    24ヶ月後にEDSSが少なくとも1.0以上増悪した患者は、placeboでは16例だったが、高容量群では5例しかいなかった(p=0.013)。この差は3ヶ月後から認められた(p=0.036)。年間再発率(p<0.0001)、再発のない患者の割合(p=0.021)、治験以外の理由で入院した患者の割合(p=0.002)で、placeboに比してMTX高容量群で有意に成績が良かった。ADLの進行の違いからか、QOLでも両群間で優位差が認められた(p=0.024)。  

    脳MRIは110例で施行され、placeboとMTX高容量群との間に、24ヶ月後の造影病変数(p=0.02)、T2高信号病変数の増加(p=0.03)で有意に抑制効果が認められた。

    副作用:
    死亡や重篤な副作用は認められず、心不全や白血病は認められなかった。高容量群での副作用出現率は高く、
    吐気             76%
    脱毛             61
    上気道感染症       53
    尿路感染症        32
    無月経           25
    白血球数減少       19
    γ-GTP上昇        15  (全例39歳以上)
    心エコー所見の異常   11
    などであった。  
    治験開始3年後、左室ejection fractionが50%以下に低下した患者が低容量群、高容量群それぞれ2例に認められた。
    心不全について:  
    白血病や固形癌患者で総投与量が140 mg/ m2投与された患者の2.6-6.0%で薬剤に関連した心不全が出現するという報告がある(Dukart G, Barone JS. An overview of cardiac episodes following mitoxantrone administration. Cancer Treat Symp 1984; 3:35-41.; Mather FJ, Simon RM, Clark GM, von Hoff DD. Cardiotoxicity in patients treated with mitoxantrone administration. Cancer Treat Rep 1987; 71:609-613.)。本例では左室ejection fractionが50%以下に低下した患者が5 mg/ m2群、12 mg/m2群それぞれ2例に認められた。Edanらは、MTX 20mgを毎月12ヶ月間投与した患者群では、心機能に異常を示した患者はいなかったと報告した(Edan G, Miller D, Clanet M, Confavreux C, Lyon-Caen O, Lubetzki C, Brochet B, Berry I, Rolland Y, Froment J-C, Dousset V, Cabanis E, Iba-Zizen M-T, Gandon J-M, Lai HM, Moseley I, Sabouraud O. Therapeutic effect of mitoxantrone combined with methyprednisolone in multiple sclerosis: a randomized multicentre study of active disease using MRI and clinical criteria. J Neurol Neurosurg Psychiatry 1997; 62:112-118.)。Millefioriniらは8 mg/m2を毎月12ヶ月間投与した患者で、投与開始24ヶ月後に心機能の異常はなかったと報告した(Millefiorini E, Gasperini C, Pozzilli C, D’Andrea F, Bastianello S, Trojano M, Morino S, Brescia Morra V, Bozzao A, Calo’ A, Bernini ML, Gambi D, Prenzipe M. Randomized placebo-controlled trial of mitoxantrone in relapsing-remitting multiple sclerosis: 24-month clinical and MRI outcome. J Neurol 1997; 244:153-159.)。同様に、de Castroらは96 mg/m2まで投与した20例のRRMSでは心機能異常を認めていない(de Castro S, Cartoni D, Millefiorini E, Noninvasive assessment of mitoxantone in relapsing remitting multiple sclerosis. J Clin Pharmacol 1995; 35:627-632.)。Edanらは、平均29ヶ月、総投与量が平均70 mg/m2投与された800例では臨床的に心機能障害はなかったと報告した(Edan G, Brochet B, Clanet M, et al. Safety profile of mitoxantrone in a cohort of 800 multiple sclerosis patients. Multi Scler 2001; 7:S14 (Abstr))。  

    そこで、われわれは以下のような提案をしたい。左室ejection fractionの検査を投与開始時と総投与量が100 mg/m2に達したときに行うべきである、と。
  9. RRMSでのIFNβ治療による二次性進行経過への予防効果
    治療群1103例、対照群401例を7年間(median: 5.7年)経過観察した結果、治療群ではSPMSになった割合が減少し(p<0.0001)、少なくとも6ヶ月間持続し、非可逆的所見としてEDSSが4.0や6.0に達するまでの治療開始日からの期間が遅延することが判明(Ann Neurol 2007; 61:300-6)。つまり、IFNβ(ここでは3種類とも使用しています)治療により、進行が抑制できることが示されました。ここで用いられているSPMSの定義は、Schumacherの定義で(Ann NY Acad Sci 1965; 122: 552-68)、再発によるsuperimposeの如何を問わず、少なくとも6ヶ月間、症状や所見が一貫して増悪している状態で、EDSSの変化の割合自体は問うてはいません。ちなみに、有意差検定に用いているソフトは、SAS Statistical Package Release 9.1 (SAS Institute, Cary, NC)で、p valueは0.05で有意としています。  

    MSは従来は炎症性脱髄疾患と考えられてきましたが、今日では、軸索が一次性にも傷害されうることが判っていますし、炎症病変だけでなく、TrappによるN Engl J Medでの報告以来、変性過程が重要と考えられるようになっています。Neurodegenerationは病初期から出現し、回復することなく後遺症として蓄積してゆきますので、結果として脳萎縮や臨床経過としてはSPMSとして認められ、ADLの低下や知的レベルの低下として重要視されるようになってきました。従来の治療法、近い将来登場する治療は抗炎症作用を中心としており、薬剤効果としては再発抑制や脳MRIでの造影病変の抑制、新たに出現するT2病変形成の抑制を指標としています。変性過程そのものは、glutamateやCaの関与など、神経変性疾患と同様な機序が想定されていて、直接的な治療は困難と考えられてきましたが、MSの変性過程そのものは、ALSやSCDなど純粋な変性疾患とは異なり、Alzheimer病と似て、炎症反応の関与が以前から指摘されていました。つまり、炎症性病変の抑制により二次的効果として神経変性にも効果を及ぼしうることが想像されてきました。今回の報告は、臨床的にそれを裏付けるものと考えられます。  

    この論文のdiscussionで以下のような報告が引用されていました。  

    欧米でのclassic MSでは50%がSPMSへ移行すると言われていますが、自然経過としてSPMSへ移行する割合は、年に2-3%(J Neurol Sci 2003; 206: 135-7)。

    IFNβによる変性病変の抑制は、脳MRIでもすでに脳萎縮の進行抑制(Neurology 2005; 64: 236-40)や慢性的に出現するblack holesの形成抑制効果(Arch Neurol 2005; 62: 1684-8)として報告されています。  

    IFNβの変性抑制効果の機序としては、
     1). NGFの増加 (Arch Neurol 2005; 62: 563-8)
     2). 免疫反応による炎症性組織破壊の抑制 (Neurology 1998; 51: 682-9)
     3). 病的な鉄イオン沈着などの毒性機序の抑制 (Arch Neurol 2005; 62: 1371-6)  
  10. 夜間頻尿への治療法
    ちょっと変わった治療法がMSで紹介されています。抗利尿ホルモンであるdesmopressin 10-20 μgの点鼻が排尿回数の減少に有効で、外出や旅行時には日中にも使用して有用、という報告が出ています(Ann Neurol 1999; 46:497)。
  11. Hereditary sensory and autonomic neuropathies分類
    1993年にDyckがmonographを上梓した際の分類に、さらに二つの疾患が追加されました(Curr Opin Neurol 2006; 19:474-480.)。HSAN 1B (Kok C, et al. A locus for hereditary sensory neuropathy with cough and gastroesophageal reflux on chromosome 3p22-p24. Am J Hum Genet 2003; 73:632-637.)とHSAN with spastic paraplegia (Bouhouche A, et al. Autosomal recessive multilating sensory neuropathy with spastic paraplegia maps to chromosome 5p15.31-14.1. Eur J Hum Genet 2006; 14:249-252.)であります。
    AD
    HSAN I (別名:HSN I)
     Predominant loss of pain and temperature sensation, lancinating pain, variable distal motor weakness and wasting, acromutilations. Locus: 9q22.2, gene: SPTLC1
    CMT2B
     Prominent distal motor weakness and wasting, sensory loss of all modalities, acromutilating complications. Locus: 3q21.3, gene: RAB7
    HSAN 1B
     Sensory neuropathy with cough and gastro^oesophageal reflux, rarely ulsero-multilating complications. Locus: 3p22-p24, gene: unknown
    AR
    HSAN II
     Prominent distal sensory loss and mutilations, acropathy, disease onset in first or second decade. Locua: 12p13.3, gene: HSN2
    HSAN with spastic paraplegia
     Prominent sensory neuropathy with spastic paraplegia. Locus: 5p15-p14, gene: unknown
    HSAN III (別名:Riley-Day syndrome or Familial dysautonomia)  
     Prominent autonomic disturbance, pain and temperature sensory loss, alacrima, excessive sweating. Locus: pq31, gene: IKBKAP
    HSAN IV (別名:congenital insensitivity to pain and anhidrosis; CIPA)
     Congenital insensitivity to pain and anhidrosis, episodic fever, mental retardation. Locus: 1q21-22. gene:
    NTRK1
    HSAN V
     Congenital insensitivity to pain, bone and joints fractures, normal intelligence. Locus: 1p13.1, gene: NGFB
  12. 腰椎穿刺後頭痛の機序の解明に一助? 
    Natalizumaで増悪腰椎穿刺後に頭痛が出現するのは、脊髄液圧が低下するためで、漏出を少なくするための方法として、spinal tap針の太さや針先の形状が提案されています。しかし、その発生機序の詳細は実は良くは判ってはいないのではないか、と思わせる報告が出ています(Arch Neurol 2007; 64:1055-1056.)。2名の男性患者を含む23例のRRMS患者にNatalizumabを投与した際にspinal tapを行い、この際になんと30 mlも採液していますが、型のごとく、22-gauge Sprotte needlesを使用し、抜針する際にはstyletを入れ、1時間安静を保持。で、1例は入らずに中止。残る22例中5例(23%)で48時間以内に頭痛でClinicを受診。この頻度の高さが問題。治療中止14ヶ月後に再検した9例中頭痛が出現したのは、わずか1例のみ。機序の解析はしていないのですが、以下のような類推をしています。ウイルス性髄膜炎では腰椎穿刺後に頭痛が出現することは稀(Arch Pediatr 2005; 12:1199-1203.ただしフランス語のようであります)なんだそうな。この3種類の病態の違いは何か?pleocytosisだと言うのですね。NatalizumabはT, B細胞や形質細胞のCNSへの流入を強力に阻害しますので、CSF中の細胞数も激減。治療中止14ヶ月後の細胞数は書いてありませんでしたが、文脈から察しますと、細胞数が回復していたんでしょうね。CSF中の細胞がCSFの漏れの回復に関与したのかもしれません。単にpleocytosisが問題なら、viralだけでなく、結核性や真菌性でも同じハズですが、その議論はありません。ただ、活性化したリンパ球から放出されるサイトカインなどが関与する可能性は、あるかもしれません。血管に針を刺した後の止血とは機序が当然違うはずで、意外にこの世界は奥が深そうです。
  13. Eosinophilic meningitis and/or myelitis 
    東南アジアへ旅行した際に、調理が充分ではなかった魚や鶏肉(ニワトリやアヒル)、巻き貝を摂取した後で、「お土産」を貰ってしまうことで発症することが多いようで、米国だけでなく、日本でもこのリスクは同じです。東南アジアへの旅行者には要注意ですが、北米で感染する可能性のある病原体もいますので海外への旅行者には注意するべきでしょう。さて、上記の原因リストが記載されていました(Pract Neurol 2007; 7: 48-51)。
    Parasites:
      Angiostrongylus cantonensis
      Angiostrongylus costaricensis
      Gnathostoma spinigerum
      Trichinella spiralis
      Toxacara canis (or cati)
      Askaris-species
    Bacteria:
      Treponema pallidum
      Mycoplasma pneumoniae
      Rickettsia-species
    Viruses:
      Lymphocytic choriomeningitis virus
    Non-infectious/unknown causes:
      Idiopathic eosinophilic meningitis
      Primary CNS lymphoma
      Subarachnoid haemorrhage
      Ventricular drain  
  14. Post-streptococcal neuropsychiatric disorders Sydenham’s choreaをprototypeとする病態で、嗜眠性脳炎様のpost-streptococal ADEMという報告(Brain 2004; 127: 21-33)もあり、cortico-striato-thalamo-cortical circuitryの傷害を起こし、運動や感情、高次機能が障害されます。臨床的にこの一群をEncephalitis lethargica syndromeとも呼び、精神症状や睡眠障害、hypokineticあるいはhyperkineticな運動障害を呈します。
    Sleep disorders
       Hypersomnolence
       Sleep inversion
       Insominia
       Vivid nightmares
       Sleep-walking
    Psychiatric symptoms
       Mutism
       Anxiety/depression
       Apathy
       Obsessive compulsive behaviour
       Catatonia
       Agitation/confusion
       Aggression
       Disinhibition
    Hyperkinesias
       Dystonia
       Oculogyric crises
       Tics
       Stereotypies
       Hemiballism
       Chorea
    Parkinsonism
       Bradykinesia
       Rest tremor
       Rigidity
       Postural instability  
    これらの病態では、基底核に対する抗体が見出されることがあります。溶連菌との交叉反応によると考えられます。antibasal ganglia antibodiesが見出されるとして報告があるのは・・・
    Sydenham’s chorea
    Post-streptococcal ADEM
    Encephalitis lethargica
    Paediatric autoimmune neuropsychiatric disorders associated with streptococcal infections (PANDAS)
    Gilles de la Tourette syndrome
    Obsessive-compulsive disorder
    Infantile bilateral striatal necrosis
    Paroxysmal dystonic choreoathetosis
    Fixed dystonia syndrome
    Depressive disorders
    Enuresis
    Conduct disorder
    Attention deficit hyperactivity disorder, usually as a comorbidity with Tourette’s or obsessive-compulsive disorder
    (Prat Neurol 2007;7: 32-41)  
    最後は?という感じです。ほんまかいな?溶連菌感染と本当に関係しているのでしょうか?むしろ、先進国では細菌感染の機会が減少していて、きったなーい鼻水を垂らしている子供はほとんどいなくなりましたが、むしろADHは増加したんじゃありません?