2007年9月号

  1. 39例のautoimmune limbic encephalitis
  2. Paraneoplastic choreaの背景腫瘍
  3. 重篤なhypokinesisを呈した40歳男性例
  4. NMOにもCRPM-5-IgGが関与?
  5. MS発症に感染症が関与
  6. NMO IgG陽性NMOで血漿交換療法
  7. IFNβ1bは自己抗体を誘導しない
  8. NMOはMSとは異なる病態なのか?
  9. NMOのreviewがたくさん出ています。
  10. MSでのIFNβ治療作用機序などの詳細な総説
  11. MS妊娠中の治療に使える薬剤
  12. 第6回MSワークショップ
  13. Young Investigators Session
  14. NMOに対するPSL+Az治療論文への疑惑
  15. 日本人MS患者さんへのMitoxantrone療法
  16. 小児期の日光照射量が多いとMSのリスクが小さくなる
  1. 39例のautoimmune limbic encephalitisをまとめた報告がUniv PennのProf. Dalmauのラボから出ています(JNNP 2007;78:381-5)。自己抗体は、抗Hu抗体 (7例)、抗Ma2 (6例)、抗VGKC (5例)、海馬、時に小脳と反応するnovel cell-membrane antigensに対する抗体が17例で見いだされています。最後の抗体は、perfusion処理せずにparaformaldehydeで数日間固定されたラット脳の海馬の分子層や小脳のneuropilと反応し、血清よりもCSFで検出されやすい特徴があるそうです。ほとんどの患者は卵巣奇形種か胸腺腫瘍を有しており、腫瘍に対する治療や免疫療法に良く反応(JNNP 2007;78:332-3)。

  2. Paraneoplastic choreaの背景腫瘍としては、肺小細胞癌、胸腺種、リンパ腫、腎癌があり、関連する自己抗体は抗CRMP-5。喫煙歴があり、舞踏病発症に先立って、性格変化や精神症状を呈し、Huntington病のような経過を示した69歳女性が報告されています(Movement Disord 2005;20:1523-7)。この方の背景腫瘍は不明。剖検ではCD8優位の細胞浸潤が線状体で見いだされています。Paraneoplastic choreaのMRIとしては、本例も含めて、尾状核と淡蒼球が障害され、視床が保たれます。
  3. 重篤なhypokinesisを呈した40歳男性例 を呈した40歳男性例で抗Ma2抗体が見いだされ、東大から報告されました(Movement Disord 2007;22:728-31)。Ma2は42kDaの主に核に存在する蛋白ですが、paraneoplastic limbic, diencephalic, and brainstem encephalitisのマーカーとして知られ、50歳以下の若い男性ではtestisに腫瘍があることが多いことでも知られています。severe hypokinesisを伴った、anti-Ma2 encephalitisは文献上では他に3例しかないそうです。
  4. NMOにもCRPM-5-IgGが関与?
    Collapsin response-mediator protein-5 (CRPM-5)は、肺のSCLCを背景に視神経炎と網膜炎を呈する傍腫瘍性神経症候群のマーカーとして報告されました(Ann Neurol 2003;54:38-50)。原著報告の中で、16例のCRMP-5-IgG陽性視神経炎のうち、3例でNMO類似の脊髄MRI所見を呈しました。2例でlong cord lesion (LCL)があり、残りの1例ではT2高信号病変が胸髄にpatchyな病変が認められました。Mayo ClinicのDr. Lennonらはsubacute inflammatory myelopathyでCRMP-5-IgG陽性、という病態があることを見いだしうるそうな(unpublished data)。  

    また、inflammatory transverse myelitisの63例中17例でamphiphysin IgG (弧発例では、乳癌を背景に、stiff-personやmyelopathyを呈します)が認められた、という報告もあります(Ann Neurol 2005;58:96-107)。多くの患者でLCLがMRIで見いだされています。脊髄実質内にCD8陽性T細胞浸潤が認められており、HuやYoとの類似性が認められます。  

    このように、amphiphysin IgGとCRMP-5-IgG陽性患者の類似性が指摘されています。通常、亜急性で、運動神経障害優位で、脊髄液では軽度の細胞数増多と蛋白増加が認められます(Curr Opin Neurol 2006;19:362-8)。
  5. MS発症に感染症が関与していることは確かと思われますが、生直後の生活環境が重要と言われています。6歳以下の時期に、2歳児未満の兄弟と接触する時期が長いと、MSのriskが減少することが、オーストラリアのタスマニア島での136例のMS患者を対象とした疫学研究で明らかになっています。  
    MSでprotectiveな要因として知られているのは・・・
     1). 非喫煙者、
     2). ビタミンD摂取、
     3). 多い日光照射量。
    (JAMA 2005;293:463-9)
  6. NMO IgG陽性NMOで血漿交換療法が有効であることが東北大学からも報告されました(Multiple Sclerosis, 13:128-32, 2007)。6例の患者で施行し、3例(1例はoptic neuritis、2例はmyelitis)で有効。1-2回施行後から改善が認められています。MRIでの脊髄所見の改善も認められています。
  7. IFNβ1bは自己抗体を誘導しない 
    24ヶ月間、355例のMS患者の投与後6ヶ月ごとに24ヶ月間、ANAやAMA, ASMA、抗甲状腺抗体などを測定し、353例のplacebo群と差がなかったことが報告されています(Neurology 2005;64:996-1000)。抗aquaporin4抗体の意義が未だ不明なので、NMOがantibody-mediatedとは限りませんし、DFPPでが効果がなく、単純血漿交換やトリプトファン吸着療法しか効果がないことから、MGやLEMSのような単純な病態ではないことが示唆されます。が、抗体がなんらかの関与をしているとすれば、IFNβ治療の可否は重要な課題。少なくとも、抗体産生を増強はしないようですネ。
  8. NMOはMSとは異なる病態なのか?をテーマとしたControversies in Neurologyシリーズの一環が記載されています(Arch Neurol 2007;64:899-906)。  

    Mayo ClinicのDr. Weinshenkerは当然のごとく、異なる病態として記載し、両者の違いの比較表を提出しています。また、NMOの診断基準を満たさないがNMO IgGが見いだされる、recurrent myelitisやrecurrent optic neuritisをNMO spectrum disorderとしてNMOと同様な治療法を考慮するべき対象として考えています。  

    これに対して、Univ PennsylvaniaのDr.GalettaはNMOはMSと異なる病態とは考えてはおらず、Univ Texas Southwestern Med CtrのDr. FrohmanはNMOが他のinflammatory demyelinating syndromeとは違った病態であることに異論は示してはいないようです。Mayo Clinic以外の二人がNMO IgGが疾患マーカーとしても、病態に本質的ではないと考えている根拠は、
    1. 特異性が91%とはいえ、感受性が73%と低く、NMOの診断法としてはgold standardというにはほど遠い。
    2. ヒトNMO病変で沈着しているのはIgMであって、IgGではなく、NMO IgMは見いだされていない。脊髄病変にIgGは沈着していない。
    3. NMO IgGの対応抗原であるAQP-4が存在しているのは、astrocytic endfeetで病変部位から距離的に離れている。
    4. NMO IgGの動物へのpassive transferに成功していない。
    5. AQP-4が高率に発現している腎や小脳に傷害がない。
    6. NMO IgG titerと疾患活動性の相関が乏しい。
    7. rituximabなどで症状が軽快しても、NMO IgG titerが減少しない。
    8. 培養系でNMO IgGが細胞傷害を示しても、IgG1は補体結合性があるため、補体が存在すれば細胞傷害を起こしてしまう。
    9. IFNβやGlatiramer acetateがNMOでは効かないとされ、反応する治療法が異なることがMSとNMOの病態が異なることの根拠ともされているが、rituximabや血漿交換療法は両者で有効であり、本当に両者の病態に際立った違いがあると言えるのか?

  9. NMOのreviewがたくさん出ています。
    Wingerchuk DM. Diagnosis and treatment of neuromyelitis optica. Neurologist. 2007 Jan;13(1):2-11.
    Weinshenker BG, Wingerchuk DM, Pittock SJ, Lucchinetti CF, Lennon VA. NMO-IgG: a specific biomarker for neuromyelitis optica. Dis Markers. 2006;22(4):197-206.
    Mandler RN. Neuromyelitis optica - Devic's syndrome, update. Autoimmun Rev. 2006 Oct;5(8):537-43.
    Pittock SJ, Lucchinetti CF. Inflammatory transverse myelitis: evolving concepts. Curr Opin Neurol. 2006 Aug;19(4):362-8
    Wingerchuk DM. Neuromyelitis optica. Int MS J. 2006 May;13(2):42-50.
    Wingerchuk DM. Evidence for humoral autoimmunity in neuromyelitis optica. Neurol Res. 2006 Apr;28(3):348-53.
  10. MSでのIFNβ治療作用機序などの詳細な総説が出ています(日本臨床 2006;64: 1297-1309)。著者は神経センターの山村部長の下にいた、佐藤準一・明治薬大教授。現時点でのIFNβ治療の問題点がまとめられています。
     1). 治療効果発現機序が充分解明されていない。
     2). 至適投与量、投与法、投与期間が決まっていない。
     3). Non-responderの存在。
     4). 免疫原性のため中和抗体が出現することがあり、治療効果が減弱する。
     5). 副作用により中断せざるを得ないことがある。
  11. MS妊娠中の治療に使える薬剤 
    米国FDAによるpregnancy categoryでは、CyclophosphamideやAzathioprineは文句なく、ヒト胎児へのriskが証明されているcategory D。DexamethasoneやMethylprednisolone, IFNβ, Natalizumab, Cyclosporin A, IVIgはいずれもcategory Cで、ヒトでの証明はないものの、動物レベルでは胎児へのriskが証明されており、riskが否定できない治療法として評価されています。最も安全なのは、Glatiramer acetate (日本未発売―かつて、MS SocietyのDr. Byron EaksmanがNature誌上で、怪しげな薬剤とぼろくそに批判したことがありますが、消滅することなく生き残っています。確かに妙な薬剤ですが、今や、ADにも効果があるかもしれない、とてもユニークで面白い薬剤)のみで、妊婦での投与例では、riskが報告されていない、category B。  

    Steroidが最も困ります。Hydrocortisoneやcortisoneは胎盤を越え、胎盤の酵素である11β-dehydrogenaseによりhydrocortisoneからcortisoneへ変換させ、これは生物学的には非活性。故に、ステロイド治療が必要な場合は、hydrocortisone, sortisone, prednisoneを使用するべき。Dexamethasone, betamethasone, methylprednisoloneは胎盤を越えるので、胎児にステロイド治療が必要な場合に使用。  

    妊娠中に再発してステロイドパルスが必要になった場合、非妊婦と同様に投与しても構わない、という論文は出ています(Eur J Neurol 2005;12:939-46)。  

    短期間のprednisoneは一般的には安全と考えられてはいますが、催奇形性があるため、the first trimesterでは1-2 mg/kg/dayは避けるべきで、second or third trimesterでは5-10 mg/dayあるいはそれ以上の容量は安全だそうな。(Expert Rev Neurotherapeutics 2006;6:1823-31)
  12. 第6回MSワークショップが2007年8月4-5日に札幌で開催されました。今回のテーマは、「NMOの病理」「抗AQP4抗体測定」「病型とベタフェロン反応性」。他に、Young investigators sessionと題して、留学前の若い研究者による研究報告、教育講演や特別講演がありました。  

    東北大・三須先生はBrain誌上で発表した、NMOの病理について紹介しました。AQP4がNMOの標的となっているという根拠について、以下のようにまとめました。
     1). 病変はAQP4の多い部位に局在。(Misu, 2005, Nakashima 2006, Pittock 2006)
     2). AQP4はNMO-IgGの反応局在に一致するastrocytesの血管足に発現。(Lennon 2004, 2005, Misu 2006)
     3). titerと病態活動性が相関。(高橋 2006)
     4). 脱髄は二次的。(Misu 2006)
     5). GFAとともにAQPは減少しており、astrocytesが標的。(Misu 2006)
     6). BBBの障害がNMOの病態に関与。(Misu 2007)  

    抗AQP4抗体測定法の統一が問題とされていましたが、意外に余り変わらないというのが今回の結論。東北大のように、患者血清で反応させた後にAQP4を発現させた細胞を固定すると染色パターンが変化する可能性も指摘されましたが、他の免疫染色と比較すると、この系では陽性/陰性の区別が付きやすい、と新潟大・田中恵子がコメント。  

    九大の吉良教授は、視神経や脊髄症状がなく、大脳症状しかないMSでも、抗AQP4抗体が陽性の症例報告が地方会レベルではあること、高力価の抗AQP4抗体患者と陰性あるいは低力価の患者では、細胞内サイトカインパターンが異なるので、免疫の病態が異なる、とコメント。
  13. Young Investigators Sessionと題して、第6回MSワークショップで講演がありました。慶応大神経内科・中原 仁先生による「髄鞘形成機構の基礎的理解と髄鞘再生療法への応用を目指して」は、ほんまに凄かったです。医学生の頃からfirst authorで英文を発表し、卒後わずか4年ほどで、まるで理研のチームリーダーのような講演。Wolswijk G (J Neurosci 1998)によれば、oligoは少し減少している程度で、oligoの前駆細胞であるOPCはMS病変部位では多数残存していることが示されているそうです。なぜ、晩期のMSでの髄鞘再生ができなくなっているのか?そこで、dysregulation hypothesisが提唱されており、病変部位ではOPC分化に必要な環境がMSでは失われているのではないか、というもの。OPCの分化誘導には、FcRγが重要な働きをしているそうです。plaque edgeのFcRγ陽性OPCは、Oligo1を発現。治療に応用する場合、以下のような問題点があるそうな。
     1). BBBではFcRγがあって、脳内のIgG半減期は正常マウスでは約48分と言われ、FcRγがIgGを入れない機序になっている。
     2). OPCでは抑制型IgG-FcR (FcγRIIb)が発現。
     3). マクロファージによるphagocyteが起きる可能性。  

    脱髄軸索特異的蛋白としてContactinがあり、これと反応するとともに、FcRと反応するbispecificな抗体(bispecific F (ab)2)を使用できるかもしれない。髄注は可能?CSFのContactinが軸索病変の指標になりうるか?  

    名古屋大学環境研・神経免疫の竹内英之先生は、「ミクログリアを標的とした神経変性の治療戦略」を講演。restingとactivated microgliaでグルタミン酸生合成経路が異なるそうで、resting microgliaではグルタミン酸をグルタミン酸トランスポーターにより、TCA cycleから合成される、と。一方、activated microgliaではグルタミンを取り込んで、グルタミナーゼで合成され、ギャップ結合からグルタミン酸を大量に放出し、神経細胞をapoptosisに。そこで、グルタミナーゼ阻害剤やギャップ結合阻害剤はMSや変性疾患の治療に応用できるのではないか、と。
  14. NMOに対するPSL+Az治療論文への疑惑 
    東北大学神経内科助教授だった藤原先生は、IFNβ1bを発売している日本シェーリング(現:バイエルン)からの寄付講座として、多発性硬化症治療学が開設され、教授に就任されました。藤原先生は、「多発性硬化症におけるステロイドの役割」と題して講演されました。この中で、以前から私的には指摘されていましたが、NMOの治療として有名なMandler論文(1998年)の対象患者は、monophasic NMOではないか、と考えられる、と批判。
  15. 日本人MS患者さんへのMitoxantrone療法の当院自験9例のまとめが発表されました(臨床神経, 2007;47:401-6.)。
  16. 小児期の日光照射量が多いとMSのリスクが小さくなるという一卵性双生児を対象とした疫学的研究で裏付けられました(Neurology 2007;69:381-8)。若年時に毎週2-3時間日光に暴露されるとMSのリスクが60%減少する、というTasmaniaからの報告がすでに出ていますが、日光暴露がまだ知られていなかった1993年以前の照射量を用い、遺伝的背景との関連も検討するために一卵性双生児を対象に。その結果、上記が証明され、genetic susceptibilityとはindependentな防御効果があることが示されました。