2007年5月号

  1. 5月下旬から多発性硬化症の治験が開始
  2. MSのMRI-2
  3. MRIの新たなリスク
  4. Multiple Sclerosis Therapeutics
  5. NMOの25%
  6. MS患者さんは初期で運命が決まる
  7. IFNβ1bはNMOで再発を誘発する?
  8. マーカスガン  
  9. NMOは二次性進行型には進展しない
  10. 第11回日本神経感染症学会-1
  11. 鹿児島県ではGSSがSCA6やMJD並に多い!
  12. Relapsing “encephalo”polychondritis
  13. Immune-mediated autonomic neuropathies
  14. 男性のX-linked ALDのphenotype
  15. 女性のheterozygous X-linked ALDのphenotype
  16. 正常型プリオン蛋白の働き
  17. 第15回Neuroimmunologists Forum
  18. Small-fiber sensory neuropathyの特徴
  19. HTLV-1の起源
  1. 5月下旬から多発性硬化症の治験が開始
    FTY720(Fingolimod)という内服薬。漢方でも利用される、myriocinの誘導体。この薬剤は体内で速やかにリン酸化され、リンパ球表面上のsphygosine-1 phosphate (S1P) 1受容体のスーパーアゴニストとして作用し、S1P1受容体をを内在化させます。これにより、リンパ球はS1P1シグナルに応答できなくなります。リンパ球はリンパ節や二次リンパ組織から全身の循環系に流出する際に、S1P1シグナルが必要なので、このシグナルが入らなくなりますとリンパ球は流出できなくなります。MSでは、病変を形成するリンパ球がリンパ節でtrapされたまま出られなくなりますので、血管内のTおよびリンパ球数が減少し、中枢神経内に侵入するリンパ球が減少することとなります。しかし、この減少は可逆的で、薬剤を中止するとリンパ球は再び末梢血中に流出できるようになります。リンパ球を殺すわけではないようです。しかし、リンパ球の寿命を超えて長期間服用すれば、拉致しませんが、homingしたリンパ球をそのまま死ぬまで監禁することにはなるでしょう・・・ということは、服用を中止すると、リバウンドが起きることが予想されますね。  

    FTY720 Study Groupによる6ヶ月間の255例を対象としたdouble blindの結果が報告されています(N Engl J Med, 355:1124-40, 2006)。IFNβや国内では発売されてはいませんが、Glatiramer acetateでは30%まで再発を減少させると言われているのに対して、本剤ではGdで造影される新病変出現は、placeboの55%にまで低下させ、IFNの効果の約2倍あることが示されました。  

    この薬剤の最も頻度の高い副作用は容量依存性の一過性の心拍数減少で、治験では投与初日は入院しモニターすることになっています。これをチェックすると、placeboかどうか判ってしまいますので、初日にチェックする医師は治験には参加しないというシステムになっています。255例の投与例では1例だけ、posterior reversible encephalopathy syndromeをきたしています。機序は不明。NatalizumabではIFN併用例でPMLの合併が問題となり、一時発売が中止されましたが、Tリンパ球の中枢神経の監視体制が低下し、JC virusの活動が活発化する危険性は否定できず、riskは不明(N Engl J Med, 355:1088-91, 2007)。
  2. MSのMRI-2
    造影剤でリング状に増強されることがありますが、脳腫瘍や膿瘍との鑑別に、皮質側のリングが途切れるという現象が報告されています(Neurology 54:1427-33, 2000)。これは、邦文の総説ではしばしば引用されている有名な現象。Gliomaでは均一にリング状に造影されると言われますね。  

    後述しますように、MSでの脳萎縮の報告はたくさんあって、その多くがMSでは年間1%の割合で脳萎縮が進行することが示されています(Arch Neurol, 64:167-7, 2007)。
  3. MRIの新たなリスク
    妊婦では、器官が形成される時期での影響が不明なため、妊娠4ヶ月以内までの検査は避けた方がよいとされています。これは知らなかったのですが、最近のコンタクトレンズの中には酸化鉄などの金属を含むものがあり、MRIにより発熱によって角膜や眼球に障害を与える可能性が指摘されていて、レンズを外して検査を受ける必要があるそうです。(医事新報, 4311:96, 2006)
  4. Multiple Sclerosis Therapeutics
    Third edition, ed by Cohen JA & Rudick RA, Informa healthcare, 2007が出版されました。
  5. NMOの25% でCSF中neurofilament heavy chainが高いという報告が東北大から出ています(Neurology, 68:865-7, 2007)。NMOでは病理学的に、組織の壊死、灰白質の傷害、cavity形成が認められ、神経細胞死や軸索傷害のbiomarkerであるCSF neurofilamentが高くなることが予想されます。NMOの24例中6例(25%)で高値で、この数値はALS並であることが判りました。しかし、以前の東北大での結果、NMO IgGと重症度を示すEDSSとの間に相関がなかったことと同じく、今回の結果はNMO IgGとの相関もなかったそうです。抗Aquaporin4抗体(NMO IgG)により軸索傷害を起こし、CSF neurofilamentが高くなりEDSSが悪化する、という構図が判りやすいのですが、なかなか証明はできないようです。
  6. MS患者さんは初期で運命が決まる
    MSでは脳萎縮が機能予後との関連で注目されていて、いくつかの総説が出ています(Zivadinov R, Leist TP. Clinical-magnetic resonance imaging correlations in multiple sclerosis. J Neuroimaging., 15(4 Suppl):10S-21S, 2005.; Frohman EM, Filippi M, Stuve O, Waxman SG, Corboy J, Phillips JT, Lucchinetti C, Wilken J, Karandikar N, Hemmer B, Monson N, De Keyser J, Hartung H, Steinman L, Oksenberg JR, Cree BA, Hauser S, Racke MK. Characterizing the mechanisms of progression in multiple sclerosis: evidence and new hypotheses for future directions. Arch Neurol., 62:1345-56, 2005.; Imitola J, Chitnis T, Khoury SJ. Insights into the molecular pathogenesis of progression in multiple sclerosis: potential implications for future therapies. Arch Neurol., 63(1):25-33, 2006.; Bermel RA, Bakshi R. The measurement and clinical relevance of brain atrophy in multiple sclerosis. Lancet Neurol., 5:158-70, 2006.)。当然ですが、脳萎縮が認められるような場合、ADLは悪く、萎縮がどうして起きるのか、どうしたら予防できるのかが重要な課題になっています。診断時と2年後を比較して、診断時にすでに脳萎縮があり、T2病変が多い患者は2年後に脳萎縮がより強いことが示されました(Jasperse B, Minneboo A, de Groot V, Kalkers NF, van Helden PE, Uitdehaag BM, Barkhof F, Polman CH. Determinants of cerebral atrophy rate at the time of diagnosis of multiple sclerosis. Arch Neurol., 64:190-4, 2007.)。つまり、診断時点で、その後の運命が決められている、言い換えれば機能予後を規定する病態は初期から始まっており、病初期での脳萎縮予防が重要。
  7. IFNβ1bはNMOで再発を誘発する?
    投与90日以内に再発を誘発することがあるのではないか、という議論は2002年の神経学会関東地方会で防衛医大から報告され、帝京大学からも類似例の存在がフロアーから追加発言されたことを、筆者は2003年に神経内科に紹介しました(神経内科, 58:225-6, 2003)。これらの東大の関連病院の患者さんもまとめて、清水医師から、平成18年度の免疫性神経疾患調査研究班の班会議で報告され、あらためて注目されました。ほぼ同じ時期に東京都神経病院の蕨らが同じ趣旨の報告をしています(J Neurol Sci, 252:57-61, 2007)。重要なのは、本当にLCL-MS/NMOではIFNβ投与初期に再発が誘発されるのかどうかで、統計処理が必要です。いずれの報告も、症例報告の域を出ておらず、確定的ではありません。現時点では、LCL-MS/NMO患者さんの中には、効いているように見える患者さんもいらっしゃいますので、禁忌とは考えてはおりませんが、経口のステロイド剤を併用するなどの対応は必要に思われます。
  8. マーカスガン
    瞳孔対光反応の求心路において、ヒトでは視神経交叉および中脳での、交叉および非交叉線維の割合はほぼ同数であるので、直接対光反応も間接対光反応もほぼ同程度に起こり、一眼を刺激していた光をすばやく他眼に移しても、瞳孔の大きさはほとんど変わりません。しかし、対光反応の遠心路は正常で一側の視神経または網膜など視神経交叉より末梢に障害がありますと、患眼の直接対光反応は間接反応より減弱するため、健眼より患眼に光を移すと患眼(健眼も)の瞳孔は散大します。また光を患眼から健眼に移しますと、両眼の瞳孔は縮小します、この場合の患眼を、Marcus Gunn瞳孔、あるいはswinging flashlight test陽性とよびます。視神経交叉より末梢の障害を検出するのに有用な検査。 
  9. NMOは二次性進行型には進展しない という報告がMayoから出ました(Neurology, 68:603-5, 2007)。欧米の通常のMS患者の2/3は二次性進行型に移行すると言われています。NMOでは失明の頻度が高く、脊髄には3椎体以上の長い病変が形成され、多くはこのために対麻痺になって車椅子生活を余儀なくされます。病初期から、破壊的な病変が形成される傾向が指摘されています。ならば、この病型では、通常のMSよりは二次性進行型に移行しやすいのではないかと考えられますが、事実は逆でした。国内でも、OSMSは二次性進行型へは移行しない、と当院から齋田が以前、報告しています。二次性進行型の病態は軸索障害によると考えられますが、これとNMOの破壊的病変とは全く背景が異なることが示唆されます。
  10. 第11回日本神経感染症学会-1が2006年10月13-14日に三重大・葛原教授の主催で伊勢市で開催されました。

    国立感染症研究所感染症情報センターの谷口先生は、「鳥インフルエンザと新型インフルエンザ」と題して講演されました。2003年末に韓国で最初に報告されたH5N1亜型のトリインフルエンザは、アジア、中東、アフリカ、ヨーロッパに拡大し、すでに58ヶ国で認められ、2006年7月4日(意味は不明ですが、USAの独立記念日)現在、10ヶ国で229例のヒトの感染例が報告されているそうです。新型は軽症例はなく、感染すると6割は死亡。これは全身感染を起こし、肺や小腸などで増殖し、サイトカイン誘導能が高いためと言われています。ベトナムでは下痢が多かったそうな。髄膜脳炎が2例報告されています。咽頭ぬぐい液1回の検査では診断には不十分。これは肺での増殖が多いため。治療は全身管理が中心。ARDSになることも。タミフルの効果は不明。診断のkey wordsは、急な発熱、全身倦怠感、筋痛、関節痛、鼻汁、咳、病鳥との接触。予防対策は、患者自身のエチケット、咳対策、個室対応。SARDSと同じそうです。医療関係者など、患者と濃厚接触したら、タミフルを服用。濃厚接触すれば、ヒトーヒト感染があり得ることがタイ、ベトナム、インドネシアで家族内感染として証明されています。  

    三重大の葛原教授は「ウイルス性脳炎と急性散在性脳脊髄炎」と題して、会長講演をされました。14年間で前者が20例、後者が15例。ウイルス性脳炎の診断基準は、
     1). 急性発症の大脳機能障害
     2). 38度以上の発熱
     3). CSF単核球の増加
     4). 脳波異常 
    を満たすもの。  
    一方、ADEMの基準は、
     1). 散在性症候を呈する急性脳炎、脳脊髄炎
     2). CSF細胞数増加
     3). 単相性経過
     4). MRIで多発性病変
    以上の複数項目を満たすもの。  

    ADEMが初期にはウイルス性脳炎と診断され、抗ウイルス剤のみを投与されていたことが少なくなかった、という。後者であってもステロイド剤投与は今日行われるでしょうし、以前、松井先生(現・金沢医大教授)が報告されたように、両者の病態の上での相違は臨床的には難しいようにも思われます。が、葛原先生によれば、両者の初期症状には共通点が多いけれども、ウイルス性脳炎ではJCSが三桁の意識障害をきたすのに対し、ADEMでは2桁以下が多く、ADEMでは高度の尿閉をきたしやすい、と。MRIはADEMの診断に必須ではなく、初期には40%で異常はなかった、と。  

    東京逓信病院の木村先生は、我が国でのHIV感染症の最近の動向を示されました。世界中でHIV感染症/エイズ発症者が増加していますが、中国やインドなどの人口大国での増加が著しいそうです。日本では米国とは異なり、死亡者数も増加している特徴があります。現在、潜伏期は大体10年と言われ、2004年から1年間の新規HIV感染症/エイズ発症者は1000名を超えていますが、日本では感染者の20%しか把握できてはいない、と。また、日本人男性のHIV感染者が増加しており、特に同性間での感染が増加しているそうな。
  11. 鹿児島県ではGSSがSCA6やMJD並に多い!という衝撃的な報告が平成18年度の運動失調班の班会議で鹿児島大学から11家系14例示されました。初発年齢は平均60.9歳(38-73歳)で、遺伝子検査で、コドンPro102Leuのヘテロ接合体、コドン129のMet、219Gluのホモ接合体が全例で認められています。その特徴は、
     1). 通常初発症状となる不安定歩行
     2). 体幹失調 (上肢の失調は稀)
     3). 下肢の深部腱反射消失
     4). 下肢の有痛性しびれ(デルマトームに一致せずびまん性)
     5). 下肢近位部の筋力低下
     6). 軽度の構音障害  
    重要なことは、初期に痴呆を呈したのは14例中1例のみ。MRIは病初期には正常例が多く、小脳萎縮はない。進行すると、拡散強調画像で大脳皮質に異常を認め、最終的には大脳、小脳、脳幹などに著明な萎縮が見いだされます。多くは整形外科を受診していたそうです。SPECTは初期からモザイク状に低下し、主に後頭葉に血流低下が認められます。一方、小脳の血流は保持。ところが、PETでは後頭葉よりも前頭葉で低下していたそうな。  

    一般に、GSSでは小脳失調が診断では重要な特徴と考えられていますが、初期には大脳、脊髄の病変が主体で、早期診断では痴呆や小脳症状は役に立たない、と。検査ではSPECTが最も早期に病変を検出可能。    臨床的には、躯幹失調、構音障害を呈する患者さんで、深部腱反射の減弱、MRIで小脳萎縮を認めない場合はプリオン蛋白遺伝子の検索をするべきだそうです。

    この報告はすでに論文になっています(Neurology, 66:1672-8, 2006)。ところが、深部腱反射の消失や有痛性しびれの原因が脊髄後角の障害であることを、すでに1999年にまだ東京医科歯科大学にいらっしゃった金沢大学の山田教授が報告しています(Neurology, 52:260-5, 1999)。
  12. Relapsing “encephalo”polychondritis が紹介されていました(Practical Neurology, 6:372-5, 2006)。  
    この総説によりますと、神経症状は5%に出現し、病理ではvasculitisとparenchymal inflammationが認められ、多いのはrelapsing polychondritisの診断基準にも入っているsensorineural hearing lossで、他には・・・
    Meningoencephalitis
    Cranial nerve dysfunction (特に、VIII, VII, VI & II)
    Disorders of higher mental function
    Seizures
    Isolated cerebellar syndrome
    Stroke-like episodes, often attributed to cerebral vasculitis
    “idiopathic” CSF pleocytosis has been noted in neurologically asymptomatic patients
    Limbic encephalitis (京大例はこれに該当しますが、このreviewによりますと、文献的には日本からの2例しかないそうです。その報告として引用されているのが、Fujiki, F, et al: Non-herpetic limbic encephalitis associated with relapsing polychondritis. JNNP, 75:1646-7, 2004)  
  13. Immune-mediated autonomic neuropathies
    Acute autonomic neuropathy (acute pandysautonomia)
    Acute cholinergic pandysautonomia
    Acute autonomic and sensory neuropathy
    GBS
    Orthostatic intolerance (postural orthostatic tachycardia syndrome)
    LEMS
    Other paraneoplastic neurologic syndromes (anti-Hu, anti-CV2, anti-PCA2, anti-CRMP5)
    Holmes-Adie syndrome
    Rheumatologic diseases (RA, Sjogren, SLE, MCTD)
    Enteric neuronopathy
    Hyperexcitability syndromes (Isaacs syndrome, Morvan syndrome)
    (Curr. Neurol. Neurosci. Reports, 6:57-64, 2006)
  14. 男性のX-linked ALDのphenotype
    1. CCER (childhood cerebral ALD) 3-10歳で発症
    2. 成人型 CCERに類似するが、多少は進行が緩やか。11-21歳発症
    3. AMN 28±9歳で発症。主に脊髄を傷害するが、distal axonopathyも。約40%で大脳が障害。
    4. Adult cerebral dementia, behavioral disturbances. 時にAMN先行なしに局所症状を呈する。
    5. Olivo-ponto-cerebellar
    6. Addison only 通常は7.5歳以前に発症。ほとんどの患者はAMNに。
    7. Asymptomatic 詳細に調べると、adrenal hypofunction or subtle signs of AMNがしばしば認められる。
      (Nat. Clin. Practice, 3:140-51, 2007)

  15. 女性のheterozygous X-linked ALDのphenotype
    1. Asymptomatic no evidence of adrenal or neurologic involvement
    2. Mild myelopathy Increased deep tendon reflexes and distal sensory changes in lower extremities, with absent or mild disability
    3. Moderate to severe myeloneuropathy AMNに類似するが、より軽症で発症が遅い。
    4. Cerebral involvement 小児ではまれ。2%以下。
    5. Clinically evident adrenal insufficiency 稀。1%以下。
      (Nat. Clin. Practice, 3:140-51, 2007)

  16. 正常型プリオン蛋白の働き
    ノックアウトしたマウスでもほぼ正常に生きてしまうために、正常型プリオンの働きは良く判りませんでした。米国マサチューセッツ州のホワイトヘッド研究所のグループは、マウスの多くの幹細胞の表面全体に、プリオン蛋白が付着していることに気づきました(PNAS, 103:2184-9, 2006)。プリオン蛋白を欠く幹細胞は、正常型プリオンを持つ幹細胞と比較して寿命が短く、新しい細胞を作ることができませんでした。しかし、プリオンがどうやって幹細胞の増殖を促しているのかは、不明です。著者らは、脳細胞でも同様な機能を果たしているかもしれない、と考えています。プリオンが幹細胞を損傷から保護しているという考えもあって、同様に考えると、神経細胞をストレスや細胞死からプリオンが保護している、という可能性も指摘されています。(nature digest, 3(3):7, 2006)
  17. 第15回Neuroimmunologists Forum
    が近畿大学神経内科・楠教授の主催で、6月には閉鎖される阪神系の六甲オリエンタルホテルで2007年3月17日に開催されました。翌朝には池にうっすらと氷が張り、雪がちらついていておりました。暖冬に遅くやってきた、遅れた寒波が日本列島を包んでおりました。通常は4月中旬に開催されるのですが、今年は神経免疫学会が4月に金沢で開催されるために1ヶ月早い開催となりました。来年は山口大学の神田教授の主催。  

    長崎大学第一内科の本村講師は、「筋無力症の最新の知見」と題して講演されました。LEMSで認められる抗体には2種類あり、抗P/Q-VGCC抗体は85%で認められ、抗N-VGCC抗体が30%で認められる、と。MGとLEMSで認められる自己抗体の作用機序として現時点で判っていることは、

    作用機序                 抗AChR抗体 抗MuSK抗体 LEMS
    結合阻害 X 〇? X
    崩壊促進 X
    補体介在性運動終板破壊 X X
    LEMSではACh放出障害があるため口渇などの自律神経症状が出現しますが、日本人では自律神経症状は乏しい特徴がある。抗体測定に使用するω-conotoxinはVGCCのα1 subunitに結合しますが、MGと同様に、ここに結合するのはblocking抗体となり、他に結合するのはbinding抗体に。binding抗体と異なり、blocking抗体は疾患特異性が低く、この抗体が陽性の場合はbinding抗体が陽性で、診断には役立たない。悪性腫瘍を伴わないLEMSは、日本では30%。  

    MGでは変性疾患と同様に、AChRが1/2まで消失しても症状を出さない。MGではなぜ外眼筋が傷害されやすいか・・・
     1). 外眼筋には1本の筋線維に複数の運動終板が存在。
     2). 運動終板が高頻度に存在。
     3). AChRが成人型と胎児型とが混在。
     4). 補体が活性化しやすい。  
    あらたにOxford大学と共同研究で、Dok-7という細胞内蛋白を発見(Science, 312:1802-5, 2006)。この蛋白はマウスの神経筋接合部に局在し、シナプス形成に重要で、培養筋管上のMuSKを活性化することから強力なMuSK活性化因子であることが判明。英国でDok-7遺伝子のmutationを有するlimb-girdle型先天性myasthenia20家系が発見されました。不完全なDok-7ができるようです。LG型筋ジス風の症状だが、筋電図をするとwaningが認められる。

    MGで見いだされる抗体はIgG subclassが異なり、抗MuSK抗体陽性MGでは胸腺摘出術の適応がない以外にも治療法も異なることに要注意。抗AChR抗体の大部分はIgG1ですが、抗MuSK抗体で一番多いのはIgG4。前者は補体結合性ですが、後者は補体が結合しません。これが抗MuSK抗体の病態でも重要。また、抗MuSK抗体はin vitroではトリプトファンには余り結合しないため、Trカラムを利用した吸着療法は推奨できない、と。単純血漿交換やDFPPは良いそうです。抗MuSK抗体陽性MGの病態は・・・運動終板破壊はない、MuSK自体は減少しない、証拠はないが、Agrin-MuSK pathwayのシグナルを抑制しているのではないか、と考えられるそうです。  

    近畿大学細菌学・義江教授は、「リンパ球とケモカイン」と題して、ご講演されました。ケモカインというのは、chemotactic cytokineの意味。
    Subset     Chemokine
    Th1       CXCR3, CCR5
    Th2       CCR4
    CTL       CX3CR1, CXCR6
    CD4+CD25+  CCR4, CCR8 など。  

    リンパ球など免疫担当細胞表面には、アドレナリンやムスカリン、セロトニン、ヒスタミン、ドーパミンといった神経伝達物質に対する受容体が存在します。その生理的役割は不明ですが、近畿大のグループはナイーブCD8陽性細胞に選択的にD3が強く発現し、ドーパミンはD3を介してこの細胞を遊走させていることが判明(J Immunol, 176:848, 2006)。  

  18. Small-fiber sensory neuropathyの特徴

    chronic progressive
    relatively common
    neuropathic pain
    reduced thermal sensation
    allodynia

    associated with
    DM, impaired glucose tolerance
    systemic amyloidosis
    HIV infection
    exposure to neurotoxins (including painful alcoholic polyneuropathy; Neurology, 56:1448-52, 2001)
    Fabry’s disease
    autoimmune against sulfatides (Neurology, 54:1448-52, 2000)
    hereditary sensory and autonomic neuropathy
    acute onset small-fiber sensory neuropathy (steroid ineffective, a variant of GBS) (JNNP, 72:540-2, 2002)
    acute steroid responsive small-fiber sensory neuropathy
    (J. Peripheral Nervous System, 11:47-52, 2006)


  19. HTLV-1の起源

    HTLV-1とチンパンジーのSTLV-1がアフリカで分化し、HTLV-1は中央アフリカの先住民から全世界に伝播していったと考えられています。  

    アジアでの分布は特異で、日本列島には集積していますが、中国や韓国、東南アジアには感染者の集積はないそうですし、ポリネシアやミクロネシアにもいないそうな。日本人の起源を考える際に、感染者のアジアでの分布は注目されているのですが、モンゴルやチベット高原の先住民族には集積はないそうです。原日本人の由来はどうもはっきりはしていないようですが、アジア大陸のモンゴロイド集団の一部が近接した日本列島に南方と北方軽油で移動してきたと考えられているんだそうですが、そもそもアジアに日本人と同じ亜型の集積が発見されていないのですから、アフリカから直に来たのかもしれませぬ。さらに、日本人と類似したウイルスの遺伝子配列がアンデスの先住民族で見いだされていることから、先史日本人の一部がアメリカ大陸を南下したと考えられています。アフリカで進化した人類と先史日本人との間には何があるのでしょうか?(医事新報, 4291:91-3, 2006)